退職代行サービスの利用を検討している方にとって、「実際にどこまでやってもらえるのか」は最も重要な関心事の一つでしょう。近年、若年層を中心に利用が急拡大している退職代行サービスですが、運営元によってサービス内容や対応範囲が大きく異なることをご存知でしょうか。2025年6月時点のデータでは、転職者の16.6%が退職代行を利用し、企業の約4社に1社が退職代行による退職を経験しています。しかし、「退職の意思を伝えるだけ」の基本的なサービスから、「未払い賃金の請求や法的トラブルへの対応」まで幅広い業務を行うサービスまで、その内容は多岐にわたります。適切な業者選びをするためには、各サービスの具体的な対応範囲と限界を正しく理解することが不可欠です。本記事では、退職代行サービスが「どこまでやってくれるのか」について、運営元別の詳細な比較と実際の業務内容を解説します。

退職代行サービスは具体的にどこまでの業務を代行してくれるの?
退職代行サービスの基本的な業務は退職の意思を会社に伝えることですが、実際にはそれ以上の幅広いサービスを提供する業者が多く存在します。
最も基本的なサービス内容は、依頼者に代わって会社に退職の意思を電話やメールで伝達することです。これにより、利用者は上司や人事担当者と直接対面することなく退職手続きを開始できます。多くの業者では24時間365日対応を行っており、深夜や休日でも即日対応が可能な点が大きな特徴です。
さらに踏み込んだサービスとして、退職日の調整や有給休暇の消化交渉があります。ただし、これらの交渉業務は運営元によって対応可否が大きく分かれる重要なポイントです。弁護士や労働組合が運営するサービスでは、法的根拠に基づいて有給休暇の完全消化や退職日の希望に沿った調整を会社と交渉できます。
書類関連の手続きも重要な業務の一つです。退職後に必要となる離職票、源泉徴収票、雇用保険被保険者証などの発行依頼を会社に行い、これらの書類が確実に依頼者に届くよう調整します。会社によっては書類の発行を渋ったり遅延させたりするケースがあるため、この業務は非常に重要です。
貸与品の返却指導も標準的なサービスに含まれます。社員証、制服、パソコン、健康保険証などの会社からの貸与品について、返却方法や期限を会社と調整し、依頼者に適切な返却方法を指導します。ただし、実際の返却作業は依頼者本人が郵送などで行う必要があります。
一部の高品質なサービスでは、退職後のアフターフォローも提供されています。書類が届かない場合の再発行依頼、最終給与の支払い確認、失業保険申請のサポートなど、退職完了後も一定期間のサポートを受けられる場合があります。
民間企業・労働組合・弁護士運営の退職代行、それぞれできることの違いは?
退職代行サービスは運営元によって法的な対応範囲が明確に区別されているため、この違いを理解することが適切な業者選びの鍵となります。
民間企業が運営する退職代行サービスは、費用面では最も安価で1万円~5万円程度ですが、対応範囲は退職意思の伝達のみに限定されます。これは弁護士法第72条の「非弁行為」に抵触しないための制限です。具体的には、会社に電話やメールで「○○さんが退職したいと言っています」と伝えることしかできず、退職日の調整、有給休暇の取得交渉、未払い賃金の請求などの交渉行為は一切行えません。これらを行うと法律違反となり、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
労働組合(ユニオン)が運営する退職代行サービスは、労働組合法によって認められた「団体交渉権」を行使できるため、会社との交渉が可能です。費用は2万5,000円~3万円程度で、有給休暇の消化、退職日の調整、未払い賃金の支払い請求、退職金の交渉などを堂々と行えます。労働組合として労働局から正式に認可を受けている団体であれば、これらの交渉は完全に合法です。ただし、訴訟代理権は持たないため、裁判に発展した場合は弁護士への再依頼が必要となります。
弁護士(弁護士法人)が運営する退職代行サービスは、すべての法的業務に対応可能な最も包括的なサービスです。費用は5万円~10万円程度と最も高額ですが、退職意思の伝達から交渉、さらには会社からの損害賠償請求への対応、懲戒解雇の撤回要求、パワハラによる慰謝料請求、訴訟や労働審判での代理人業務まで、あらゆる法的問題に対応できます。特に会社とトラブルになる可能性が高い場合や、既にハラスメントを受けている状況では、弁護士運営のサービスが最も安心で確実な選択肢となります。
なお、司法書士、行政書士、社労士による退職代行も存在しますが、それぞれ業務範囲が限定的で中途半端になりがちです。司法書士は140万円以下の制限付き、行政書士は書類作成のみ、社労士は労災申請などに限られるため、包括的な対応を求める場合は弁護士が最適解とされています。
退職代行を使えば有給消化や未払い残業代の請求もしてもらえる?
