2025年在職老齢年金引き上げの施行時期はいつから?51万円と62万円の違いを徹底解説

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働きながら年金を受け取る高齢者にとって、2025年以降の在職老齢年金制度の改正は見逃せない重要な変更となっています。この制度改正において最も注目されているのが、年金の支給停止基準額の引き上げです。しかし、多くの方が疑問に思われるのが「いつから」この新しい制度が始まるのかという施行時期の問題です。実は、この改正には2つの異なる段階があり、2025年4月に適用される変更と、2026年4月に施行される大幅な改正という、二段階の引き上げが予定されています。この違いを正確に理解することが、今後のライフプランを立てる上で極めて重要になります。本記事では、在職老齢年金の引き上げについて、その具体的な施行時期、制度の仕組み、そして皆様の年金受給額にどのような影響を与えるのかを、わかりやすく詳しく解説していきます。年金制度は私たちの老後生活を支える重要な基盤であり、この改正は働くシニアの方々の収入に直接的な影響を及ぼします。正しい知識を持って、これからの人生設計を行っていただくために、制度の全体像から具体的な計算方法、そして実際の活用方法まで、総合的にご案内いたします。

在職老齢年金制度とは何か

在職老齢年金制度について理解を深めるためには、まずこの制度が生まれた背景と基本的な仕組みを知ることが大切です。この制度は、60歳以上で老齢厚生年金の受給資格を持ちながら、会社などで働き続けて厚生年金保険に加入している方を対象とした仕組みです。

働きながら一定以上の給与や賞与を受け取っている場合、その収入額に応じて老齢厚生年金の一部または全額が支給停止されるという特徴があります。この仕組みは、年金財政の持続可能性を確保することと、保険料を負担している現役世代との公平性を保つという目的から設けられてきました。

しかし、この制度には大きな課題がありました。それは「働き損」や「働き控え」と呼ばれる現象です。給与が増えると年金が減額されるため、結果的に手取り収入がほとんど増えない、あるいは場合によっては減少してしまうという状況が生じていました。このため、多くの高齢者が意図的に労働時間や収入を調整し、本来持っているスキルや経験を十分に活かせないという問題が指摘されてきました。

2025年4月からの変更内容

2025年度、つまり2025年4月から2026年3月までの期間において、支給停止調整額は51万円に設定されます。これは2024年度の基準額50万円からの引き上げとなります。

ここで非常に重要なポイントがあります。この51万円への引き上げは、メディアで大きく取り上げられている歴史的な大改革とは性質が異なるということです。この変更は、毎年度の賃金水準の変動を反映させるために法律の規定に基づいて行われる定時改定と呼ばれるものです。近年の賃金上昇傾向を反映した結果として、基準額が自動的に調整されたものであり、制度そのものの根本的な変更ではありません。

この2025年4月からの変更は、2025年4月分の年金計算から適用されます。ただし、実際に受給者の銀行口座に振り込まれるのは、年金の支払いが2ヶ月遅れで行われる仕組みのため、2025年6月の支給分からとなります。この点も施行時期を理解する上で押さえておくべき重要なポイントです。

2026年4月施行の大改正

真に画期的な改革と言えるのが、支給停止調整額を62万円へと大幅に引き上げる改正です。この変更は、2025年6月13日に国会で可決・成立した年金制度改正法に基づいています。

この法律改正により、年金の支給停止基準となる金額は、現行水準から一気に10万円以上引き上げられることになります。これにより、これまで年金が減額されていた多くの就労者が、減額を免れるか、大幅に減額幅が縮小することになります。

そして、この大改革の施行時期は2026年4月1日です。これが今回の制度改正において最も重要な日付となります。2025年度の51万円への変更と、2026年4月からの62万円への変更は、明確に区別して理解する必要があります。

62万円という基準額の意味

法律で定められた62万円という数字について、もう一つ理解しておくべき点があります。この62万円は、必ずしも2026年4月1日時点での実際の基準額とはならない可能性が高いということです。

