日産が商業施設に展示専門店を30店舗超に拡大!新しい顧客接点の創出戦略とは

社会

近年、自動車業界における顧客接点のあり方が大きく変化しています。従来の幹線道路沿いの販売店だけでなく、日常的に訪れるショッピングモールなどの商業施設内に展示専門店を設置する動きが加速しており、その中でも特に注目を集めているのが日産自動車の取り組みです。2025年11月14日、日産自動車は商業施設内の展示専門店を2027年度をめどに30店超に倍増させるという意欲的な計画を発表しました。この戦略は、ブランド力の向上や国内販売の活性化を目的とした経営再建の重要な施策として位置づけられています。従来の自動車販売店とは一線を画す新しい形態の店舗として、営業担当者を置かず、販売契約を行わないという独自のスタイルを採用している点が大きな特徴です。買い物のついでに気軽に立ち寄れる環境を提供することで、日産車を検討していなかった潜在顧客との接点を創出し、ブランド体験の機会を広げています。本記事では、日産の商業施設における展示専門店の全貌、その戦略的意義、具体的な店舗事例、そして今後の展望について詳しく解説していきます。

日産の展示専門店とは何か

日産の展示専門店は、従来の自動車販売店とは根本的に異なるコンセプトで運営されている施設です。最大の特徴は、営業担当者を配置せず、車両の販売契約を行わないという点にあります。この独自のアプローチにより、来店客は販売のプレッシャーを感じることなく、リラックスした雰囲気の中で日産車を体験することができます。

展示専門店では、専門知識を持ったスタッフが来店客に対して車両の特徴や性能、価格などについて丁寧に説明を行います。しかし、購入を促すような営業活動は一切行わず、もし来店客が購入を希望する場合には、近隣の正規販売店を案内する仕組みになっています。この仕組みにより、情報提供と販売を明確に分離することで、顧客にとってストレスフリーな環境を実現しています。

従来の幹線道路沿いに立地する販売店の多くは、事前予約が必要であったり、購入意欲のある顧客が訪れる場所という印象が強くありました。一方、商業施設内の展示専門店は、買い物のついでに気軽に立ち寄ることができるという大きなメリットがあります。家族連れでショッピングモールを訪れた際に、子供が展示車両に興味を示したことをきっかけに、自然な形で日産車に触れる機会が生まれます。

展示専門店では、来店客が実際に車両のドアを開け、運転席に座り、内装や装備を確認することができます。スタッフは押しつけがましくなく、必要な時に適切な情報を提供する姿勢を貫いており、この気軽さが日産車を検討していなかった潜在顧客との接点を生み出す重要な要素となっています。

展開の歴史と現状について

日産自動車がショッピングモール内への展示専門店の出店を開始したのは2016年度のことです。当初は試験的な取り組みとしてスタートしましたが、顧客からの反応や効果測定の結果が良好だったことから、徐々に店舗数を増やしてきました。

現在は神奈川県、愛知県、福岡県などの主要都市圏を中心に13店舗を展開しています。これらの店舗は、イオンモールをはじめとする集客力の高い大型商業施設内に設置されており、週末を中心に多くの家族連れや若年層が訪れています。

2025年度には新たに3店舗を追加する計画が進められており、さらに2027年度をめどに30店舗超に拡大するという意欲的な目標が掲げられています。これは現在の2倍以上の規模となる大規模な展開であり、日産の顧客接点拡大戦略における重要な施策として位置づけられています。

この拡大計画の背景には、日産が近年直面している国内販売の課題やブランド力向上の必要性があります。展示専門店という新しい形態の店舗を通じて、より多くの潜在顧客と接点を持ち、日産ブランドの魅力を伝えていくことが、経営再建につながると期待されています。

店舗の展開にあたっては、人口動態や競合状況、既存販売店との距離などを総合的に考慮し、最適な立地選定が行われています。単に集客力の高い商業施設であればよいというわけではなく、日産の販売網全体の中での役割や、地域特性に合わせた戦略的な配置が重視されています。

