衆院選の期日前投票は、入場券がなくても問題なく投票できます。投票所入場券は法律上の投票要件ではなく、選挙人名簿に登録されていることが唯一の条件となっているためです。本人確認については、運転免許証やマイナンバーカードなどの身分証明書があれば確実ですが、これらを持っていない場合でも、氏名と生年月日を口頭で伝えることで投票が可能となっています。
衆議院議員総選挙は、私たちが政権を選ぶ最も重要な機会です。しかし、「入場券が届いていない」「入場券をなくしてしまった」という理由で投票を諦めてしまう方が少なくありません。実は、入場券は単なる整理券のようなものであり、これがなくても投票する権利は保障されています。この記事では、入場券がない状態での期日前投票の方法、必要な本人確認の手続き、持参すべき書類について詳しく解説していきます。期日前投票を活用すれば、仕事や旅行の予定があっても、悪天候が予想される場合でも、確実に一票を投じることができます。

衆院選における期日前投票制度とは
期日前投票制度は、2003年の公職選挙法改正によって導入された制度です。この改正は、投票率の向上を目指す総務省と選挙管理委員会、選挙管理事務の簡素化を求める現場の声、そしてより利用しやすい投票制度を求める有権者の要望が一致した結果として実現しました。2003年6月11日に公布され、同年12月1日から施行されたこの制度により、選挙人が投票しやすい環境が大きく整備されることとなりました。
この制度が導入されるまで、日本の選挙制度は「選挙当日投票主義」を厳格に採用しており、選挙期日前に投票できるのは「不在者投票」という例外的な措置に限られていました。不在者投票は二重封筒の使用や投票用紙への署名など、秘密投票の原則と相反しかねない煩雑な手続きを必要とし、有権者にとって高いハードルとなっていました。期日前投票制度の導入により、選挙期日前であっても当日の投票所と同様に投票用紙を直接投票箱に投函できるようになり、投票が「義務的な儀式」から「ライフスタイルに合わせた権利行使」へと変わる契機となりました。
2024年10月27日に投開票が行われた衆議院議員総選挙では、期日前投票を利用した有権者数は1,643万人を超えました。これは全有権者の約15.72%に相当する数字であり、期日前投票が「例外的な投票方法」ではなく「標準的な投票形態」として定着していることを示しています。
衆院選のような解散総選挙では、解散から投開票までの期間が非常に短くなる傾向があります。2024年の衆院選では、解散からわずか18日後に投開票が行われました。この短期間に全国の自治体が入場券を印刷・発送するため、郵便事情のひっ迫により期日前投票期間の開始時に入場券が届いていないケースは珍しくありません。そのため、入場券がない状態での投票は、システム上想定された通常の手続きの一部として位置づけられています。
入場券なしで投票できる法的根拠
公職選挙法において、投票の要件は「選挙人名簿への登録」のみと定められています。入場券の所持は投票要件として規定されていません。入場券は公職選挙法第6条に基づく「選挙の啓発及び周知」の一環として配布されるものであり、法的な性質としては事務処理のための整理券という位置づけになります。
入場券が持つ本来の機能は、選挙期日の周知と名簿対照の効率化です。しかし、長年の行政慣行により、多くの有権者の間で「入場券がなければ投票できない」という誤解が広まってしまいました。映画館のチケットとは根本的に異なり、入場券がなくても選挙人名簿に登録されているという「目に見えない資格」があれば、投票所で投票することができるのです。
各自治体の選挙管理委員会も「入場券がない場合でも投票可能」であることを公式にアナウンスしています。投票所の現場においても、入場券を持たない有権者への対応は日常的な業務として行われており、特別な手続きではありません。
入場券なしでの期日前投票の具体的な手順
期日前投票所に到着すると、多くの有権者が入場券を手に列を作っている光景を目にするかもしれません。しかし、入場券がなくても投票できますので、心配する必要はありません。受付には「入場券をお持ちでない方」や「再発行係」といった案内窓口が設置されており、専門の係員が対応してくれます。
