令和7年度の税制改正によって、多くの家庭に影響を与える重要な制度が新設されました。それが特定親族特別控除です。この制度は、従来の扶養控除制度を補完するものとして導入され、特に大学生などのアルバイト収入がある若年層を持つ家庭にとって、大きな意味を持ちます。これまで、年間所得58万円という「壁」を超えると扶養控除が一切受けられなくなり、親の税負担が急激に増加するという問題がありました。この問題を解決するために登場したのが、123万円という新しい所得上限を設けた特定親族特別控除です。この制度の最大の特徴は、逓減という仕組みにあります。逓減とは段階的に控除額が減額されることを意味し、所得が増えても税負担が急に跳ね上がることを防ぎます。申告手続きは年末調整または確定申告で行いますが、令和7年分からは新しい申告書様式が導入されるため、制度の内容を正しく理解することが重要です。本記事では、特定親族特別控除の123万円という金額の意味、逓減の仕組み、そして具体的な申告方法について、実務に役立つ詳細な情報をお届けします。

特定親族特別控除の基本的な仕組みと導入の背景
特定親族特別控除は、令和7年分以後の所得税について適用される新しい所得控除制度です。この制度が導入された背景には、従来の扶養控除制度が抱えていた構造的な問題がありました。従来の制度では、親や配偶者が扶養している子どもや親族がアルバイトなどで年間所得58万円を超えた瞬間に、扶養控除が完全に失われてしまう仕組みになっていました。これは給与収入ベースでいうと123万円に相当します。この金額を1円でも超えると、親は特定扶養親族としての控除63万円を失い、所得税率が10パーセントの場合で約6万3千円、住民税も含めると約12万円もの税負担増加に直面していました。
この急激な税負担の変化は、学生アルバイトなどの就労行動に大きな影響を与えていました。多くの学生が年末になると「103万円の壁」を意識して、勤務時間を意図的に減らすという現象が広く見られました。これは本人の収入機会を失うだけでなく、人手不足に悩む雇用側にとっても深刻な問題となっていました。また、わずかな収入増加によって家計全体の手取りが減少するという逆転現象も発生し、税制の公平性という観点からも課題が指摘されていました。
こうした問題を解決するために導入されたのが特定親族特別控除です。この制度では、所得58万円を超えても、123万円までの範囲であれば段階的に控除が受けられるようになりました。つまり、従来の制度では所得58万円で突然ゼロになっていた控除が、新制度では所得123万円まで段階的に減少していく形に変更されたのです。この変更により、子どもの収入が増えても親の税負担が急激に増加することがなくなり、より柔軟で公平な税制が実現されました。
制度の対象となるのは、19歳以上23歳未満の親族です。この年齢層は、大学生や専門学校生が中心であり、アルバイトなどで一定の収入を得る機会が多い年代です。また、経済的に自立しつつある過渡期でもあり、この時期の若者が安心して就労できる環境を整えることは、将来の経済的自立を支援する上でも重要です。対象となる親族は、納税者と生計を一にしていることが条件となりますが、配偶者や青色事業専従者、白色事業専従者は除外されます。
123万円という金額が持つ重要な意味
特定親族特別控除において、123万円という数字は制度全体の中核をなす極めて重要な金額です。この金額は、所得金額ベースでの上限値を示しており、給与所得のみの場合は給与収入188万円に相当します。この関係を理解するには、給与所得控除の仕組みを知る必要があります。給与収入から給与所得控除額である55万円を差し引いた金額が所得となるため、給与収入188万円から55万円を引くと、所得は133万円となります。ただし、特定親族特別控除の上限は所得123万円ですので、実際には給与収入183万円程度が上限の目安となります。
この123万円という金額は、従来の扶養控除の所得上限である58万円と比較すると、2倍以上の範囲に拡大されています。この拡大により、より多くの学生や若年層が、就労時間を過度に制限することなく働けるようになります。たとえば、時給1200円でアルバイトをしている大学生の場合、従来の制度では月平均約8万5千円までしか稼げませんでしたが、新制度では月平均約15万円程度まで働いても、親が段階的な控除を受けられるようになります。
また、この123万円という金額設定には、配偶者特別控除の仕組みとの整合性も考慮されています。配偶者特別控除では、配偶者の所得が一定額を超えても段階的に控除が受けられる逓減方式が採用されており、特定親族特別控除もこれに倣った形となっています。このように複数の控除制度で逓減方式を採用することで、税制全体として所得増加に対する税負担の変化をより滑らかにし、就労抑制効果を軽減することが目指されています。
さらに重要なのは、この123万円という上限が、単なる収入の壁ではなく、段階的な控除を受けられる範囲の上限であるという点です。従来の制度では58万円という一つの壁がありましたが、新制度では58万円から123万円までの間に複数の段階が設けられ、所得の増加に応じて控除額が少しずつ減少していきます。これにより、1円の違いで税負担が大きく変わるという不公平感が解消され、より合理的な税制となっています。
逓減の仕組みと具体的な控除額の変化
特定親族特別控除の最大の特徴は、控除額が段階的に減額される逓減の仕組みにあります。逓減とは、階段を降りるように徐々に減少していくことを意味し、この制度では特定親族の所得が増えるにつれて控除額が滑らかに減少していく設計になっています。この仕組みにより、所得の増加に対して税負担が急激に変化することを防ぎ、より公平で柔軟な税制が実現されています。
