2025年は、インフルエンザの流行が例年よりも大幅に早まり、全国的に懸念が広がっています。特に東京都においては、10月初旬に流行シーズンに入ったことが発表され、その後12月には5年ぶりに流行警報基準を超える事態となりました。都内の学校では学級閉鎖が相次ぎ、保護者や教育現場は対応に追われています。インフルエンザは誰もが知る身近な感染症ですが、その影響は子どもから高齢者まで幅広く、重症化すれば命に関わる合併症を引き起こすこともあります。今回の早期流行は、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着き、人々の活動が活発化したことや、過去数年間インフルエンザの大きな流行がなかったために多くの人々の免疫が低下していることが背景にあると考えられています。この記事では、東京都におけるインフルエンザ流行警報の現状と、学級閉鎖の基準や対応、そして家庭でできる予防策について、詳しく解説していきます。

2025年の東京都におけるインフルエンザ流行の実態
2025年のインフルエンザシーズンは、過去に例を見ないほど早い時期から始まりました。厚生労働省は10月3日に、インフルエンザが全国的に流行入りしたことを正式に発表しています。通常であれば11月下旬から3月頃にかけて流行が見られますが、今年は9月末頃から徐々に患者数が増加し始めており、約1ヶ月以上早い流行入りとなっています。
東京都では、10月2日にインフルエンザの流行シーズンに入ったことが発表されました。その後の推移を見ると、10月20日から10月26日の週、いわゆる第43週には、都内の定点医療機関からの患者報告数が定点当たり10.37人となり、東京都の注意報基準である10人を超える状況となりました。さらに、12月16日から12月22日の週には、患者報告数が40.02人に達し、5年ぶりに東京都の警報基準である30人を大きく上回る事態となっています。
この数字が意味するのは、都内全域で大規模な流行が発生しているということです。定点医療機関とは、感染症の発生動向を把握するために指定された医療機関のことで、東京都内には419ヶ所のインフルエンザ定点医療機関が設置されています。これらの医療機関から報告されるデータを基に、保健所管轄地域ごとの流行状況が分析されています。
流行警報と注意報の意味するもの
インフルエンザの流行状況を把握するために、都道府県では注意報と警報という2つの基準を設けています。これらは定点医療機関からの患者報告数に基づいて判断され、地域の感染対策の指標として活用されています。
注意報基準は、定点医療機関からの患者報告数が定点当たり10人以上となった場合に該当します。注意報レベルに達すると、流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いことを示し、流行の発生後であれば流行が継続していると疑われることを意味します。この段階では、医療機関や学校、福祉施設などが感染対策を強化し、警戒を高める必要があります。
一方、警報基準は定点当たり患者報告数が30人以上となった場合に発令されます。警報レベルに達すると、大規模な流行が発生していると考えられ、より一層の注意と対策が必要となります。この段階では、学級閉鎖や集団感染対策が積極的に実施され、地域全体での感染拡大防止が求められます。
ただし、これらの注意報や警報は、あくまで流行状況の指標であり、自治体が正式に発令する災害警報とは異なる性質のものです。医療機関や保健所が流行の程度を把握し、適切な対策を講じるための目安として機能しています。住民は、これらの情報を参考にしながら、自主的に予防行動を強化することが重要です。
東京都内の地域別感染状況と傾向
東京都感染症情報センターでは、都内419ヶ所のインフルエンザ定点医療機関からのデータを基に、保健所管轄地域ごとの流行状況を詳細に監視しています。東京都内には31の保健所管轄地域があり、それぞれの地域で感染状況が異なっています。
