マイナポータルで死亡届をオンライン提出できる?PHRとの関係を徹底解説

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デジタル化の波が行政サービスにも押し寄せる中、私たちの生活に関わる様々な手続きがオンライン化されています。マイナンバーカードを利用したマイナポータルでは、子育てや介護、税金に関する手続きなど、多くのサービスが自宅から利用できるようになりました。しかし、人生の終焉に関わる死亡届については、どのような状況になっているのでしょうか。大切な家族を亡くした時、悲しみの中で多くの手続きに追われる遺族の負担は計り知れません。令和の時代において、死亡届のオンライン提出は可能なのか、マイナポータルはどのように活用できるのか、そしてパーソナルヘルスレコードとの関係はどうなっているのか。これらの疑問に対して、2025年の最新情報をもとに、わかりやすく解説していきます。行政のデジタル化がどこまで進んでいるのか、遺族の負担軽減のためにどのような取り組みが行われているのか、具体的な制度やサービスの内容、そして今後の展望まで、包括的にお伝えします。

死亡届の基本的な知識と提出方法

死亡届は、大切な方が亡くなられた際に必ず提出しなければならない重要な法的書類です。戸籍法という法律に基づいて、死亡の事実を知った日から7日以内に提出することが義務付けられています。この期限は法律で定められており、守る必要があります。

提出先は、故人の本籍地、死亡地、または届出人の住所地のいずれかの市区町村の戸籍担当窓口となります。提出義務者については、法律で優先順位が定められており、まず同居していた親族、次にその他の同居者、さらに家主や地主、家屋管理人、土地管理人などが該当します。実際の運用では、葬儀社が遺族に代わって提出を代行するケースが非常に多くなっています。葬儀社は手続きに慣れており、必要書類の準備から提出までをスムーズに行ってくれるため、遺族の負担が大幅に軽減されます。

死亡届を提出する際には、医師が作成した死亡診断書または死体検案書を必ず添付しなければなりません。これらは通常、A3サイズの用紙に死亡届と一体となった形式で作成されています。左側に死亡届、右側に死亡診断書という構成になっており、医師が右側の死亡診断書部分を記入し、遺族や葬儀社が左側の死亡届部分を記入する仕組みです。

死亡届が市区町村の窓口で受理されると、戸籍に死亡の記載がなされ、同時に住民票も消除されます。この一連の手続きは、その後の相続手続き、年金の停止や遺族年金の請求、健康保険の資格喪失手続き、生命保険の請求など、あらゆる死後の手続きの出発点となる極めて重要なものです。戸籍に死亡が記載されていなければ、これらの手続きを進めることができないため、速やかに提出することが大切です。

多くの自治体では、平日の開庁時間だけでなく、休日や夜間でも死亡届を受け付ける体制を整えています。宿直や守衛が24時間体制で死亡届を預かり、後日、戸籍担当部署で正式に審査・受理する仕組みを取っている自治体が多く見られます。これにより、いつ不幸があっても、すぐに届出を行うことができるようになっています。

死亡届のオンライン提出は可能なのか

2025年1月の時点において、残念ながら死亡届のオンライン提出は実現していません。マイナポータルを通じて様々な行政手続きがオンライン化されている現在でも、死亡届については従来通り、市区町村の戸籍担当窓口に紙の書類を持参または郵送で提出する必要があります。

この状況には、いくつかの重要な理由があります。第一に、死亡届には医師が作成する死亡診断書または死体検案書という極めて重要な医療文書の添付が必須となっています。これらの文書は、死亡の原因や時刻など、法的に重要な情報を含んでおり、その真正性を担保することが不可欠です。医療文書の電子化とセキュリティの確保については、医療分野全体でも慎重な検討が続けられており、すぐに実現できる状況にはありません。

第二に、死亡届は戸籍という国民の身分関係を公証する制度の根幹に関わるものです。戸籍は日本の法制度において極めて重要な位置を占めており、その記載の正確性と信頼性には最高度の水準が求められています。オンライン提出を実現するためには、本人確認の方法、書類の真正性を担保する仕組み、なりすましや偽造を防ぐセキュリティ対策など、解決すべき技術的・法的課題が多数存在します。

第三に、死亡という人生において最も悲しく、デリケートな状況における手続きであることも考慮されています。大切な家族を亡くした直後の遺族が、パソコンやスマートフォンの画面に向かってオンライン手続きを行うことが、心理的に適切なのかという問題があります。また、高齢の遺族の中には、デジタル機器の操作に不慣れな方も多く、オンライン化がかえって負担となる可能性も指摘されています。

さらに、死亡届の提出時には、戸籍担当職員が記載内容を確認し、不備があれば その場で訂正を求めたり、アドバイスを提供したりすることができます。このような人と人との対面でのやり取りが、正確な手続きの完了と、遺族への適切な支援につながっている側面もあります。