具体的な逓減のスケジュールを見ていきましょう。まず、子どもなど特定親族の所得が58万円以下の場合、これは従来の扶養控除の範囲内となりますので、通常の扶養控除として63万円の控除が受けられます。これは給与収入のみの場合、年収123万円以下に相当します。この範囲では新制度の影響はなく、従来通りの扶養控除が適用されます。
次に、特定親族の所得が58万円を超えて85万円以下の範囲では、特定親族特別控除によって従来の扶養控除と同額の63万円の控除が維持されます。これは給与収入でいうと約123万円超から150万円以下の範囲に相当します。この範囲が特定親族特別控除の大きな意義を持つ部分であり、従来であれば控除がゼロになっていた所得範囲でも、満額の控除が受けられるようになりました。たとえば、大学生の子どもが月平均11万円程度のアルバイト収入を得ていても、親は従来と同じ63万円の控除を受けられるため、家計への影響はありません。
そして、特定親族の所得が85万円を超えて123万円以下の範囲では、段階的に控除額が減額されていきます。これは給与収入で約150万円超から183万円程度までの範囲に相当します。この範囲では、所得が1万円増えるごとに控除額が一定の割合で減少していく仕組みになっています。具体的には、所得85万円の時点では控除額63万円が維持されますが、所得が90万円になると控除額は約58万円に、所得100万円では約48万円に、所得110万円では約38万円に、所得120万円では約8万円にというように、段階的に減少していきます。そして、所得が123万円に達すると、控除額は完全にゼロとなります。
この逓減カーブは、数学的に計算された滑らかな曲線を描いており、急激な段差が生じないように設計されています。これにより、子どもの収入が1万円増えたからといって親の税負担が急に数万円増えるという事態を避けることができます。代わりに、収入の増加に応じて税負担も徐々に増加していくため、家計全体としての手取り額は常に増加し続けることになります。つまり、働いた分だけ確実に家計が豊かになるという当然の結果が保証されるのです。
また、この逓減の仕組みは所得税だけでなく住民税にも適用されます。ただし、住民税における控除額は所得税とは若干異なり、一般的に所得税よりも少し低い金額が設定されています。たとえば、所得税の扶養控除が63万円であるのに対し、住民税の扶養控除は一般的に45万円程度となります。特定親族特別控除においても同様の差が設けられており、住民税の控除額は所得税の控除額よりも低くなりますが、逓減の仕組み自体は同じように適用されます。
申告手続きの具体的な方法と必要書類
特定親族特別控除の適用を受けるためには、適切な申告手続きが必要です。申告方法は主に二つあり、一つは会社員など給与所得者が利用する年末調整による申告、もう一つは自営業者などが利用する確定申告による申告です。それぞれの方法について詳しく説明していきます。
年末調整による申告は、会社員やパート・アルバイトなど給与所得者が利用する最も一般的な方法です。令和7年分からは、給与所得者の特定親族特別控除申告書という新しい様式が導入されます。この申告書は、従来の複数の申告書が統合された形式となっており、一枚の用紙で基礎控除申告、配偶者控除等申告、所得金額調整控除申告、そして特定親族特別控除申告の四つの申告ができるように設計されています。この統合により、従業員にとっては記入の手間が軽減され、企業側にとっても管理がしやすくなるというメリットがあります。
申告書には、特定親族に関する詳細な情報を記入する必要があります。必要な情報としては、まず特定親族の氏名と氏名のフリガナがあります。次に、特定親族の生年月日が必要です。この生年月日は、19歳以上23歳未満という年齢要件を確認するために使用されますので、正確に記入することが重要です。さらに、特定親族のマイナンバーも必須項目となっています。マイナンバーは税務手続きにおいて本人確認のために使用される重要な情報ですので、記入漏れがないよう注意が必要です。
また、特定親族の本年中の合計所得金額の見積額を記入します。この金額が58万円超123万円以下の範囲内であることが特定親族特別控除の適用条件となります。見積額ですので、年末調整の時点では12月31日までの収入を見積もって記入することができます。ただし、実際の年間所得が見込みと大きく異なった場合は、確定申告で修正する必要があります。さらに、特定親族との続柄も記入します。子、孫、兄弟姉妹など、具体的な続柄を明記します。別居している場合は、特定親族の住所も記入が必要です。
年末調整の提出期限は、通常、勤務先が指定する12月中旬頃となります。企業によって期限が異なりますので、会社から配布される案内をよく確認してください。提出が遅れると年末調整に間に合わず、確定申告で対応しなければならなくなる場合もありますので、早めの提出を心がけましょう。
一方、確定申告による申告は、自営業者や、年末調整で申告できなかった方が利用する方法です。確定申告では、確定申告書の第一表と第二表に必要事項を記入します。第一表では、所得金額の欄に各種所得を記入し、所得から差し引かれる金額の欄に特定親族特別控除額を記入します。第二表では、特定親族特別控除の欄に、特定親族の氏名、続柄、生年月日、所得金額を記入します。
確定申告の期限は、翌年の2月16日から3月15日までとなっています。たとえば、令和7年分の確定申告は、令和8年2月16日から3月15日までに行う必要があります。期限内に申告しないと、延滞税などのペナルティが発生する可能性がありますので、十分な余裕を持って申告することが重要です。