2025年10月20日から10月26日の週のデータを見ると、31の保健所管轄地域のうち14地域で定点当たり10.0人を超える報告がありました。特に感染者数が多かった地域を見ていくと、文京区が19.29人と最も高い報告数を記録しました。続いて中野区が18.90人、池袋保健所管轄地域が18.50人、荒川区が17.71人、目黒区が14.88人、町田市が14.85人、世田谷区が14.33人と続いています。
さらに江東区が12.93人、江戸川区が12.79人、多摩小平保健所管轄地域が12.22人、港区が11.89人、杉並区が10.59人、多摩府中保健所管轄地域が10.42人、八王子市が10.33人という状況でした。
この地域別データから分かるのは、東京都内でも地域によって流行の程度に大きな差があるということです。特に23区内の中央部や北部地域で患者数が多い傾向が見られます。これらの地域では人口密度が高く、学校や保育施設が集中していることから、集団感染のリスクが高まりやすいと考えられます。
感染者数の多い地域では、学級閉鎖などの集団感染対策がより積極的に実施される可能性が高くなります。また、通勤や通学で人の移動が多い地域では、周辺地域への感染拡大のリスクも高まります。住民は自分が住む地域や通勤・通学先の地域の流行状況を把握し、適切な予防行動を取ることが重要です。
学級閉鎖の基準と実施の実際
学級閉鎖は、学校や幼稚園、保育園などで感染症が集団発生した際に、感染拡大を防ぐために実施される重要な措置です。しかし、学級閉鎖の基準は全国一律に定められているわけではなく、各学校や自治体によって若干の違いがあります。
一般的な目安として、文部科学省が発行する「学校保健ハンドブック」では、欠席率が20%に達した場合に学級閉鎖を実施することが多いとされています。これは、クラスの約5人に1人が欠席している状態を意味します。例えば、40人のクラスであれば8人が欠席した段階で学級閉鎖が検討されることになります。
東京都の場合、新型インフルエンザに関する特別な基準として、クラスの約10%以上の生徒が欠席した場合に学級閉鎖を検討するとされており、標準的な閉鎖期間は4日間とされています。ただし、この基準は新型インフルエンザに特化したものであり、季節性インフルエンザの場合は、地域の流行状況や学校の実情に応じて、より柔軟に判断されることがあります。
学級閉鎖の実施を決定する際には、学校長が最終的な判断を行いますが、その前に学校医や保健所の意見を聴取することが重要とされています。感染の状況だけでなく、欠席者の症状の重さ、地域全体の流行状況、他のクラスや学年での発生状況などを総合的に考慮して判断されます。
複数のクラスで同時に感染が広がった場合は学年閉鎖が、さらに複数の学年にまたがって感染が拡大した場合は学校全体の閉鎖が検討されます。2025年9月1日から10月26日までの期間において、東京都内の学校や社会福祉施設では、インフルエンザ様疾患による集団発生が562件報告されました。これは例年に比べて非常に多い件数であり、早い時期から多くの集団感染が発生していることを示しています。
学級閉鎖の期間中、児童生徒は自宅待機となります。この期間は単なる休みではなく、感染拡大を防ぐための重要な措置です。そのため、感染していない児童生徒であっても、外出を控え、習い事や買い物などへの外出は避けることが望ましいとされています。
インフルエンザの特徴的な症状と早期診断の重要性
インフルエンザウイルスに感染すると、特徴的な症状が急激に現れます。普通の風邪とは明確に異なる点があり、それを理解しておくことが早期発見と適切な対応につながります。
最も特徴的なのは、38度以上の高熱が突然発症することです。朝は元気だったのに、昼過ぎには急に高熱が出るというような、急激な発症が典型的です。この突然の高熱に加えて、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感などの全身症状が強く現れます。
これらの全身症状に加えて、咳、鼻水、喉の痛みなどの呼吸器症状も見られますが、普通の風邪と比べて全身症状の方がより強く現れる傾向があります。普通の風邪では、鼻水や喉の痛みが主な症状で、発熱があっても軽度であることが多いのに対し、インフルエンザでは全身がだるく、動くのもつらいという状態になります。