諸外国の状況を見ると、一部の国では死亡届のオンライン提出が実現している例もあります。しかし、各国の法制度や戸籍制度、医療制度は大きく異なっており、日本においてどのような形でオンライン化を進めるべきかは、慎重な検討が必要とされています。

とはいえ、行政のデジタル化という大きな流れの中で、将来的に死亡届のオンライン提出が実現する可能性はゼロではありません。技術の進歩により、電子署名や本人確認の精度が向上し、医療文書の電子化が進めば、安全で信頼性の高いオンライン提出システムを構築できる日が来るかもしれません。

デジタル庁が推進する死亡・相続ワンストップサービス

死亡届そのもののオンライン化は実現していませんが、死亡届提出後の各種手続きについては、大きな変革が進んでいます。デジタル庁を中心に、法務省、厚生労働省、総務省など関係省庁が連携して取り組んでいるのが、死亡・相続ワンストップサービスです。

大切な家族を亡くした遺族は、悲しみの中で膨大な数の手続きに追われることになります。市区町村の複数の窓口での手続き、年金事務所での年金停止や遺族年金の請求、法務局での相続登記、税務署での相続税の申告、金融機関での口座の解約や名義変更、生命保険会社への保険金請求など、その数は世帯の状況によっては数十種類にも及びます。

それぞれの機関で個別に書類を準備し、何度も同じような情報を記入し、平日の限られた時間に窓口を訪れなければならないという状況は、遺族にとって大きな負担となっていました。特に、働きながら手続きを進めなければならない場合や、遠方に住んでいる場合には、その負担はさらに大きくなります。

デジタル庁は、令和7年(2025年)6月までを集中改革期間として設定し、死亡・相続に関する手続きの抜本的な改善に取り組んでいます。この取り組みの核心は、バラバラに行われていた手続きを統合し、遺族が一つの窓口で、あるいはオンラインで、まとめて手続きを完了できるようにすることです。

具体的な施策の一つが、戸籍情報連携システムの構築です。このシステムは令和6年(2024年)3月から本格稼働を開始しました。従来、相続手続きでは、故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取得する必要があり、本籍地を何度も変更している場合には、全国の複数の市区町村から戸籍謄本を取り寄せなければなりませんでした。1通数百円の手数料がかかり、郵送でのやり取りには時間もかかります。

戸籍情報連携システムにより、マイナンバーを利用した行政手続きにおいては、行政機関間で戸籍情報を電子的に共有できるようになりました。これにより、多くの手続きで戸籍謄本の添付が不要となり、遺族の負担が大幅に軽減されています。法務局での相続登記、年金事務所での遺族年金請求など、様々な場面でこの恩恵を受けることができます。

また、マイナポータルを活用した情報提供の充実も進められています。将来的には、マイナポータルにログインすることで、自分が行うべき手続きのリストが表示され、それぞれの手続きの方法や必要書類が案内され、さらに一部の手続きはそのままオンラインで申請できるようになることが構想されています。

デジタル庁は、関係省庁や地方自治体、民間企業とも連携しながら、遺族の視点に立った、本当に使いやすいサービスの実現を目指しています。デジタル化は手段であって目的ではなく、遺族の負担を軽減し、悲しみに寄り添うことが真の目的であるという理念のもと、取り組みが進められています。

おくやみコーナーで実現する手続きの簡素化

死亡・相続ワンストップサービスの中核的な取り組みの一つが、全国の市区町村で急速に広がっているおくやみコーナーまたはおくやみ窓口の設置です。これは、遺族が市区町村で行う複数の手続きを、一つの専用窓口でまとめて完了できるようにしたサービスです。

従来、家族が亡くなった後、市役所や区役所で行う手続きは多岐にわたりました。国民健康保険の資格喪失、後期高齢者医療保険の資格喪失、介護保険の資格喪失、世帯主変更届、児童手当の受給者変更、公共料金の名義変更など、それぞれ担当する課が異なり、遺族は庁舎内のあちこちの窓口を回らなければなりませんでした。

おくやみコーナーでは、これらの手続きをワンストップで行えます。仕組みはこうです。まず、遺族が おくやみコーナーを訪れると、専任の職員が対応します。職員は、故人の運転免許証やマイナンバーカードから基本情報を読み取り、システムに登録します。

次に、遺族はタブレット端末で質問に答えます。質問の数は自治体によって異なりますが、およそ25問程度です。故人が受給していた年金の種類、加入していた保険、受けていた介護サービス、所有していた不動産や自動車の有無など、世帯の状況に関する質問に答えることで、システムが必要な手続きを自動的に判定します。

