2025年11月26日から29日までの4日間、千葉県の幕張メッセにおいて第9回鉄道技術展2025が開催されます。この展示会は、日本唯一の鉄道技術に特化した総合見本市として、国内外の鉄道関連企業や技術者、研究者が一堂に会する貴重な機会となっています。今回のイベントでは、自動化技術や次世代モビリティサービスが主要なテーマとして掲げられており、人口減少に伴う労働力不足やインフラの老朽化、さらには脱炭素化の要請といった日本の鉄道産業が直面する課題に対する解決策が提示される予定です。幕張メッセという首都圏からアクセスしやすい会場で開催されることもあり、鉄道業界関係者だけでなく、関連産業や研究機関からも多くの来場者が期待されています。本記事では、鉄道技術展2025の開催概要から、自動運転技術の最新動向、次世代モビリティとしてのDMV技術、AI・センサー技術による保守革新、そして水素燃料電池車両による脱炭素化まで、幅広いトピックについて詳しく解説していきます。

第9回鉄道技術展2025の開催概要と見どころ
第9回鉄道技術展2025は、産経新聞社が主催し、株式会社シー・エヌ・ティがオーガナイザーを務める大規模な展示会です。会期は2025年11月26日水曜日から29日土曜日までの4日間で、開場時間は各日10時から17時まで、最終日の29日のみ16時までとなっています。会場は幕張メッセの展示ホール4から8を使用し、広大なスペースに様々な鉄道技術が展示されます。
入場料については、一般来場者が2,000円ですが、招待券を持参した方やインターネットからの事前登録者は無料で入場できます。また、高校生以上の学生は事前登録を条件に無料となっており、次世代を担う若い世代が最新の鉄道技術に触れる機会を提供しています。予定来場者数は25,000名を見込んでおり、過去の実績から見ても非常に大規模なイベントとなることが予想されます。
開催形式としては、11月26日から28日までの3日間は通常の「ビジネスDAY」として、主に業界関係者向けの商談や技術交流の場となります。最終日の29日は「ビジネスDAY」と「鉄道業界探求フェア」の二本立てで開催され、一般の方々も鉄道技術や業界について学ぶことができる特別なプログラムが用意されています。この鉄道業界探求フェアは、次世代を担う若い世代に鉄道技術の魅力を伝え、業界への関心を高める重要な機会となります。
主要出展分野としては、交通・鉄道システム、横断的技術、土木・インフラ技術・施設、電力・輸送・運行管理、車両、インテリア、旅客サービス、自動化、次世代モビリティサービスなど、鉄道に関わる幅広い技術領域がカバーされています。これらの分野において、国内外の企業が最新の製品やソリューションを展示し、来場者との活発な情報交換が行われる見込みです。
鉄道技術展の歴史と過去の実績
鉄道技術展は2010年から開始され、ほぼ隔年で開催されてきた日本唯一の鉄道技術に特化した総合展示会です。過去の開催実績を振り返ると、回を重ねるごとに規模が拡大し、鉄道業界における重要なイベントとしての地位を確立してきました。
2015年に開催された第4回では、来場者数が前回を約1万人上回る28,507人を記録し、出展社数も400社を超えて過去最高を記録しました。この数字は、鉄道技術への関心の高まりと、展示会としての成熟を示すものでした。2022年5月には第8回として初めて大阪のインテックス大阪での開催が実現し、3日間で約2万人の来場者を集めました。これにより、関西圏の鉄道関連企業や技術者にもアクセスしやすい機会が提供されました。
2023年11月に幕張メッセで開催された第8回通算では、来場者数が前回を約1万人上回る34,878人に達し、約35,000人という過去最大規模の来場者数を記録しました。この成功は、コロナ禍を経て鉄道技術への関心がさらに高まっていることを示しています。今回の第9回では25,000名の来場者を予定していますが、過去の実績から見ても、鉄道技術展は着実に成長を続けており、日本の鉄道産業の発展に大きく貢献している展示会であると言えます。
主要出展企業と注目の展示内容
