都営住宅は、年金生活を送る夫婦にとって経済的な安定と安心できる住まいを確保するための最も有力な選択肢です。都営住宅の入居条件は、東京都内に継続して3年以上居住していること、住宅に困窮していること、そして世帯の所得月額が基準以下であることが主な要件となっています。特に高齢者夫婦の場合は「裁量階層」という緩和基準が適用され、所得月額の上限が214,000円まで引き上げられるため、多くの年金受給世帯が申込資格を満たすことが可能です。
この記事では、都営住宅への入居を検討している年金生活の夫婦に向けて、基本的な入居条件から所得基準の計算方法、シルバーピアなどの高齢者向け住宅、当選確率を高める優遇制度、さらには都営住宅以外の選択肢まで、必要な情報を詳しく解説します。

都営住宅とは?年金生活の夫婦が知るべき基本的な入居条件
都営住宅とは、東京都が供給する公営住宅であり、住民の所得に応じた家賃設定(応能家賃)を採用することで、低所得者層が安心して長期的に居住できる環境を提供しています。憲法第25条が保障する生存権を具現化する制度として、民間賃貸住宅で高齢を理由に入居拒否を受けるなどの困難に直面する年金生活者にとって、重要なセーフティネットの役割を果たしています。年金生活を送る夫婦が都営住宅に申し込むためには、いくつかの入居条件をすべて満たす必要があり、これらの条件は一つでも欠けると申し込み自体が無効となるため、事前に正確に把握しておくことが不可欠です。
東京都内の居住要件と住民登録について
都営住宅の申込資格として最も基本的な要件は、申込者が東京都内に住民登録をしており、継続して3年以上居住していることです。都営住宅は都民税を財源の一部としているため、都民への福祉還元を優先するという行政上の考え方に基づいています。そのため、地方から東京都内の子供の近くに引っ越したいと考え、住民票を移してすぐに申し込むといった方法は原則として認められていません。ただし、3年という期間は募集の区分によって異なる場合もあるため、毎回の募集パンフレット(「申込みのしおり」)で確認することが大切です。一般募集においては「都内居住3年以上」が基本的な条件となっています。
夫婦での申込資格と同居親族の要件
夫婦で都営住宅に申し込む場合の入居条件として、「現に同居しているか、または同居しようとする親族がいること」という要件を満たす必要があります。すでに同居している夫婦であれば問題ありませんが、さまざまな事情で別居中の夫婦が都営住宅への入居を機に同居を再開する場合も申し込みの対象となります。
ここで注意すべき点は、「不自然な世帯分離」や「不自然な同居」に対する審査が厳しいということです。公営住宅は「住宅に困窮する低額所得者」のための制度であり、入居資格を得るために形式的に世帯を操作することは固く禁じられています。内縁関係(事実婚)の夫婦であっても、住民票上で未届けの妻・夫としての記載があるなど一定の証明ができれば申し込みが可能となるケースがありますが、厳格な書類審査が伴うことを理解しておく必要があります。
住宅困窮の要件と高齢者夫婦の特殊事情
都営住宅は「住宅に困窮していること」が絶対的な入居条件です。原則として持ち家を所有している方は申し込むことができません。ただし、所有している家屋が著しく老朽化しており倒壊の危険がある場合や、多額の債務弁済のために売却が決定している場合などは、個別の事情として考慮される余地があります。
年金生活の夫婦の場合、現在の住居がエレベーターのない高層階にあり身体機能の低下により外出が困難になっている、あるいは浴槽がなく衛生的な生活が営めないといった「物理的な居住困難」も、広義の住宅困窮として捉えられます。特に後述する「ポイント方式」の募集では、こうした物理的な住環境の問題が当選への加点事由となるため、現在の住環境を客観的に把握しておくことが重要です。
年金生活者の都営住宅における所得基準と裁量階層の仕組み
年金生活を送る夫婦が都営住宅の入居条件を確認する際、最も理解が難しく、かつ誤解が生じやすいのが「所得基準」です。額面の年金受給額と審査対象となる「所得月額」の間には大きな差があるため、正しい計算方法を理解していないと、本来は申込資格があるにもかかわらず「収入オーバーだ」と誤って諦めてしまうリスクがあります。
原則階層と裁量階層の違いについて
都営住宅の所得基準には「原則階層」と「裁量階層」という二つのカテゴリーがあります。原則階層は一般的な世帯に適用される基準で、所得月額が158,000円以下であることが求められます。一方、裁量階層は高齢者世帯や障害者世帯、未就学児がいる子育て世帯など、特に居住の安定を図る必要があると認められた世帯に適用される緩和基準です。
