ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を持ちながら実務に従事していない「潜在ケアマネジャー」は、全資格保有者の約4割に達しています。この4割が従事しない理由は、低い報酬水準、高コストで時間のかかる資格更新研修、カスタマーハラスメントのリスク、そして過剰な事務負担という複合的な構造的・制度的要因によるものです。2024年の報道によれば、潜在ケアマネジャーは推計12万5千人から18万人に上るとされており、これは日本の介護保険制度の根幹を揺るがす深刻な危機を示しています。
本記事では、かつて介護職のキャリアの到達点として多くの人が目指したケアマネジャー資格が、なぜ現在これほど敬遠されているのかを徹底的に解説します。経済的要因、制度的障壁、労働環境、心理的負荷の4つの側面から、この問題の本質に迫ります。

ケアマネ資格保有者の4割が従事しない現状とは
ケアマネジャーの「潜在化」は、単なる労働需給のミスマッチではなく、介護保険制度そのものの構造的な問題を反映しています。日本介護支援専門員協会等が実施した調査によると、ケアマネジャーから他業種へ転職した「他業種組」において、20代から30代の若い世代の割合が23.0%に達しており、現役の「介護組」における同年代比率11.5%の約2倍となっています。
この数字が示すのは、これからの介護業界を牽引すべき若年層ほど、ケアマネジャーという職に見切りをつけ、より高い報酬や働きやすい環境を求めて他産業へ流出している現実です。彼らは資格を「保険」として保持するだけでなく、更新研修の負担を嫌って意図的に資格を失効させるケースも見られます。一度失われた人材が戻らない「不可逆的な流出」が着実に進行しているのです。
ケアマネジャーが従事しない理由その1:経済的要因と報酬の問題
処遇改善の「蚊帳の外」に置かれるケアマネジャー
ケアマネジャーが現場を選ばない、あるいは離職する最大の要因の一つは、職務の専門性と責任の重さに対して報酬が見合わないという「対価の不均衡」にあります。かつては介護職員よりも高給であったケアマネジャーですが、近年の政策誘導によりその優位性は崩壊しつつあります。
政府は長年にわたり、介護職員の不足解消を目的として処遇改善加算を手厚く実施してきました。2009年の介護職員処遇改善加算に始まり、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算と続き、2024年6月にはこれらが「介護職員等処遇改善加算」として一本化され、さらなる賃上げが図られました。しかし、この一連の処遇改善において、ケアマネジャー(特に居宅介護支援事業所所属)は一貫して「対象外」あるいは「恩恵が限定的」な立場に置かれてきたのです。
2024年の介護報酬改定においても、政府は「月額6,000円相当」の賃上げを掲げましたが、その対象は主に直接介護を行う職員であり、ケアマネジャーは「直接処遇を行わない職種」として、加算の算定対象から外れる構造となっています。
賃金の逆転現象とキャリアダウンのパラドックス
この政策の結果、現場では深刻な問題が発生しています。処遇改善加算を受けたベテラン介護福祉士の給与が、加算の恩恵を受けにくいケアマネジャーの給与を上回る「賃金の逆転現象」が常態化しています。介護職員として経験を積み、難関試験を突破してケアマネジャーになっても、給料が下がる(あるいは変わらない)という「キャリアダウン」のパラドックスが生じているのです。
さらに、同じ事業所内で働いていても、介護職員には一時金や昇給がある一方で、ケアマネジャーには何もないという状況が、職種間の分断と不公平感を生んでいます。このモチベーションの低下が、優秀な人材の流出を加速させています。
他業種転職で年収が上がる現実
実際にケアマネジャーを辞めて他業種に転職した人々のデータは、この経済的要因が「感情論」ではなく「経済的合理性」に基づいていることを裏付けています。調査において、ケアマネジャーから他業種へ転職した「他業種組」に対し、現在の年収の変化を尋ねたところ、46.0%が「年収が増額している」と回答しました。これは、現役を継続している「介護組」における増額回答32.8%を大きく上回る数値です。