第9回鉄道技術展2025には、日本を代表する鉄道関連企業が多数出展を予定しています。その中でも特に注目されるのがNECの出展です。NECは「Next Generation Railway:NECが創る次世代鉄道ソリューション」をテーマに掲げ、最新のデジタル技術やAI技術を活用した鉄道ソリューションを展示します。旅客と事業者の双方が安全で便利に利用できるサービスの実現に向けた技術が紹介される予定で、鉄道業界の未来に向けた新しい方向性を提示することが期待されています。
株式会社栗本鐵工所の化成品事業部と日本カイザー株式会社は共同出展を行い、鉄道インフラに関連する製品や技術を紹介します。FDK株式会社も出展を予定しており、電池関連技術など、鉄道車両に不可欠なコンポーネントについての最新情報を提供する見込みです。
また、同時開催として「第6回橋梁・トンネル技術展」が行われ、鉄道インフラの維持管理や長寿命化に関する技術も展示されます。これにより、来場者は鉄道システム全体を俯瞰的に理解することができます。
特別イベントとして、阿佐海岸鉄道のDMVデュアル・モード・ビークルのモードチェンジ実演が予定されています。これは線路と道路の両方を走行できる次世代の交通手段であり、実際にモードチェンジの様子を見ることができる貴重な機会となります。ただし、最終日の29日は屋内での車両展示のみとなる点に注意が必要です。
鉄道自動運転技術GoAの最新動向と国内事例
鉄道業界において、自動運転技術は今後の発展を左右する重要な要素となっています。自動運転のレベルは「GoA(Grades of Automation)」という国際的な基準で定義されており、GoA 0の手動運転からGoA 4の完全無人運転まで段階的に分類されています。
GoA 2では速度調整およびブレーキ操作が自動で行われ、運転士は主に監視役を担います。GoA 2.5では発進・停止は自動化されていますが、係員が車両前頭部に乗務する必要があります。GoA 3になると、発進・停止は完全に自動化され、乗務員は安全確認とドアの開閉のみを行い、前頭部以外での業務も認められます。GoA 4は完全な無人運転で、すべての操作が自動で行われます。
日本国内では、ゆりかもめや神戸新交通などの新交通システムがGoA 4の完全無人運転を達成しています。また、舞浜リゾートラインではGoA 3が導入されています。有人自動運転のGoA 2については、東京メトロや札幌、横浜、名古屋、大阪、福岡など各市営地下鉄で導入されています。
特に注目すべきは、JR九州が2024年3月に香椎線西戸崎-宇美間の25.4キロメートルで列車の自動運転を開始したことです。これはATS自動列車停止装置区間における自動運転として国内初であり、踏切がある区間での自動運転の実施も前例がないとされています。JR九州はGoA 2.5への対応を目指して自動列車運転システムを開発しており、今後の生産年齢人口減少に備え、限られた経営資源を有効活用しながら列車本数を維持し、持続可能な鉄道事業の実現を目指しています。
南海電鉄も2027年度に高師浜線においてGoA 2.5自動運転を開始することを発表しています。2025年度中にGoA 2.5自動運転に必要な地上設備と車両改造のための詳細設計、機器類等の製造を開始し、2027年度にはGoA 2.5係員の養成を行った上で自動運転を開始する予定です。
JR東日本はさらに先を見据え、GoA 3を目指した取り組みを進めています。一方で、地上走行を前提とした在来線の無人化は、線路上の安全確認が運転士の重要な役割であることから、まだ課題が多い状況です。2022年3月には国土交通省の技術検討会において、GoA 2.5以上のレベルにおける導入指針がとりまとめられ、踏切がある鉄道での自動運転に関するガイドラインが整備されました。これにより、今後の自動運転技術の普及が加速することが期待されています。
DMVデュアル・モード・ビークル技術の革新性
次世代モビリティの代表例として、DMVデュアル・モード・ビークルが注目を集めています。DMVとは、列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走行できるよう改造されたバス車両のことです。
この技術は2004年に北海道旅客鉄道JR北海道が試作車を完成させ、その後も走行試験が繰り返されてきました。道路を走行するときは通常のバスと同じようにゴムタイヤで走行しますが、レールを走行する際は前部から金属製の車輪が現れ、前部を浮かせた状態となります。動力は後輪のゴムタイヤから得る仕組みです。
