結婚はコスパが悪い?若者の本音と見えないコストの真実

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若者が「結婚はコスパが悪い」と感じる背景には、経済的な停滞と時間意識の変化があります。公益財団法人日本財団の調査によれば、未婚者の38.5%が「将来結婚しないと思う」と回答しており、結婚願望を持つ層と拮抗する水準に達しています。本記事では、若者が結婚を「割に合わない」と判断する具体的な理由から、独身を貫くことの「見えないコスト」、そして新しいパートナーシップの形まで、結婚をめぐる損益分岐点を多角的に解説します。

Z世代を中心とする若年層の間では、結婚を経済的投資対効果(コストパフォーマンス)や時間的投資対効果(タイムパフォーマンス)の観点から評価する傾向が強まっています。結婚は「社会的義務」や「成人の通過儀礼」としての地位を失い、個人の嗜好に基づく選択的な消費財、あるいは経済的余力のある者のみが許される贅沢品へと変化しているのです。結婚を希望しない最大の理由として「独り身が向いていると思うから」が40.1%でトップを占め、次いで「経済的な負担」「自由な時間・生活の優先」が挙げられています。

若者が結婚をコスパが悪いと感じる経済的理由とは

若者が結婚を躊躇あるいは拒絶する最大の要因は、客観的な経済環境の悪化と、それに伴う将来設計の不確実性にあります。「愛があればお金はいらない」という精神論は、現代の厳しい経済リアリティの前では無力化しており、結婚はシビアな経済プロジェクトとして評価されているのです。

年収300万円の壁と呼ばれる現象が、結婚市場において残酷なまでに明確な選別機能として作用しています。経済評論家の荒川和久氏らの分析によれば、かつては年収300万円があれば結婚が可能でしたが、現在ではこのラインを下回ると結婚相手として選ばれる確率が極端に低下することが統計的に示されています。就業構造基本調査のデータを分析すると、2012年から2022年の10年間において、年収200万円台から300万円台の層で生涯未婚率が急激に上昇していることが確認できます。一方で、年収600万円以上の層では未婚率の上昇はほとんど見られず、結婚が可能な層と不可能な層の二極化が鮮明になっています。

年収300万円台の男性にとって、自身の生活を維持するだけで手一杯の状況下で、配偶者や子供を養う責任を負うことは、「コスパが悪い」というレベルを超え、生活破綻のリスクを伴う生存戦略上の悪手と認識されます。年収が低い層ほど「結婚=経済的リスク」という等式が成立しやすく、その結果として、彼らは市場から撤退し、独身生活という安全地帯に留まることを選択せざるを得ない状況に追い込まれているのです。

パワーカップルと経済格差の固定化が示す結婚の二極化

「結婚はコスパが悪い」という通説に反して、現代社会において最も効率的に資産形成を行っているのがパワーカップルと呼ばれる層です。パワーカップルとは、一般的に夫婦ともに年収700万円以上、あるいは世帯年収が1,000万円を超える共働き世帯を指します。この層は結婚の経済的メリットを最大限に享受しています。

パワーカップルにとって結婚は、コスト削減とリスク分散のための強力なアセットマネジメントです。一人暮らしであればそれぞれにかかる家賃、光熱費、家電購入費などの固定費を、結婚して同居することで一本化し、生活コストを劇的に圧縮することが可能となります。東京都内の家賃相場を見ると、単身向け物件の賃料も上昇傾向にありますが、ファミリー向け物件を二人でシェアする際の一人当たりの負担額は、同水準のクオリティの単身向け物件を借りるよりも割安になるケースが多いのです。

パワーカップルは「規模の経済」によって生み出された余剰資金を、NISAやiDeCoなどへの投資、自己研鑽、高品質なレジャー、あるいは子供の教育費へと再投資し、さらなる豊かさを獲得していきます。一方で、低所得者層同士の結婚では、コスト削減効果よりも、失業や病気といった突発的なリスクに対する脆弱性が懸念され、結果として「共倒れ」を恐れて結婚に踏み切れないという悪循環が生じています。結婚は「富める者をさらに富ませるシステム」として機能する一方で、持たざる者にとっては「参入障壁の高い会員制クラブ」となっているのが実態です。

若者が結婚式にコスパの悪さを感じる理由

結婚に伴う初期投資の象徴である結婚式に対する意識の変化も、若者のコスパ志向を端的に表しています。2024年から2025年にかけての調査データによれば、結婚式の平均費用は約315.9万円から327万円と高額で推移しており、ご祝儀等を差し引いた自己負担額も平均で130万円から138万円程度発生します。

