株式会社リクルートは2025年11月17日、婚活マッチングアプリ「ゼクシィ縁結び」と、オンライン型結婚相談所「ゼクシィ縁結びエージェント」のサービス終了を公式に発表しました。ゼクシィ縁結びは2026年3月31日をもって、ゼクシィ縁結びエージェントは2026年6月30日をもってサービスを終了します。この突然の発表に、多くの婚活中のユーザーが驚きと戸惑いを感じています。なぜ、結婚情報誌として圧倒的なブランド力を持つ「ゼクシィ」の名を冠した婚活サービスが、サービス終了という決断に至ったのでしょうか。その背景には、婚活マッチングアプリ市場における激しい競争、後発サービスとしての苦戦、そしてリクルートの戦略的な経営判断がありました。

リクルートが公式に示したサービス終了の理由
リクルートが公式に発表したサービス終了の理由は、「事業環境の変化やサービスの利用状況などを総合的に判断した結果」というものでした。同社は詳細な数字や具体的な経営状況については明らかにしていませんが、この言葉の裏には、婚活市場における環境変化が大きな要因となっていることが読み取れます。企業が事業を終了する際には、収益性や成長性、市場環境など、複数の要素を総合的に判断する必要があります。リクルートのような大手企業であっても、すべての事業を継続できるわけではなく、時には不採算事業や成長が見込めない事業からの撤退を決断しなければなりません。今回のゼクシィ縁結びのサービス終了は、まさにそうした企業戦略の一環として理解することができるでしょう。
婚活マッチングアプリ市場における競争の激化
ゼクシィ縁結びがサービス終了に至った最大の背景として、婚活マッチングアプリ市場における競争の激化が挙げられます。近年、婚活や恋活を目的としたマッチングアプリ市場は急速に拡大し、多数の事業者が参入してきました。東京商工リサーチの調査によると、マッチングアプリ運営会社の数は2019年3月末時点では5社でしたが、2025年3月末には28社と、わずか6年間で5.6倍にまで増加しています。この数字は、市場がいかに急速に成長し、同時に競争が激化してきたかを如実に物語っています。
売上高が公表されている企業の合計売上高は342億円に達しており、婚活マッチングアプリ市場の規模の大きさを示しています。ただし、市場は上位5社で約75パーセントのシェアを占める寡占状態となっており、中小規模の事業者にとっては極めて厳しい競争環境となっていることが分かります。新規参入者や後発組が市場シェアを獲得することは、容易ではないのです。
マッチングアプリの社会的浸透も進んでいます。こども家庭庁が2024年に実施した調査では、既婚者の25.1パーセントがマッチングアプリで配偶者と出会ったと回答しており、これはすべての出会いの方法の中で最も高い割合でした。この結果は、マッチングアプリが現代の婚活において主流の手段となっていることを明確に示しています。かつては「出会い系」として社会的な偏見の目で見られることもあったマッチングアプリですが、今や結婚相手との出会いの場として最も一般的な方法となったのです。
2024年の市場動向を見ると、新たに18のマッチングアプリがリリースされましたが、そのうち60パーセントにあたる11アプリが特定のニッチ市場に特化した特化型アプリとなっています。これは、総合的なマッチングアプリ市場では既に大手企業が強固な地位を築いており、新規参入者は差別化を図るために特化型戦略を取らざるを得ない状況を反映しています。年齢層や趣味、価値観、ライフスタイルなど、特定のセグメントに絞ることで、大手との競争を避けようとする戦略です。
興味深い動きとしては、東京都が2024年9月に独自のマッチングアプリをリリースするなど、自治体による婚活支援の取り組みも活発化しています。少子化対策の一環として、公的機関もマッチングサービスに参入するという新しい局面を迎えています。今後、他の自治体でも同様の取り組みが広がる可能性があり、民間企業にとってはさらなる競争要因となるかもしれません。
圧倒的な会員数を誇る競合サービスの存在