注目すべきは「モードチェンジ」と呼ばれる変身機能で、鉄道用の鉄車輪を出し入れし、乗客を乗せたままわずか15秒から20秒で車体を変身させることができます。この技術は単体車両としてはすでに完成しており、実用化の段階に入っています。
2021年12月25日、徳島県と高知県の第三セクターである阿佐海岸鉄道の阿佐東線で、世界初となるDMVの営業運転が開始されました。現在、3台のDMVが定期運行しており、鉄道の定時性とバスの機動性の双方を備えた新しい交通手段として注目されています。
DMVの主なメリットとしては、休止路線や運行本数の極めて少ない貨物引込み線などの既存インフラを有効活用できるため、新規のインフラ整備が軽微で済む点があります。また、鉄道車両に比べてランニングコストが安価であり、地方の過疎地域における公共交通の維持に貢献することが期待されています。
一方で技術的課題も存在します。車体が軽すぎるため線路を利用した既存の軌道回路と接続できず、既存の鉄道信号システムと連動できないという問題があります。また、運転手は鉄道用の動力車操縦者免許とバス用の大型自動車第二種運転免許の両方を取得し、双方の運転に通じる必要があります。国土交通省では「デュアル・モード・ビークルの実用化に向けた技術評価を行う」検討会が開催され、これらの課題解決に向けた議論が続けられています。
AI・センサー技術による鉄道保守の革新
鉄道業界では、AI人工知能とセンサー技術を活用した予測保守プレディクティブ・メンテナンスが急速に進展しています。従来の定期的な点検から、状態基準保全CBM:Condition Based Maintenanceへの移行が進んでおり、各種センサーによる常時監視とコンピューターによるデータ解析により、故障の予兆を検知して事前に修理や部品交換を行うことが可能になっています。
日立製作所とエヌビディアが共同開発したAI技術は特に注目に値します。車両に設置されたカメラやセンサーが走行中にデータを収集し、リアルタイムで異常を検知します。車輪やレールの摩耗状況を自動的に判断し、劣化の進行度に応じて適切な部品交換時期を特定することが可能となっています。
東急電鉄は住友商事と連携し、ローカル5GとAIを活用した線路点検システムを開発しています。走行中の電車から撮影した映像をAIが解析し、レールの傷やトンネルの水漏れ、踏切の遮断管のずれなど、さまざまな項目を自動的に検知します。目標精度は90%超を目指しており、他の鉄道会社とも協力して精度向上を図っています。
JR九州は2025年5月、AI開発スタートアップのTokyo Artisan Intelligence(TAI)に出資し、AIによる映像解析技術を活用した線路や鉄道設備の保守点検を省力化するシステムを共同開発すると発表しました。これにより、人手不足が深刻化する中でも安全で効率的な保守作業が可能になることが期待されています。
NECの「故障予兆検知ソリューション」は、正常運転の状態をAIに学習させ、それ以外のパターンを異常として検知する「インバリアント分析」を活用しています。この技術により、設備の故障を事前に予測し、計画的な保守作業が可能となります。
首都圏の鉄道各社では、AIを活用した駅や踏切の安全対策が進められています。人員減少に備え、画像認識AIによる異常検知システムが導入されており、ホームからの転落や踏切内での異常を自動的に検知し、迅速な対応を可能にしています。これらの技術は、日々のメンテナンスの効率化と事故や故障への迅速対応、および人口減少による労働力不足への対策として導入が加速しています。
ホームドア技術と駅の安全対策の進化
鉄道駅における安全対策として、ホームドアの整備が全国的に進められています。国土交通省では、車両扉位置の相違や設置コストなどの課題に対応可能な新たなタイプのホームドアが開発されています。現在開発されている主なホームドアの種類としては、昇降ロープ式、昇降バー式、戸袋移動型、マルチドア対応、スマートホームドア、大開口ホーム柵、軽量型などがあり、これらはそれぞれ異なる特徴を持ち、駅の構造や利用状況に応じて最適なタイプが選択されます。
特に注目されるのは、世界初のスライド式ホームドアです。あらゆる電車の車種・編成に応じて開口部を自在に変えることができる最新型のシステムで、大阪の「うめきた地下駅」で試行導入されました。「究極の安全確保」を目指して開発されたこのシステムは、異なる車両が停車する駅でも柔軟に対応できる画期的な技術です。