この金額は、2024年度の賃金水準を基準として算出されたベースラインです。実際の制度運用では、前述の定時改定のルールが継続して適用されるため、2026年4月の施行時点では、2024年度から2026年度までの賃金変動率が反乗せされて改定されることになります。

したがって、日本の賃金が上昇傾向を続ければ、施行時の実際の基準額は62万円を上回る金額になることが予想されます。過去の傾向から見ても、物価や賃金の上昇に伴って基準額は段階的に調整されてきた実績があります。

在職老齢年金の計算方法

在職老齢年金がどのように計算されるのかを理解することで、ご自身の年金額への影響をより正確に把握することができます。計算には3つの重要な用語が使われます。

まず基本月額です。これは、調整の対象となるご自身の老齢厚生年金の月額換算額のことで、年金の本体部分である報酬比例部分の年額を12で割った金額を指します。配偶者や子がいる場合に加算される加給年金額は、この基本月額の計算には含まれません。

次に総報酬月額相当額です。これは、勤務先から受け取る給与と賞与を合算した月額換算の収入額です。具体的には、その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足して算出されます。この計算方法により、月々の給与だけでなく年間の賞与も平準化して勘案されるため、より実態に近い収入額が反映される仕組みです。

そして支給停止調整額が、年金が減額されるかどうかの分かれ目となる基準額です。基本月額と総報酬月額相当額の合計が、この支給停止調整額以下であれば年金は全額支給され、これを超えると減額調整の対象となります。

実際の計算ルールは次のようになります。基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額以下の場合、老齢厚生年金は一切減額されず全額が支給されます。一方、合計額が基準額を超えた場合、年金の支給停止額は「基本月額と総報酬月額相当額の合計から支給停止調整額を引いた金額の半分」として計算されます。これは、基準額を超えて収入が2円増えるごとに年金が1円減るという関係を意味しています。

老齢基礎年金は減額されない重要なポイント

在職老齢年金制度を理解する上で、多くの方が見落としがちな極めて重要なポイントがあります。それは、在職老齢年金制度による調整の対象は、あくまで老齢厚生年金のみであるということです。

国民年金から支給される老齢基礎年金は、就労収入がいくらあっても減額されることはなく、常に全額が支給されます。年金は一般的に2階建て構造と呼ばれており、1階部分が老齢基礎年金、2階部分が老齢厚生年金です。在職老齢年金制度で調整されるのは2階部分のみであり、1階部分は守られているのです。

また、配偶者や子を扶養している場合に老齢厚生年金に加算される加給年金についても触れておきます。加給年金は通常は支給停止の直接の計算対象ではありませんが、計算の結果として老齢厚生年金の本体部分が全額支給停止となった場合には、それに付随する加給年金も全額が支給停止となります。

制度改正がもたらす具体的な影響

支給停止基準額の引き上げが、実際に働く高齢者の家計にどのような影響を与えるのか、具体的なケースで見ていきましょう。

たとえば、老齢厚生年金の基本月額が10万円、勤務による総報酬月額相当額が45万円のAさんの場合を考えます。2024年度の基準額50万円の下では、Aさんの収入と年金の合計は55万円となり、基準額を5万円超過します。この超過額の半分である2万5千円が年金から支給停止され、Aさんが実際に受け取る老齢厚生年金は7万5千円でした。

2025年度の基準額51万円になると、合計55万円は基準額を4万円超過することになり、支給停止額はその半分の2万円となります。結果として受給額は8万円に改善します。

そして2026年4月以降の新基準額62万円が適用されると、Aさんの合計額55万円は新たな基準額を下回ることになります。その結果、年金の支給停止は一切なくなり、Aさんは老齢厚生年金10万円を全額受け取ることができるようになるのです。

より高収入の方の例も見てみましょう。老齢厚生年金の基本月額が10万円、総報酬月額相当額が62万円のBさんの場合、2025年度の基準額51万円の下では、合計額72万円が基準額を21万円超過します。計算上の支給停止額はその半分の10万5千円となり、これがBさんの基本月額10万円を上回るため、Bさんの老齢厚生年金は全額支給停止となっていました。