マッチングアプリ市場では、ペアーズ、Omiai、タップル、withなど、多様なサービスが展開されています。これらのサービスはそれぞれ独自の特徴や強みを持ち、ユーザーの獲得競争を繰り広げています。特に、AI技術を活用したマッチング機能や、ビデオ通話機能の実装など、各社が技術革新を進めており、サービスの差別化が難しくなっているという現状があります。
主要な競合サービスの規模を見ると、その圧倒的な差が明らかになります。2024年7月時点でのデータによると、ペアーズは累計会員数2,000万人、タップルも2,000万人以上、Omiaiは1,000万人の会員を擁しています。これに対してゼクシィ縁結びは累計210万人余りと、トップ3のサービスと比較すると会員数で大きく水をあけられていました。この差は、サービスの優劣というよりも、市場参入のタイミングやマーケティング投資の規模が大きく影響していると考えられます。
会員数の差は、マッチングアプリの成功において決定的な要因となります。会員数が多いほど、ユーザーにとってマッチングの選択肢が広がり、理想の相手と出会える可能性が高まります。この「ネットワーク効果」により、既に大規模な会員基盤を持つサービスには新規ユーザーが集まりやすく、一方で会員数の少ないサービスはさらにユーザー獲得が困難になるという構造があります。これは、マッチングアプリ市場特有の特性であり、後発組にとっては極めて高いハードルとなっています。
各サービスのターゲット層も明確に差別化されています。ペアーズは20代から50代まで幅広い年齢層をカバーしており、恋活から婚活まで多様な目的に対応しています。タップルは利用者の約80パーセントが10代から20代という若年層向けのサービスで、気軽な出会いから始める恋活に特化しています。Omiaiは20代から30代が中心で、真剣な交際や結婚を視野に入れたユーザーが多いという特徴があります。タップルの月間アクティブユーザー数は約60万人に達しており、高い利用頻度を維持しています。このように主要な競合サービスは、単に会員数が多いだけでなく、実際に活発に利用されているアクティブユーザーを多数抱えているという点で、ゼクシィ縁結びに対して大きなアドバンテージを持っていました。
ゼクシィ縁結びは、結婚情報誌「ゼクシィ」というブランド力を背景に展開されていましたが、既に市場を席巻している競合サービスとの競争において、十分な市場シェアを確保することができなかったと考えられます。ゼクシィブランドは結婚式や結婚準備の分野では圧倒的な知名度を誇りますが、マッチングアプリ市場では後発であり、先行する競合他社の優位性を覆すには至りませんでした。
ゼクシィ縁結びが提供していたサービス内容と特徴
ゼクシィ縁結びは、リクルートが運営する結婚に特化したマッチングアプリとして、累計会員数210万人以上を誇るサービスでした。会員の6割を20代後半から30代後半の人が占めており、結婚を真剣に考える年齢層がメインユーザーとなっていました。このターゲット層の設定は、婚活市場において理にかなったものであり、実際に多くのカップルが誕生していました。
サービスの大きな特徴として、まずお見合いコンシェルジュによるデート日程調整代行サービスが挙げられます。このサービスでは、お見合いコンシェルジュが間に入り、デートの日程や場所を調整してくれるため、マッチング後のやり取りがスムーズに進むよう配慮されていました。初めてのデートセッティングに不慣れな方にとって、心強いサポート機能であり、他のマッチングアプリにはない独自の強みでした。
次に、価値観と結婚観のマッチング機能です。職業や年齢といった基本情報だけでなく、「結婚後の苗字はどうする」「子どもは欲しい」「事実婚についてどう思う」など、普通なら長く付き合わないとわからない結婚に関する価値観を、プロフィールでチェックできる仕組みになっていました。これにより、結婚観のミスマッチを事前に防ぐことができ、より効率的な婚活が可能でした。現代では、結婚に対する価値観が多様化しており、こうした細かな価値観の確認は非常に重要です。