年金生活の高齢者夫婦のみの世帯(申込者が60歳以上で、同居者全員が60歳以上または18歳未満の世帯)は、この裁量階層に該当します。裁量階層が適用されると、所得制限の上限は所得月額214,000円以下まで引き上げられます。原則階層と比較して約56,000円も高い上限が設定されているため、現役世代と比較して年金収入がある程度多い世帯であっても、都営住宅への申込資格を満たす可能性が高くなるのです。
年金収入から所得月額を計算する方法
所得月額とは、毎月の手取り額や振り込み額のことではありません。以下の計算式で算出される行政独自の数値です。
所得月額 =(世帯全員の年間総所得金額 - 全ての控除額の合計)÷ 12ヶ月
この計算を正確に行うためには、まず「年間総所得金額」を確定させ、次に「控除額」を積み上げていく作業が必要となります。
最初のステップとして、夫婦それぞれの年金の年間受給額(額面)から税法上の「公的年金等控除」を差し引いて「所得金額(雑所得)」を算出します。65歳以上の公的年金受給者の場合、年金収入が110万円以下であれば所得はゼロとなります。年金収入が330万円未満であれば、収入金額から110万円を引いた額が所得となります。
次のステップでは、都営住宅独自の控除を適用します。所得がある者一人につき10万円の基礎控除が適用されます。また、申込者本人を除く同居親族一人につき380,000円の同居親族控除が差し引かれます。同居親族が70歳以上の場合はさらに100,000円が加算され、合計480,000円の控除となる場合があります。世帯の中に障害者がいる場合は一人につき270,000円、特別障害者(重度障害者)の場合は400,000円の障害者控除も適用されます。
具体的な計算シミュレーションで申込資格を確認
実際の計算例として、夫の年金が年間200万円、妻の年金が年間80万円の夫婦(ともに70歳未満)を想定します。夫の所得は200万円から110万円を差し引いた90万円となります。妻の所得は80万円から110万円を差し引くとマイナスになるためゼロ円です。この世帯の年間総所得金額は90万円となります。
ここから控除を適用します。基礎控除として夫の分の10万円、同居親族控除として妻の分の38万円、合計48万円を差し引くと、計算上の世帯所得は42万円です。これを12ヶ月で割ると、所得月額は35,000円となります。
この結果は裁量階層の上限である214,000円を大幅に下回っており、原則階層の158,000円と比較しても余裕があるため、入居条件は十分に満たしています。また、所得月額が低いということは入居後の家賃も最低ランクに近い設定になることを意味します。このように年金生活者は多額の控除が適用されるため、額面の年金額が300万円から400万円程度の世帯であっても、入居条件をクリアする可能性が非常に高いのです。
シルバーピアとは?年金生活の高齢者夫婦に特化した都営住宅
シルバーピアは、都営住宅の中でも高齢者向けに特化した集合住宅であり、高齢者夫婦が地域社会の中で自立して安全かつ快適に生活できるよう、ハード面とソフト面の両方から配慮された住宅です。一般的な都営住宅の団地タイプとは異なり、加齢に伴う身体機能の変化に対応できる設計と、日常的な見守り体制が整っている点が大きな特徴です。
バリアフリー設計と緊急通報システムの特徴
シルバーピアの居室は、段差の解消、手すりの設置、車椅子での移動を考慮した廊下幅の確保など、徹底したバリアフリー設計が施されています。加齢に伴い身体機能が低下しても、住み慣れた場所で生活を継続できるよう随所に工夫がなされています。
トイレや浴室、寝室には緊急通報システムが設置されており、急病や転倒事故の際にボタン一つで外部に通報できる体制が整えられています。子供と別居している年金生活の高齢者夫婦にとって、この仕組みは非常に大きな安心材料です。
LSA(生活援助員)による見守りサービスの内容
シルバーピアの最大の特徴は、LSA(Life Support Advisor:生活援助員)によるサービスが提供される点です。LSAは団地内の共用部分あるいは近隣に常駐(または巡回)し、入居者の安否確認、生活相談、緊急時の対応などを行います。
LSAのサービスは老人ホームのような介護サービス(食事介助や入浴介助)を提供するものではありませんが、日常的な「見守り」と「つなぎ」の役割を果たしています。数日間姿を見かけない場合の訪問確認や、体調不良時の医療機関への連絡、地域の福祉サービスへの橋渡しなどが含まれます。夫婦のどちらかが先立たれ独居となった場合でも、LSAの存在によって孤立死のリスクを軽減し、社会との接点を保ち続けることが可能です。
シルバーピアの募集時期と費用について
シルバーピアの募集は、通常の都営住宅の定期募集(年4回)に合わせて行われています。募集区分には「単身者向」と「二人世帯向」があり、夫婦の場合は「二人世帯向」に応募することになります。2025年8月の募集では、シルバーピアを含む枠でまとまった戸数が提供されました。