奨学金の返済や老後資金2,000万円問題などの将来不安を抱えるZ世代にとって、たった数時間のイベントに数百万円単位の資金を投じることは、極めて投資対効果の低い支出と映る場合があります。しかし、若者は決して「ケチ」なわけではありません。ウェディングプランナーへの調査によると、Z世代の顧客はコスパ重視であると同時に、自分たちが価値を感じる部分には資金を集中させる傾向があります。

具体的には、一過性の派手な演出や装飾への支出を極限まで削る一方で、ゲストに提供する料理の質や、写真・映像といった記録として残るもの、あるいは新婚旅行や新居の家具といった実生活の質を高めるものには予算を割きます。また、式を挙げない「ナシ婚」や、写真撮影のみを行うフォトウェディングを選択するカップルが増加しているのも、形式的な儀礼に大金を払うことへの忌避感と、実利を優先する合理的判断の表れです。若者にとってのコスパとは、単なる安さの追求ではなく、「納得感のない支出の排除」と「自分基準の価値最大化」を意味しているのです。

タイムパフォーマンス重視の若者が結婚に感じる時間的コスト

経済的要因以上に、デジタルネイティブであるZ世代が結婚や恋愛に対して慎重になる要因が時間(タイムパフォーマンス)の概念です。若者にとって時間は、金銭と同等あるいはそれ以上に希少なリソースであり、そのリソースを他者に奪われることは耐え難い損失と認識されます。

恋愛そのものを時間の無駄と感じる傾向が若者の間で広がっています。ある調査では、20代の74.0%が「結婚につながらない交際は無駄である」と回答しており、恋愛そのものを楽しむよりも、結果(結婚)に至るまでの最短ルートを求める傾向が強まっています。従来の恋愛モデルでは、出会い、駆け引き、衝突、和解といったプロセス自体に価値が置かれていましたが、現代では「ネタバレ消費」や「倍速視聴」に慣れ親しんだ層を中心に、感情的な動揺や無駄な時間を極力排除したいという心理が働いています。

失敗するかもしれない関係に数ヶ月から数年という時間を投資することは、若者にとって「サンクコスト(埋没費用)」のリスクそのものです。それならば最初から一人で趣味や自己研鑽に時間を使う方がタイパが良いという結論に至るのです。

人間関係リセット症候群と結婚への心理的障壁

現代の若者の人間関係における特徴的な心理傾向として、人間関係リセット症候群が指摘されています。人間関係リセット症候群とは、人間関係において些細な違和感やストレスが蓄積した際、話し合いによる解決や修復を試みるのではなく、LINEをブロックしたりSNSアカウントを削除したりすることで、関係そのものを突如として遮断してしまう行動パターンのことです。

この心理の背景には、対人関係における摩擦や衝突を極度に恐れる回避性と、完璧な関係性を求める理想主義が存在します。若者は傷つくことや、面倒な調整に巻き込まれることを「コスト」と見なし、そのコストが一定の閾値を超えると、関係を維持するメリットよりもリセットするメリットの方が大きいと判断します。

しかし、結婚生活とは本質的にリセット不可能な人間関係の連続です。法的な契約関係にあり、生活空間を共有する配偶者とは、価値観の相違や生活習慣の違いを、膨大な時間をかけてすり合わせ続けなければなりません。この「逃げ場のなさ」や「終わりのない調整コスト(感情労働)」は、リセット癖のある若者にとって恐怖の対象となり、結婚への参入障壁を心理的に高くしているのです。

ソロ活動の充実が若者の結婚離れを加速させている

「独り身が向いている」という回答が結婚しない理由のトップになる背景には、現代社会におけるソロ活動の環境がかつてないほど充実している事実があります。動画配信サービス、SNS、一人用カラオケ、ソロキャンプなど、パートナーがいなくても安価で高品質な娯楽を享受できるインフラが整っています。

経済学的に言えば、結婚することの機会費用(Opportunity Cost)が増大している状態です。結婚して配偶者や子供のために時間を使うことは、これら充実したソロ活動に使える時間を放棄することを意味します。自分一人であれば100%自分のために使える時間とお金を、他者のために配分しなければならない結婚生活は、現状の快適な生活水準を低下させる損な取引として認識されがちです。特に、仕事とプライベートの境界が曖昧になりやすい現代において、唯一の安らぎである「一人の時間」を確保することは、メンタルヘルス維持の観点からも至上命題となっています。