また、2025年6月23日からは独身証明機能もスタートし、より安心して婚活できる環境整備が進められていました。独身証明は、真剣に結婚を考えるユーザーにとって重要な情報であり、安全性を高める取り組みとして評価されていました。
料金体系については、男女同額の月額4,378円からとなっており、男女ともに同じ料金を設定することで、真剣度の高いユーザーのみが集まるような設計になっていました。一般的に、男性のみが有料のマッチングアプリでは、女性の真剣度が低い傾向がありますが、ゼクシィ縁結びでは男女同額にすることで、この課題を解決しようとしていました。この料金設定は、真剣に結婚を考えるユーザーを集めるための戦略であり、一定の効果があったと考えられます。
マッチング実績としては、64秒に1組のマッチングが成立するという高い頻度を誇っていました。また、会員の約94パーセントが結婚に本気で、約80パーセントが5ヶ月以内にパートナーを見つけて退会するという実績もあり、真剣な婚活サービスとしての実績を積み上げていました。これらの数字は、ゼクシィ縁結びが提供していたサービスの質の高さを示していますが、それでもなお市場での競争に勝ち抜くことはできませんでした。
リクルートが示した戦略転換の方向性
リクルートは今回のサービス終了について、同社に強みがある結婚情報分野に経営資源を集中させるための戦略転換であると位置づけています。同社は婚活や結婚関連事業として、結婚情報サービスの「ゼクシィ」や、結婚式場を探すための「ゼクシィ相談カウンター」などを運営していますが、これらのサービスは継続する予定です。つまり、リクルートは婚活マッチングアプリ事業から撤退する一方で、結婚式場情報や結婚準備に関する情報提供といった、自社が強みを持つ領域に注力していく方針を明確にしたということになります。
企業経営において「選択と集中」は重要な戦略の一つです。リクルートは多岐にわたる事業を展開する大手企業であり、限られた経営資源を最も効果的に活用するために、収益性や成長性の観点から事業の見直しを行ったと考えられます。婚活マッチングアプリ市場では先行する競合他社が既に強固な地位を築いており、後発として参入したゼクシィ縁結びが同等の地位を確立するためには、莫大な投資と時間が必要だったでしょう。一方、結婚式場情報や結婚準備に関する情報提供の分野では、ゼクシィブランドは長年にわたり圧倒的な知名度と信頼性を誇っています。このような状況を踏まえ、リクルートは収益性の高い事業領域に経営資源を集中させる判断を下したと推測されます。
公式発表では明言されていないものの、ゼクシィ縁結びのユーザー数や利用状況が期待された水準に達していなかった可能性も指摘されています。マッチングアプリ市場では、ユーザー数が多いほどマッチングの機会が増え、サービスの価値が高まるというネットワーク効果が働きます。すでに大きなユーザーベースを持つ競合サービスに対して、後発のゼクシィ縁結びが同等のユーザー数を獲得することは容易ではありませんでした。ユーザー数が伸び悩めば、マッチングの成功率も低下し、サービスの魅力が減少するという悪循環に陥る可能性があります。
婚活マッチングアプリ市場の成熟化という課題
婚活マッチングアプリ市場は急成長を遂げてきましたが、同時に市場の成熟化も進んでいます。初期の成長期には多くのユーザーが新規参入し、市場全体が拡大していましたが、現在では既存ユーザーの奪い合いという側面が強くなっています。成熟した市場では、新規参入者やシェアの小さい事業者が成長することが難しくなります。マーケティング費用や開発投資の負担が重くなる一方で、収益の拡大が見込めないという状況に陥りやすいのです。
新型コロナウイルス感染症の流行も、婚活市場に大きな影響を与えました。感染拡大の初期には、対面での出会いが制限されたことで、オンライン婚活サービスへの需要が高まりました。しかし、感染状況の改善に伴い、対面での活動が再開されると、オンライン婚活サービスの需要は変動しました。このような環境変化は、婚活サービス事業者にとって事業計画の見直しを迫る要因となったと考えられます。