まず係員に「入場券が届いていない」または「入場券を紛失した」旨を伝えてください。すると、係員から「宣誓書」の用紙を渡されます。この宣誓書は正式には「宣誓書兼投票用紙請求書」と呼ばれ、入場券の裏面に印刷されているものと同一の様式となっています。
宣誓書に記入が必要な情報は、氏名、住所、生年月日、記入日の4項目です。氏名は戸籍上の氏名を正確に記入し、住所は選挙人名簿に登録されている住民票の住所を記入します。生年月日については元号を選択して記入する形式が一般的です。かつての行政手続きでは押印が必要とされる場面が多くありましたが、現在の期日前投票において宣誓書への押印は不要です。印鑑を持参する必要は一切ありません。
宣誓書の記入が終わると、係員がその情報に基づいて選挙人名簿システムを検索します。現代の投票所ではタブレットやPC端末を使用して瞬時に名簿を確認できるようになっています。氏名と生年月日が一致すれば、選挙権を有していること、およびまだ投票していないことが確認され、投票用紙を受け取ることができます。
本人確認の方法と運用の実態
入場券がない場合に最も気になるのが「本人確認」の問題です。公職選挙法ではなりすまし投票を厳重に禁止していますが、同時に過度な本人確認が投票権の侵害にならないよう、現場では柔軟な運用がなされています。
本人確認の具体的な方法については、公職選挙法で詳細に規定されているわけではありません。どの書類を必須とするかは各自治体の選挙管理委員会の判断に委ねられています。そのため、運用の厳格さには自治体ごとに若干の違いがありますが、基本的な考え方は共通しています。
最も重要なポイントは、本人確認書類を一切所持していない場合でも、原則として投票が拒否されることはないということです。 運転免許証や保険証を忘れた場合でも、投票所で氏名および生年月日を口頭で伝え、選挙人名簿の記載と一致することが確認されれば、本人確認として認められます。
この運用が認められている背景には、憲法が保障する選挙権の重みがあります。「身分証明書を忘れた」という形式的な不備のみをもって、主権者の権利行使を妨げることは、権利の不当な制約となりかねないという考え方に基づいています。したがって、散歩のついでに手ぶらで投票所に立ち寄り、投票することも制度上完全に許容された行為なのです。
本人確認に使用できる書類の種類
本人確認書類は、その信頼度によって階層分けされています。官公庁が発行した顔写真付きの証明書は最も信頼性が高く、1点のみで本人確認が完了します。
顔写真付きの証明書として認められるものには、マイナンバーカード、運転免許証、運転経歴証明書、パスポート、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、在留カード、特別永住者証明書、国公立大学の学生証、戦傷病者手帳などがあります。これらのいずれか1点を提示すれば、本人確認は即座に完了します。
顔写真がない証明書の場合は、複数を組み合わせて確認する場合があります。健康保険被保険者証、国民年金手帳、年金証書、介護保険被保険者証、写真なしの社員証、私立大学の学生証、住民票の写し、公共料金の領収書、本人宛の郵便物などがこれに該当します。
ただし、繰り返しになりますが、これらの書類を一切持っていなくても投票は可能です。係員が口頭で氏名、生年月日、住所の番地などを質問し、選挙人名簿の情報と照合することで本人確認を行う方法が広く採用されています。
宣誓書に記載する「事由」の選び方
期日前投票を行う際には宣誓書の提出が必要であり、そこには期日前投票を行う「事由(理由)」を記載します。多くの有権者がこの事由選択について過剰な心理的負担を感じていますが、実際には形式的なものであり、深く悩む必要はありません。
法律が求めているのは「選挙の当日、自らが該当すると見込まれる事由」を申し立てることです。ここで重要なのは、あくまで「見込み」で足りるという点です。投票日当日に仕事の予定が入っていたため期日前投票を行ったが、結果的に仕事がキャンセルになったとしても、投票時点での見込みが真正であれば法的な問題は生じません。