有給休暇の消化や未払い残業代の請求については、運営元によって対応可否が明確に分かれる重要なポイントです。
有給休暇の消化については、労働組合または弁護士が運営する退職代行サービスであれば確実に交渉可能です。有給休暇は労働者の法的権利であり、退職前の消化を会社が拒否することは原則的にできません。会社には「時季変更権」(有給取得日を変更する権利)がありますが、退職日までの期間では変更の余地がないため、退職前の有給完全消化は法的に保護された権利となります。労働組合の団体交渉権や弁護士の法的権限により、この権利を確実に主張できます。
未払い残業代の請求も同様に、労働組合または弁護士運営のサービスで対応可能です。ただし、請求には証拠が重要となるため、タイムカードやメール送信記録、業務日報など、労働時間を証明できる資料の保存が不可欠です。弁護士であれば法的な計算方法に基づいて正確な金額を算出し、会社との交渉から必要に応じて労働審判や訴訟まで一貫して対応できます。
退職金の交渉についても、就業規則や雇用契約書に規定がある場合は交渉対象となります。特に懲戒解雇をちらつかせて退職金の支払いを拒否しようとする会社に対しては、弁護士の法的知識が威力を発揮します。
一方で民間企業運営の退職代行では、これらの交渉は一切行えません。「有給消化も代行します」と謳う民間業者も存在しますが、実際に交渉を行えば非弁行為となり違法です。東京弁護士会も、民間業者による交渉行為について注意喚起を行っています。
パワハラやセクハラによる慰謝料請求は、弁護士運営のサービスでのみ対応可能です。ハラスメントの事実認定や損害額の算定、示談交渉から訴訟まで、専門的な法的知識が必要な複雑な業務のため、弁護士以外では対応できません。
交渉が必要な場合の注意点として、口約束ではなく書面での合意を求めることが重要です。労働組合や弁護士であれば、合意内容を適切な書面にまとめ、後日のトラブルを防ぐことができます。
退職代行サービスができないこと・やってもらえないことは何?
退職代行サービスには明確な限界と制約があり、これらを理解せずに依頼すると期待と現実のギャップに直面する可能性があります。
最も重要な制約は、弁護士以外の業者による法律事務の禁止です。民間企業が運営する退職代行は、退職意思の伝達以外の一切の交渉行為や法的アドバイスを行うことができません。「退職日を1週間後にしてほしい」「有給を使い切りたい」といった当然の要望でも、民間業者では対応不可能です。これらを行うと非弁行為となり、業者には刑事罰が科せられる可能性があります。
物理的な作業の代行も基本的に不可能です。会社からの貸与品(パソコン、制服、社員証など)の返却や、個人の私物の回収は依頼者本人が郵送などで行う必要があります。退職代行業者が会社に出向いて物品の受け渡しを行うことはありません。返却が遅れると会社から直接連絡が来る可能性があるため、速やかな対応が求められます。
引き継ぎ業務の完全な代行も不可能です。業務内容や進行状況、取引先情報などの詳細な引き継ぎは、実際に業務を行っていた本人でなければ適切に行えません。退職代行業者ができるのは、引き継ぎ資料の作成指導や、簡潔な引き継ぎ方法の提案程度に留まります。
会社との直接的な関係修復や円満退職の実現も限界があります。退職代行は基本的に「緊急避難的な手段」であり、上司との関係改善や職場環境の根本的な解決を図るものではありません。一度退職代行を利用すると、その会社との関係は事実上断絶されると考える方が現実的です。
転職活動のサポートや次の就職先の紹介も、一般的な退職代行サービスの範囲外です。一部の業者では転職エージェントとの提携サービスを提供していますが、これは付加的なサービスであり、退職代行の主要業務ではありません。
給与計算や税務処理の代行も不可能です。最終給与の計算、年末調整、確定申告などの税務関連業務は、会計士や税理士の専門領域であり、退職代行業者では対応できません。
損害賠償請求への完全な回避保証も現実的ではありません。弁護士運営のサービスであれば法的な対応は可能ですが、労働者側に明らかな義務違反(長期間の無断欠勤、重要な引き継ぎの完全放棄、機密情報の漏洩など)がある場合、損害賠償リスクを完全にゼロにすることは困難です。過去には入社1週間で退職し無断欠勤を続けた従業員が70万円の損害賠償を命じられた事例も存在します。
即日退職の絶対的な保証も、法的には制約があります。期間の定めのない雇用では民法上2週間の予告期間が原則であり、有期雇用では「やむを得ない事由」が必要です。真の即日退職は、会社の合意がある場合や、労働者側に「やむを得ない事由」が認められる場合に限定されます。
退職代行の利用から退職完了まで、どんな流れで進むの?