| 比較項目 | 介護組(現職・介護職回帰) | 他業種組(異業種転職) |
|---|---|---|
| 「年収が増えた」割合 | 32.8% | 46.0% |
| 「仕事が充実している」割合 | 41.2% | 48.7% |
この表が示すように、他産業の方がケアマネジャー人材のスキル(調整力・事務能力)を高く評価しており、経済的な魅力が高いことがわかります。特に若年層にとって、将来の昇給が見込めない職種に留まる理由は乏しいと言えます。
稼げないビジネスモデルの構造的限界
ケアマネジャーの処遇が上がらない根本的な原因は、そのビジネスモデル(報酬体系)にあります。居宅介護支援事業所の収入源である「居宅介護支援費」は、要介護度や担当件数によって上限が厳格に決まっている「公定価格」です。ケアマネジャー1人が担当できる件数には「標準担当件数(35件から40件程度)」という基準があり、これを超えると報酬が減額される仕組み(逓減制)が存在してきました。
近年、ICT活用や事務員の配置を条件に、担当件数の上限を45件まで緩和する措置が導入されましたが、これはあくまで「業務量を増やせば報酬が増える」という労働集約的な解決策に過ぎません。どれだけ優秀なケアマネジャーであっても、個人の努力で売上を大幅に伸ばすことは構造的に不可能であり、したがって原資不足により給与も上がらないという悪循環に陥っています。
ケアマネジャーが従事しない理由その2:資格更新制度という構造的障壁
88時間の研修と高額な自己負担
ケアマネジャー不足を語る上で避けて通れないのが、特有の「資格更新制度」の存在です。ケアマネジャーの資格は5年ごとの更新制であり、更新のためには定められたカリキュラムの研修を受講しなければなりません。現場からは、この研修制度に対する強い批判が噴出しており、署名活動にまで発展しています。
実務経験者であっても、更新時には合計88時間もの受講が必要となる場合があります。これは日数にして十数日間に及び、数ヶ月にわたって業務時間や休日を削って参加しなければなりません。日々、利用者の対応に追われるケアマネジャーにとって、88時間の業務離脱は致命的であり、その間の業務調整や代替要員の確保は個人の責任に帰されることが多いのです。
研修受講料は都道府県によって異なりますが、一般的に3万円から6万円程度の費用がかかります。驚くべきことに、この費用は業務に必須であるにもかかわらず、必ずしも所属事業所が負担するわけではありません。調査によれば、約3人に1人(34%)のケアマネジャーが研修費用を「全額自腹」で支払っています。研修受講に伴う交通費や、研修期間中の減収を含めると、実質的な経済負担はさらに増大します。「給料は安いのに、資格維持にお金がかかる」という理不尽さが、離職を後押ししているのです。
潜在ケアマネの復職を阻む「54時間の壁」
一度現場を離れた「潜在ケアマネ」が、子育て終了後や定年後に復職しようとした際、この更新研修制度が巨大な参入障壁として立ちはだかります。資格の有効期限が切れて失効している場合、復職するためには「再研修(54時間)」を受講し、資格証の再交付を受けなければなりません。
まだ就職先が決まっていない段階で、数万円の受講料と54時間もの時間を投資して資格を復活させることは、心理的・経済的ハードルが極めて高いと言えます。特に、「少しだけパートで働きたい」と考える層にとって、この初期投資は割に合わないと判断されます。結果として、「更新が面倒だから復職しない」「失効したまま放置する」という選択がなされ、貴重な有資格者が永久に労働市場に戻ってこないシステムになっています。
カリキュラム内容への疑問と資格返上の動き
現場からは「内容が重複している」「実務に役立たない」「形式的である」といった批判が根強く存在します。特にベテラン層からは、基礎的な内容の繰り返しや、現場の実情と乖離した理想論的な講義を受けることへの徒労感が報告されています。