費用面では、通常の都営住宅の家賃に加えて共益費や緊急通報システムの利用料、LSAサービスの対価としての負担が発生する場合があります。しかし、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と比較すれば、その経済的負担は圧倒的に軽いものです。文京区内の事例では家賃が1万円台後半から3万円台というケースも見られ、年金のみで生活する世帯にとって現実的な選択肢となっています。
都営住宅の申し込み方法と当選確率を高める優遇制度
都営住宅への入居申し込みには「抽せん方式」と「ポイント方式」という二つの方法があり、年金生活の夫婦がより効率的に都営住宅に入居するためには、両方の方式を理解して自身の状況に最も適した方法を選択することが重要です。都心部や交通利便性の高い地域では応募倍率が数十倍から数百倍に達することもあるため、制度を深く理解した上で戦略的に申し込みを行う必要があります。
抽せん方式の仕組みと申し込みの流れ
多くの定期募集(5月、8月、11月、2月)で採用されているのが、公開抽せんによる選定方式です。応募者の中から無作為に当選者を決定するため公平性は保たれていますが、人気エリアや募集戸数の少ない区分では極めて高い倍率となります。
申し込みは専用のウェブサイトからのオンライン申請、または所定の申込書を郵送する方法で行います。2025年8月の募集では、8月1日から18日までの申込期間が設定されていました。オンラインは最終日の深夜まで、郵送は郵便局必着という厳格な締め切りが設けられるため、余裕をもって手続きを進めることが大切です。
高齢者夫婦向けの優遇抽せん制度について
年金生活の高齢者夫婦にとって特に重要なのが優遇抽せん制度です。これは特定の要件を満たす世帯に対し、抽せん番号を複数個割り当てることで当選確率を数倍に高める仕組みです。
甲優遇は、高齢者世帯、心身障害者世帯、ひとり親世帯などが対象となり、当選倍率が5倍あるいは7倍に設定される場合があります。一般世帯が抽せん玉を1個しか持てないのに対し、優遇世帯は5個持てるというイメージです。乙優遇はさらに困窮度が高い特定の条件を満たす場合に適用される区分です。
年金生活の夫婦が申し込む際は、必ずこの優遇資格の有無を確認し、該当する区分で申し込むことが重要です。ただし、優遇区分で当選した場合、後の資格審査でその事実を証明できなければ、一般区分の資格を持っていたとしても失格となるリスクがあるため、申請内容は正確でなければなりません。
ポイント方式による困窮度評価の仕組み
ポイント方式は抽せんではなく、住宅に困窮する度合いを数値化し、点数の高い順に入居者を決定する方式です。主に家族向け(二人以上世帯)の募集で実施されるため、年金生活の夫婦も対象となります。
評価項目としては、現在の収入に対する家賃比率が高いほど高得点となる「家賃の負担」、一人当たりの居住面積が狭いほど高得点となる「住宅の狭さ」、正当な理由で立ち退きを迫られている場合の「立ち退き要求」、住宅事情により夫婦がやむを得ず別居している場合の「別居生活」、そして世帯主や同居者の年齢や障害の有無による「高齢・障害」の加点があります。
年金生活の高齢者夫婦で現在の住居が手狭であったり家賃負担が重かったりする場合は、このポイント方式での当選も十分に視野に入ります。運に左右されず真に困窮している世帯が救済される合理的なシステムですが、詳細な証明書類の提出が求められる点に注意が必要です。
都営住宅入居後の家賃と年金生活夫婦の経済的メリット
都営住宅に入居できた場合、民間賃貸住宅と比較して大きな経済的メリットを享受できます。年金生活の夫婦にとって、毎月の固定費を抑えられることは長期的な生活設計の安定に直結する重要な要素です。
応能応益家賃の仕組みと年金生活者の家賃について
都営住宅の家賃は「応能応益家賃」と呼ばれる仕組みで決定されます。これは入居者の支払い能力(所得)と住宅の便益(立地、広さ、築年数)の組み合わせで算出される方式です。年金生活者のように所得月額が低くなる傾向にある世帯は、家賃も低く抑えられます。
入居後も毎年の収入申告が義務付けられており、年金受給額が下がったり医療費控除等で所得が減少したりした場合は、翌年度の家賃が引き下げられる調整機能が働きます。これは固定家賃の民間住宅にはない、公営住宅ならではの大きなメリットです。
初期費用の軽さと更新料が不要な恩恵
民間賃貸では敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、保証会社利用料、火災保険料など、入居時に家賃の5から6ヶ月分の費用がかかることが一般的であり、さらに2年ごとの更新時には更新料として家賃1ヶ月分が発生します。都営住宅では必要な初期費用は保証金(敷金)として家賃の2ヶ月分程度のみです。礼金や仲介手数料は不要であり、更新料も存在しません。長く住めば住むほど、この更新料ゼロの恩恵は年金生活の家計にとって大きくなります。