退職代行サービスの利用は、6つの明確なステップで進行し、多くの場合1~2週間程度で完了します。
第1ステップ:無料相談と業者選定では、まず複数の業者に相談して比較検討することが重要です。LINE、メール、電話などで24時間相談可能な業者が多く、この段階で自分の状況(退職理由、希望する退職日、有給消化の要望、未払い賃金の有無など)を詳しく伝え、その業者がどこまで対応できるかを確認します。料金体系、返金保証の有無、実績数なども重要な判断材料となります。
第2ステップ:契約と料金支払いでは、サービス内容に納得した後、正式に契約を締結し費用を支払います。多くの業者が前払い制ですが、退職成功後の後払い制や分割払いに対応する業者も存在します。万が一退職できなかった場合の全額返金保証があるかどうかも必ず確認しましょう。
第3ステップ:詳細情報の提供と打ち合わせでは、会社の正式名称、所在地、電話番号、直属上司の名前、人事担当者の連絡先など、退職代行実施に必要な詳細情報を正確に伝達します。この際、退職希望日、有給休暇の残日数、返却すべき貸与品の詳細、私物の有無なども併せて整理します。情報に誤りがあると手続きが遅延する可能性があるため、正確性が重要です。
第4ステップ:退職代行の実施では、依頼者から提供された情報に基づき、退職代行業者が会社に電話またはメールで退職の意思を伝達します。この時点から、依頼者は会社と直接連絡を取る必要が一切なくなります。会社から依頼者に直接連絡があった場合は、「退職代行業者を通してください」と伝えるよう指導されます。労働組合や弁護士運営のサービスでは、この段階で有給消化や退職条件の交渉も同時に進行します。
第5ステップ:貸与品返却と私物回収では、会社から貸与された物品(社員証、制服、パソコン、健康保険証など)を郵送で返却し、個人の私物があれば同様に郵送で回収します。退職代行業者は返却方法の調整や指導は行いますが、実際の物品の送受信は依頼者本人が行う必要があります。この作業が遅れると会社から直接連絡が来る可能性があるため、迅速な対応が求められます。
第6ステップ:退職後の書類受け取りと手続き完了では、離職票、雇用保険被保険者証、源泉徴収票、年金手帳など、退職後の各種手続きに必要な重要書類を受け取ります。これらの書類がないと失業保険の申請や健康保険の切り替えができないため、確実な受け取りが不可欠です。書類の発行が遅れたり届かなかったりする場合は、退職代行業者が再発行を依頼します。
全体の所要期間は、最短で即日から最長で2週間程度です。即日退職が可能かどうかは、会社の協力度や労働契約の内容によって決まります。有給休暇の消化を希望する場合は、その分の期間も加算されます。
アフターフォローとして、優良な業者では退職完了後も一定期間のサポートを提供します。最終給与の支払い確認、必要書類の受け取り状況確認、失業保険申請のアドバイスなど、退職後の生活基盤確保をサポートする場合があります。
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