しかし2026年4月以降の新基準額62万円が適用されると、合計額72万円は基準額を10万円超過することになり、支給停止額はその半分の5万円となります。これまで年金を1円も受け取れなかったBさんは、5万円の老齢厚生年金を受け取れるようになるのです。

約20万人への影響と社会的意義

厚生労働省の試算によれば、支給停止基準額の62万円への引き上げによって、これまで年金の一部または全額が支給停止されていた方のうち、新たに約20万人が減額なしで年金を全額受給できるようになる見込みです。

これは単なる数字以上の意味を持っています。20万人という規模は、一つの中規模都市の人口に匹敵します。これだけ多くの方々が、長年積み立ててきた年金を満額受け取りながら、同時に働いて収入を得ることができるようになるということは、個人の生活水準の向上だけでなく、社会全体の経済活力の向上にもつながります。

なぜ今、大改革が行われるのか

この大規模な制度改正が、なぜこのタイミングで実施されるのか、その背景には日本社会が直面する複数の構造的課題があります。

最も深刻な課題の一つが労働力不足です。日本は建設、運輸、介護、製造業など多くの産業分野で深刻な人手不足に直面しています。少子化による生産年齢人口の減少は今後も続くため、労働力の確保は日本経済の持続可能性を左右する最重要課題となっています。

このような状況下で、政府は豊富な経験とスキルを持つ高齢者層を、極めて重要な未活用の労働力と位置づけています。在職老齢年金制度の緩和は、単に高齢者個人の利益のためだけではなく、彼らの労働市場への参加を最大限に促し、人手不足を解消するための国家的な経済戦略の柱の一つなのです。

また、人生100年時代への対応という側面も見逃せません。平均寿命の延伸により、60歳や65歳で完全に引退するという従来のライフモデルは過去のものとなりつつあります。多くの方々がより長く健康な人生を享受し、社会との関わりを持ち続けたいと願っています。年金制度を、こうした長寿化社会の新たな現実に適合させることは急務でした。

経済界、特に経団連などの経済団体も、この改革を長年にわたり強く求めてきました。現行の在職老齢年金制度は労働に対するペナルティとして機能しており、シニア人材の有効活用を妨げているという主張です。企業にとっても、人手不足が深刻化する中で、経験豊富なシニア人材を確保・維持しやすくなることは大きなメリットとなります。

働く高齢者と企業双方のメリット

この制度改正は、働く高齢者だけでなく、高齢者を雇用する企業側にも重要なメリットをもたらします。

企業の立場から見ると、まず人手不足が深刻化する中で、経験豊富なシニア人材を確保・維持しやすくなります。年金カットを懸念して就労をためらっていた層が、より積極的に働けるようになるため、企業は貴重な戦力を確保しやすくなります。

また、高齢従業員との処遇交渉や労働時間管理が簡素化されるという利点もあります。収入増に対するペナルティが大幅に緩和されるため、企業はより柔軟で貢献度に見合った処遇制度を設計しやすくなり、シニア人材のモチベーション向上にもつながるでしょう。

働く高齢者にとっては、これまで感じていた「働き損」の感覚が大幅に緩和されます。給与が増えても年金が大幅に減らされることがなくなるため、より長時間働いたり、より高い責任のある仕事に挑戦したりすることへの心理的なハードルが下がります。これは個人の経済的な豊かさだけでなく、生きがいや社会参加という観点からも重要な意味を持ちます。

2025年年金制度改正の全体像

在職老齢年金制度の見直しは、単独で行われるものではなく、2025年改正法が目指すより大きな社会保障システムの変革の一部です。この全体像を把握することで、個々の改正が持つ意味がより明確になります。

改正法には、パートタイマーやアルバイトの社会保険適用拡大も含まれています。短時間労働者が厚生年金や健康保険に加入するための要件のうち、月額8万8千円以上という賃金要件が撤廃され、勤務先の企業規模要件も段階的に解消されます。これにより、これまで扶養の範囲内で働くことを意識してきた多くのパートタイマーが、収入を気にすることなく社会保険に加入し、自身の年金を増やせるようになります。