オンライン型結婚相談所としてのゼクシィ縁結びエージェント
ゼクシィ縁結びエージェントは、リクルートが運営するオンライン型結婚相談所として展開されていました。このサービスは、従来の店舗型結婚相談所とは異なり、カウンセリングもお見合いもオンラインで対応可能という特徴を持っており、忙しい人や地方在住の人でも利用しやすい仕組みになっていました。オンライン完結型というアプローチは、現代のライフスタイルに合った選択肢として一定のニーズがあったと考えられます。
料金体系については、2025年3月以降は初期費用が無料となり、月会費は9,900円からで、成婚料も0円という業界最安クラスの価格設定でした。従来の結婚相談所では初期費用として数十万円、成婚料として10万円から数十万円かかることも珍しくない中で、この価格設定は大きな魅力となっていました。低価格で結婚相談所のサービスを受けられるという点は、婚活にかかる費用を抑えたいユーザーにとって魅力的でした。
会員数については、コネクトシップという結婚相談所の連携プラットフォームに加盟していたため、他社の会員も含めて約29,000人(2024年3月末時点)と出会える可能性がありました。コネクトシップは複数の結婚相談所が会員データベースを共有する仕組みで、単独の結婚相談所では実現できない規模の出会いの機会を提供していました。この仕組みにより、小規模な結婚相談所でも大手に匹敵する会員数を提供できるという利点がありました。
サポート体制としては、店舗に足を運ばなくても、オンラインで相談や面談が受けられる仕組みが整っており、プランによってサポートの手厚さが異なるという柔軟な設計になっていました。対面での相談を重視する従来型の結婚相談所に対し、オンライン完結型というアプローチは、地理的な制約を受けずに婚活できるという点で優れていました。しかし、ゼクシィ縁結びエージェントも、マッチングアプリであるゼクシィ縁結びと同様に、2026年6月30日をもってサービスを終了することが発表されました。新規会員登録については、2025年11月16日23時59分をもって受付を終了しています。
既存ユーザーへの対応と移行期間の設定
サービス終了に伴い、リクルートは既存ユーザーへの対応も行っています。ゼクシィ縁結びでは、2026年3月31日のサービス終了までに、会員登録の停止や有料プランの新規申込停止などの段階的な対応が実施される予定です。ゼクシィ縁結びエージェントについては、2025年11月16日に既に新規会員登録の受付を終了しており、2026年6月30日のサービス終了に向けて、既存会員へのサポート継続などが計画されています。すでにサービスを利用しているユーザーが不利益を被らないよう、適切な移行期間が設けられています。この移行期間の設定は、企業として誠実な対応であり、利用者への配慮が感じられます。
ゼクシィブランドが持つ圧倒的な歴史と強み
ゼクシィ縁結びのサービス終了を理解する上で、リクルートの結婚情報事業における「ゼクシィ」ブランドの歴史と強みを振り返ることは重要です。ゼクシィは1993年5月に首都圏版が創刊され、2023年で30周年を迎えた結婚情報誌です。誌名は性染色体のXX(女性)とXY(男性)に由来しており、結婚という男女の結びつきを象徴的に表現しています。
創刊当初、ゼクシィはブライダル業界に革新をもたらしました。当時は定型で画一化された結婚式が当たり前だった社会に対し、豊富な選択肢を提供し、カップルが自分たちらしい結婚式を挙げられる新しい世界観を提示したのです。草創期のゼクシィは、半ばブライダル業界の価格破壊を使命としており、「結婚費用 節約術100連発」といった、費用を抑えることをよしとする記事が多く掲載されていました。この姿勢は、当時の若いカップルから大きな支持を得ました。
創刊当初は「出会い」や「デート」といった特集が組まれることもありましたが、1995年からブライダル専門の情報誌へと方針転換を行い、結婚式場選びや結婚準備に特化した内容へとシフトしました。この戦略転換が功を奏し、ゼクシィはブライダル情報誌としての地位を確立していきました。この専門特化の戦略は、まさに現代で言う「選択と集中」の先駆けとも言えるでしょう。
