OTC類似薬の追加負担とは?対象薬一覧と具体的な負担額を解説

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OTC類似薬の追加負担の対象薬は、ヒルドイド、モーラステープ、アレジオン、アレグラ、ロキソニンなど1,000品目以上に及びます。2024年10月1日から「長期収載品の選定療養」制度が開始され、後発医薬品(ジェネリック)があるにもかかわらず先発医薬品を希望する場合、先発品と後発品の薬価差額の約4分の1に消費税を加えた金額を「選定療養費」として自己負担することになりました。この記事では、対象となる薬の具体例から負担額のシミュレーション、除外規定まで詳しく解説していきます。

OTC類似薬の追加負担とは何か

OTC類似薬の追加負担とは、ドラッグストアで購入できる市販薬(OTC医薬品)と成分が同じ、あるいは効能が類似している処方薬において、先発医薬品を選択した場合に発生する追加費用のことです。この制度は「長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養」として2024年10月1日に導入されました。

「選定療養」とは、保険診療と保険外診療の併用を例外的に認める制度であり、これまでは入院時の差額ベッド代や大病院の紹介状なし受診などが代表的でした。今回、この枠組みが外来での薬剤処方という国民にとって最も身近な医療行為に適用されたことは、医薬品が「医師が選ぶもの」から「コストを意識して患者が選ぶもの」へと変質するパラダイムシフトを意味しています。

制度導入の背景には、少子高齢化による医療費の増大があります。限られた財源を有効に活用するため、すでに特許が切れて安価な後発医薬品が存在する薬への支出を抑え、その分をがん治療薬や希少疾患治療薬といった革新的な新薬の評価に回す必要があるのです。これが「イノベーションの推進」と「国民皆保険の堅持」の両立という政策目標につながっています。

対象となる薬の条件と範囲

選定療養の対象となるのは「長期収載品」と呼ばれるカテゴリーのうち、一定の条件を満たすものです。すべての先発医薬品が対象になるわけではありません。

対象となる条件の一つ目は、後発医薬品の上市から5年以上経過しているものです。特許が切れてから十分な期間が経ち、ジェネリックの供給体制が整っているとみなされる品目がこれに該当します。

二つ目の条件は、後発医薬品への置換率が50%以上のものです。5年経過していなくても、すでに市場の半数以上がジェネリックに切り替わっており一般的になっている品目も対象に含まれます。

これらの基準により、対象品目は内服薬、外用薬、注射薬(自己注射含む)を合わせて1,000品目以上に及んでいます。いわゆる「準先発品」と呼ばれるものも含まれますが、バイオ医薬品についてはバイオシミラーがあるものであっても製造プロセスの複雑さから対象外とされています。

追加負担額「特別の料金」の計算方法

患者が負担する追加費用である「特別の料金」は、以下のプロセスで算出されます。

まず、先発医薬品の薬価と後発医薬品の最高薬価の差額を計算します。ジェネリック医薬品には複数の価格帯が存在することがありますが、最も高い(先発に近い)価格を基準にすることで、差額が過大にならないよう配慮されています。

次に、この差額の4分の1(25%)を算出します。これが「特別の料金」のベースとなります。

最後に、この金額に消費税(10%)が加算されます。選定療養は保険給付外のサービスとみなされるため、非課税の保険診療とは異なり消費税の課税対象となる点が重要です。

実際の窓口負担は二段構えの計算になります。選定療養費として先発品と後発品の差額の25%相当額に消費税を加えた金額が全額自己負担となります。そして保険診療の自己負担分として、先発品の薬価から差額の25%を差し引いた残りの金額に対し、年齢や所得に応じた負担割合(1割~3割)を掛けた額を支払います。

結果として、3割負担の患者であれば、簡易的には「先発と後発の差額の3分の1から4分の1程度が上乗せされる」と理解しておけば間違いありません。

皮膚科領域の対象薬と負担額:ヒルドイドの具体例

皮膚科領域で最も影響が大きく話題の中心となっているのが、ヘパリン類似物質製剤である「ヒルドイド」です。長年、美容目的での不適切使用が問題視されてきた経緯もあり、今回の制度改正は事実上の適正化策としても機能しています。

対象となる品目は、ヒルドイドソフト軟膏0.3%、ヒルドイドクリーム0.3%、ヒルドイドローション0.3%、ヒルドイドフォーム0.3%です。これらは極めて処方頻度が高く、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の治療に不可欠な薬剤となっています。