更新研修の負担を嫌気し、あえて資格を更新せずに失効させる、あるいは登録を抹消する動きすらあります。「現場で役に立たない研修に高額な費用と時間を奪われるくらいなら、資格を捨てて介護職や相談員に専念する」という判断がなされているのです。これは、制度が人材の質の向上ではなく、人材の流出(退出装置)として機能してしまっている皮肉な結果と言えます。
ケアマネジャーが従事しない理由その3:カスタマーハラスメントと心理的負荷
ケアマネジャーの4割から7割がハラスメントを経験
経済的な問題や制度的な負担以上に、ケアマネジャーを疲弊させ、精神的に追い詰めて離職に至らせているのが「現場の過酷な労働環境」と「心理的負荷」です。ケアマネジャーは、介護保険サービスの「入り口」であり「調整役」であるため、利用者やその家族と最も密接に関わります。その結果、理不尽な要求や感情の爆発の直接的な標的になりやすいのです。調査によれば、ケアマネジャーの4割から7割が利用者や家族からの何らかのハラスメントを経験しています。
| ハラスメントの類型 | 具体的な事例 |
|---|---|
| 身体的暴力 | コップ、灰皿、杖などを投げつけられる。腕をつねる、髪を引っ張る、殴打される。訪問時に監禁状態で帰してもらえない。 |
| 精神的暴力(暴言・脅迫) | 「役立たず」「死ね」「給料泥棒」等の暴言。長時間にわたる電話や面談での説教、土下座の強要。大声での恫喝、威圧的な態度。 |
| 理不尽な要求 | 「24時間いつでも電話に出ろ」「今すぐ来い」という即時対応要求。制度外のサービス(大掃除、ペットの世話、草むしり)の強要。 |
さらに問題なのは、こうした被害を受けても組織的なサポートが得られにくい点です。「利用者は認知症だから仕方ない」「我慢するのが仕事」という精神論や、事業所の事なかれ主義により、担当者個人が問題を抱え込むケースが多く見られます。これが「燃え尽き症候群」や「適応障害」による退職に直結しています。
際限なく拡大する業務範囲と「何でも屋」化
ケアマネジャーの本来業務は「ケアプランの作成」「給付管理」「サービス事業者との連絡調整」ですが、実際には「何でも屋」としての役割を期待され、断りきれない現状があります。
ヘルパーの業務範囲外となる換気扇の掃除、庭の草むしり、ペットの餌やりや、家族が行うべき買い物、通院の付き添いを、「ケアマネなら やってくれる」「あなたしか頼れる人がいない」と頼まれ、拒否すれば関係が悪化するため引き受けざるを得ません。独居高齢者や老老介護世帯の増加に伴い、本来は家族や行政が行うべき役所の手続き、入院の手配、金銭管理の補助、さらにはゴミ屋敷の片付けまで、生活維持のためのあらゆる支援がケアマネジャーにのしかかっているのです。
多くのケアマネジャーが業務用携帯電話を持たされ、休日や夜間でも利用者や病院、サービス事業所からの緊急連絡に対応せざるを得ないプレッシャーに晒されています。この「常に仕事と繋がっている感覚」が、プライベートを侵食し、精神的な休息を奪っています。
責任の重さと権限の軽さという構造的ジレンマ
ケアマネジャーは地域包括ケアシステムの「要」であるがゆえに、何かトラブルが起きると全ての責任を問われる傾向にあります。「プランが悪いから転倒した」「サービスが入っていない時間に問題が起きた」など、コントロール不可能な事象についても矢面に立たされます。
一方で、ケアマネジャーには医療機関(医師)や行政、サービス事業所に対して強力な指揮命令権があるわけではありません。あくまで「お願い」し「調整」する立場であるため、医師から冷たくあしらわれたり、サービス事業所から無理難題を言われたりといった「板挟み」のストレスが極めて強いのです。この「責任は無限、権限は限定的」という非対称性が、職務の魅力を大きく損なっています。
ケアマネジャーが従事しない理由その4:膨大な事務負担とアナログな業務環境
書類作成に追われる日々と「実地指導」の恐怖
ケアマネジャーの離職理由として「給与」「人間関係」と並んで常に上位に挙がるのが「書類作成の負担」です。本来、利用者と向き合い、相談援助を行うべき時間の多くが、行政の実地指導対策や返戻防止のための膨大な書類作成に奪われています。