近年では、e-Taxと呼ばれる電子申告システムの利用が推奨されています。e-Taxを利用すると、自宅から24時間いつでも申告が可能で、添付書類の提出を一部省略できるというメリットがあります。また、還付金がある場合は通常の申告よりも早く受け取ることができ、約3週間程度で指定口座に振り込まれます。さらに、自動計算機能により計算ミスを防ぐこともできますので、初めて申告する方にもおすすめです。
従来の扶養控除との違いと制度の関係性
特定親族特別控除は、従来の扶養控除を補完する制度として導入されましたが、両者にはいくつかの重要な違いがあります。これらの違いを正しく理解することで、制度を適切に活用することができます。
まず、最も大きな違いは所得上限の設定です。従来の扶養控除では、親族の所得が58万円以下であることが適用条件でした。これは給与収入のみの場合、年収123万円以下に相当します。一方、特定親族特別控除では、所得58万円超123万円以下が対象となります。つまり、扶養控除の対象から外れた所得範囲をカバーする形で、特定親族特別控除が設計されているのです。
次に、控除額の違いがあります。従来の扶養控除では、19歳以上23歳未満の特定扶養親族について一律63万円の控除が受けられました。この金額は所得に関係なく固定で、要件を満たせば必ず63万円が控除されました。一方、特定親族特別控除では、所得に応じて段階的に控除額が変動します。所得58万円超85万円以下の範囲では扶養控除と同じ63万円が控除されますが、所得85万円を超えると逓減が始まり、所得123万円でゼロになるまで徐々に減額されていきます。
また、適用の考え方にも根本的な違いがあります。従来の扶養控除では、所得制限である58万円を1円でも超えると控除が完全に失われるという、いわゆる崖効果がありました。このため、年末になると学生アルバイトが収入を意図的に抑えるという行動が広く見られました。一方、特定親族特別控除では、所得制限を超えても段階的に控除が受けられるため、崖効果が緩和されています。所得が増えても控除が徐々に減少するだけなので、家計全体の手取りは常に増加し続けることになります。
さらに、適用対象となる年齢にも注目する必要があります。扶養控除には一般の扶養親族と特定扶養親族があり、19歳以上23歳未満の親族は特定扶養親族として扱われ、控除額が通常の38万円から63万円に増額されます。特定親族特別控除も同じ年齢層を対象としており、この点では扶養控除と共通しています。ただし、扶養控除には年齢制限の上限がなく、70歳以上の老人扶養親族などもありますが、特定親族特別控除は19歳以上23歳未満に限定されているという違いがあります。
重要な点として、同一の親族について扶養控除と特定親族特別控除を重複して適用することはできません。親族の所得が58万円以下の場合は扶養控除が適用され、58万円を超えて123万円以下の場合は特定親族特別控除が適用されるという形で、自動的に使い分けられます。申告の際には、親族の所得金額を正確に把握し、どちらの控除が適用されるかを確認する必要があります。
実務上の重要な注意点と正確な所得計算方法
特定親族特別控除を適用する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらを正しく理解しておかないと、申告ミスや予期しない税負担の発生につながる可能性があります。
まず、所得の計算方法を正確に理解することが極めて重要です。特に、給与収入と給与所得の違いを明確に区別する必要があります。給与収入とは、会社から支払われた給与や賞与の総額のことで、いわゆる年収を指します。一方、給与所得とは、給与収入から給与所得控除を差し引いた後の金額です。給与所得控除は、給与所得者の必要経費に相当するものとして、一律に控除が認められている金額で、令和7年現在では最低55万円が控除されます。
具体的な計算例を見てみましょう。給与収入が123万円の場合、給与所得控除55万円を差し引くと、給与所得は68万円となります。しかし、これは特定親族特別控除の対象となる所得58万円超123万円以下の範囲には含まれません。実は、給与収入123万円は従来の扶養控除の上限に相当し、給与所得では58万円以下となるため、通常の扶養控除の対象となります。
特定親族特別控除の対象となるのは、所得が58万円を超える場合です。給与収入でいうと、123万円を超えた場合に該当します。たとえば、給与収入が150万円の場合、給与所得控除55万円を差し引くと給与所得は95万円となり、これは58万円超123万円以下の範囲に含まれますので、特定親族特別控除の対象となります。この場合、所得が85万円を超えているため、逓減により控除額は63万円よりも少なくなります。
また、給与収入が162.5万円を超える場合は、給与所得控除の計算方法が変わります。162.5万円超180万円以下の範囲では、給与収入の40パーセントに10万円を加えた金額が給与所得控除となります。たとえば、給与収入が180万円の場合、給与所得控除は180万円×0.4+10万円=82万円となり、給与所得は180万円-82万円=98万円となります。ただし、このような細かい計算は国税庁が提供する給与所得の金額表を使用すれば簡単に確認できますので、不安な場合は表を参照することをおすすめします。
次に、複数の収入がある場合の注意点です。特定親族がアルバイトを複数掛け持ちしている場合や、アルバイト以外にも事業所得や雑所得がある場合は、すべての所得を合算して判定します。たとえば、給与所得が80万円あり、さらにフリーランスの仕事で事業所得が30万円ある場合、合計所得金額は110万円となります。この場合、所得85万円超123万円以下の範囲に該当するため、逓減により控除額が減額されます。