価格差と負担額の具体例を見てみましょう。ヒルドイドソフト軟膏(先発品)の薬価は1gあたり約18.5円です。対して、後発医薬品であるヘパリン類似物質油性クリームの最高薬価は約5.6円前後となっています。

この差額(約12.9円)の4分の1である約3.23円が、1gあたりの特別料金となります。皮膚科では1回に100g(25gチューブ4本や50g壺2個)処方されることが一般的であるため、この場合100gあたり約323円(税込み約352円)の選定療養費が発生します。

これに通常の保険自己負担分(3割負担で約459円)を加えると、窓口で支払う薬剤費は約811円となります。制度導入前(約555円)と比較して、約256円の負担増です。

たかが数百円と思われるかもしれませんが、全身に塗布するために毎月300g~500gを処方されている重度のアトピー性皮膚炎患者の場合、月額で1,000円~1,500円以上の負担増となり、年間では数万円の差になります。

整形外科領域の対象薬と負担額:モーラステープの具体例

日本特有の「湿布文化」を支える整形外科領域も大きな影響を受けています。湿布薬はOTC医薬品としても非常に種類が多く代替性が高いため、選定療養の主要なターゲットとなっています。

対象品目として代表的なものは、モーラステープL40mg、モーラステープ20mg、ロキソニンテープなどです。

モーラステープL40mg(先発品)の薬価は1枚あたり約27.6円であり、後発品であるケトプロフェンテープは約17.6円程度です。差額は約10円となり、その4分の1である2.5円が1枚あたりの特別料金となります。

湿布薬は1回に大量に処方されるケースが多く、例えば7枚入り×9袋=63枚といった処方がよく見られます。63枚処方された場合、2.5円×63枚=約157円(+消費税)の選定療養費が発生します。

湿布薬は「かぶれやすさ」「剥がれにくさ」「匂い」といった使用感において先発品と後発品の違いを感じる患者が多く、数百円払ってでも使い慣れた先発品を指定する層が一定数存在すると考えられます。

アレルギー領域の対象薬と負担額:花粉症薬の具体例

春の花粉症シーズンには抗ヒスタミン薬が爆発的に処方されます。これらはスイッチOTCとして薬局でも購入できますが、受診した方が安上がりであるため病院に患者が殺到する要因となっていました。

対象品目は非常に多岐にわたります。アレジオン錠20(エピナスチン)、アレグラ錠60mg(フェキソフェナジン)、タリオン錠(ベポタスチン)、アレロック錠(オロパタジン)、クラリチン錠(ロラタジン)、ジルテック錠(セチリジン)、ザイザル錠(レボセチリジン)など、第2世代抗ヒスタミン薬の主要な先発品はほぼすべて対象となっています。

アレジオン錠20を例にとると、先発薬価(27.3円)と後発薬価(19.3円)の差額は8円であり、1錠あたりの特別料金は2円となります。30日分(30錠)処方された場合、選定療養費は60円(+消費税)です。

アレジオンに関しては差額が小さいため、患者は「66円払うなら先発品のままでいい」と判断する可能性があります。一方で、ザイザルやアレロックのように先発薬価が高く後発薬価が極めて安い薬剤の場合は差額が大きくなり、1ヶ月あたり数百円の負担増になるためジェネリックへの移行が進むと考えられます。

薬によって追加料金に差があるという点は、患者が知っておくべき重要なポイントです。

疼痛・解熱領域の対象薬と負担額:ロキソニンの具体例

頭痛、生理痛、発熱時などに処方される解熱鎮痛剤も対象となっています。代表的な対象品目はロキソニン錠60mg(ロキソプロフェン)やボルタレン錠(ジクロフェナク)です。

ロキソニンは知名度が圧倒的ですが、薬価自体が非常に安価(先発でも1錠10数円程度)になっています。そのため後発品との差額もわずかであり、短期処方(風邪で5日分など)であれば選定療養費は数十円(あるいは計算上の端数処理でほぼゼロ)になることもあります。

しかし、リウマチなどで長期連用する場合は積もり積もって無視できない金額になります。慢性疾患で継続的に服用している患者は、年間の負担増を計算してジェネリックへの切り替えを検討することが賢明です。

生活習慣病領域の対象薬一覧

OTC類似薬ではありませんが、処方数が膨大で影響が見過ごせない薬剤群も多数存在します。

高血圧治療薬としては、アムロジン(アムロジピン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)などが対象となっています。これらは高齢者が長期にわたって服用するため、1錠あたりの負担増はわずかでも年金生活者にとっては痛手となります。