ケアマネジャーの業務では、アセスメントシート、ケアプラン(第1表から第7表)、支援経過記録、モニタリング報告書、サービス担当者会議の議事録、提供票など、作成しなければならない法的書類が極めて多く存在します。これらは厚生労働省の「運営基準」によって厳格に管理されており、些細な記載ミス、日付の整合性のズレ、文言の不備などが自治体の実地指導で指摘されると、過去に遡って報酬を返還させられるリスクがあります。
この「減算・返還の恐怖」が、過剰なまでに完璧な書類作成を強いており、ケアマネジャーの精神を摩耗させています。ケアマネジメントの質そのものよりも、「監査に通るための書類作り」が自己目的化している現場も少なくありません。
ICT化の遅れと「FAX文化」の弊害
他産業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、介護現場、特にケアマネジャーの業務はいまだにアナログな手法が主流です。多くの事業所では、サービス事業所との毎月の連絡調整(サービス提供票の送付と実績の回収)を、電話とFAXで行っています。
毎月末には数百枚のFAXを送信し、届いたか確認の電話を入れ、返信されたFAXを手入力でシステムに転記するという、極めて非効率で前時代的な業務に忙殺されています。高い志を持ってケアマネジャーになった人ほど、「利用者の話を聞く時間よりも、パソコンに向かって記録を打つ時間の方が圧倒的に長い」という現実に絶望します。「こんな事務作業をするためにケアマネになったわけではない」という徒労感が、本来のやりがいを奪っているのです。
ケアプランデータ連携システムの可能性と課題
こうした状況を打破するため、厚生労働省は「ケアプランデータ連携システム」の導入を推進しています。このシステムを導入すれば、ケアプランや提供票のやり取りをオンラインで完結でき、転記作業やFAX送信の手間を大幅に削減できます。試算によれば、データ連携システムの導入により、事務時間を3分の1に削減でき、人件費や通信費を含めて年間約80万円のコスト削減効果が見込まれます。導入事業所では「残業が減った」「利用者と向き合う時間が増えた」という具体的な成果も報告されています。
しかし、現場での普及は道半ばです。年間21,000円程度のライセンス料が必要であり、小規模事業所にとっては負担感があります。また、自分が導入しても、連携先のデイサービスやヘルパー事業所が導入していなければ、結局FAXを使わざるを得ないという「ネットワーク外部性」の問題も存在します。
若年層の流出と高スキル人材の離脱が示す深刻な警告
若手が選ばない職業への転落
かつては「現場経験を積んで30代・40代でケアマネジャーになる」というキャリアパスが介護業界の標準でしたが、現在はそのモデルが崩壊しつつあります。若年層(20代から30代)の有資格者が、ケアマネジャー業務を敬遠し、他産業へ流出しているデータは、この職種の将来性に対する若者の冷ややかな評価を反映しています。
SNSやインターネット上では、「給料が上がらない」「責任だけ重い」「ハラスメントがある」「更新研修でお金がかかる」というネガティブな情報が広く共有されています。合理的な判断をする若者は、最初からケアマネジャーを目指さない、あるいは資格だけ取って別の仕事(IT、一般事務、あるいは待遇の良い他分野の相談職)を選ぶようになっています。
社会福祉士等のダブルライセンス組の離脱
社会福祉士や精神保健福祉士などの国家資格を併せ持つ層が、ケアマネジャー業務から離脱する傾向も見逃せません。「他業種組(従事しない層)」における社会福祉士保有率は23.0%であり、現役ケアマネジャーの9.2%よりも有意に高くなっています。
これは、より広範な相談援助業務や、待遇の良い病院のソーシャルワーカー職、地域包括支援センター、あるいは行政職などに高スキル人材が流れていることを示唆しています。高度な専門性や調整能力を持つ人材ほど、ケアマネジャーという枠組み(報酬の上限や業務範囲の制約)に限界を感じ、その能力をより高く評価してくれる場へと去っているのです。
2040年問題への影響と地域包括ケアシステムの危機
需給ギャップの拡大とケアマネ不在地域の出現