主要な展示専門店の紹介

日産は全国の商業施設内に展示専門店を展開していますが、ここでは特に注目すべき主要な店舗について詳しくご紹介します。

東京都日野市に位置するイオンモール多摩平の森店は、首都圏における重要な拠点の一つです。イオンモール多摩平の森の1階フードコート前という、来店客の動線上に設置された日産展示場では、最新の日産車両を展示しており、ショッピングを楽しむ顧客に対して日産車の魅力を効果的に伝えています。多摩地域は首都圏の中でも特にファミリー層が多く居住する地域であり、ミニバンやSUV、電気自動車などに関心を持つ層に効果的にアプローチできる立地となっています。

愛知県にあるイオンモールナゴヤドーム前店では、1階に展示店舗を構えており、日産アンバサダークルーと呼ばれる専門スタッフが、新車の情報提供やカーライフの提案を行っています。愛知県は日本有数の自動車保有県であり、自動車に対する関心が非常に高い地域です。この地域特性を活かした展開により、自動車に詳しい顧客層に対しても、日産の最新技術や魅力を効果的に訴求することができています。

石川県に位置するイオンモール白山店には、日産ブランドアンテナショップが設置されています。この店舗は車両の販売を一切行わず、日産の車両や先進技術に関する情報提供に特化した施設となっています。北陸地域における日産ブランドの認知度向上と、顧客との新しいコミュニケーションチャネルの構築を担う重要な拠点として機能しています。

兵庫県のイオンモール神戸南店には、兵庫日産の特設ギャラリーが設置されています。ここでは日産サクラなどの電気自動車や、セレナなどのファミリーカーを中心に展示しており、関西圏の顧客にアプローチしています。神戸という大都市圏での展開は、日産の関西戦略における重要な拠点となっており、都市部の環境意識の高い顧客層に対して、電気自動車の魅力を伝える役割を果たしています。

これらの店舗はそれぞれ地域特性や顧客層に合わせた展示内容となっており、全国一律の画一的な運営ではなく、地域に根ざした柔軟な運営が行われています。

展示専門店の戦略的意義

日産が商業施設内の展示専門店に力を入れる背景には、明確な戦略的意義があります。ここでは、その重要なポイントについて詳しく解説します。

まず第一に挙げられるのが顧客接点の拡大です。従来の販売店は幹線道路沿いに立地しており、既に購入を検討している顧客が訪れる場所でした。しかし、ショッピングモール内の展示専門店では、買い物に訪れた家族連れや若年層など、必ずしも車の購入を検討していない潜在顧客との接触機会を創出することができます。このような偶然の出会いから、日産車への関心が芽生え、将来的な購入につながる可能性が広がります。

第二に、ブランドイメージの向上が挙げられます。営業担当者を置かず、販売を行わないという方針は、顧客に対してプレッシャーを与えない環境を作り出します。気軽に車両を見て、触れて、質問できる空間を提供することで、日産ブランドに対する親近感や好印象を醸成することができます。これは短期的な販売実績ではなく、長期的なブランド価値の向上につながる重要な取り組みです。

第三に、体験型マーケティングの実践があります。現代の消費者は、単に製品の機能や価格だけでなく、ブランドとの体験や共感を重視する傾向にあります。展示専門店は、実際に車両に触れ、座り、最新の技術について学ぶことができる体験型マーケティングの場として機能します。特に、電気自動車などの新しい技術については、実際に体験することが購買意欲の向上に大きく貢献します。

さらに、展示専門店はデータ収集の場としても重要な役割を果たしています。どのような層が、どの車種に関心を持っているのか、どのような質問が多いのかといった情報を収集することで、商品開発やマーケティング戦略の改善に活かすことができます。

NISSAN CROSSING 銀座の魅力

日産の体験型施設の代表格として、東京・銀座4丁目交差点の角に位置するNISSAN CROSSINGがあります。所在地は東京都中央区銀座5丁目8番1号のGINZA PLACEの1階と2階で、日産インテリジェント モビリティの発信拠点として重要な役割を果たしています。

この施設の1階には、日産の歴史を彩った名車や、最先端技術を搭載したコンセプトカーが展示されています。サラウンドスピーカーと高精細LEDモニターを備えたシアターでは、没入感のある映像体験を提供しており、日産の技術革新や未来のビジョンを視覚的に理解することができます。