また、厚生年金保険の標準報酬月額の上限も引き上げられます。保険料算定の基礎となる収入の上限が、現行の月額65万円から、2027年以降段階的に75万円まで引き上げられます。これにより、高所得層の保険料負担が増える一方で、将来受け取る年金額も増加することになります。

遺族年金制度の男女差解消も重要な改正点です。共働き世帯の増加という社会の実態を反映し、これまで夫と妻で大きく異なっていた遺族厚生年金の支給要件が統一されます。

さらに、個人型確定拠出年金であるiDeCoの拡充も行われます。個人の自助努力による老後資金形成を後押しするため、iDeCoに加入できる年齢の上限が、現行の65歳未満から70歳未満へと引き上げられます。

高所得者優遇批判への対応

この改革には批判的な意見も根強く存在します。その核心は、比較的に裕福な高齢者ばかりを優遇する高所得者優遇政策ではないかという批判です。年金財源が限られる中で、なぜ高所得者に給付を手厚くするのか、という疑問は、世代間の公平性を重んじる観点から繰り返し提起されてきました。

これに対し、改革の推進派は、現行制度こそが働き続ける意欲と能力のある方々に対する不合理なペナルティであり、改正は何かを与えるのではなく、本来の権利である年金を奪うのをやめることだと反論しています。

注目すべきは、この法律が在職老齢年金の基準額引き上げと同時に、厚生年金保険料の計算基礎となる標準報酬月額の上限を、現行の65万円から段階的に75万円へと引き上げる改正もセットで行っていることです。

この二つの改正を組み合わせた政策設計は極めて巧妙です。在職老齢年金の見直しが高所得者優遇であるとの批判に対し、政府はその高所得者層により多くの保険料を負担してもらうというカウンターパートを用意しました。これにより、単なる給付増ではなく、より多く負担しより多く給付を受けるという、社会保険の応能負担の原則に沿った形に制度全体を近づけることができています。

対象となる方と対象外の方

在職老齢年金制度が適用されるのは、厚生年金保険の被保険者に限られます。具体的には、会社員や公務員、法人の役員など、厚生年金保険の適用事業所に勤務する方々が対象となります。

また、週の所定労働時間が20時間以上で月額賃金が8万8千円以上などの社会保険加入要件を満たすパートタイマーやアルバイトの方々も対象です。さらに、70歳以上の被用者も対象となります。70歳になると厚生年金保険の被保険者資格は喪失し保険料の負担はなくなりますが、厚生年金保険の適用事業所に勤務している限り、在職老齢年金制度の対象であり続け、収入に応じて年金が調整されます。

一方で、この制度の対象外となる方々もいます。最も重要な点は、自営業者やフリーランスなど、国民年金のみに加入している方々は、事業所得がどれだけ高くても在職老齢年金制度の対象にはならず、老齢基礎年金が減額されることはないということです。この制度は、あくまで厚生年金保険という被用者保険の枠組みの中での調整措置なのです。

施行時期のタイムライン整理

ここで改めて、施行時期を整理しておきましょう。情報が混在しやすい部分ですので、正確に理解することが重要です。

2025年4月から2026年3月までの期間については、支給停止調整額は51万円となります。これは毎年度の賃金変動率を反映した定時改定によるもので、2025年4月分の年金計算から適用され、実際の支払いは2025年6月支給分からとなります。

そして2026年4月1日から、支給停止調整額が62万円へと大幅に引き上げられます。これが2025年6月に成立した年金制度改正法による抜本的な改革で、2026年4月分の年金計算から適用され、実際の支払いは2026年6月支給分からとなります。

ただし、62万円という金額は2024年度の賃金水準を基準としたものであり、2026年4月の施行時には賃金変動率が上乗せされて調整される可能性が高く、実際の基準額はさらに高くなる見込みです。

必要な手続きと情報収集

働く個人にとって、この基準額引き上げの恩恵を受けるために、特別な申請手続きは不要です。日本年金機構が、勤務先の企業から提出される報酬データに基づき、自動的に年金額を再計算します。支給額に変更があった場合には、年金額改定通知書などの形で本人に通知が送付されます。