年の途中で所得が変動する場合も注意が必要です。年末調整の時点では所得が123万円以下と見込まれて申告したものの、年末までに予想以上に収入が増えて所得が123万円を超えてしまった場合は、確定申告で修正する必要があります。逆に、見込みよりも所得が少なかった場合も、確定申告で正しい控除額に修正することで、適切な還付を受けることができます。
他の控除との関係も理解しておく必要があります。特定親族特別控除は、基礎控除や医療費控除、社会保険料控除などの他の所得控除と併用することができます。ただし、同一の親族について扶養控除と特定親族特別控除を重複して適用することはできません。また、配偶者については配偶者控除や配偶者特別控除が別途用意されており、特定親族特別控除の対象外となります。
さらに、納税者本人の所得制限も重要です。特定親族特別控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1000万円を超える場合は、この控除を受けることができません。これは配偶者特別控除と同様の制限であり、高所得者に対する控除の適用を制限することで、税制の公平性を保つための措置です。
税額への具体的な影響と家計全体でのメリット
特定親族特別控除の適用によって、実際の税額がどのように変化するかを具体的に理解することは、制度の価値を正しく評価する上で重要です。控除額だけを見ても実感が湧きにくいため、実際の税負担軽減額を計算してみましょう。
特定親族特別控除を受けることで、親である納税者の課税所得が減少し、その結果として所得税と住民税が軽減されます。控除額がそのまま税金の軽減額になるわけではなく、控除額に税率を掛けた金額が実際の税負担軽減額となります。たとえば、課税所得が500万円程度で所得税率が10パーセントの家庭の場合、特定親族特別控除で63万円の控除を受けると、所得税は63万円×10パーセント=6万3千円軽減されます。
さらに、住民税も同様に軽減されます。住民税の税率は一律10パーセントですが、住民税における扶養控除額は所得税とは異なり、一般的に45万円程度となっています。特定親族特別控除においても同様の差が設けられており、所得税で63万円の控除を受けられる場合、住民税では45万円程度の控除となります。したがって、住民税の軽減額は45万円×10パーセント=4万5千円程度となります。所得税と住民税を合わせると、年間で約10万8千円の税負担軽減となります。
所得税率が20パーセントの高所得世帯では、さらに大きな軽減効果があります。所得税の軽減額は63万円×20パーセント=12万6千円となり、住民税と合わせると年間で約17万円程度の税負担軽減となります。このように、所得税率が高い世帯ほど、特定親族特別控除による節税効果が大きくなるという特徴があります。
従来制度との比較で見ると、この控除の価値がより明確になります。たとえば、子どもの給与収入が140万円で所得が85万円の場合を考えてみましょう。従来の扶養控除では、所得58万円を超えているため控除はゼロでした。この場合、親の税負担は上記の約10万8千円または約17万円増加していました。しかし、新制度の特定親族特別控除では、所得85万円までは満額の63万円の控除が維持されるため、親の税負担増加はありません。この差が、特定親族特別控除の大きなメリットです。
さらに、子どもの収入別に家計全体での影響を見てみましょう。子どもの給与収入が123万円以下の場合、親は扶養控除として63万円の控除を受けられ、子ども自身の所得税もほとんど発生しません。家計全体としては、子どもの手取り収入がそのまま増加します。
子どもの給与収入が123万円超150万円の範囲では、親は特定親族特別控除により引き続き63万円の控除を受けられます。子ども本人には少額の所得税と住民税が発生しますが、それでも家計全体としては子どもが働いた分だけ手取りが増加します。従来制度では親の控除がゼロになっていた範囲ですので、新制度によって年間10万円以上の改善効果があります。
子どもの給与収入が150万円超183万円程度の範囲では、親の控除が逓減により段階的に減少していきます。子ども本人の税負担も増加しますが、それでも家計全体の手取り額は依然として増加し続けます。従来制度では親の控除がゼロで子どもの税負担も発生していましたので、新制度では親の控除が一部でも受けられる分、有利となります。
このように、特定親族特別控除の導入により、子どもが働いた分だけ確実に家計全体の手取りが増加するという、経済的に合理的な結果が実現されています。これは、就労意欲を削ぐことなく、若年層の経済活動を支援するという制度の目的が達成されていることを示しています。
年末調整での実務フローと企業側の対応
企業の給与担当者にとって、特定親族特別控除の導入は新たな業務対応が必要となる重要な変更です。年末調整の実務フローを時系列で整理し、スムーズな対応を実現するためのポイントを解説します。
年末調整の準備は、例年10月頃から始まります。まず、企業は従業員に対して新制度の説明を行う必要があります。特定親族特別控除は令和7年から始まる新しい制度ですので、多くの従業員にとっては初めて接する内容となります。制度の概要、対象となる親族の要件、申告方法などをわかりやすく説明した資料を作成し、従業員に配布することが重要です。
11月頃には、年末調整に必要な申告書を従業員に配布します。令和7年分からは、給与所得者の特定親族特別控除申告書という新様式が導入され、この一枚の用紙で基礎控除、配偶者控除等、所得金額調整控除、そして特定親族特別控除の四つの申告ができるようになります。申告書には記入例を添付し、特に特定親族特別控除の欄については詳しい説明を加えることで、記入ミスを減らすことができます。