2階には、インタラクティブウォールが設置され、日産の先進技術や過去の名車に関する情報を自由に閲覧できるほか、日産を代表する車両が展示されています。来場者は自由に展示車両を見学し、日産の技術革新の歴史と未来を体感することができます。

NISSAN CROSSINGのデザインテーマは「スパイラル(螺旋)」です。これは顧客の感情、体験、そして過去から現在、未来へと続くカスタマージャーニーを象徴的に表現しています。訪れる人々が日産というブランドの物語の中を巡る体験を提供することを目指しており、単なる展示施設を超えた、ブランド体験の場として設計されています。

施設内にはCROSSING CAFEが併設されており、クロッシングソーダや、最先端技術を使用して日産オリジナルデザインを描くMACCHI-ART(ラテアート)などの限定メニューを楽しむことができます。また、NISSAN BOUTIQUEでは、日産のミニチュアカーやオリジナルグッズを販売しています。特に注目されるのは、日本の伝統工芸とニッサンを融合させた「Nissan Craft Arts Selection」の特別なアイテムであり、これらの商品は日産のブランド価値を具現化したものとして、来場者に好評を得ています。

銀座という日本を代表する商業地に位置するNISSAN CROSSINGは、国内外から多くの来場者を集めており、日産のフラッグシップ施設としての役割を果たしています。

日産グローバル本社ギャラリーの役割

神奈川県横浜市にある日産グローバル本社ギャラリーは、日産の本社施設内に設置された展示施設です。横浜みなとみらい21地区という、観光スポットとしても知られる立地に位置しており、多くの来場者が訪れています。

ここでは、日産の最新車両や技術、企業の取り組みなどを包括的に紹介しており、来場者は日産の企業文化や技術革新の歴史を深く理解することができます。商業施設内の展示専門店が、より気軽な接点を提供する場であるのに対し、グローバル本社ギャラリーは、日産についてより深く知りたいという意欲的な来場者に対して、充実した情報を提供する場として機能しています。

日産グローバル本社ギャラリーは、工場見学プログラムと連携した活用も行われています。企業や教育機関からの団体訪問を受け入れ、日産の製造技術やモノづくりの哲学について学ぶ機会を提供しています。神奈川産業振興センターなどの機関も、日産グローバル本社ギャラリーを視察先として活用しており、地域産業の発展に寄与する施設としても機能しています。

このように、NISSAN CROSSING銀座と日産グローバル本社ギャラリーという大規模な体験施設と、ショッピングモール内の展示専門店を組み合わせることで、都市部から地方まで、多様な顧客層に対して日産ブランドを体験する機会を提供する、包括的な展示戦略が構築されつつあります。

電気自動車の展示と普及戦略

日産は電気自動車のパイオニアとして、様々な車種を展開しており、商業施設の展示専門店やショールームでは、これらの電気自動車を積極的に展示し、環境に配慮したモビリティの普及に取り組んでいます。

日産サクラは、2022年6月に発売された軽規格の電気自動車です。発売から最初の4ヶ月半で33000台以上の受注を記録し、大きな注目を集めました。バッテリー容量は20kWhで、WLTCモードでの航続距離は180kmです。日常の買い物や通勤など、日々の生活に適した使い勝手の良さが特徴となっています。

サクラの価格は、自治体の補助金を活用することで、実質123万円から購入できるケースもあり、電気自動車の普及における価格障壁を大きく下げることに成功しました。ショッピングモールの展示専門店では、このサクラを実際に見て、座って、電気自動車の魅力を体感できる機会を提供しています。軽自動車という身近なカテゴリーで電気自動車を展開することで、より多くの人々に電気自動車を身近に感じてもらうことができています。

日産アリアは、リーフに続く日産の2番目のバッテリー電気自動車として2020年に発表されました。日産の電気自動車のフラッグシップとして位置づけられ、バッテリー容量(66kWhのB6と91kWhのB9)と駆動方式の選択肢によって4つのモデルバリエーションが用意されています。

アリアは、日産の最新技術を結集したクロスオーバーSUVであり、先進的なデザインと高い走行性能を兼ね備えています。展示専門店では、このプレミアム電気自動車を通じて、日産の技術力とブランド価値を体現する重要な役割を果たしています。