インフルエンザの診断は、医療機関で迅速に行うことができます。鼻腔から綿棒で検体を採取し、抗原検査を実施することで、その場で診断結果を得ることができます。この検査は約15分程度で結果が判明するため、受診したその日のうちに治療を開始することが可能です。
ただし、注意すべき点があります。発症直後、特に発熱から6時間以内に受診した場合は、体内のウイルス量がまだ十分でないため、検査で陽性反応が出ないことがあります。そのため、症状が出てからある程度時間が経過してから受診することが推奨されますが、一方で治療薬の効果を考えると、発症から48時間以内に受診することが重要です。このバランスを考えると、発熱から6時間以上経過し、かつ48時間以内というタイミングが理想的な受診時期となります。
抗インフルエンザ治療薬の種類と効果的な使用
2025年現在、日本では6種類の抗インフルエンザウイルス薬が承認されており、医療機関で処方されています。それぞれの薬には特徴があり、患者の年齢や症状、生活状況に応じて適切な薬が選択されます。
1つ目はオセルタミビルリン酸塩で、商品名はタミフルです。これは最も広く知られている内服薬で、1日2回、5日間服用します。カプセル剤とドライシロップ剤があり、小児から成人まで広く使用されています。
2つ目はザナミビル水和物で、商品名はリレンザです。これは吸入薬で、1日2回、5日間吸入します。吸入器を使用するため、正しい吸入方法を理解する必要があります。
3つ目はペラミビル水和物で、商品名はラピアクタです。これは点滴薬で、1回の投与で治療が完了します。内服や吸入が難しい患者や、重症例に使用されることが多いです。
4つ目はラニナミビルオクタン酸エステル水和物で、商品名はイナビルです。これも吸入薬で、1回の吸入で治療が完了します。服薬管理が簡単なため、忙しい社会人などに選ばれることが多いです。
5つ目はアマンタジン塩酸塩で、商品名はシンメトレルです。これはA型インフルエンザにのみ有効な内服薬で、現在は耐性ウイルスの問題もあり、使用頻度は減少しています。
6つ目はバロキサビル マルボキシルで、商品名はゾフルーザです。これは比較的新しい内服薬で、1回の服用で治療が完了します。ウイルスの増殖を抑える仕組みが他の薬と異なり、効果的とされています。
これらの抗インフルエンザウイルス薬は、適切な時期に服用を開始することが極めて重要です。発症から48時間以内に服用を開始すると、発熱期間が通常1から2日間短縮され、鼻や喉からのウイルス排出量も減少します。しかし、症状が出てから2日以上経過してから服用を開始した場合、十分な効果は期待できません。
そのため、インフルエンザが疑われる症状が出た場合は、できるだけ早く医療機関を受診することが推奨されます。特に、小児や高齢者、基礎疾患を持つ方、妊娠中の方など、重症化リスクが高い人々は、早期の受診と治療開始がより一層重要となります。
インフルエンザワクチンの最新情報と接種の重要性
インフルエンザの予防には、ワクチン接種が最も効果的な方法の一つです。毎年、その年に流行が予測されるウイルス株に合わせてワクチンが製造され、流行期前に接種することが推奨されています。
2025年から2026年シーズンのインフルエンザワクチンには、重要な変更がありました。従来のワクチンは、A型2価とB型2価の計4価ワクチンでしたが、2025/2026シーズンからは、B型を1価とした3価ワクチンに切り替えられました。これは、近年の流行状況の分析に基づいた変更で、より効果的な予防を目指しています。
ワクチンの供給量については、2025/2026シーズンは約5293万回分が供給される見込みで、これは近年の平均使用量を超える十分な量となっています。供給不足の心配はないため、慌てずに計画的に接種を受けることができます。
ワクチンの効果については、実際のデータがあります。2024/2025シーズンの実績データによると、米国における全体の予防効果は56%、欧州では32%から56%、日本の小児では57%から73%と良好な結果が報告されています。
一般的なインフルエンザワクチンの効果として、発症予防効果は約41%、入院予防効果は約44%と報告されています。ただし、ウイルスの型によって効果が異なり、H1N1株では約55%、H3N2株では約27%となっています。