システムは、その世帯に必要な手続きのリストを作成し、申請書類を自動生成します。驚くべきことに、これらの申請書には、故人の氏名や住所、生年月日などの基本情報が予め印字されています。遺族は、自分の氏名や連絡先など、最低限の情報を追記するだけで、書類を完成させることができます。

従来であれば、それぞれの窓口で何度も同じ情報を手書きで記入しなければならず、記入漏れや間違いも起こりがちでした。おくやみコーナーでは、そのような手間が大幅に削減されます。

さらに、本人確認も最初に一度行えば、その後の各種手続きで繰り返す必要がありません。複数の窓口を回ることなく、一つの場所で座ったまま、職員のサポートを受けながら手続きを進められるため、心理的な負担も軽減されます。

おくやみコーナーを利用することで、主要な手続きにかかる時間は40分から50分程度とされています。これは、従来は半日がかりだった手続きと比べて、劇的な時間短縮です。仕事を休んで市役所に来た遺族にとって、この時間短縮は大きな意味を持ちます。

おくやみコーナーのもう一つの重要な利点は、手続きの漏れを防げることです。専任の職員が質問を通じて状況を把握し、必要な手続きをリストアップしてくれるため、遺族が知らなかった手続きや、うっかり忘れていた手続きを見逃すリスクが減ります。

政府は、おくやみコーナーの全国展開を支援するため、内閣官房IT総合戦略室(現在のデジタル庁の前身)が2020年5月におくやみコーナー設置自治体支援ナビというデジタルツールとガイドラインを公表しました。これにより、自治体がおくやみコーナーを設置する際の参考情報、システムの選定方法、運用のノウハウなどが提供され、導入のハードルが下がりました。

その結果、令和に入ってから、おくやみコーナーを設置する市区町村が急増しています。大都市だけでなく、中小規模の自治体でも導入が進んでおり、全国どこに住んでいても、質の高い遺族支援サービスを受けられる環境が整いつつあります。

おくやみコーナーの設置形態は自治体によって様々です。常設の専用窓口を設けている自治体もあれば、予約制で特定の日時に専用ブースを開設する自治体もあります。利用を希望する場合は、事前に自治体のウェブサイトで確認するか、電話で問い合わせることをお勧めします。

マイナポータルとは何か

マイナポータルは、政府が運営するオンラインサービスであり、マイナンバー制度のインフラを活用した個人向けのポータルサイトです。マイナンバーカードを使って本人確認を行い、自分の情報を確認したり、行政機関からのお知らせを受け取ったり、各種の行政手続きをオンラインで行うことができる、いわば行政サービスのデジタル窓口です。

マイナポータルには、多様な機能が用意されています。「わたしの情報」という機能では、行政機関が保有している自分の個人情報を確認できます。所得情報、年金の加入履歴、介護保険の給付状況、児童手当の支給状況など、様々な情報を一か所で閲覧できるため、自分の状況を把握しやすくなっています。

「お知らせ」機能では、行政機関からの通知を電子的に受け取ることができます。自治体からのお知らせ、税金に関する情報、年金に関する通知などが、マイナポータルに届きます。郵送での通知を待つことなく、タイムリーに情報を受け取れるため、手続きの期限を見逃すリスクも減ります。

「手続きの検索・電子申請」機能は、マイナポータルの中核的な機能の一つです。引越しの際の住所変更、児童手当の申請、保育所の入所申請、介護保険の要介護認定申請など、様々な行政手続きをオンラインで行うことができます。平日の日中に窓口に行くことが難しい方でも、自宅から24時間いつでも申請できるため、利便性が大幅に向上しています。

「やりとり履歴」では、マイナポータルを通じて行った電子申請の履歴を確認できます。いつ、どのような申請を行ったか、その申請がどのような状態にあるかを把握できるため、安心して手続きを進められます。

「もっとつながる」機能では、e-Taxなどの外部サービスとの連携が可能です。確定申告の際に、マイナポータルから所得情報や控除情報を取得し、e-Taxに自動入力することで、申告作業が大幅に簡素化されます。

また、マイナポータルには健康・医療のページも用意されており、これが後述するパーソナルヘルスレコード機能の基盤となっています。自分の薬剤情報、健診結果、医療費通知情報などを確認できるため、健康管理に役立てることができます。

マイナポータルを利用するには、マイナンバーカードが必要です。パソコンで利用する場合は、ICカードリーダーまたはマイナンバーカード読取対応のスマートフォンが必要になります。スマートフォンのマイナポータルアプリを使えば、スマートフォン単体でも利用できます。

近年、マイナンバーカードの普及率は大幅に上昇しており、2024年には人口の大部分がマイナンバーカードを保有するようになりました。それに伴い、マイナポータルの利用者も増加しており、行政のデジタル化の基盤として定着しつつあります。