独身者が直面する社会保障・税制上の見えないコスト

若年期には認識されにくいですが、独身を貫くことには「見えないコスト(隠れ負債)」が存在します。日本の税制および社会保障制度は、高度経済成長期に形成された「夫(サラリーマン)+妻(専業主婦)+子供」という標準世帯モデルを基盤として設計されており、単身者や子供のいない世帯に対して構造的に不利な仕組みとなっている側面があります。

税制上の控除格差について見ると、結婚していれば利用可能な配偶者控除や配偶者特別控除は、納税者本人の所得税および住民税を軽減する効果を持ちます。配偶者の年収が一定以下の場合、最大で38万円(所得税)の所得控除が受けられます。単身者にはこれに相当する控除が存在しないため、同じ年収であっても、生涯で支払う税額は既婚者よりも高くなる計算となります。これは数十年のスパンで見れば、数百万円規模の可処分所得の差を生む可能性があります。

社会保険料の負担構造においても差が生じます。会社員の配偶者に扶養される「第3号被保険者」制度では、国民年金保険料や健康保険料の自己負担が発生しません。単身者は当然ながら自身の保険料を全額負担しなければならず、「制度的な割高感」を強いられることになります。

生活コストの非効率性も見逃せません。住居費、通信費、食費といった基本生活費において、単身生活はスケールメリットが働きません。一人分の食事を作る手間とコストは二人分と大きく変わらないため、単身者は割高な外食や中食に依存しやすく、エンゲル係数が高くなる傾向があります。税理士の板倉京氏も指摘するように、独身者は意識的な資産防衛を行わない限り、既婚者よりも効率の悪いキャッシュフローの中で生活することになります。

独身男性が抱える健康リスクと死亡率の差

結婚は自由を奪うと言われる一方で、独身であることの健康リスクは統計的に極めて深刻です。疫学的なデータは、孤独が喫煙や肥満に匹敵、あるいはそれらを上回る健康リスク要因であることを示唆しています。

未婚男性の死亡リスクは既婚男性と比較して著しく高いことが判明しています。国立がん研究センターなどの調査データを分析すると、ある推計によれば、未婚の中高年男性の死亡率は既婚男性の約2.8倍にも達するという数値が報告されています。死因別に見ると、高血圧、糖尿病、腎不全といった生活習慣病や、肺炎などの感染症による死亡リスクが高いことがわかっています。

既婚者の場合、配偶者が体調の変化に気づき、医療機関の受診を促したり、食生活の管理を行ったりする健康の相互監視機能が働きます。一方、単身者は自身の不調を放置しやすく、発見された時には重篤化しているケースが多いのです。また、孤独感自体が慢性的なストレス源となり、免疫機能の低下や心血管系への悪影響を及ぼすことも医学的に指摘されています。ハーバード大学による80年間にわたる追跡調査でも、人生の幸福度と健康寿命を決定づける最大の要因は「富」でも「名声」でもなく、「良好な人間関係の有無」であると結論付けられています。

2035年「超ソロ社会」で独身者が直面する老後リスク

若者が現在直視していない、しかし確実に訪れる最大のリスクが老後の孤立です。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2035年には日本の人口の約半数が独身者(未婚、離別、死別を含む)となり、「超ソロ社会」が到来すると予測されています。

介護費用の増大は深刻な問題です。配偶者や子供がいる場合、在宅介護における家族のサポート(無償のケア労働)が期待できますが、単身者は介護のすべてを外部サービス(有償)に依存せざるを得ません。家族による介護がある場合と比較して、単身者の介護費用負担は月額で数万円から十数万円高くなる可能性があり、これが死ぬまで続くことになります。

身元保証と社会的信用のコストも無視できません。現在の日本では、入院、手術、介護施設の入居、賃貸住宅の契約など、人生の重大な局面で身元保証人が求められる慣習が根強く残っています。親族がいない、あるいは疎遠な単身高齢者は、民間団体などが提供する高額な身元保証サービスを利用しなければならず、これも「独身税」的な追加コストとなります。

誰にも看取られずに亡くなり、発見が遅れる「孤独死」は、本人の尊厳に関わる問題であると同時に、特殊清掃や遺品整理といった事後処理にかかるコストを発生させます。これらのリスクに備えるためには、既婚者以上の周到な資金計画と、地域コミュニティとの繋がり(ソーシャル・キャピタル)の構築が不可欠となります。

友情結婚という新しいパートナーシップの形

「従来の結婚制度はコスパが悪い」が「一生独身でいるのもリスクが高すぎる」というジレンマの中で、若者たちは既存の常識に縛られない、合理的かつ実利的な新しいパートナーシップの形を模索し始めています。