ワクチン接種の最も重要な効果は、重症化を予防することです。ワクチンを接種していても感染する可能性はありますが、重症化して入院したり、合併症を起こしたりするリスクを大幅に減らすことができます。特に小児や高齢者、基礎疾患を持つ方、妊娠中の方など、重症化リスクが高い人々にとって、ワクチン接種は極めて重要です。
接種時期については、2025年はインフルエンザが例年より早く流行入りしているため、例年よりも早めの接種が望ましいとされています。厚生労働省のガイドラインでは、流行が本格化する前の10月から12月中旬までに接種を済ませることを推奨しています。
ワクチンの効果が現れるまでには、接種後約2週間かかるため、流行期に入る前に余裕を持って接種することが大切です。既に流行が始まっている2025年の状況では、できるだけ早く接種を受けることが推奨されます。
家庭でできる効果的な予防対策
インフルエンザの感染経路は主に2つあります。1つは飛沫感染で、感染者の咳やくしゃみによって飛散したウイルスを含む飛沫を吸い込むことで感染します。もう1つは接触感染で、ウイルスが付着した物や表面に触れた手で、口や鼻、目などを触ることで感染します。
これらの感染経路を遮断するために、家庭でできる効果的な予防対策があります。
まず最も基本的で重要なのが、手洗いです。外出から帰宅した時、調理の前後、食事の前、トイレの後など、こまめに手を洗うことが推奨されます。石鹸を使って、指の間、爪の間、手首まで丁寧に洗います。手洗いは、手や指に付着したインフルエンザウイルスを物理的に除去する有効な方法であり、感染症予防の基本的な実践です。流水で15秒以上、石鹸を使って30秒以上かけて丁寧に洗うことが理想的です。
次に重要なのがマスクの着用です。特に人混みや公共交通機関を利用する際、また学校や職場などでは、不織布マスクの着用が効果的です。マスクは口と鼻にバリアを作り、飛沫の吸入や飛散を防ぎます。また、マスクは口や鼻の乾燥を防ぐ効果もあり、粘膜のウイルス侵入防御機能を維持するのに役立ちます。
咳エチケットも重要な予防策です。咳やくしゃみをする際は、ティッシュやハンカチ、袖で口と鼻を覆います。手で覆うと、その手で触れたものにウイルスが付着してしまうため、避けるべきです。咳やくしゃみの飛沫は、約2メートル先まで飛ぶと言われており、周囲の人への配慮として咳エチケットを守ることが重要です。
室内の環境管理も予防に有効です。室内の湿度を50%から60%に保つことで、喉の粘膜の防御機能を維持することができます。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりすることで、適切な湿度を保つことができます。乾燥した空気は、喉の粘膜の防御機能を低下させ、ウイルスに感染しやすくなります。特に冬季は暖房により室内が乾燥しやすいため、意識的に加湿することが重要です。
定期的な換気も重要です。室内の空気を入れ替えることで、空気中のウイルス濃度を下げることができます。1時間に1回程度、窓を開けて換気することが推奨されます。寒い時期でも、短時間の換気を定期的に行うことで、室内の空気を清潔に保つことができます。
家庭内での感染対策と二次感染の防止
家族の誰かがインフルエンザに感染した場合、家庭内での二次感染を防ぐための対策が極めて重要になります。家庭内は最も濃厚接触が起こりやすい場所であり、適切な対策を取らなければ、家族全員が感染してしまうリスクが高まります。
まず、感染者と非感染者を可能な限り別の部屋で過ごさせることが推奨されます。感染者専用の部屋を設け、その部屋で療養してもらうことが理想的です。同じ部屋にいる必要がある場合は、できるだけ距離を保ち、少なくとも2メートル以上離れることが望ましいです。
看病する家族は、マスクを着用し、看病の前後には必ず手を洗います。感染者もマスクを着用することで、ウイルスの拡散を防ぐことができます。不織布マスクの使用が推奨されます。布マスクよりも不織布マスクの方が、ウイルスの飛散を防ぐ効果が高いとされています。
家庭内でよく触れる場所の消毒も効果的です。ドアノブ、トイレの便座、電気のスイッチ、手すりなどは、消毒液を使って定期的に拭き取ります。これらの場所は複数の人が触れるため、ウイルスが付着しやすく、接触感染の原因となります。アルコール消毒液や次亜塩素酸ナトリウム液を使用して、1日に数回拭き取ることが推奨されます。