死亡時におけるマイナンバーカードとマイナポータルの取り扱い

大切な家族が亡くなり、市区町村に死亡届が提出され受理されると、故人のマイナンバーカードは自動的に失効します。システム上で処理が行われ、カードに記録されている電子証明書が無効化されるため、マイナンバーカードを使った本人確認やマイナポータルへのログインができなくなります。

同様に、マイナンバーカードを健康保険証として利用する機能も、自動的に使用できなくなります。令和3年(2021年)10月から、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるサービスが開始されましたが、死亡により健康保険の被保険者資格を失うため、この機能も停止されます。

重要な点は、遺族がマイナポータルで特別な手続きを行う必要がないことです。死亡届が受理された時点で、システム上で自動的に処理されます。遺族は、マイナポータルにログインして何かを操作する必要はありません。

スマートフォン用電子証明書についても同様です。マイナンバーカードの機能をスマートフォンに搭載できるサービスが提供されていますが、利用者が亡くなった場合、マイナポータルのアプリで特別な手続きを行う必要はありません。市区町村に死亡届が提出されると、証明書は自動的に失効します。

ただし、故人のマイナンバーカードの物理的な返却については、自治体によって対応が異なる場合があります。多くの自治体では、マイナンバーカードを市区町村の窓口に返却することを推奨しています。カードにはICチップが内蔵されており、個人情報が記録されているため、適切に処理することが望ましいとされています。返却されたカードは、自治体が責任を持って廃棄します。

一方、一部の自治体では、電子証明書が失効していれば、遺族が自宅で破棄しても問題ないとしている場合もあります。詳細は、お住まいの市区町村に確認することをお勧めします。

健康保険証の取り扱いについても注意が必要です。令和6年(2024年)12月2日以降、従来の紙やプラスチック製の健康保険証の新規発行は行われなくなりました。既に発行されている健康保険証は、有効期限(最長で令和7年(2025年)12月1日まで)内は引き続き使用可能です。

死亡により健康保険の被保険者資格を失った場合、遺族は勤務先の健康保険組合や、自治体の国民健康保険窓口で資格喪失の手続きを行う必要があります。会社員や公務員の場合は勤務先に、国民健康保険の場合は市区町村の窓口に連絡します。令和7年(2025年)12月1日以前に資格を喪失した場合は、健康保険証を返却する必要があります。令和7年(2025年)12月2日以降は、返却の必要はなく、各自で廃棄することができます。

代理人が亡くなった場合のマイナポータル手続き

マイナポータルには、本人が自分で手続きを行うことが困難な場合に備えて、代理人機能が用意されています。例えば、高齢の親が自分でパソコンやスマートフォンを操作することが難しい場合、子が代理人となって、親のマイナポータルにログインし、各種情報を確認したり、手続きを行ったりすることができます。

また、未成年の子どもの場合、親が法定代理人として子どものマイナポータルを利用することもあります。児童手当の申請や、子どもの健康情報の確認などに活用されています。

では、代理人が亡くなった場合や、委任者(本人)が亡くなった場合、どのような手続きが必要でしょうか。

代理人が亡くなった場合、委任者は代理人の代理権を削除する必要があります。具体的には、委任者が自分のマイナポータルにログインし、代理人の設定画面にアクセスします。そこで、亡くなった代理人を選択し、削除の操作を行います。これにより、亡くなった代理人のマイナンバーカードを使って委任者の情報にアクセスすることができなくなります。

代理人のマイナンバーカードは、前述の通り死亡届の受理により自動的に失効しますが、マイナポータルのシステム上で代理権の設定が残っている場合があるため、委任者側で削除の操作を行うことが推奨されています。

一方、委任者(本人)が亡くなった場合は、代理人が特別な手続きを行う必要はありません。死亡届が市区町村に受理されると、委任者のマイナンバーカードが失効し、それに伴ってマイナポータルのアカウントも自動的に使用できなくなります。代理権の設定も、システム上で無効化されます。

ただし、これらの手続きについては、サービスのアップデートや自治体によって詳細が異なる場合がありますので、不明な点があれば、マイナンバー総合フリーダイヤルや、お住まいの市区町村の窓口に問い合わせることをお勧めします。

パーソナルヘルスレコードとは

PHR(パーソナルヘルスレコード)は、「Personal Health Record」の略称で、個人の健康・医療・介護に関する情報を、本人が生涯にわたって管理・活用する仕組みのことです。従来、これらの情報は医療機関や健康保険組合、自治体などがそれぞれ個別に保有していましたが、個人が統合的に把握・管理できるようにすることで、より良い健康管理と医療の質の向上を目指すものです。

パーソナルヘルスレコードに含まれる情報は多岐にわたります。健診・検診データとして、職場や自治体で受けた定期健康診断の結果、特定健診(いわゆるメタボ健診)の結果、がん検診の結果などが含まれます。これらのデータを経年で見ることで、自分の健康状態の変化を把握できます。