申告書の回収は、通常12月上旬から中旬にかけて行われます。回収後は、給与担当者が記入内容を確認する作業が必要です。特に重要なチェックポイントとしては、まず特定親族の生年月日が正しく記入されているか、そして19歳以上23歳未満の年齢要件を満たしているかを確認します。次に、特定親族の本年中の合計所得金額の見積額が58万円超123万円以下の範囲内にあるかを確認します。この金額が範囲外の場合は、扶養控除または控除対象外となりますので、従業員に確認が必要です。
また、マイナンバーの記入も必須項目です。マイナンバーの記入漏れがあると税務署への提出書類が不備となる可能性がありますので、未記入の場合は必ず従業員に記入を依頼します。さらに、扶養控除と特定親族特別控除を同一の親族について重複して申告していないかも確認します。所得金額によってどちらか一方のみが適用されますので、重複がある場合は従業員に確認して修正してもらいます。
12月には、確認が完了した申告書に基づいて控除額を計算します。特定親族の所得金額に応じた控除額は、国税庁が提供する控除額表を参照するか、給与計算システムの自動計算機能を利用します。多くの給与システムは令和7年の税制改正に対応してアップデートされますので、システムの更新状況を事前に確認しておくことが重要です。
控除額が確定したら、年間の所得税額を再計算します。毎月の給与から源泉徴収されていた所得税額と、年末調整で確定した年間所得税額を比較し、過不足額を算出します。過払いがあれば還付し、不足があれば追加徴収します。通常、この精算は12月または1月の給与で行われます。
年末調整が完了したら、従業員に源泉徴収票を発行します。源泉徴収票には、特定親族特別控除の金額が明記されますので、従業員が自分の税額を確認できるようになっています。また、翌年1月31日までに、税務署に給与支払報告書と源泉徴収票等の法定調書合計表を提出する必要があります。
企業側の対応として、システム改修も重要な課題です。給与計算システムや年末調整システムが特定親族特別控除に対応しているかを確認し、必要に応じてシステムのアップデートやカスタマイズを行います。システムベンダーとの連携を早めに取り、令和7年の年末調整に間に合うように準備を進めることが重要です。
確定申告での手続きと電子申告の活用
自営業者や、年末調整で特定親族特別控除を申告できなかった方は、確定申告でこの控除を申請する必要があります。確定申告の手続きは年末調整よりも複雑に感じられるかもしれませんが、ポイントを押さえれば誰でも適切に申告することができます。
確定申告の準備は、まず必要な書類を揃えることから始まります。基本となるのは確定申告書の第一表と第二表です。これらは税務署で入手するか、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。また、e-Taxを利用する場合は、オンラインで直接入力することも可能です。
特定親族に関する情報も事前に整理しておきます。特定親族の氏名、生年月日、マイナンバー、そして本年中の合計所得金額を正確に把握しておく必要があります。給与所得がある場合は、勤務先から交付される源泉徴収票で所得金額を確認できます。複数の収入源がある場合は、すべての所得を合算して計算します。
確定申告書の記入は、第一表から始めます。まず、各種所得金額を該当する欄に記入します。給与所得、事業所得、不動産所得など、得た所得の種類に応じて記入する欄が異なりますので、注意が必要です。すべての所得を記入したら、合計所得金額を計算します。
次に、所得から差し引かれる金額の欄に、各種控除額を記入します。基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除など、該当する控除をすべて記入し、特定親族特別控除の金額も忘れずに記入します。特定親族特別控除の金額は、特定親族の所得金額に応じて決まりますので、国税庁が提供する控除額表を参照して正確な金額を確認します。
確定申告書の第二表では、特定親族特別控除の詳細を記入します。特定親族の氏名、続柄、生年月日、そして所得金額を記入する欄がありますので、事前に整理した情報をもとに正確に記入します。マイナンバーの記入も必要ですので、忘れずに記載します。
記入が完了したら、税額を計算します。課税所得金額に税率を掛けて所得税額を算出し、そこから税額控除を差し引いて、最終的な納税額または還付額を計算します。手計算で行うこともできますが、計算ミスを防ぐためには、国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用することをおすすめします。このコーナーでは、画面の指示に従って金額を入力していくだけで、自動的に税額が計算されます。
近年、国税庁はe-Taxと呼ばれる電子申告システムの利用を強く推奨しています。e-Taxには多くのメリットがあります。まず、自宅から24時間いつでも申告できるという利便性があります。税務署に出向く必要がないため、時間の節約になります。また、添付書類の提出を一部省略できるという利点もあります。通常の紙の申告では、源泉徴収票や各種証明書を提出する必要がありますが、e-Taxでは多くの書類が省略可能で、データで送信するだけで済みます。
さらに、還付金がある場合は、紙の申告よりも早く受け取ることができます。通常の申告では還付までに1ヶ月から2ヶ月程度かかりますが、e-Taxでは約3週間程度で指定口座に振り込まれます。加えて、e-Taxには自動計算機能があり、入力した金額に基づいて税額が自動的に計算されるため、計算ミスのリスクが大幅に減少します。
e-Taxを利用するには、マイナンバーカードとICカードリーダーが必要です。ただし、最近ではスマートフォンでマイナンバーカードを読み取ることもできるようになり、より手軽に利用できるようになりました。また、マイナンバーカードがない場合でも、税務署でID・パスワードを発行してもらうことで、e-Taxを利用することができます。