日産リーフは、2010年に発売された世界初の量産型電気自動車として、電気自動車の歴史において重要な位置を占めています。長年にわたる改良と進化を重ね、現在も日産の電気自動車ラインナップの中核を担っています。リーフは、電気自動車の信頼性と実用性を証明してきた車両として、展示施設でも重要な展示車両となっています。

電気自動車は、従来のガソリン車とは異なる特性を持つため、その魅力を伝えるには工夫が必要です。充電インフラや航続距離、補助金制度など、電気自動車ならではの情報を分かりやすく提供することが求められます。展示専門店では、専門知識を持ったスタッフが、これらの疑問に丁寧に答えることで、電気自動車への理解と関心を深める役割を果たしています。

出張展示会の取り組み

日産は、常設の展示専門店だけでなく、期間限定の出張展示会も積極的に開催しています。これにより、常設店舗のない地域でも日産車に触れる機会を提供しています。

日産大阪販売株式会社は、2024年から2025年にかけて、大阪府内の複数のショッピングモールで出張展示会を開催しています。「見て!さわって!わかる!」をコンセプトに、実際に車両を体験できるイベントを展開しています。

2024年9月には複数の会場で展示会が実施され、2024年12月にはニシノミヤガーデンズ(西宮市)で12月7日から8日にかけて開催されました。さらに、2025年1月にはイオンモール四條畷(四條畷市)で1月18日から19日にかけて展示会が行われる予定となっています。

これらの出張展示会では、最新の日産車両を展示し、来場者が実際に車内に乗り込んで座席に座ったり、機能を確認したりすることができます。スタッフが常駐し、車両の特徴や性能について詳しく説明を行うため、来場者は気軽に質問しながら日産車について学ぶことができます。

出張展示会は、常設の展示専門店を設置するほどの需要が見込めない地域や、新たな市場開拓を目指す地域での認知度向上に効果的です。また、季節やイベントに合わせた展示内容の変更も可能であり、柔軟なマーケティング活動が実現できます。

ショッピングモール出店の利点

ショッピングモールへの出店は、日産にとって多くの利点をもたらしています。

第一に、高い集客力が挙げられます。ショッピングモールは、週末を中心に多くの家族連れや若年層が訪れる施設です。日産の展示専門店は、こうした大勢の来場者に対して自然な形でブランドを訴求できる絶好の機会を得ることができます。特に、イオンモールなどの大型商業施設は、年間を通じて安定した集客があり、継続的なブランド露出が可能です。

第二に、ターゲット層へのアプローチが効果的に行えます。ファミリー層は自動車の主要な購買層です。ショッピングモールを訪れる家族連れに対して、ミニバンやSUV、そして環境に優しい電気自動車などを展示することで、効果的にターゲット層にアプローチできます。また、子供連れの家族が気軽に立ち寄れる環境は、長期的な顧客関係の構築にもつながります。

第三に、心理的なハードルの低さがあります。従来の自動車販売店は、購入を検討している人が訪れる場所という印象が強く、単に情報収集をしたいだけの人にとってはハードルが高い面がありました。しかし、ショッピングモール内の展示専門店は、買い物のついでに気軽に立ち寄れる環境であり、心理的なハードルが大幅に下がります。

第四に、相乗効果が期待できます。ショッピングモール側にとっても、日産の展示専門店は施設の魅力を高める要素となります。自動車という高額商品の展示は、モールの格を上げ、他の店舗への波及効果も期待できます。このように、Win-Winの関係を構築できる点も、ショッピングモール出店の大きな利点です。

展示専門店の運営手法

展示専門店のスタッフは、従来の営業担当者とは異なる役割を担っています。彼らの主な任務は、来場者に対して車両の特徴や性能、価格などの情報を提供することです。販売ノルマに縛られることなく、純粋に日産車の魅力を伝えることに集中できるため、来場者に対してプレッシャーを与えない、友好的なコミュニケーションが実現されています。

展示専門店では、その地域の特性や顧客層に合わせた車両を選定して展示しています。ファミリー層が多い地域ではセレナなどのミニバン、都市部では電気自動車のサクラやリーフ、アウトドア志向の強い地域ではSUVのエクストレイルなど、戦略的な車両選定が行われています。