医療情報としては、診療履歴、処方された薬の情報(電子版お薬手帳)、予防接種の記録などがあります。どの医療機関で、いつ、どのような診療を受けたか、どのような薬を処方されたかを記録しておくことで、医療機関を受診する際に正確な情報を伝えることができます。

保険情報として、医療費通知情報、保険給付の履歴なども記録されます。いつ、どの医療機関で、いくらの医療費がかかったかを把握することで、家計管理や確定申告の医療費控除の準備に役立ちます。

その他、日々の健康管理データとして、血圧、体重、歩数などのライフログデータ、食事記録、運動記録なども含まれることがあります。これらは主に個人が自分で記録するデータであり、日常的な健康管理に活用されます。

パーソナルヘルスレコードのメリットは多岐にわたります。まず、個人が自分の健康状態を継続的に把握できることで、生活習慣の改善や病気の予防につながります。健診結果で気になる数値があれば、早めに対策を講じることができます。

また、医療機関を受診する際に、過去の健診結果や現在服用している薬の情報を正確に伝えることができ、より適切な診療を受けることが可能になります。特に、複数の医療機関を受診している場合や、初めて受診する医療機関では、過去の医療情報が診療の質を大きく左右します。

さらに、引っ越しや転職で医療機関や健康保険組合が変わった場合でも、自分の健康情報を継続して管理できるという利点があります。従来は、転職すると以前の健診データにアクセスできなくなることがありましたが、パーソナルヘルスレコードがあれば、生涯を通じた健康管理が可能になります。

マイナポータルで利用できるパーソナルヘルスレコード機能

日本におけるパーソナルヘルスレコードの推進において、マイナポータルは中心的な役割を果たしています。マイナポータルには「健康・医療」のページがあり、ここで自分の薬剤情報、健診結果、医療費通知情報などを確認することができます。

具体的には、以下のような情報をマイナポータルで閲覧できます。薬剤情報として、医療機関や薬局で処方された薬の名称、用法・用量、処方日などの情報が記録されます。これは電子版のお薬手帳として機能します。紙のお薬手帳を持ち歩く必要がなく、スマートフォンがあればいつでも確認できるため、外出先で急に体調を崩して医療機関を受診する際にも便利です。

特定健診情報として、40歳以上の方を対象に実施されるメタボリックシンドロームに着目した健康診査の結果を確認できます。過去の健診結果を時系列で比較することも可能であり、体重や血圧、血糖値などの推移を把握できます。グラフ表示にも対応しており、視覚的に理解しやすくなっています。

医療費通知情報では、健康保険組合などから提供される医療費の情報を確認できます。いつ、どの医療機関で、いくらの医療費がかかったかを詳細に把握することができます。この情報は、確定申告の際の医療費控除の申請にも活用できます。従来は、領収書を一年分保管して集計する必要がありましたが、マイナポータルの情報を利用することで、手間が大幅に軽減されます。

ただし、マイナポータルで確認できる情報は、医療機関や健康保険組合からデータが提供されているものに限られます。すべての医療機関が対応しているわけではなく、特に小規模なクリニックなどでは、データ提供の体制が整っていない場合もあります。また、データの反映には一定の期間がかかる場合があり、受診した直後にすぐに情報が表示されるわけではありません。

マイナポータルのパーソナルヘルスレコード機能は、公的な健康情報を管理するための基盤として位置づけられています。政府が運営しているため、情報の信頼性が高く、セキュリティも厳重に管理されています。個人情報保護法や医療関連法規に基づいた適切な取り扱いが保証されており、安心して利用できます。

一方で、日々の血圧や体重の記録、食事や運動の記録など、より詳細で日常的な健康管理については、民間企業が提供する多様なパーソナルヘルスレコードサービスが充実しています。

民間パーソナルヘルスレコードサービスとの連携

マイナポータルが提供する公的パーソナルヘルスレコードサービスに加えて、民間企業による多様なサービスも存在します。これらのサービスには、それぞれ異なる特徴とメリットがあり、利用者のニーズに応じて選択できます。

民間パーソナルヘルスレコードサービスは、より柔軟で多様な機能を提供しています。例えば、スマートフォンのアプリで日々の血圧や体重、歩数などのライフログを簡単に記録できる機能があります。数値を入力するだけで自動的にグラフ化され、変化を視覚的に把握できます。

食事記録や運動記録の管理機能も充実しています。食事の写真を撮影するだけでカロリーを推定する機能や、運動の種類と時間を入力すると消費カロリーを計算する機能など、健康管理をサポートする様々な工夫が凝らされています。

健康に関するアドバイスやリマインダー機能も便利です。設定した目標に対する達成度を表示したり、薬を飲む時間や健診の予定をリマインドしたりする機能があります。健康管理を習慣化するのに役立ちます。