確定申告の期限は、毎年2月16日から3月15日までです。令和7年分の確定申告であれば、令和8年2月16日から3月15日までに申告する必要があります。期限内に申告しないと、延滞税や無申告加算税などのペナルティが発生する可能性がありますので、余裕を持って準備を始めることが重要です。特に、3月に入ると税務署は非常に混雑しますので、できれば2月中に申告を済ませることをおすすめします。
制度適用における よくある間違いと注意すべき落とし穴
特定親族特別控除は新しい制度であるため、申告の際にさまざまな誤解や間違いが生じる可能性があります。よくある間違いを事前に理解しておくことで、適切な申告を行い、予期しない税負担を避けることができます。
最も多い誤解の一つは、扶養控除との混同です。一部では「大学生の子のバイト年収の壁が103万円から150万円に引き上がった」と理解されることがありますが、これは正確ではありません。実際には、扶養控除の要件は全く変わっておらず、所得58万円以下という基準は従来通り維持されています。特定親族特別控除は、扶養控除の対象から外れた親族について新たに適用される別の制度であり、扶養控除が拡大されたわけではないのです。
この誤解により、所得58万円以下の親族について特定親族特別控除を申告しようとするケースが発生する可能性があります。しかし、所得58万円以下の場合は従来通り扶養控除を申告する必要があり、特定親族特別控除の対象ではありません。申告書の記入時には、親族の所得金額を正確に確認し、適切な控除を選択することが重要です。
次に注意すべき点は、特定親族本人への課税リスクです。特定親族特別控除によって親は控除を受けられますが、特定親族本人である子どもには所得税や住民税が課税される可能性があることを忘れてはいけません。たとえば、大学生の子どもがアルバイトで年間160万円の給与収入を得た場合、給与所得は105万円となります。ここから基礎控除48万円を差し引いた57万円が課税所得となり、所得税率5パーセントを適用すると約2万8500円の所得税が発生します。さらに住民税も約3万7000円程度発生しますので、合計で約6万5000円程度の税負担が子ども本人に発生します。
親は特定親族特別控除を受けられるため税負担が軽減されますが、家計全体で見た場合には子ども本人の税負担も考慮する必要があります。ただし、それでも子どもが働いた分だけ家計全体の手取りは増加しますので、経済的には合理的な選択となります。
社会保険料負担の発生も見落としがちな注意点です。特定親族特別控除は所得税と住民税の制度ですが、社会保険料については別の基準で判定されます。学生でない子どもが以下の条件を満たすと、勤務先の社会保険に加入する義務が生じます。週の労働時間が20時間以上、年収が106万円超、そして従業員数が101人以上の企業に勤務している場合です。この基準は段階的に引き下げられており、将来的には51人以上の企業も対象となる予定です。
社会保険に加入すると、健康保険料と厚生年金保険料の負担が発生します。年収160万円程度の場合、月額で約2万円程度の社会保険料が給与から天引きされることになります。税負担が軽減されても、社会保険料の負担が新たに発生すれば、手取り額は大きく減少する可能性があります。ただし、社会保険に加入することで将来の年金受給額が増えたり、傷病手当金などの保障が受けられたりするメリットもありますので、一概にデメリットとは言えません。
年末調整での申告ミスも懸念されています。特に多いのが、特定親族の生年月日の誤記入です。年齢要件である19歳以上23歳未満の判定に使用されるため、生年月日は正確に記入する必要があります。一年でも間違えると要件を満たさなくなる可能性がありますので、慎重に確認してください。
所得金額の見積額の誤りも頻発する可能性があります。給与収入と所得金額を混同するケースが非常に多く見られます。繰り返しになりますが、給与収入から給与所得控除55万円を差し引いた金額が所得金額です。たとえば、給与収入150万円を所得金額として記入してしまうと、本来は特定親族特別控除の対象であるにもかかわらず、所得が123万円を超えているとして控除が受けられなくなってしまいます。
扶養控除と特定親族特別控除の重複申告も避けなければなりません。同一の親族について、両方の控除を申告することはできません。所得金額に応じて自動的にどちらかが適用されますので、申告書には一方のみを記入する必要があります。もし両方を記入してしまうと、税務署からの問い合わせや修正申告が必要となる可能性があります。
ひとり親控除との関係にも注意が必要です。シングルマザーやシングルファザーの場合、ひとり親控除を受けることができますが、この控除の要件には「生計を一にする子がいること」が含まれ、その子の所得要件は48万円以下となっています。子どもの所得が48万円を超えると、ひとり親控除の要件を満たさなくなる可能性があります。特定親族特別控除は所得58万円超が対象ですので、子どもの所得が48万円超58万円以下の範囲では、ひとり親控除を失うものの扶養控除は受けられるという状況になります。さらに所得が58万円を超えると、ひとり親控除も扶養控除も失い、特定親族特別控除のみが適用されることになります。ひとり親控除は35万円と控除額が大きいため、総合的な判断が必要です。
制度の今後の展望と期待される効果
特定親族特別控除は令和7年分から始まる新しい制度ですが、その導入によってどのような効果が期待され、今後どのように発展していく可能性があるのかを考察することは、制度を深く理解する上で重要です。