脂質異常症治療薬としては、リピトール(アトルバスタチン)、クレストール(ロスバスタチン)、メバロチン(プラバスタチン)などの「スタチン系」と呼ばれる薬剤が対象です。これらも非常に一般的に処方されている薬剤です。

消化性潰瘍薬(胃薬)としては、タケプロン(ランソプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)、ガスター(ファモチジン)が対象となっています。特にガスターはOTC薬としても有名であり、まさにOTC類似薬の代表格といえます。

精神科領域では、デパス(エチゾラム)、ソラナックス(アルプラゾラム)、パキシル(パロキセチン)、ジェイゾロフト(セルトラリン)などが対象です。メンタル系の薬剤は「薬を変えることへの不安」が非常に強いため、高くても先発品を希望する傾向が強い領域となっています。

対象薬の分野別まとめ

選定療養の対象となる主要な薬剤を分野別に整理すると、以下のような表にまとめることができます。

分野代表的な対象薬(先発品)成分名
皮膚科(保湿剤)ヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドローションヘパリン類似物質
整形外科(湿布)モーラステープ、ロキソニンテープケトプロフェン、ロキソプロフェン
アレルギー科アレジオン、アレグラ、タリオン、アレロック、クラリチン、ジルテック、ザイザルエピナスチン、フェキソフェナジン等
疼痛・解熱ロキソニン、ボルタレンロキソプロフェン、ジクロフェナク
高血圧アムロジン、ディオバン、ミカルディス、ブロプレスアムロジピン、バルサルタン等
脂質異常症リピトール、クレストール、メバロチンアトルバスタチン、ロスバスタチン等
消化性潰瘍タケプロン、パリエット、ネキシウム、ガスターランソプラゾール、ファモチジン等
精神科デパス、ソラナックス、パキシル、ジェイゾロフトエチゾラム、パロキセチン等

追加負担が免除される「医療上の必要性」とは

選定療養制度には、患者の経済的負担を免除するための「例外規定」が設けられています。この例外は「抜け道」ではなく、医療の質を担保するための安全装置です。

医師が判断する医学的理由

医師が処方箋の「変更不可」欄にチェックを入れ、かつ具体的な理由を記載した場合は選定療養の対象外となります。

治療効果や副作用の差異による場合があります。過去にジェネリックを使用して副作用が出た、あるいは効果が不十分であったことがカルテ等で明らかな場合が該当します。また、てんかん薬や不整脈薬など有効血中濃度の治療域が狭い薬剤において、銘柄変更がリスクになると判断される場合も含まれます。

適応症の不一致による場合もあります。先発医薬品には効能・効果として認められている疾患が、後発医薬品では特許等の関係でまだ認められていない場合です。この「効能ズレ」がある場合、医師はその疾患の治療のために先発品を使わざるを得ません。

学会のガイドライン等で「切り替え非推奨」とされている場合も、医学的理由として認められます。

薬剤師が判断できる薬学的理由

処方箋上は「変更可」となっていても、薬局の現場で薬剤師が判断して選定療養費を徴収しないケースがあります。

剤形上の問題がある場合が一つ目です。例えば、先発品は小型で飲みやすいが後発品は大きくて患者が飲み込めない場合や、安定剤などの後発品が吸湿しやすく一包化をすると変質してしまうため安定性の高い先発品を使わざるを得ない場合などが該当します。これらは「単なる飲みやすさの好み」ではなく、服薬コンプライアンス(正しく飲めるか)に関わる問題として医療上の必要性と認められます。

後発医薬品の在庫がない場合も免除対象です。現在、ジェネリック医薬品業界は相次ぐ不祥事により供給不安定な状況が続いています。患者がジェネリックを希望しても薬局に在庫がなく取り寄せも困難な場合は「薬局の都合」として先発品を調剤せざるを得ません。この場合、患者に責任はないため選定療養費は請求されません。これは「現にその薬局で提供できるか」という実質的な判断によります。

こども医療費助成や生活保護受給者の取扱い

この点は非常に誤解が多いポイントです。

こども医療費助成(マル乳・マル子)等を受けている場合でも、選定療養費は支払わなければなりません。自治体の医療費助成を受けている患者(窓口負担ゼロの子供など)であっても、自治体の助成は「保険診療の自己負担分」をカバーするものであり、選定療養という「保険外の特別料金」まではカバーしないからです。これまで無料でヒルドイドをもらっていた保護者が窓口で数百円を請求されて驚くケースが多発しています。