感染者が使用したティッシュやマスクは、ビニール袋に入れて密封してから捨てます。これにより、ウイルスの飛散を防ぐことができます。ゴミ箱にも蓋付きのものを使用し、ウイルスが空気中に拡散しないようにします。
感染者が使用した食器やタオルは、他の家族のものと分けて洗います。食器は通常の洗剤で十分に洗浄すれば、ウイルスを除去できます。タオルは共用せず、感染者専用のものを用意することが重要です。洗濯物も分けて洗う必要はありませんが、通常の洗剤を使って洗濯すれば問題ありません。
感染者の部屋も定期的に換気を行います。ウイルスを含んだ空気を外に出し、新鮮な空気を取り入れることで、室内のウイルス濃度を下げることができます。
学校における出席停止期間の正しい理解
インフルエンザに感染した場合、学校保健安全法により、出席停止期間が定められています。これは、学校内での感染拡大を防ぐための重要な措置であり、保護者は正確に理解しておく必要があります。
小学生以上の児童生徒の場合、登校可能となるのは「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日を経過してから」とされています。この2つの条件は、両方とも満たす必要があり、どちらか一方だけでは登校できません。
幼稚園児や保育園児の場合は、より長い期間が設定されており、「発症した後5日を経過し、かつ解熱した後3日を経過してから」登園可能となります。これは、幼児は小学生以上の児童に比べて免疫力が低く、また集団生活での感染リスクが高いためです。
ここで重要なのは、「発症日」と「解熱日」を0日目として計算することです。例えば、月曜日に発熱した場合、その月曜日が発症0日目となり、火曜日が発症1日目、水曜日が発症2日目と数えます。発症後5日を経過するということは、発症日から6日目以降ということになります。
また、解熱日も同様に、解熱した日を0日目として計算します。例えば、水曜日に解熱した場合、その水曜日が解熱0日目となり、木曜日が解熱1日目、金曜日が解熱2日目となります。解熱後2日を経過するということは、解熱日から3日目以降ということになります。
具体例で考えてみましょう。月曜日に発熱して発症し、木曜日に解熱したとします。月曜日が発症0日目なので、発症後5日を経過するのは土曜日です。一方、木曜日が解熱0日目なので、解熱後2日を経過するのは日曜日です。この場合、両方の条件を満たすのは日曜日以降なので、月曜日から登校可能となります。
これらの期間は最低限の基準であり、症状が完全に回復していない場合は、さらに休養を取ることが推奨されます。咳が続いている、だるさが残っているなどの症状がある場合は、無理に登校させず、完全に回復してから登校させることが、本人の健康のためにも、他の児童生徒への配慮としても重要です。
重要なのは、熱が一旦下がった後に再び上昇した場合です。この場合、最後に解熱した日を解熱日として、そこから改めて日数を数え直します。熱の上下が繰り返される場合は、最終的に解熱した日を基準とするため、注意が必要です。
職場における対応と社会的責任
インフルエンザは「5類感染症」に位置づけられており、法律的には出勤停止期間は定められていません。職場での対応は、各企業や事業所の規定によって異なります。
しかし、感染拡大を防ぐという観点から、多くの企業では自主的な出勤停止期間を設けています。一般的には、学校の出席停止期間と同様に、発症後5日間かつ解熱後2日間程度の休養を推奨している企業が多いです。
療養期間については、個人や事業者の判断に委ねられますが、症状が続いている間は出勤を控え、十分に回復してから職場に復帰することが、本人の健康のためだけでなく、職場の同僚への配慮としても重要です。特に、接客業や医療・介護など、多くの人と接する仕事の場合は、より慎重な判断が求められます。
インフルエンザ感染から回復し、職場や学校へ復帰する際、治癒証明書や陰性証明書の提出は、基本的に不要とされています。これは、医療機関への負担を軽減するためと、症状が消失すれば感染力がほぼなくなると考えられているためです。