ホームドアと自動運転技術の連携も重要な要素となっています。ATOの自動列車運転装置は電車の速度や位置をリアルタイムで監視し、正確な停止位置を計算することで、ホームドアとの同期を可能にしています。TASCの列車自動停止制御装置は電車がプラットホームに正確に停止することを保証し、停止位置がずれた場合はホームドアが開かない仕組みになっています。
安全センサー技術も進化しています。三次元の距離画像センサにより、死角のない「居のこり検知」と「挟み込み検知」が可能になっています。ホームドア上部にセンサーを設置し、乗客がドアに衝突したり挟まれたりするのを防ぎ、車両間に取り残されないよう監視しています。
京王電鉄は2024年11月、京王線全駅へのホームドア整備と自動運転設備の整備工事を決定しました。プロジェクトの事業費は951億円で、ホームドア整備は2030年代前半、自動運転化工事は2030年代中頃に完了予定です。この大規模プロジェクトは、安全性の向上と自動運転の実現を同時に進めるものとして注目されています。
また、QRコードを用いたホームドア制御システムも開発されています。列車が通過する際にカメラでQRコードを読み取り、より安定かつ高精度な制御が可能になっています。これにより、従来のシステムよりも確実なドア制御が実現されます。
水素燃料電池鉄道車両と脱炭素化への挑戦
2050年カーボンニュートラルや水素社会の実現に向けて、鉄道分野においても水素の利活用を推進することが重要となっています。特に、水素燃料電池鉄道車両は非電化区間におけるディーゼル車両から置き換えることで、非化石エネルギー転換の切り札として期待されています。
JR東海とスタートアップのiLaboアイラボは、鉄道車両用の水素エンジンハイブリッドシステムを2028年から2030年をめどに実用化することを目指しています。2024年11月の段階で、水素エンジンと発電機・車両制御装置・蓄電池を組み合わせた「水素ハイブリッドシステム」の試作機が完成し、性能評価試験・模擬走行試験へと進んでいます。鉄道で実用化されれば世界で初めてのケースとなり、技術的にも大きな意義を持ちます。
JR東日本は2022年3月、トヨタ自動車や日立製作所と共同で開発した水素ハイブリッド電車・FV-E991系「HIBARI」の実証実験を開始しました。2050年度のCO2排出量実質ゼロを目指す中で、2030年には半分程度の削減を達成したいと目標を掲げています。
JR西日本も2050年にグループ全体の二酸化炭素排出量を実質ゼロにすることを視野に、燃料電池列車の導入へ向けた開発に着手しています。軽油で動く気動車を水素燃料電池車両に置き換えることで、大幅なCO2削減が期待されています。
国土交通省の目標設定案では、2030年には2019年度比で駅におけるCO2排出量を実質150%相当350万トン削減し、2050年には鉄道のCO2排出量を実質100%相当以上1,000万トン超削減することが検討されています。
しかし、課題も存在します。高価な燃料電池電動車の普及には、低コストと安価なグリーン水素の供給が前提条件となります。水素燃料電池鉄道車両の実用化にあたっては、技術課題の解決や社会実装に向けた量産化・コスト低減が必要不可欠です。国土交通省では「水素燃料電池鉄道車両等の導入・普及に関する連絡会」を設置し、これらの課題解決に向けた議論を進めています。
インフラ長寿命化と最新点検技術
日本の鉄道インフラは高度経済成長期に多く建設されたため、老朽化が進んでいます。約20年後には建設後50年以上の割合が加速度的に高まる見込みであり、維持管理の重要性が増しています。
2012年に山梨県大月市の笹子トンネルで発生した天井板落下事故は、老朽化による危険と維持管理の重要性を社会に認識させる契機となりました。この事故を機に政府は2013年に「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、2014年にはトンネルや橋の管理者に5年に1度の定期点検を義務付けました。
現在、インフラ点検には最新技術が積極的に導入されています。各種センサとして変異センサ、歪センサ、温度センサ等が使用され、MEMSの微小電気機械システム、インフラ点検ロボット、AI活用IoT、画像処理技術などが活用されています。また、コンクリート構造物の長寿命化技術、金属疲労・コンクリート腐食進行評価技術、防錆・防食技術なども発展しています。