驚くべきことに、ゼクシィは雑誌不況や婚姻数の減少という逆風の中でも好調を維持しています。2022年12月発売号の実売部数は過去最高を更新し、「プロポーズされたらゼクシィ」というキャッチフレーズに象徴されるブランド力は健在です。結婚が決まったカップルにとって、ゼクシィは単なる情報誌ではなく、婚約記念品のような特別な意味を持つ存在となっているのです。この強固なブランド力こそが、リクルートが結婚情報分野に経営資源を集中させる理由となっています。
結婚情報産業における今後の展望とリクルートの立ち位置
ゼクシィ縁結びのサービス終了は、マッチングアプリ市場における競争の厳しさを改めて示すものとなりました。しかし、結婚情報産業全体で見れば、リクルートは依然として強固な地位を維持しています。結婚情報誌としての「ゼクシィ」は、30年以上の歴史を持ち、日本国内で圧倒的な知名度を誇っています。結婚を控えたカップルにとって欠かせない情報源であり続けており、出版不況の中でも実売部数を伸ばすという稀有な成功を収めています。
また、結婚式場を探すための「ゼクシィ相談カウンター」も、対面でのきめ細やかなサポートを提供するサービスとして高い評価を得ています。結婚式場選びは人生の一大イベントであり、オンラインだけでは不安という人も多くいます。そうした人々に対して、専門のカウンセラーが親身になって相談に乗るというサービスは、今後も需要が続くでしょう。
リクルートは今後、これらの強みを持つ事業領域にさらに注力することで、結婚情報産業における地位を強化していくものと予想されます。マッチングアプリ事業からは撤退するものの、結婚式場情報や結婚準備に関するサービスという、ゼクシィブランドが最も力を発揮できる領域に経営資源を集中させることで、より効率的かつ効果的な事業運営が可能になると考えられます。
マッチングアプリ市場の今後の動向と展望
ゼクシィ縁結びの終了により、マッチングアプリ市場では再編が進む可能性があります。すでに大きなシェアを持つ主要サービスへのユーザー集中が進み、中小規模のサービスは淘汰されていく可能性があります。2025年の市場展望としては、業界は移行期に入っており、いくつかの重要なトレンドが見られます。
第一に、市場の統合が進み、大手プレイヤーによる寡占化がさらに進展すると予想されています。上位5社で市場の75パーセントを占める現状から、この傾向はさらに強まる可能性があります。第二に、新規参入のペースが鈍化しています。市場が成熟化するにつれ、大規模な投資なしに新規参入することが困難になっており、新しいサービスの多くは特化型アプリとなっています。特化型アプリは、年齢層、趣味、価値観、ライフスタイルなど、特定のセグメントに絞ることで、大手との差別化を図っています。
第三に、ユーザー体験の向上、安全性の強化、サービスの多様化への投資が重点課題となっています。利用者の安全を守るための本人確認の強化、独身証明機能の導入、AIを活用した不正利用の検知など、安心して利用できる環境づくりに各社が注力しています。特にセキュリティと安全対策については、業界全体で重要性が高まっています。
SNS型ロマンス詐欺の被害が急増しており、2024年1月から6月までの半年間だけで1,498件の被害が報告され、これは前年同期比の約2.3倍にあたります。被害額も約153億円に達しており、深刻な社会問題となっています。こうした状況を受けて、2024年6月18日の第39回犯罪対策閣僚会議では、マッチングアプリ事業者に対し、アカウント開設時に公的個人認証を用いた厳格な本人確認を実施するよう促すことが決定されました。その後、2024年9月には河野太郎デジタル大臣がマッチングアプリ事業者に対し、ロマンス詐欺対策としてマイナンバーカードを活用した本人確認の強化を呼びかけています。