ただし、企業や学校によっては独自の規定を設けている場合もあるため、事前に確認することが推奨されます。医療機関では、治癒証明書の発行を求められた場合でも、文書料が発生することがあり、また診察が必要な場合もあります。
企業には、従業員が体調不良の際に休みやすい環境を整えることが求められます。無理な出勤は、職場での感染拡大につながるだけでなく、本人の回復を遅らせます。リモートワークの活用や、柔軟な勤務体制の導入も、感染拡大防止に有効です。
子どもの重症化リスクとインフルエンザ脳症
インフルエンザは、多くの場合、適切な治療と休養により回復しますが、一部の患者では重症化し、深刻な合併症を引き起こすことがあります。特に注意が必要なのは、小児と高齢者です。
小児の場合、最も懸念される合併症の一つがインフルエンザ脳症です。インフルエンザ脳症は主に小児に多く見られ、特に5歳以下、中でも1歳から2歳の幼児に集中して発生しています。
日本では、1年間におよそ100人から300人の小児がインフルエンザ脳症を発症していると報告されています。この疾患の深刻さは、その死亡率と後遺症の発生率の高さにあります。インフルエンザ脳症の死亡率は約30%と非常に高く、また生存した場合でも約25%の子どもに後遺症が見られます。
インフルエンザ脳症の初期症状として最も多いのは、けいれん発作または意識障害です。意識障害には、傾眠状態、つまり呼びかけへの反応が鈍い状態や、異常行動、異常言動などがあります。
保護者が注意すべき異常行動としては、急に走り出す、部屋から飛び出そうとする、意味不明な言葉を発する、幻覚を見ているような様子などがあります。これらの症状が見られた場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。特に、夜間であっても緊急性が高いため、救急外来を受診することが推奨されます。
インフルエンザ脳症を予防するための最も効果的な方法は、インフルエンザワクチンの接種です。ワクチン接種により、インフルエンザ感染そのものを予防し、感染した場合でも重症化を防ぐことができます。
また、かつては解熱剤の使用がインフルエンザ脳症のリスクを高めるとされていましたが、現在では適切な解熱剤を使用すれば問題ないとされています。ただし、アスピリンなど一部の解熱剤は小児に使用すべきではないとされているため、医師の指示に従うことが重要です。
高齢者の重症化リスクと細菌性肺炎
高齢者の場合、インフルエンザによる重症化の最も大きなリスクは、二次性細菌性肺炎です。
生理機能の低下した高齢者がインフルエンザウイルスに感染すると、気道粘膜や全身の抵抗力がさらに低下します。そのため、通常であれば問題にならない細菌にも感染しやすくなり、その結果、細菌性の肺炎を発症しやすくなります。
細菌性肺炎は、インフルエンザウイルスによる肺炎よりも重篤になりやすく、入院が必要となることが多いです。特に、基礎疾患を持つ高齢者や、慢性呼吸器疾患、心疾患、糖尿病などを患っている方は、肺炎のリスクがさらに高まります。
高齢者の場合、インフルエンザの初期症状が分かりにくいこともあります。若年者のように急激な高熱が出ないこともあり、食欲不振や元気がないといった漠然とした症状のみで始まることもあります。
そのため、高齢者の家族や介護者は、インフルエンザの流行時期には、高齢者のわずかな体調の変化にも注意を払う必要があります。いつもより食欲がない、会話が少ない、動作が緩慢になっているなどの変化が見られた場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。
高齢者におけるインフルエンザの重症化を防ぐためには、ワクチン接種が極めて重要です。高齢者の場合、ワクチンの発症予防効果は若年者よりやや低いとされていますが、重症化を防ぐ効果は十分に認められています。特に、入院や死亡のリスクを大幅に減らすことができます。
また、高齢者施設などでは、集団感染のリスクが高いため、入所者だけでなく、職員もワクチン接種を受けることが推奨されています。施設全体での感染対策が、高齢者の健康を守るために不可欠です。