また、定期的に展示車両を入れ替えることで、リピーターにも新鮮な体験を提供し、継続的な来店を促しています。季節やイベントに合わせた特別展示なども実施され、来場者の関心を引き続けています。

現代の展示施設では、デジタル技術の活用が不可欠です。タブレット端末やディスプレイを使用して、車両の詳細情報や見積もりシミュレーション、カスタマイズオプションの確認などができるようになっています。また、バーチャルリアリティ技術を活用した試乗体験や、拡張現実を使った機能説明なども、先進的な展示施設では導入されています。

展示専門店は販売を行わないため、興味を持った顧客を近隣の販売店に適切に誘導する仕組みが重要です。顧客の連絡先情報を取得し、後日販売店から連絡を取る体制や、その場で近隣販売店での試乗予約ができるシステムなど、スムーズな販売プロセスへの移行が図られています。

競合他社の動向との比較

トヨタ自動車も、商業施設での展示活動に力を入れています。特に、電気自動車やハイブリッド車の展示に注力し、環境技術のアピールを行っています。トヨタはディーラーネットワークが充実しているため、展示専門店というよりは、既存の販売店での展示強化に重点を置いている傾向があります。

ホンダは、若年層へのアプローチを重視し、都市部を中心とした展示活動を展開しています。特に、二輪車と四輪車を組み合わせた総合的なモビリティ提案を行う施設を設置するなど、独自の戦略を展開しています。

メルセデス・ベンツやBMWなどの高級車ブランドも、都市部の商業施設での展示に力を入れています。これらのブランドは、ライフスタイル提案型の展示施設を設置し、単なる自動車販売ではなく、ブランド体験の提供を重視しています。日産もこうした高級ブランドの手法を参考にしながら、独自の顧客体験を創出しようとしています。

デジタルトランスフォーメーションへの取り組み

展示専門店の展開と並行して、日産はデジタルトランスフォーメーションにも積極的に取り組んでいます。デジタルとリアルの双方から顧客にアプローチする統合的な戦略が、現代の自動車販売における成功の鍵となっています。

日産は2023年に、顧客の属性データと行動データを統合する「Treasure Data CDP(カスタマーデータプラットフォーム)」を導入しました。この取り組みは、Japan-ASEANデジタルトランスフォーメーション部が主導しています。カスタマーデータプラットフォームの導入により、顧客一人ひとりの行動パターンや嗜好を把握し、最適なタイミングで最適な情報を提供することが可能になりました。

日産は販売会社のウェブサイトにチャットボット型のオンラインカスタマーサービスを実装しています。これにより、実店舗を訪れることなく、顧客が気軽に質問や相談ができる環境を整備しました。24時間365日対応可能なチャットボットは、基本的な質問に即座に回答し、必要に応じて人間のオペレーターに引き継ぐ仕組みとなっています。

日産は販売会社のデジタル化を推進するため、デジタルツールを開発し全国展開しています。これらのツールは、顧客情報を分析して購入見込みの高い顧客を特定したり、点検や整備の入庫管理を効率化したりする機能を持っています。販売店スタッフの業務効率化と、顧客へのサービス品質向上を同時に実現する取り組みです。

日産は、カーシェアリング型のセルフサービス試乗サービスも提供しています。顧客は事前にオンラインで予約することで、販売店を訪れることなく、24時間365日いつでも試乗車を借りて試乗することができます。この仕組みは、忙しい現代人のライフスタイルに合わせた新しい試乗体験を提供しています。

日産のデジタルチームは、顧客が日産のタッチポイントと接触する際に「日産は私のことを理解してくれている」と感じられるプラットフォームの構築を目指しています。オンラインでの情報収集から、展示専門店での実車体験、販売店での購入、そしてアフターサービスまで、一貫した顧客体験を提供することで、顧客との長期的な関係構築を図っています。

顧客ジャーニーの変化への対応

自動車購入における顧客の行動パターンは、過去10年間で大きく変化しています。日産の展示専門店戦略は、こうした顧客ジャーニーの変化に対応した取り組みとして位置づけられます。

過去10年間で、顧客が自動車購入時に販売店を訪れる回数は、7回から1.5回へと劇的に減少しました。最近の調査では、顧客が平均して2.6回しか販売店を訪れないことが明らかになっています。これは、インターネットでの情報収集が一般化し、顧客が販売店を訪れる前に、既にある程度購入する車種を決めている傾向が強まっていることを示しています。