これを受けて、主要なマッチングアプリ事業者は対応を進めています。エウレカ社などは2024年8月から、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)をアプリに組み込み、本人確認の強化を図っています。また、タップルなどでは、マイナンバーポータルを経由して戸籍情報から婚姻関係情報を取得し、独身であることを証明できる機能を提供しており、証明書の有効期間は1年間となっています。本人確認については、単純な年齢確認(18歳以上であることの確認)と、より厳格な本人確認(提出された身分証明書の顔写真と本人が一致しているかの確認)があり、後者の方がセキュリティレベルが高くなります。
現在のeKYCシステムでは、高度な画像解析やAI技術を用いて偽造書類を検知する仕組みが導入されていますが、偽造技術も進化しており、なりすましリスクを完全に排除することは困難という課題も残されています。マッチングアプリ事業者にとって、セキュリティ対策は今後ますます重要な経営課題となるでしょう。
一方で、特定のニッチ市場に特化したサービスや、独自の技術や機能を持つサービスは、今後も成長の余地があるでしょう。AI技術を活用した高度なマッチングアルゴリズム、メタバース空間でのバーチャルデート、ビデオ通話機能の充実など、新しい技術を取り入れたサービスの登場も期待されます。また、少子化対策として自治体が独自のマッチングサービスを立ち上げる動きも注目されます。東京都の事例に続き、他の自治体でも同様の取り組みが広がる可能性があり、公的機関と民間企業が協力して婚活支援を行う新しい形態のサービスも生まれるかもしれません。
ゼクシィ縁結びユーザーが受ける影響と今後の選択肢
ゼクシィ縁結びを利用していたユーザーにとって、サービス終了は残念なニュースです。しかし、婚活マッチングアプリ市場には多数の代替サービスが存在しており、自分に合ったサービスを選択することが可能です。各サービスにはそれぞれ特徴があり、年齢層、目的、マッチング方法、料金体系などが異なります。ユーザーは自分の婚活スタイルや希望に合わせて、最適なサービスを選ぶことが重要です。
また、オンライン型結婚相談所の「ゼクシィ縁結びエージェント」を利用していたユーザーについても、同様のサービスを提供する他社の結婚相談所への移行が選択肢となります。結婚相談所市場も競争が激しく、多様なサービスが提供されているため、比較検討して自分に合ったサービスを見つけることができます。移行期間中に、じっくりと次のサービスを検討することをお勧めします。
日本の婚姻状況と婚活市場を取り巻く社会的背景
ゼクシィ縁結びのサービス終了を取り巻く背景として、日本社会全体における婚姻状況の変化も無視できません。2023年の婚姻件数は47万4,741組で、前年の50万4,930組より3万189組減少し、前年比6.0パーセントの減少となりました。これは戦後初めて年間婚姻件数が50万組を下回るという歴史的な事態でした。婚姻率(人口千対)も3.9となり、前年の4.1から低下しています。この数字は、日本社会における結婚の減少傾向が続いていることを示しています。
さらに深刻なのは未婚化の進行です。50歳時点まで一度も結婚したことがない人の割合を示す生涯未婚率は、1980年代には男女ともに5パーセント未満でしたが、2020年には男性が28.3パーセント、女性が17.8パーセントにまで上昇しています。特に東京都では、50歳時点で男性の約3人に1人(32.2パーセント)、女性の約4人に1人(23.8パーセント)が結婚経験がないという状況になっています。この数字は、結婚という人生の選択が、かつてのように当たり前のものではなくなってきていることを示しています。
こうした婚姻数の減少と未婚化は、少子化にも直結しています。2024年の出生数は720,988人と調査開始以来過去最少となり、合計特殊出生率も2023年に過去最低となる1.20を記録しました。国立社会保障と人口問題研究所の研究によれば、少子化の要因の8割は未婚化によるものとされており、結婚支援や婚活支援の重要性が高まっています。政府や自治体が少子化対策として婚活支援に力を入れる背景には、こうした深刻な状況があります。