ドローンを活用したインフラ点検は特に注目されています。高所の点検を安全かつ安価に行えるため活用が進んでおり、AIの画像分析精度の向上により高精度な点検が可能になっています。富士フイルムやキヤノンなどの企業がAIによるひび割れ検出システムを開発し、インフラ点検市場に参入しています。
国土交通省は「事後保全」から「予防保全」への転換を推進しています。予防保全を採用した場合、2048年度の維持管理費用は事後保全と比べて約5割減少する見込みです。これにより、限られた予算内でより効果的なインフラ維持が可能となります。
鉄道分野では「鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準」や「鉄道構造物等維持管理標準」などが策定されており、科学的根拠に基づいた保守管理が推進されています。国土交通省は橋梁・トンネルの点検支援技術を継続的に公募しており、2025年8月にも新たな公募が行われています。
デジタルサイネージと旅客サービスの向上
鉄道駅における旅客サービスの向上において、デジタルサイネージは重要な役割を果たしています。駅サイネージは2007年以降、首都圏で採用されはじめ、今では名古屋や大阪といった中部・近畿エリアの主要駅でも見られるようになりました。2007年を「デジタルサイネージ元年」と呼ぶようになり、駅のデジタルサイネージは急速に拡大しました。
最近では、整備が進むホームドアの壁面にもデジタルサイネージが組み入れられるようになっています。案内掲示板がデジタル化されたことにより、駅の利用者が必要な情報を自ら選択して得ることのできる双方向の案内板へと進化を遂げています。
デジタルサイネージの最大の利点は、リアルタイムで情報を更新できる柔軟性にあります。緊急のお知らせ、天気情報、時間帯に応じた広告の切り替えなど、ターゲットに合わせた適切なメッセージをタイムリーに伝えることが可能です。災害時の避難案内や運行情報の即時提供など、安全面でも重要な役割を担っています。
主要鉄道会社では独自のブランドでデジタルサイネージを展開しています。JRでは「J・ADビジョン」、東京メトロでは「MCV」、東急電鉄では「TOQ」など、それぞれの呼称で呼ばれています。JRグループのJ・ADビジョンは全国37駅をカバーする巨大広告ネットワークとなっています。
環境面でも、デジタルサイネージを活用することで紙やインクを削減することができ、SDGsへの取り組みにもつながっています。今後ますますデジタルサイネージへのシフトが加速していくことが予想されており、より高度な旅客サービスの実現が期待されています。
サイバーセキュリティ対策の重要性
鉄道システムのデジタル化が進む中、サイバーセキュリティ対策の重要性が急速に高まっています。鉄道が自動列車やIoTに接続されたインフラなど高度な技術を採用するにつれ、サイバー脅威に対する脆弱性が増大しているためです。
国土交通省は「鉄道分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」を策定しており、令和6年4月に第5版への改訂を行いました。このガイドラインでは、サイバーセキュリティリスクを組織の経営リスクの一環として位置づけ、経営上の重要課題として必要な人材と資金を投入することが求められています。
世界鉄道サイバーセキュリティ市場は2023年の61億米ドルから2032年には156億米ドルに急増する見込みです。鉄道部門は複雑で相互運用可能なOT運用技術およびIoTデバイスのネットワークに依存しており、ゼロトラストアプローチが防御可能なアーキテクチャの重要な構成要素として注目されています。
鉄道インフラを侵害するハッカーは国家経済安全保障に大きな影響を与え、乗客の生命に影響を及ぼす可能性があります。中間者攻撃などを通じて重要なシステムを改ざんすることで、乗客の安全がリスクにさらされる危険性があります。そのため、産業用コントロールシステムのセキュリティにおいてISA99/IEC 62443や、鉄道システム向けのEN 50159規格などの国際規格への準拠が求められています。