ケアマネジャーの不足は、単なる一業界の人手不足にとどまらず、日本の社会保障システム全体、特に2040年を見据えた「地域包括ケアシステム」の存続に関わる重大な危機です。厚生労働省の推計では、高齢者人口がピークに達する2040年までに、ケアマネジャーを現状より約8万人増やす必要があるとされています。
しかし、現状は微増あるいは減少傾向にあり、受験者数の低迷や合格率の低さ(20%前後)も相まって、このままでは圧倒的な供給不足に陥ることは確実です。さらに、現職ケアマネジャーの高齢化も著しく進んでおり、60歳以上が占める割合が増加しています。彼らが一斉に引退時期を迎える今後10年から15年で、「ケアマネジャーが一人もいない」「事業所が閉鎖して後任が見つからない」という地域が急増する「介護崩壊」のシナリオが現実味を帯びています。
介護難民とヤングケアラー問題の悪化
ケアマネジャーがいなければ、要介護認定を受けても適切なサービス計画(ケアプラン)を作成できず、介護サービスを利用することが困難になります。制度上は利用者自身や家族がプランを作成する「セルフプラン」も認められていますが、複雑な介護保険制度を一般の家族が理解し、複数のサービス事業所と調整を行うことは現実的には極めて困難です。
結果として、サービスの利用開始が遅れたり、適切なサービスが受けられずに重度化したりするケースが増加します。これは家族介護の負担を限界まで増大させ、「介護離職」や、子供が介護を担う「ヤングケアラー」の問題を悪化させます。ケアマネジャーの不足は、企業の働き盛り世代の労働力を奪い、日本経済全体の損失にも直結する重大な社会問題なのです。
ケアマネジャー不足を解消するために必要な対策とは
処遇の抜本的改善が不可欠
この負の連鎖を断ち切るためには、まず処遇の抜本的改善が求められます。介護職員とのバランスを考慮した、ケアマネジャー独自の給与引き上げ策が不可欠です。特に、居宅介護支援費の基本報酬アップや、処遇改善加算の対象拡大など、国による明確な財政出動が求められています。
更新研修制度の抜本的見直し
資格更新研修については、研修時間の短縮、オンライン化の完全定着(オンデマンド受講の拡大)、費用の公費負担(完全無料化)、あるいはカリキュラムの実践的改革が必要です。さらには、更新制度自体の廃止議論も含め、資格維持のハードルを極限まで下げる勇気ある決断が待たれます。
ICT化と業務効率化の「標準化」
個々の事業所の努力に任せるのではなく、国や自治体主導で「ケアプランデータ連携システム」の利用を標準化し、FAX業務を撤廃することが重要です。これにより捻出された時間を、本来の相談援助業務や、ケアマネジャー自身の休息に充てる環境整備が急務となっています。
カスハラ対策の法制化と組織防衛
ケアマネジャーを孤立させないための、組織的な対応義務化や、悪質な利用者への対応マニュアル(契約解除権限の明確化、警察連携など)の整備も必要です。行政が前面に出てケアマネジャーを守る姿勢を示すことが、心理的安全性を確保する鍵となります。
職能の再定義と専門性の復権
「何でも屋」からの脱却も重要な課題です。業務範囲を明確化し、制度外の要求を正当に断れるルール作りを行うことが求められます。同時に、医療連携や看取り対応など、高度なスキルを持つケアマネジャーが正当に評価される仕組みを強化し、専門職としてのプライドと地位を復権させることが必要です。
まとめ:4割が従事しない現状は制度への警告
ケアマネジャー資格保有者の4割が従事しない理由は、個人のモチベーションの問題ではなく、完全に「構造的・制度的要因」によるものです。低い報酬、高コストな資格維持(更新研修)、ハラスメントリスク、過剰な事務負担という複合的な問題が、労働市場におけるケアマネジャーの価値を著しく毀損しています。
「4割が従事しない」という数字は、現行の介護保険制度に対する労働者からの警告と言えます。この問題を放置すれば、2040年を待たずして、日本の介護現場は「司令塔」を失い、地域包括ケアシステムは崩壊の危機に瀕することになります。ケアマネジャーという専門職が正当に評価され、誇りを持って働ける環境の整備が、今こそ求められているのです。


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