宣誓書の事由は一般的にいくつかのカテゴリーに分かれています。最も一般的なのは「職務・業務・学業・家事」です。仕事だけでなく、授業やサークル活動、地域行事の役員、冠婚葬祭、育児や介護、買い物なども含まれます。現代社会において日曜日に何らかの用事がない人は稀であり、非常に広範に解釈される項目となっています。
「用務・事故」という項目には、自分の投票区の区域外に外出、旅行、滞在する場合が該当します。レジャーや遊び、買い物も明確に含まれています。「選挙の日は旅行に行くから」というのは後ろめたい理由ではなく、法律が認めた正当な期日前投票の理由です。
近年特に注目されているのが「天災・悪天候」の項目です。投票日当日に台風の接近や大雨が予報されている場合、期日前投票を行う日が晴天であっても、この事由を選択して投票することが可能です。危険を冒して当日に投票所へ行くよりも、安全な日に期日前投票を済ませることが推奨される社会的土壌が形成されています。
引っ越し直後に投票する方法
選挙期間前後に転居した場合、投票権の所在は複雑になります。選挙人名簿への登録には「住民票が作成されてから3ヶ月以上居住していること」という要件があるためです。
転入届を出して3ヶ月未満の場合、新住所地の選挙人名簿にはまだ登録されていないため、新住所地では投票できません。入場券が新居に届かないのはこのためです。しかし、選挙権自体が消滅するわけではありません。国政選挙の場合、旧住所地から転出して4ヶ月以内であれば、旧住所地の選挙人名簿に名前が残っています。
旧住所地での投票には二つの方法があります。一つは物理的に旧住所地に戻り、その地域の投票所で投票する方法です。もう一つは不在者投票制度を利用する方法で、新住所地から旧住所地の選挙管理委員会に投票用紙を請求し、郵送で取り寄せて新住所地の選管で投票することができます。
なお、都道府県知事選や県議選などの地方選挙では、県外へ転出した瞬間に投票権を失うなど、国政選挙とは扱いが異なる場合があります。引っ越し直後で投票権について不明な点がある場合は、旧住所地の選挙管理委員会に確認することをお勧めします。
子供連れでの投票について
2016年の公職選挙法改正により、18歳未満の子供を投票所に同伴することが可能となりました。かつては投票所に入場できる子供は幼児に限られていましたが、現在ではより広い年齢層の子供を連れて行くことができます。
この法改正は、親の投票行動を子供に見せることで、早期からの政治教育(主権者教育)を促す目的で行われました。「子供を預けられないから投票に行けない」という理由は、現在では解消されています。ただし、子供が親の代わりに投票用紙に記入したり、投票箱に投函したりすることは禁止されており、あくまで同伴のみが認められています。
代理投票と点字投票の支援制度
病気、怪我、身体障害、あるいは老齢により自筆で候補者名を書くことが困難な場合、「代理投票」が認められています。投票所の係員に申し出ると、投票所の補助者2名が指定されます。1名が選挙人の指示に従って代筆し、もう1名がその公正さを確認するという仕組みです。家族や付き添い人が代筆することはできず、必ず選挙管理委員会の係員が行います。
視覚障害者のための「点字投票」も保障されており、点字器は各投票所に常備されています。これらの支援措置は、入場券の有無に関わらず、すべての有権者に等しく提供されます。
期日前投票と不在者投票の違い
期日前投票と混同されやすいのが不在者投票です。両者は選挙期日前に投票できるという点では共通していますが、利用できる条件と手続きが大きく異なります。
期日前投票は、自分の選挙人名簿が登録されている自治体内で投票する場合に利用できる制度です。2003年の公職選挙法改正により、従来の不在者投票制度のうち「選挙人名簿に登録されている市町村と同じ市町村において有権者が投票する」場合について要件を緩和する形で新設されました。投票用紙を直接投票箱に投函でき、封筒に入れる必要がないため、手続きが非常に簡便です。