生活保護受給者の場合は取扱いが異なります。生活保護の医療扶助は「原則として後発医薬品を使用すること」が法律で定められています。したがって、医師が「医学的に先発品が必要」と判断した場合のみ先発品が支給(全額公費)されます。逆に言えば、受給者が「好みで先発品を使いたいから、差額を自分で払う」という選択肢自体が認められていません。医学的理由がなければ強制的にジェネリックになります。

制度開始後の現場の混乱と患者トラブル

2024年10月の制度開始以降、薬局や医療機関の窓口では様々な摩擦が生じています。

東京都薬剤師会の調査では、制度開始直後の患者の理解度は極めて低く、「ほとんど理解していない」層が6割を占めました。薬局の窓口で会計時に初めて追加料金を知らされ、「聞いていない」「勝手に変えられた」と激昂するトラブルも報告されています。特に高齢者は長年親しんだ薬の色や形が変わることに強い不安を感じるため、説得に多大な時間を要しています。

薬剤師は対象となる患者一人ひとりに対し、制度の趣旨説明、差額の提示、ジェネリックへの変更意思の確認を行わなければなりません。これにより一人あたりの投薬時間が大幅に延び、薬局の待ち時間が増加しています。中には1人の患者に数十分の説明を要するケースもあり、業務効率が著しく低下しています。

選定療養費を徴収する際、明確な「同意書」の取得までは義務付けられていませんが、トラブル防止のために多くの薬局が署名や口頭での明確な同意確認を行っています。

制度がもたらす医薬品市場への影響

この制度は単なる患者負担の話にとどまらず、製薬業界の構造にも影響を与えています。

ジェネリック医薬品シェアの加速

政府の狙い通り、これまで「なんとなく」先発品を選んでいた層がコスト意識を持ってジェネリックに切り替える動きは確実に加速しています。特にヒルドイドや湿布薬のような差額が明確に出る品目での置き換えが進んでいます。これにより、後発医薬品の使用割合80%以上という政府目標の達成がより現実味を帯びています。

先発メーカーのビジネスモデル転換

先発メーカーにとっては、特許切れ薬(長期収載品)で稼ぐビジネスモデルがいよいよ通用しなくなります。これは日本市場において「新薬開発力のないメーカー」が淘汰されることを意味します。製薬企業はより一層、革新的な新薬(スペシャリティドラッグ)の開発に資源を集中させる必要に迫られています。

OTC医薬品市場への波及効果

病院で処方されるヒルドイド等に追加料金がかかるようになれば、「病院に行く手間と待ち時間、診察料、そして選定療養費を払うくらいなら、ドラッグストアで似たような成分のOTC薬を買った方が手軽で安い」と考える層が増える可能性があります。これはセルフメディケーション税制の普及とも相まって、OTC市場の活性化につながる可能性があります。特にドラッグストアのPB(プライベートブランド)で安価なヘパリン類似物質製剤が登場している現状では、この流れは自然なものです。

賢い患者になるためのポイント

最後に、この複雑な制度と向き合う一般消費者が取るべき「賢い行動」をまとめます。

お薬手帳で自分の薬を把握する

まず、自分が現在使っている薬が「先発品」なのか「後発品」なのかを把握することが第一歩です。お薬手帳の商品名を見て、メーカー名(「日医工」「サワイ」「トーワ」等)が入っていればジェネリックの可能性が高いですが、カタカナの商品名(「アレジオン」「ムコダイン」等)の場合は先発品である可能性が高いです。

事前に意思表示を固めておく

薬局に行く前に、「ジェネリックに変更したい」あるいは「先発品のままでいい」という意思を固めておくことが重要です。特に子供の薬については、窓口で慌てないよう事前に「ジェネリックでお願いします」と伝えるか、問診票にチェックを入れておくことで無駄な出費と待ち時間を防ぐことができます。

お試し変更を活用する

「ジェネリックは効くか不安」という場合、全量をいきなり変えるのではなく、薬剤師に相談して「今回は1本だけジェネリックにしてみる」「半分だけ変えてみる」といった対応が可能か確認するのも一つの手です。分割調剤等のテクニックが必要な場合もありますが、柔軟に対応してくれる薬局も増えています。

2024年10月の制度改正は、私たち患者に対し「医療のコスト」を自分事として捉えることを求めています。OTC類似薬を含む長期収載品の選定療養は、日本の医療制度が「持続可能性」へと舵を切った象徴的な出来事であり、その仕組みを正しく理解し活用することこそが、家計と健康を守る最大の防御策となります。

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