また、ウェアラブルデバイス(スマートウォッチやフィットネストラッカー)と連携して、自動的にデータを記録する機能を持つサービスも多くあります。歩数や心拍数、睡眠時間などが自動的に記録され、手間なく健康データを蓄積できます。

さらに、家族の健康情報を一緒に管理できる機能や、かかりつけ医とデータを共有できる機能を持つサービスもあります。高齢の親の健康状態を離れて暮らす子どもが見守ることができたり、医師が患者の日常的な健康データを診療に活用できたりします。

民間パーソナルヘルスレコードサービスの中には、マイナポータルと連携できるものもあります。マイナポータルから取得した公的な健診データや薬剤情報を、民間サービスのアプリに取り込むことができます。これにより、公的な健康情報と個人が記録した日々の健康データを統合的に管理することが可能になります。

総合的に見ると、マイナポータルの公的パーソナルヘルスレコードは信頼性の高い基盤情報を提供し、民間サービスはより詳細で日常的な健康管理をサポートするという役割分担がなされています。両者を組み合わせて活用することで、最も効果的な健康管理が実現できます。

パーソナルヘルスレコードの課題と今後の展望

パーソナルヘルスレコードには多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。これらの課題に対処することが、パーソナルヘルスレコードのさらなる普及と有効活用につながります。

まず、データの標準化と相互運用性の問題があります。医療機関や健康保険組合、民間サービスなど、様々な主体が異なる形式でデータを管理しているため、これらを統合的に扱うことが技術的に難しい面があります。国は、医療情報のデータ標準化を進め、異なるシステム間でのデータ交換を円滑にするための取り組みを行っています。HL7 FHIRという国際標準規格の採用も進められており、将来的にはシームレスなデータ連携が実現することが期待されています。

次に、個人情報保護とセキュリティの問題があります。健康情報は極めて機微な個人情報であり、その取り扱いには最大限の注意が必要です。不正アクセスや情報漏洩を防ぐための技術的対策、法的規制の整備が継続的に行われています。マイナポータルでは、二要素認証やアクセスログの記録など、厳重なセキュリティ対策が講じられています。民間サービスを選ぶ際にも、個人情報保護方針やセキュリティ対策を確認することが重要です。

また、デジタルデバイドの問題も無視できません。高齢者など、デジタル機器の操作に不慣れな人々にとって、パーソナルヘルスレコードサービスの利用は容易ではありません。誰もが利用しやすいインターフェースの開発や、デジタル支援の充実が求められています。自治体や地域のボランティアによるデジタル活用支援の取り組みも広がっており、高齢者がスマートフォンやマイナポータルを使えるようサポートする活動が行われています。

さらに、医療機関側のシステム対応の問題もあります。パーソナルヘルスレコードを効果的に活用するためには、医療機関が電子カルテシステムを導入し、データを外部に提供できる仕組みを整える必要があります。しかし、特に小規模な医療機関では、システム導入のコストや手間が障壁となっています。政府は、医療機関のICT化を支援するための補助金制度を設けるなど、環境整備を進めています。

今後の展望としては、5Gなどの通信技術の発展により、リアルタイムでの健康データの収集・分析が可能になることが期待されています。ウェアラブルデバイスから常時データを収集し、異常があれば即座に本人や医療機関に通知する、といったサービスが実現しつつあります。

また、AI(人工知能)を活用した健康リスクの予測や、個人に最適化された健康アドバイスの提供なども実現されつつあります。過去の健診データや日々の生活データを分析し、将来の疾病リスクを予測したり、個別化された予防プログラムを提案したりするサービスが登場しています。

政府は、2030年までに健康寿命を延伸するという目標を掲げており、パーソナルヘルスレコードの普及はその重要な手段の一つと位置づけられています。マイナポータルを中心とした公的パーソナルヘルスレコードの基盤整備と、民間サービスの創意工夫による多様なサービス提供の両輪で、パーソナルヘルスレコードの普及が進むことが期待されています。

死亡後のパーソナルヘルスレコードデータの取り扱い

パーソナルヘルスレコードに記録された個人の健康情報は、本人が亡くなった後、どのように取り扱われるのでしょうか。この点については、プライバシー保護と遺族の必要性のバランスという観点から、現在も議論が続いています。

マイナポータルの場合、前述のとおり、死亡届が受理されるとマイナンバーカードが失効し、それに伴ってマイナポータルのアカウントも使用できなくなります。これにより、マイナポータルに記録されていたパーソナルヘルスレコードデータへのアクセスも自動的にできなくなります。