高齢者が感染した場合は、早期に抗インフルエンザ薬の投与を開始することが重要です。重症化のリスクが高いため、疑わしい症状があれば早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが推奨されます。
2025年度の特徴と今後の見通し
2025年度のインフルエンザシーズンには、いくつかの特徴的な点があります。
最も顕著な特徴は、流行の開始時期が例年よりも大幅に早かったことです。通常、インフルエンザの流行は11月下旬から始まり、1月から2月にピークを迎えます。しかし、2025年は9月末頃から患者数の増加が見られ、10月初旬には全国的な流行入りが発表されました。これは例年より約1ヶ月から1ヶ月半早い流行開始です。
この早期流行の理由としては、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いたことにより、人々の行動が活発化し、感染機会が増えたことが考えられます。また、過去数年間、インフルエンザの大きな流行がなかったため、多くの人々の免疫が低下していることも要因として指摘されています。
東京都においても、10月の段階で注意報基準を超え、12月には警報基準を超えるなど、早い時期から高い感染レベルが続いています。11月中旬の現在も、都内各地で学級閉鎖が継続的に発生しており、流行の勢いは衰えていません。
今後の見通しとしては、例年通りであれば、冬季に入るにつれてさらに患者数が増加し、1月から2月頃にピークを迎える可能性があります。特に、乾燥した冬の気候はインフルエンザウイルスの生存に適しており、また室内で過ごす時間が増えることで、感染機会が増加します。
学校や職場、高齢者施設などでの集団感染のリスクも高まるため、引き続き警戒が必要です。特に東京都のような人口密度の高い都市部では、感染拡大のリスクが高く、学級閉鎖などの措置が継続的に実施される可能性があります。
年末年始の帰省や旅行、新年会などのイベントが増える時期には、人の移動と接触が増えるため、さらなる感染拡大が懸念されます。この時期は特に注意が必要であり、体調管理と予防対策の徹底が求められます。
保護者が知っておくべき重要事項
東京都では、2025年のインフルエンザシーズンにおいて、保護者に向けた重要な推奨事項を発表しています。
まず、基本的な感染予防策として、十分な栄養、休養、水分補給が挙げられています。子どもの体調管理において、日々の健康的な生活習慣が免疫力の維持に重要です。バランスの取れた食事、十分な睡眠時間の確保、適度な運動が、インフルエンザに対する抵抗力を高めます。
こまめな手洗いは、家庭でできる最も効果的な予防策の一つです。学校から帰宅した時、食事の前、トイレの後など、タイミングを決めて手洗いを習慣化することが大切です。子どもが正しい手洗い方法を身につけられるよう、保護者が見本を見せることも効果的です。
マスクの着用による咳エチケットも重要です。特に風邪の症状がある時は、周囲への配慮としてマスクを着用する習慣をつけることが望ましいです。子どもにマスクの正しい着用方法を教え、鼻と口をしっかり覆うことを指導します。
東京都教育委員会では、学校での休業期間を原則4日間としていますが、児童・生徒の健康状況を把握し、必要に応じて休業期間を延長することとしています。これは、感染状況が深刻な場合や、回復が遅れている児童が多い場合に、柔軟に対応するための措置です。
保護者は、子どもの体調の変化に敏感になる必要があります。朝の検温を習慣化し、平熱よりも高い場合や、だるさ、頭痛などの症状がある場合は、無理に登校させず、医療機関を受診することが推奨されます。
学級閉鎖となった場合、感染していない子どもも自宅待機となります。この期間は、外出を控え、家庭で静かに過ごすことが望ましいです。習い事や買い物などへの外出は、感染リスクを高めるだけでなく、学級閉鎖の効果を減少させてしまいます。
兄弟姉妹がいる家庭では、一人が感染した場合、他の兄弟姉妹への感染を防ぐための対策が重要です。可能であれば部屋を分ける、共用のタオルや食器を避ける、家庭内でもマスクを着用するなどの対策が有効です。
東京都感染症情報センターのウェブサイトでは、週ごとの流行状況が更新されており、保護者はこれらの情報を参考に、子どもの健康管理と予防対策を強化することができます。地域の流行レベルが高い時期は、特に注意を払い、人混みを避けるなどの対策を講じることが推奨されます。