近年注目を集めているのが友情結婚というスタイルです。友情結婚とは、互いに恋愛感情や性的関係を持たないことを前提としつつ、価値観の一致や生活の安定、社会的信用の獲得を目的として法的な婚姻関係を結ぶ契約的な結婚形態のことです。

友情結婚の最大のメリットは、恋愛特有の感情的コスト(嫉妬、束縛、感情の浮き沈み)を完全に排除できる点にあります。あくまで「共同生活のパートナー」あるいは「人生共同経営者」として、家賃や生活費を折半し、税制上の優遇を享受し、互いの老後のセーフティネットとなることを目指します。実際に友情結婚を選択するカップルの中には、性行為を伴わない方法で子供を設け、計画的に家族形成を行うケースも存在します。これは「結婚=ロマンティック・ラブの到達点」という神話を解体し、結婚を「生活を維持・向上させるための機能的システム」として再定義する動きと言えます。

契約結婚と事実婚を選ぶ若者が増えている理由

ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で広く知られるようになった契約結婚の概念も、若者の合理的精神と親和性が高いものです。家事労働を「無償の愛」ではなく「労働」として定義し、対価を支払う、あるいは明確な分担ルールを契約として定めることで、結婚生活における不公平感や搾取構造を排除しようとする試みです。

また、法的な婚姻届を提出しない事実婚を選択するカップルも増加しています。夫婦別姓が認められない日本の法制度下において、改姓によるキャリア上の不利益(名義変更の手間、アイデンティティの喪失)をコストと捉え、それを回避するためにあえて法律婚を選ばないという選択です。彼らにとって重要なのは、国が定めた「戸籍上の夫婦」になることではなく、実質的なパートナーシップの質なのです。

結婚式という儀式においても、若者の意識変革は進んでいます。数百万円をかける従来の披露宴をコスパが悪いと敬遠する一方で、「自分たちらしさ」や「体験」には投資を惜しみません。形式的なスピーチや余興を省き、親しい友人や家族とゆっくり食事を楽しむ少人数のパーティーや、絶景のロケーションで最高の一枚を残すフォトウェディングなど、自分たちが心から価値を感じられる部分にリソースを集中させています。

若者にとっての結婚の損益分岐点を見極める戦略的思考

結婚はコスパが悪いという若者の感覚は、現在の日本の停滞する経済状況や、旧態依然とした社会構造においては、極めて合理的かつ正常な反応です。低賃金、長時間労働、不安定な雇用環境の中で、結婚に伴う即時的なコスト(結婚資金、自由時間の喪失、責任の増大)は、得られるメリット(精神的安定、将来の家族形成)を短期的に圧倒しています。特に年収300万円未満の層にとって、結婚は生活水準を著しく低下させるリスクを孕んだ、割の合わない投資案件であることは否定できません。

しかしながら、時間軸を「生涯」というロングスパンに拡張し、視野を「見えないコスト」まで広げた時、その損益計算書は劇的に書き換わる可能性が高いのです。独身を貫くことのコスト、すなわち税制的不利、社会的孤立、健康リスク、老後の介護問題は、若いうちは不可視化されていますが、複利のように膨れ上がり、人生の後半戦において一気に顕在化する「隠れ負債」となります。

結婚を社会から押し付けられる義務や、恋愛の延長線上にあるゴールとして捉えるのではなく、過酷な現代社会を生き抜くための生存戦略あるいは相互扶助のためのセーフティネット構築としてドライに捉え直す視点が必要です。パワーカップルのように経済力を合体させて資産形成を加速させる、あるいは友情結婚のように精神的負担を最小化して制度的メリットを確保するなど、自身の価値観とリソースに合わせた「結婚のカスタマイズ」が求められています。

結婚しないことを選択する場合、それは「コスト回避」ではなく、別の形での「コスト負担」を意味することを自覚する必要があります。孤独死や老後破産を防ぐためには、既婚者以上に計画的な資産形成(老後資金の上積み)、健康管理への投資、そして家族に代わるコミュニティ(互助ネットワーク)の確保という「独身ならではの戦略」を若いうちから実行しなければなりません。

「結婚はコスパが悪い」という若者の言葉は、単なる嘆きやわがままではなく、制度疲労を起こし、個人の生存を脅かしている日本社会に対する鋭い批評であり警鐘です。この声の真意を理解し、結婚の定義と価値を時代に合わせて再構築することが、これからの社会において求められています。

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