ただし、データそのものがすぐに削除されるわけではありません。一定期間は保管され、相続手続きなどで必要になった場合に、正当な権限を持つ遺族が一定の手続きを経て取得できる可能性があります。しかし、具体的な取り扱いについては、個人情報保護の観点から慎重に検討されており、明確な制度が確立されているとは言い難い状況です。

民間パーソナルヘルスレコードサービスの場合、各サービスの利用規約によって取り扱いが異なります。多くのサービスでは、利用者が亡くなった場合の対応について規約に記載していますが、その内容はサービスによって様々です。

遺族がデータにアクセスできる場合もあれば、プライバシー保護の観点から一切のアクセスを認めない場合もあります。また、一定期間経過後にデータを削除する規定を設けているサービスもあります。利用しているサービスがどのような方針を取っているか、利用規約を確認しておくことが望ましいでしょう。

健康情報は極めて個人的な情報であり、本人の意思が最大限尊重されるべきです。一方で、遺族にとっては、相続手続きや医療費の確認、あるいは家族の健康管理の参考として、故人の健康情報が必要になることもあります。特に、遺伝性の疾患に関する情報は、家族の健康管理に重要な意味を持つことがあります。

この両者のバランスをどう取るかは、今後の社会的な議論が必要な課題です。場合によっては、本人が生前に、自分の健康情報を死後どのように扱ってほしいかを意思表示しておく仕組みも有効かもしれません。デジタル遺産の取り扱いという、より広い文脈での議論も必要とされています。

相続登記の義務化とデジタル化

死亡に伴う手続きに関連して、令和6年(2024年)4月から相続登記が義務化されました。これは、所有者不明土地の発生を防ぐための重要な制度改正であり、死亡・相続手続き全体に大きな影響を与えています。

相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった場合に、相続人が自分の名義に登記を変更する手続きです。従来は任意でしたが、義務化により、相続を知ってから3年以内に登記を行わなければ、10万円以下の過料が科される可能性があります。

日本では長年、相続登記が放置されるケースが多く、その結果、誰が所有者なのか分からない土地が全国で増加していました。これが公共事業の妨げになったり、土地の有効活用が阻害されたりする問題が深刻化していました。義務化は、この問題を解決するための重要な一歩です。

相続登記の手続きについても、デジタル化が進められています。法務局では、オンラインでの登記申請を推進しており、自宅からインターネットを通じて申請することが可能です。申請用総合ソフトという専用ソフトウェアを使用しますが、操作方法については法務局のウェブサイトで詳しく説明されています。

また、前述の戸籍情報連携システムの稼働により、相続登記の際に必要だった多数の戸籍謄本の添付が、一定の条件下で省略できるようになりました。これにより、相続人の負担が大幅に軽減されています。

さらに、法務局では法定相続情報証明制度を提供しています。この制度を利用すると、法定相続人が誰であるかを証明する一覧図を法務局が認証してくれます。一度この一覧図を取得すれば、金融機関や年金事務所など、複数の機関での相続手続きで戸籍謄本の束を提出する代わりに、この一覧図一枚で済ませることができます。無料で何通でも発行してもらえるため、非常に便利です。

相続登記の義務化と、これに伴うデジタル化の推進は、死亡・相続ワンストップサービスの重要な構成要素となっています。不動産を所有している方が亡くなった場合、遺族は期限内に確実に相続登記を行う必要があるため、この点への理解と準備が重要です。

金融機関における死亡手続きのデジタル化

家族が亡くなった際の手続きの中で、金融機関での手続きは特に負担が大きいとされています。複数の銀行に口座がある場合、それぞれの銀行で個別に手続きを行う必要があり、多くの時間と労力がかかります。

従来、金融機関での死亡手続きは、窓口に直接出向いて書類を提出する必要がありました。必要な書類も多く、戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書など、準備に時間がかかるものばかりです。しかも、金融機関によって必要な書類が微妙に異なることもあり、混乱の原因となっていました。

近年、金融機関でも死亡手続きのデジタル化が進められています。一部の金融機関では、オンラインでの死亡届の受付や、相続手続きの一部をウェブサイトやアプリで行えるサービスを開始しています。必要書類のアップロード機能や、手続きの進捗状況をオンラインで確認できる機能などが提供されています。

また、全国銀行協会では、故人の銀行口座を一括で照会できる預金等の照会制度を提供しています。これにより、故人がどの銀行に口座を持っていたかを調べることができます。遺族が知らなかった口座が見つかることもあり、相続財産の把握に役立ちます。ただし、この制度自体は完全にデジタル化されているわけではなく、書面での申請が必要な場合が多いです。

政府の死亡・相続ワンストップサービスの取り組みでは、金融機関との連携も視野に入れられています。将来的には、行政機関での手続きと金融機関での手続きをより密接に連携させ、遺族の負担をさらに軽減することが目指されています。例えば、死亡届が受理された情報が金融機関にも共有され、自動的に口座が凍結されるとともに、遺族への案内が開始されるといった仕組みが検討されています。