一方、不在者投票は名簿登録地以外の場所から投票する場合に利用する制度です。不在者投票制度自体は1925年の衆議院議員選挙法改正で導入された歴史ある制度であり、期日前投票制度の創設後もその対象となる有権者の範囲を縮小して存続しています。出張先や旅行先、入院先の病院など、住民票のある自治体以外の場所から投票したい場合に利用します。
政令指定都市の場合、同じ市内でも区が異なれば管轄が異なるため、自分の住む区の投票所に行く必要があります。他の区での期日前投票はできませんので注意が必要です。
名簿登録地以外の場所で投票する場合は不在者投票制度を利用します。名簿登録地の選挙管理委員会に投票用紙等を請求し、滞在先に郵送で届いた書類を開封せずに、滞在先の最寄りの選管に持参して投票を行います。この手続きにおいても、請求段階で入場券は必須ではありません。なお、オンラインで投票用紙を請求できる自治体も増えてきており、手続きの利便性は向上しています。
期日前投票には独自の特徴があります。期日前投票を行った後に、他市町村への転居や死亡等の事由が発生して選挙権を失ったとしても、すでに投じた票は有効な投票として取り扱われます。これは不在者投票とは異なる扱いであり、期日前投票の法的安定性を示す重要なポイントです。
宣誓書の事前準備で投票をスムーズに
多くの自治体では、宣誓書をホームページからダウンロードできるようにしています。自宅で印刷し、事前に記入して持参すれば、投票所での滞在時間を大幅に短縮できます。特に混雑が予想される最終日である土曜日などは、事前記入がお勧めです。
入場券が届いていない場合や紛失した場合でも、事前に宣誓書をダウンロードして記入しておけば、投票所での手続きは通常と変わらないスピードで進みます。各自治体のウェブサイトで宣誓書の様式を確認してみてください。
プライバシーへの配慮について
期日前投票所では、宣誓書に記入された情報を係員が確認する際、氏名を読み上げないよう配慮する自治体が増えています。宣誓書の氏名等で確認を行うため、名前を読み上げることなく手続きが進められる場合があります。プライバシー保護への配慮が進んでいることは、安心して投票に行ける環境づくりにつながっています。
デジタル入場券の導入と今後の展望
紙の入場券に依存する現状のシステムには、配送コスト、環境負荷、紛失・未着問題といった課題があります。これに対する解決策として、自治体レベルでのデジタル化が進行しています。
一部の先進的な自治体では「スマホで入場券」の実証実験や導入が始まっています。マイナンバーカードと連携したデジタルIDアプリの通知機能を活用し、個人のスマートフォンに入場券情報を配信する仕組みです。この方式では不達や紛失がなくなり、郵便事情に左右されず公示と同時に通知が可能となります。印刷・郵送コストも大幅に削減でき、投票所のバーコードリーダーにかざすだけで受付が完了する利便性も備えています。
このようなデジタル入場券の仕組みが普及すれば、「入場券を忘れた」という概念自体が消滅する可能性があります。マイナンバーカードの普及とともに、国政選挙全体での導入が議論されるべき段階に来ています。
衆院選の期日前投票で覚えておきたいポイント
衆院選の期日前投票について、改めて重要なポイントを整理します。入場券は法的な投票要件ではなく、届いていなくても紛失しても投票できます。本人確認書類がなくても、氏名と生年月日を口頭で伝えることで投票可能です。宣誓書への押印は不要であり、印鑑を持参する必要はありません。
宣誓書の事由選択は「見込み」で足りるため、レジャーや悪天候の懸念でも正当な理由として認められます。18歳未満の子供を同伴して投票所に入ることができ、代理投票や点字投票の支援制度も整っています。
期日前投票は選挙期日の前日まで利用でき、仕事帰りや買い物のついでなど、自分のライフスタイルに合わせて投票できます。投票所入場券がないことを理由に投票を諦める必要は全くありません。民主主義の根幹である選挙権を、ぜひ行使してください。

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