まず、制度の定着に向けた課題として、認知度の向上が挙げられます。新設制度であるため、その存在を知らない納税者が多いことが予想されます。国税庁は広報活動を強化し、ホームページでの詳細な解説や、税務署での相談対応を充実させることが期待されます。また、企業の給与担当者向けの説明会やセミナーも重要です。制度を正しく理解した給与担当者が、従業員に適切に説明することで、制度の利用が促進されます。
申告手続きの簡素化も重要な課題です。申告書の記入が複雑だと、制度の利用が進まない可能性があります。令和7年分から導入される新しい申告書様式は、複数の申告を一枚で行えるように統合されており、ある程度の簡素化が図られています。しかし、さらなる改善の余地もあります。たとえば、マイナンバーを活用して親族の所得情報を自動的に取得し、申告者が記入する項目を減らすといった工夫が将来的に実現される可能性があります。
電子申告の促進も重要です。e-Taxを利用すれば、自動計算機能により申告ミスを減らすことができ、また還付金の受け取りも早くなります。国税庁は、スマートフォンでの申告を一層簡便にするなど、電子申告の利便性をさらに高める取り組みを進めています。特に若年層はデジタル機器に慣れていますので、スマートフォンで簡単に申告できる環境が整えば、制度の利用率が大幅に向上することが期待されます。
期待される効果としては、まず就労抑制の緩和が挙げられます。従来の制度では、「103万円の壁」を意識して就労時間を抑制する学生アルバイトが多く見られました。特定親族特別控除の導入により、この壁が段階的なものに変わり、年末に急いで勤務時間を減らす必要がなくなります。これにより、学生は自分の都合や学業との両立を考えながら、より柔軟に働くことができるようになります。
労働力の有効活用という点でも効果が期待されます。日本は少子高齢化により労働力不足が深刻化していますが、若年層の労働参加が促進されることで、人手不足の解消に一定の貢献が期待できます。特に、年末の繁忙期に学生アルバイトが勤務時間を減らすという事態が解消されれば、小売業や飲食業など、年末に忙しくなる業種にとっては大きなメリットとなります。
税負担の公平性向上も重要な効果です。従来の制度では、所得が58万円と59万円でほとんど変わらないにもかかわらず、親の税負担が約12万円も異なるという不公平がありました。新制度では、所得の増加に応じて滑らかに税負担が増加する仕組みとなり、税制の公平性が向上します。働いた分だけ確実に家計の手取りが増えるという当然の結果が保証されることで、国民の税制に対する信頼も高まることが期待されます。
ただし、他の「壁」との関係にも注意が必要です。特定親族特別控除は、所得税と住民税に関する「壁」を緩和しますが、社会保険の扶養の壁である年収130万円や、企業の配偶者手当の支給基準など、他にも様々な「壁」が存在します。これらの壁を総合的に考慮しないと、一つの壁を越えたために他の不利益が生じるという事態も起こり得ます。政府は、こうした複数の壁を包括的に見直す必要性を認識しており、将来的にはさらなる制度改正が行われる可能性もあります。
将来的な制度改正の可能性としては、いくつかの方向性が考えられます。まず、控除額の上限である所得123万円のさらなる引き上げです。経済状況やインフレ率の変化に応じて、この上限が見直される可能性があります。また、対象年齢の拡大も検討される可能性があります。現在は19歳以上23歳未満に限定されていますが、大学院生や就職活動中の若者なども考慮して、年齢範囲が拡大される可能性もあります。
申告手続きのさらなる簡素化も期待されます。将来的には、マイナンバーを活用して所得情報が自動的に共有され、申告者が何も記入しなくても自動的に控除が適用されるといった仕組みが実現されるかもしれません。このような自動化が進めば、申告漏れや記入ミスがなくなり、すべての該当者が確実に控除を受けられるようになります。
納税者は、毎年12月に発表される税制改正大綱を確認し、最新の情報を把握することが重要です。税制は社会経済の変化に応じて継続的に見直されるものですので、常に最新の情報を入手し、自分の状況に最適な申告を行うよう心がけましょう。
具体的なケーススタディで理解を深める
理論的な説明だけでは実感が湧きにくいため、実際の事例を通じて特定親族特別控除の適用をより具体的に理解していきましょう。いくつかの典型的なケースを見ていきます。
ケース1として、大学生の子どもがアルバイトで年収140万円を得た場合を考えます。家族構成は、父が会社員で年収600万円、母が専業主婦、そして子どもが大学生で20歳という設定です。子どもはコンビニエンスストアでアルバイトをしており、年間の給与収入が140万円となりました。
まず、子どもの所得を計算します。給与収入140万円から給与所得控除55万円を差し引くと、給与所得は85万円となります。この85万円は、特定親族特別控除の対象となる所得58万円超123万円以下の範囲に含まれます。さらに、所得85万円は逓減が始まる前の範囲ですので、控除額は満額の63万円が適用されます。
父親の税負担軽減額を計算してみましょう。父親の年収600万円から各種控除を差し引いた課税所得は、仮に400万円程度とします。この場合の所得税率は20パーセントとなります。特定親族特別控除63万円を受けることで、所得税は63万円×20パーセント=12万6千円軽減されます。住民税については、控除額が所得税よりも少なく設定されており、仮に45万円とすると、45万円×10パーセント=4万5千円の軽減となります。所得税と住民税を合わせて、年間約17万1千円の税負担軽減効果があります。
一方、子ども本人の税負担も計算します。子どもの所得85万円から基礎控除48万円を差し引くと、課税所得は37万円となります。所得税率5パーセントを適用すると、37万円×5パーセント=1万8500円の所得税が発生します。住民税は課税所得に10パーセントを掛けた金額に均等割を加えたものですので、約3万7000円程度となります。子ども本人の税負担は合計で約5万5500円です。