医療機関の適切な受診タイミング
インフルエンザが疑われる症状が出た場合、医療機関を受診するタイミングは重要です。早すぎても遅すぎても、適切な診断や治療が難しくなる可能性があります。
インフルエンザの迅速検査は、発症から一定時間が経過していないと正確な結果が得られません。一般的には、発熱から6時間以上経過してから検査を受けることが推奨されます。発熱直後に受診すると、体内のウイルス量がまだ少ないため、陰性と判定されることがあります。
一方、抗インフルエンザウイルス薬の効果を最大限に得るためには、発症から48時間以内に服用を開始する必要があります。そのため、症状が出てから6時間以上経過し、かつ48時間以内というタイミングが理想的な受診時期となります。
ただし、以下のような症状がある場合は、時間に関係なく直ちに医療機関を受診すべきです。呼吸困難、意識障害、けいれん、持続する嘔吐、極度の倦怠感などは、重症化のサインである可能性があります。
小児の場合、普段と様子が異なる、ぐったりしている、顔色が悪い、水分が取れないなどの症状がある場合も、早急に受診が必要です。特に、意味不明な言動や異常な行動は、インフルエンザ脳症の初期症状である可能性があるため、緊急の対応が求められます。
高齢者の場合も、症状が軽微に見えても、急速に悪化する可能性があるため、早めの受診が推奨されます。特に、基礎疾患を持つ高齢者は、重症化のリスクが高いため、慎重な判断が必要です。
受診の際は、事前に医療機関に電話で症状を伝え、指示に従うことが望ましいです。インフルエンザの疑いがある場合、待合室での感染拡大を防ぐため、別の入口や待機場所を案内されることがあります。
社会全体での感染対策の重要性
インフルエンザの流行を抑制するには、個人の対策だけでなく、社会全体での取り組みが重要です。
企業では、従業員が体調不良の際に休みやすい環境を整えることが求められます。無理な出勤は、職場での感染拡大につながるだけでなく、本人の回復を遅らせます。リモートワークの活用や、柔軟な勤務体制の導入も、感染拡大防止に有効です。
学校では、日々の健康観察を徹底し、体調不良の児童生徒を早期に発見することが重要です。登校時の検温や健康チェックシートの活用により、感染者の早期発見と適切な対応が可能になります。
公共交通機関を利用する際は、マスクの着用と手指消毒が推奨されます。多くの人が利用する電車やバスでは、感染リスクが高まるため、個人の予防意識が重要です。特に通勤・通学時間帯の混雑した車内では、より一層の注意が必要です。
医療機関では、インフルエンザ患者と他の患者の動線を分けるなどの対策を講じています。受診の際は、事前に電話で症状を伝え、指示に従うことが望ましいです。
地域の保健所や自治体は、流行状況の監視と情報提供を行っています。これらの情報を活用し、地域の実情に応じた対策を講じることが、感染拡大の防止につながります。東京都感染症情報センターでは、週単位で詳細なデータが公開されており、自分の住む地域の状況を把握することができます。
インフルエンザは個人の問題だけでなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題です。一人ひとりが責任を持って行動することで、流行の規模を小さくし、重症化や死亡のリスクを減らすことができます。
特に、小児や高齢者など重症化リスクの高い人々を守るためには、健康な成人も予防対策を徹底し、感染の媒介者とならないよう注意することが重要です。ワクチン接種、手洗い、マスク着用、適切な室内環境の維持など、基本的な予防策を継続的に実践することが、自分自身だけでなく、周囲の大切な人々を守ることにつながります。
2025年の東京都におけるインフルエンザ流行警報の発令と学級閉鎖の増加は、私たち一人ひとりに対して、感染症予防の重要性を改めて認識させるものです。正しい知識を持ち、適切な対策を実践することで、健康な日々を過ごすことができます。

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