一方で、こうした状況が逆に婚活市場の成長を後押ししている側面もあります。結婚相談所大手のIBJでは、2024年における成婚組数が過去最多となる16,398組を記録し、これは日本の婚姻件数の約3.3パーセントに相当します。また、2019年と比較すると、20代の新規入会者数は約2.5倍、30代は約1.8倍(男女計)に増加しており、若年層の利用者が大幅に拡大しています。婚姻数が減少する一方で婚活サービスの利用者が増えているという一見矛盾した現象は、結婚を希望する人々が自然な出会いの機会を得にくくなっており、積極的に婚活サービスを利用せざるを得ない社会状況を反映しているとも言えます。
興味深いことに、若者の結婚に対する意識を調査すると、未婚者で「いずれは結婚するつもり」と考える割合は、男性81.4パーセント、女性84.3パーセントと依然として高水準を維持しています。つまり、若者の多くは結婚を希望しており、結婚に対する価値観そのものが大きく変化したわけではないのです。近年の婚姻数減少について、若者の価値観が変化したことが原因だという見方も存在しますが、実際には経済的要因や環境構造の変化の影響の方が大きいという分析が主流となっています。
25歳から34歳の年齢層における結婚しない理由としては、「適当な相手にめぐり会わない」が中心となっており、「結婚資金が足りない」や「異性とうまくつきあえない」なども増加傾向にあります。これらの課題は、婚活サービスがある程度解決できる問題であり、だからこそ婚活市場が成長しているとも言えます。
一方で、1990年代以降、結婚観には「ロマンティックマリッジ・イデオロギー」とも呼ぶべき新しい考え方が台頭しています。これは、恋愛には結婚が伴わなくても良いが、結婚には恋愛感情が伴っていなくてはならないという考え方です。かつての見合い結婚が主流だった時代とは異なり、現代では恋愛を経ての結婚が重視されるようになっており、このことも自然な出会いから結婚に至る道のりを複雑化させている要因の一つと言えるでしょう。マッチングアプリは、この「恋愛を経ての結婚」を実現する手段として位置づけられており、見合い結婚とは異なる出会いの形を提供しています。
今回のサービス終了が示す企業戦略の重要性
ゼクシィ縁結びのサービス終了は、婚活マッチングアプリ市場における競争の激化、後発サービスの苦戦、そしてリクルートの戦略転換という複数の要因が重なった結果です。マッチングアプリ市場は過去6年間で急速に拡大し、多数の事業者が参入してきました。この競争激化の中で、ゼクシィ縁結びは十分な市場シェアを確保できず、リクルートは同社の強みである結婚情報分野に経営資源を集中させる判断を下しました。
結婚情報誌「ゼクシィ」や「ゼクシィ相談カウンター」は継続されることから、リクルートは婚活マッチングアプリ事業からは撤退するものの、結婚関連事業全体からは撤退しないことが明確になっています。この判断は、企業にとって何が最も重要であるかを見極め、限られた資源を効果的に配分する戦略的思考の表れと言えます。
今回のサービス終了は、成熟した市場における事業の選択と集中の重要性を示す事例となりました。企業は限られた経営資源を最も効果的に活用するために、時には不採算事業や成長が見込めない事業からの撤退を決断する必要があります。リクルートの今回の判断は、そうした企業戦略の一環として理解することができます。
2026年3月31日をもってサービスを終了するゼクシィ縁結び、そして2026年6月30日をもってサービスを終了するゼクシィ縁結びエージェントですが、この決断の背景には、激しい市場競争と企業戦略の転換という、現代のビジネス環境を象徴する要因がありました。今後、マッチングアプリ市場はさらに統合が進み、大手サービスへの集中が進む可能性がありますが、一方で新しい技術やサービスの登場にも期待が集まります。婚活を考えている方は、多様な選択肢の中から自分に最適なサービスを見つけることが重要です。

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