したがって、受給者側で何かアクションを起こす必要はありませんが、日本年金機構からの通知は必ず確認することが重要です。通知には新しい年金額や変更理由などが記載されていますので、内容をしっかりと確認し、不明な点があれば問い合わせることをお勧めします。

ねんきんネットで試算する方法

今後の働き方がご自身の年金額にどう影響するかを具体的に知りたい場合、最も有効なツールが日本年金機構が提供するオンラインサービス「ねんきんネット」です。

ねんきんネットにログインすれば、ご自身のこれまでの年金記録に基づき、将来の年金見込額を試算することができます。詳細な条件で試算という機能を使えば、今後の就労期間や見込み収入を入力することで、新しい基準額が適用された場合に在職老齢年金制度によって年金がいくらになるかをシミュレーションすることが可能です。

この試算機能を活用することで、たとえば週4日勤務にした場合と週5日勤務にした場合で年金と給与の合計収入がどう変わるか、あるいは65歳まで働く場合と70歳まで働く場合でトータルの収入がどう変わるかなど、様々なシナリオを比較検討することができます。これにより、今後のキャリアプランやライフプランを立てる上での具体的な判断材料を得ることができます。

専門家への相談窓口

より詳細な情報や個別の事情に応じた相談をしたい場合は、専門の窓口を利用することが推奨されます。

電話での相談については、日本年金機構のコールセンターである「ねんきんダイヤル」が第一の窓口となります。一般的な制度の説明や基本的な質問については、電話で丁寧に対応してもらえます。

ご自身の年金記録に基づいた、より踏み込んだ個別具体的な相談を希望する場合は、事前に予約の上、最寄りの年金事務所の窓口で相談するのが最も確実です。専門の職員が、個々の状況に合わせた詳細な説明やシミュレーションを行ってくれます。

年金事務所での相談は予約制となっていることが多いため、訪問前に電話やインターネットで予約を取ることをお勧めします。相談時には、年金手帳や年金証書、マイナンバーカードなどの本人確認書類を持参するとスムーズです。

マクロ経済スライドの影響

今回の在職老齢年金制度の緩和は、働く高齢者にとって大きなメリットをもたらしますが、年金制度全体を考える上では、他の要素も理解しておく必要があります。

その一つがマクロ経済スライドです。これは、少子高齢化の進行に合わせて年金の給付水準を自動的に調整する仕組みで、長期的には年金の実質的な価値を緩やかに抑制していく機能を持っています。

つまり、在職中の年金カットのルールが緩和されても、年金給付そのものの価値は、このマクロ経済スライドによって調整され続けるという現実は変わりません。この点を理解した上で、公的年金だけに頼らない資産形成の重要性も認識しておくことが大切です。

今後の年金制度改革の展望

今回の改正議論の過程では、国民年金の保険料納付期間を現行の40年から45年に延長する案も検討されましたが、最終的には見送られました。これは、基礎年金の財源確保という根本的な課題が未解決であることを示唆しており、将来の年金改革において再び主要な論点となる可能性が高いと考えられます。

また、iDeCoの拡充や企業型確定拠出年金の充実など、私的年金の重要性はますます高まっています。公的年金を基盤としながらも、企業年金や個人の資産形成を組み合わせた、多層的な老後資金の準備が求められる時代となっています。

70歳以降の就労と年金

70歳になると厚生年金保険の被保険者資格は喪失しますが、厚生年金保険の適用事業所に勤務している限り、在職老齢年金制度の対象であり続けます。70歳以降は保険料の負担がなくなるため、収入に応じた年金調整はありますが、保険料を支払わずに給与を受け取れることになります。

また、70歳以降も厚生年金保険に加入することを希望する場合、一定の条件下で「高齢任意加入」という制度を利用することもできます。これにより、さらに年金額を増やすことも可能です。

年金と税金の関係

年金収入が増えることで気になるのが税金の問題です。年金には公的年金等控除が適用されますが、給与収入と年金収入の両方がある場合、それぞれに所得控除が適用された上で合算して課税所得が計算されます。