都営住宅と民間賃貸の費用を比較すると、その違いは以下の通りです。
| 項目 | 都営住宅 | 民間賃貸(一般的) |
|---|---|---|
| 敷金 | 家賃2ヶ月分程度 | 家賃1〜2ヶ月分 |
| 礼金 | なし | 家賃1〜2ヶ月分 |
| 仲介手数料 | なし | 家賃1ヶ月分程度 |
| 更新料 | なし | 家賃1ヶ月分(2年ごと) |
| 家賃設定 | 所得に応じて変動 | 固定(市場価格) |
家賃債務保証制度で連帯保証人が不要に
かつては入居に際して連帯保証人が必須でしたが、現在は身寄りのない高齢者等のために民間保証会社を利用する家賃債務保証制度が導入されています。この制度により、親族に迷惑をかけたくない、あるいは頼める親族がいない年金生活の高齢者夫婦でも都営住宅への入居が可能となりました。
さらに、東京都内の各自治体では保証会社に支払う保証料の一部を助成する制度を設けている場合があります。初回保証料の半額(上限あり)を補助するといった施策により、初期費用の負担をさらに軽減する取り組みが進められています。
都営住宅以外の選択肢と年金生活夫婦のリスク管理
都営住宅は非常に魅力的な選択肢ですが、競争率の高さゆえに当選までの「待機期間」が生じるリスクがあります。住居の問題は生活の根幹に関わるため、年金生活の夫婦は都営住宅への申し込みを継続しつつ、並行して他の公的・準公的な住宅の選択肢も検討する多重的な戦略が必要です。
UR賃貸住宅(旧公団住宅)の高齢者向け制度
UR都市機構が運営するUR賃貸住宅は、都営住宅よりも家賃設定は高めですが、礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要というメリットがあります。高齢者に対しては複数の優遇制度が用意されています。
まず「高齢者向け優良賃貸住宅」は、所得が一定以下の場合に国とURが家賃の一部を負担し、減額された家賃で入居できる制度です。次に「健康医療福祉系施設併設住宅」は、医療機関や介護施設が敷地内または隣接地にあり、安心して暮らせる環境が整っています。さらに「高齢者等向け特別設備改善住宅」は、浴室の段差緩和や手すり設置など高齢者仕様に改修された住戸です。
URは先着順での募集が基本であるため、空きさえあれば待機期間なく入居できるスピード感が強みです。貯蓄がある程度ある場合は、家賃の支払いを一時払いする制度を利用することで、年金収入が基準に満たなくても入居審査をパスできる方法もあります。
東京ささエール住宅(住宅セーフティネット制度)の活用
民間賃貸住宅の中には、高齢者や障害者などの入居を拒まない物件として登録された「セーフティネット住宅」があります。東京都では「東京ささエール住宅」の愛称で知られている制度です。
これらの物件の中には専用の家賃低廉化補助(家賃補助)がついているものも存在し、入居者の所得に応じて月額数万円の補助が受けられる場合があります。実質的な負担額を都営住宅並みに抑えることが可能となるケースもあります。各区が独自に補助制度を運用しているため、希望するエリアの自治体窓口やウェブサイトで「居住支援」に関する情報を収集することが重要です。
年金生活の夫婦が都営住宅の入居条件を満たすために意識すべきこと
年金生活を送る高齢者夫婦にとって、都営住宅は経済的な安定と終の棲家を確保するための最も有効な手段です。入居条件における「裁量階層」の適用や豊富な控除による所得計算の仕組みは、多くの年金受給世帯を制度の対象内に含むように設計されています。シルバーピアのような見守り機能付き住宅は、核家族化が進む現代において、夫婦二人の生活を社会的に支える基盤となっています。
都営住宅への入居を実現するためには、まず諦めずに申し込みを続けることが大切です。年4回の定期募集に加え、随時募集や地元割当などの情報を見逃さず、ポイント方式と抽せん方式の両面からアプローチを続ける継続力が求められます。
次に、優遇制度をフル活用することです。自身の世帯状況が優遇抽せんやポイント加算の対象になるかを詳細に確認し、有利な区分で申し込む戦略性が必要です。
そして、視野を広げることも欠かせません。都営住宅だけに固執せず、URの割引制度やセーフティネット住宅、区営住宅など、利用可能なあらゆる社会資源を比較検討し、住居確保の確率を総合的に高めるリスク管理が重要です。
公的住宅制度は申請主義(自ら申し出なければ利用できない)が大原則です。制度の仕組みを正しく理解し、積極的な情報収集と申請行動を起こすことこそが、安心できる老後の住まいを手に入れるための確実な道といえます。


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