ただし、金融機関は民間企業であり、行政機関とは異なる法的枠組みで運営されています。そのため、完全な一元化やワンストップ化には、法的・技術的な課題が多く残されています。個人情報保護法や銀行法などの規制との整合性を図りながら、慎重に進める必要があります。

年金手続きとマイナンバーの活用

死亡に伴う重要な手続きの一つに、年金に関する手続きがあります。故人が年金を受給していた場合は年金の停止手続きを、遺族が遺族年金を受給する要件を満たす場合は遺族年金の請求を行う必要があります。

年金事務所での手続きについても、マイナンバーの活用によって簡素化が進められています。マイナンバーを提供することで、戸籍謄本や住民票などの添付書類の一部を省略できる場合があります。従来は多くの書類を揃える必要がありましたが、マイナンバー制度の活用により、行政機関間で情報を共有できるようになったため、遺族の負担が軽減されています。

また、日本年金機構では、ねんきんネットというオンラインサービスを提供しています。このサービスでは、自分の年金記録を確認したり、将来の年金見込額を試算したりすることができます。マイナポータルと連携することで、ねんきんネットへのログインも簡素化されています。マイナポータルからシームレスにねんきんネットにアクセスできるため、利便性が向上しています。

死亡届が市区町村に提出されると、その情報は年金事務所にも連携されます。マイナンバー制度により、自治体から日本年金機構への情報提供が自動的に行われるようになっています。ただし、年金の種類や状況によっては、遺族が別途年金事務所に連絡する必要がある場合もあります。特に、遺族年金を請求する場合は、自ら申請しなければ受給できないため、注意が必要です。

遺族年金の請求については、現在でも年金事務所での対面手続きが基本となっていますが、一部の書類はオンラインで提出できるようになってきています。今後、さらなるデジタル化の進展が期待されており、将来的にはマイナポータルから遺族年金の請求ができるようになる可能性もあります。

年金は多くの高齢者にとって重要な収入源であり、適切な手続きを行うことが不可欠です。不明な点があれば、年金事務所や街角の年金相談センターに相談することをお勧めします。電話での相談も可能であり、ねんきんダイヤルが設置されています。

これからの死亡・相続手続きのデジタル化

2025年1月時点において、死亡届そのもののオンライン提出はまだ実現していません。死亡届は、依然として市区町村の窓口に紙の書類を提出する必要があります。医療文書の電子化、戸籍制度の信頼性確保、遺族の心理的負担への配慮など、様々な理由から、すぐにオンライン化することは難しい状況です。

しかし、死亡届提出後の各種手続きについては、デジタル化とワンストップ化が着実に進められています。デジタル庁を中心とした死亡・相続ワンストップサービスの取り組み、おくやみコーナーの全国展開、戸籍情報連携システムの稼働、相続登記のオンライン申請など、遺族の負担を軽減するための施策が次々と実施されています。

マイナポータルは、行政手続きのデジタル化の基盤として重要な役割を果たしており、健康・医療情報の管理(パーソナルヘルスレコード)機能も充実してきています。死亡届が受理されると、マイナンバーカードやマイナポータルのアカウントは自動的に失効する仕組みが整備されており、遺族が特別な手続きを行う必要がないという点も、負担軽減につながっています。

パーソナルヘルスレコードについては、個人の健康管理の向上や医療の質の改善に大きな可能性を持つ一方で、データの標準化、個人情報保護、デジタルデバイドなどの課題も存在します。特に、死亡後のパーソナルヘルスレコードデータの取り扱いについては、プライバシー保護と遺族の必要性のバランスを取ることが今後の課題となっています。

今後、技術の進歩と制度の整備により、死亡届のオンライン提出が実現する可能性もあります。ただし、死亡という極めてデリケートな状況において、デジタル化と人間的な対応のバランスをどう取るかが重要な検討課題となるでしょう。

行政のデジタル化は、単に手続きを電子化することだけが目的ではありません。国民の利便性を向上させ、負担を軽減し、より良いサービスを提供することが本来の目的です。死亡・相続に関する手続きのデジタル化においても、この基本理念が貫かれることが期待されます。

高齢化が進む日本において、死亡・相続に関する手続きは、多くの国民が直面する課題です。これらの手続きを可能な限り簡素化し、遺族の心理的・時間的負担を軽減することは、社会全体の福祉向上につながります。

マイナポータル、パーソナルヘルスレコード、おくやみコーナー、各種のワンストップサービスなど、現在進められている取り組みが有機的に連携し、誰もが利用しやすい制度として成熟していくことが望まれます。そして、デジタル技術を活用しつつも、人間的な温かみのある対応が提供される、バランスの取れた社会の実現が期待されています。

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