在職老齢年金制度の緩和により年金受給額が増えると、その分課税所得も増える可能性があります。ただし、基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除など様々な控除がありますので、実際の税負担がどの程度になるかは個々の状況によって異なります。

配偶者の年金への影響

ご自身の在職老齢年金の計算は、配偶者の年金には直接影響しません。ただし、配偶者加給年金については注意が必要です。配偶者加給年金は、老齢厚生年金を受給する本人が65歳未満の配偶者を扶養している場合に加算されるものですが、在職老齢年金制度により老齢厚生年金の本体部分が全額支給停止となった場合には、配偶者加給年金も支給停止となります。

2026年4月以降の基準額引き上げにより、これまで年金が全額支給停止となっていた方が一部でも受給できるようになれば、配偶者加給年金も復活する可能性があります。

在職定時改定制度との関係

2022年4月から導入された在職定時改定制度も、働く高齢者にとって重要な仕組みです。この制度により、65歳以降も厚生年金保険に加入して働いている方は、毎年10月に年金額が改定され、前年9月までの保険料納付実績が年金額に反映されるようになりました。

従来は、退職するまで保険料を納めても年金額に反映されませんでしたが、この制度により、働きながら毎年年金額が増えていく仕組みとなっています。在職老齢年金制度の緩和と在職定時改定制度を組み合わせることで、働く高齢者はより多くのメリットを享受できるようになります。

企業の人事制度への影響

企業側では、この制度改正を受けて、高齢者雇用に関する人事制度の見直しを進めているところも増えています。定年後再雇用制度の条件改善や、70歳までの就業機会確保の取り組みなど、シニア人材の活用に向けた施策が拡充されつつあります。

在職老齢年金制度の緩和により、企業は従業員に対してより柔軟な給与設定が可能になります。これまでは年金カットを避けるために給与を抑制せざるを得なかったケースでも、実力や貢献度に応じた適切な報酬を提供しやすくなります。

健康保険への影響

厚生年金保険に加入している方は、同時に健康保険にも加入しています。在職老齢年金制度は年金の支給調整の仕組みですので、健康保険の給付内容には影響しません。

ただし、給与が増えれば健康保険料の負担も増える可能性があります。健康保険料は標準報酬月額に基づいて計算されるため、給与の増加に応じて保険料も変動します。この点も、総合的な収支を考える上で考慮しておくとよいでしょう。

地方自治体の支援制度

一部の地方自治体では、高齢者の就労支援や生活支援のための独自の制度を設けているところもあります。シルバー人材センターでの就業機会の提供や、就労相談窓口の設置、スキルアップのための研修支援など、様々な取り組みが行われています。

お住まいの地域でどのような支援制度があるか、市区町村の高齢者福祉担当課やシルバー人材センターに問い合わせてみることをお勧めします。在職老齢年金制度の改正と合わせて、こうした地域の支援制度も活用することで、より充実したセカンドキャリアを築くことができるでしょう。

まとめと今後の展望

2025年以降の在職老齢年金制度改正は、働く高齢者にとって大きな転換点となります。2025年4月からの51万円への定時改定、そして2026年4月からの62万円への大幅引き上げという二段階の変更を正確に理解することが重要です。

この改革により、約20万人の方々が新たに年金を全額受給できるようになり、多くの働く高齢者の手取り収入が増加します。働き損という課題が大幅に緩和され、スキルや経験を持つ方々がより積極的に労働市場で活躍できる環境が整いつつあります。

制度が変わる今だからこそ、ねんきんネットでの試算や専門家への相談を通じて、ご自身の状況を正確に把握し、今後のライフプランを見直す良い機会となるでしょう。公的年金を基盤としながらも、私的年金や資産形成を組み合わせた、総合的な老後資金計画を立てることが、これからの時代にはますます重要になってきます。

人生100年時代において、年金制度は引退後の生活保障から、高齢期の多様な働き方を支援する仕組みへと進化しています。この変化を前向きに捉え、ご自身の希望やライフスタイルに合わせた選択をしていただくための一助となれば幸いです。

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