家計全体での影響を見ると、父親の税負担軽減17万1千円から子どもの税負担5万5500円を差し引くと、約11万5500円のプラスとなります。つまり、特定親族特別控除により、家計全体で年間11万円以上の節税効果があるということです。
ケース2として、大学生の子どもがアルバイトで年収165万円を得た場合を考えます。家族構成は同じとします。給与収入165万円から給与所得控除55万円を差し引くと、給与所得は110万円となります。この110万円は、所得85万円超123万円以下の範囲に該当し、逓減により控除額が減額される範囲です。
所得110万円の場合の控除額は、国税庁が提供する控除額表を参照する必要がありますが、概算で約30万円程度となります。父親の所得税率を20パーセントとすると、所得税の軽減額は30万円×20パーセント=6万円となります。住民税の控除額を仮に28万円とすると、住民税の軽減額は28万円×10パーセント=2万8千円となります。合計で約8万8千円の税負担軽減となります。
子ども本人の税負担は、所得110万円から基礎控除48万円を差し引いた62万円が課税所得となり、所得税は62万円×5パーセント=3万1千円、住民税は約6万2千円で、合計約9万3千円となります。
家計全体では、父親の税負担軽減8万8千円から子どもの税負担9万3千円を差し引くと、約5千円のマイナスとなります。このケースでは、子どもの税負担が父親の軽減額を上回り、家計全体では若干のマイナスとなります。ただし、従来制度では父親の控除が完全にゼロでしたので、それと比較すれば約8万8千円の改善となっています。また、子どもの手取り収入自体は増えていますので、長期的には家計にプラスの影響があります。
ケース3として、子どもが2人いる場合を考えます。家族構成は、父が会社員で年収800万円、母がパートで年収100万円、長男が大学生で21歳、次男が大学生で19歳という設定です。長男はアルバイトで年収145万円を得ており、所得は90万円となります。次男はアルバイトで年収100万円を得ており、所得は45万円となります。
長男の所得90万円は、特定親族特別控除の逓減範囲に該当します。控除額は概算で約58万円程度となります。次男の所得45万円は58万円以下ですので、扶養控除が適用され、控除額は63万円となります。
父親の所得税率を20パーセントとすると、長男分の所得税軽減額は58万円×20パーセント=11万6千円、次男分は63万円×20パーセント=12万6千円となります。住民税も含めると、長男分で約16万円、次男分で約17万円、合計で約33万円の税負担軽減となります。
このケースでは、複数の子どもがそれぞれの所得状況に応じて適切な控除を受けることで、大きな節税効果が得られることがわかります。従来制度では長男については控除がゼロでしたので、新制度により約16万円の改善効果があります。
これらのケーススタディから、特定親族特別控除が家計に与える影響は、特定親族の所得水準や親の所得税率によって大きく異なることがわかります。自分の家庭の状況に当てはめて計算してみることで、制度の具体的なメリットを実感できるでしょう。
まとめ:制度を正しく理解して最大限に活用する
特定親族特別控除は、令和7年度税制改正によって新設された画期的な制度です。従来の扶養控除が抱えていた「壁」の問題を解消し、所得58万円超123万円以下という範囲で段階的な控除を可能にすることで、より柔軟で公平な税制を実現しています。
この制度の核心は、123万円という所得上限と、逓減という段階的な控除額の減額方式にあります。従来は所得58万円を1円でも超えると控除が完全に失われていましたが、新制度では所得123万円まで段階的に控除が受けられるようになりました。これにより、学生アルバイトなどが年末に就労時間を意図的に抑制するという非効率な行動が緩和され、労働力の有効活用が期待されます。
申告手続きは、給与所得者であれば年末調整で、自営業者であれば確定申告で行います。令和7年分からは新しい申告書様式が導入され、一枚の用紙で複数の申告ができるようになります。申告に際しては、特定親族の氏名、生年月日、マイナンバー、所得金額などの情報が必要となりますので、事前に整理しておくことが重要です。
制度を適切に活用するためには、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。給与収入と給与所得の違いを正確に理解すること、扶養控除との重複申告を避けること、特定親族本人の税負担も考慮すること、そして社会保険料負担の発生にも注意することが重要です。これらのポイントを押さえることで、制度を最大限に活用し、家計の税負担を最適化することができます。
特定親族特別控除は、単なる税制上の技術的な変更ではなく、若年層の経済的自立を支援し、就労意欲を損なわない公平な税制を実現するための重要な一歩です。この制度を正しく理解し、適切に申告することで、多くの家庭が恩恵を受けることができます。
税制は複雑であり、個別のケースによって適用が異なる場合があります。不明な点や疑問がある場合は、最寄りの税務署に相談するか、税理士などの専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。国税庁のホームページにも詳細な情報や計算ツールが提供されていますので、ぜひ活用してください。
令和7年分の申告から始まるこの新制度を、ぜひ正しく理解して、家計の負担軽減に役立てていただければと思います。

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