バリアフリーとユニバーサルデザインの推進
鉄道駅におけるバリアフリー化とユニバーサルデザインの導入も、重要な技術課題として取り組みが進められています。JR西日本をはじめとする鉄道各社では、鉄道駅バリアフリー料金制度を活用し、バリアフリー設備の整備を加速しています。
具体的な取り組みとしては、幅の広い自動改札口、車いす利用者や子供も利用しやすい目線の位置に配慮した券売機、大型エレベーターなどの導入があります。電車とホームのすき間や段差をなくす渡り板、低い位置にボタンが付いたエレベーターなども設置されています。
案内表示においては、多言語化やJIS規格により統一されたピクトグラムによる案内表示、タブレット型コンピューターを使用した通訳案内サービスなどが導入されています。駅ナンバリングとして路線名をアルファベット1から2文字、駅名を2桁の番号で表示する方法やWi-Fiサービスの提供も進んでいます。
技術の進歩が、より細やかな配慮を可能にし、高齢者や障害を持つ人々に限らず、誰もが快適に過ごせる空間の実現に寄与することが期待されています。
鉄道技術展2025が示す未来への展望
第9回鉄道技術展2025は、日本の鉄道産業が直面する多くの課題に対する解決策を提示する重要な機会です。人口減少に伴う労働力不足、インフラの老朽化、脱炭素化の要請、デジタル化の進展など、鉄道業界を取り巻く環境は急速に変化しています。
自動運転技術の導入は、運転士不足の解消と安全性の向上を同時に実現する可能性を持っています。GoA 2.5からGoA 3、さらにはGoA 4へと技術が進化することで、より効率的で安全な鉄道運行が可能になります。しかし、踏切がある在来線での完全自動運転にはまだ多くの技術的・制度的課題があり、段階的なアプローチが必要です。
次世代モビリティとしてのDMVは、地方の過疎地域における公共交通の維持に新たな可能性を開いています。線路と道路を自由に行き来できるこの技術は、既存インフラの有効活用とコスト削減を可能にし、地域の足を守る手段として期待されています。
AI・センサー技術による予測保守は、メンテナンスの効率化と安全性の向上に大きく貢献しています。故障が発生する前に異常を検知し、計画的に対処することで、運行の安定性が高まり、保守コストの削減も実現できます。
水素燃料電池車両の開発は、鉄道分野の脱炭素化において重要な役割を果たします。非電化区間のディーゼル車両を置き換えることで、大幅なCO2削減が可能となり、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた重要なステップとなります。
ホームドアの整備と自動化技術の連携は、駅の安全性を飛躍的に向上させます。特に、異なる車種に対応できる新型ホームドアの開発は、導入のハードルを下げ、全国的な普及を加速させる可能性があります。
インフラ長寿命化技術の発展は、老朽化する鉄道施設の維持管理において不可欠です。予防保全への転換により、限られた予算内でより効果的なインフラ維持が可能となり、安全で持続可能な鉄道システムの実現に貢献します。
デジタルサイネージをはじめとする旅客サービスの向上は、利用者の利便性と満足度を高めます。リアルタイムの情報提供、多言語対応、アクセシビリティの向上など、様々な面でサービス品質の向上が期待されます。
鉄道技術展2025は、これらの最新技術を一堂に集め、業界関係者間の情報交換と技術交流を促進する場です。日本の鉄道技術は世界的にも高い評価を受けており、本展示会で展示される技術は、国内だけでなく海外への展開も視野に入れたものが多いです。
また、最終日に開催される「鉄道業界探求フェア」は、次世代を担う若い世代に鉄道技術の魅力を伝え、業界への関心を高める重要な機会となります。鉄道産業の持続的な発展には、優秀な人材の確保が不可欠であり、このような取り組みは長期的な視点で非常に意義深いものです。
幕張メッセで開催される鉄道技術展2025は、日本の鉄道産業の現在地と未来の方向性を示す重要なイベントです。安全・安心・快適・環境・省エネを追求する日本の鉄道技術が、社会課題の解決と持続可能な交通システムの実現にどのように貢献していくのか、その姿を垣間見ることができる貴重な機会となるでしょう。


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