購入者の約60%が、販売店を訪れる前にウェブサイトで情報を閲覧しています。さらに、調査によれば、70%のユーザーが自動車購入の検討をオンラインで行い、実際の購入時にのみ店舗を訪れたいと考えています。このような行動パターンの変化は、オンラインとオフラインを統合したマーケティング戦略の重要性を示しています。

日産は商業施設内に設置したウォークイン型店舗の効果を測定するため、リアルタイム来店者分析サービスを導入しています。これにより、展示専門店への来店者が、実際にどの程度販売店への来店につながっているかを定量的に把握し、戦略の改善に活かしています。

日産は約4年前から統合型マーケティングを推進しており、顧客ジャーニーに基づいた一貫性のあるコミュニケーションを構築し、ビジネス成果につなげる取り組みを続けています。展示専門店は、この統合型マーケティング戦略における重要なタッチポイントの一つとして機能しています。

日産は、顧客データベース管理とデジタルマーケティング業務を「Japan Digital Customer Experience部」に集約し、執行役員直下に配置しました。この組織再編により、機動的で顧客中心の活動を可能にし、顧客体験の向上を組織全体で推進する体制を整えています。

アフターサービスとの連携による顧客満足度向上

展示専門店での初回接触から、購入、そしてアフターサービスに至るまで、一貫した顧客体験を提供することが、長期的な顧客満足度向上につながります。

日産は、先進技術を搭載した車両や電気自動車の安全性能を維持するため、独自の先進メンテナンス機器を使用して車両状態を徹底的に診断するアフターサービスを提供しています。展示専門店で最新技術に触れた顧客が、購入後も安心してその技術を活用できるよう、充実したサポート体制を整えています。

2023年のJ.D.パワー日本自動車サービス顧客満足度調査において、日産はマスマーケット国内ブランド部門で737ポイントを獲得し、2位にランクインしました。これは1位のホンダ(740ポイント)に僅差で続く結果であり、日産のアフターサービスが高く評価されていることを示しています。

調査結果から、顧客満足度に影響を与える要因は、「店舗施設・サポート」(35%)、「サービス品質・納車」(34%)、「予約・受付」(31%)となっています。特に注目すべき点として、不具合や故障の修理が発生した場合、顧客の不満が大きくなり、全体的な顧客満足度に影響を与えることが明らかになっています。

日産では、顧客からの問い合わせや相談内容を記録し、顧客対応やサービス品質の改善に活用しています。展示専門店での接触情報も含めた包括的な顧客データベースを構築することで、個々の顧客のニーズや履歴に基づいた、きめ細やかなサービス提供が可能になります。

自動車ビジネスにおいては、初回購入だけでなく、定期的なメンテナンス、部品交換、そして次回買い替え時のリピート購入まで含めた、顧客の生涯価値が重要です。展示専門店での良好な第一印象、購入時の丁寧な対応、そして購入後の質の高いアフターサービスという一連の体験が、顧客との長期的な関係構築と、生涯顧客価値の最大化につながります。

自動車業界全体のトレンドとの関連性

日産の商業施設における展示専門店展開は、自動車業界全体で進行している大きなトレンドの中に位置づけることができます。

自動車業界では、従来のディーラーモデルから、多様な販売チャネルを活用する新しいモデルへの移行が進んでいます。テスラに代表される直販モデルや、オンライン販売の拡大など、販売方法の多様化が進む中で、日産の展示専門店は、リアルな接点を維持しながら、販売プレッシャーを排除した新しい形態として注目されます。

現代の消費者は、単なる製品購入ではなく、体験や物語を求める傾向が強まっています。自動車のような高額商品においては、この傾向はより顕著です。展示専門店は、日産ブランドとの出会い、最新技術との触れ合い、そして未来のモビリティへの期待といった、感情的な体験を提供する場として機能しています。

自動車業界全体で電動化が進む中、電気自動車に対する消費者の理解促進が課題となっています。展示専門店は、電気自動車の実車を展示し、充電方法や航続距離、補助金制度などについて丁寧に説明することで、電気自動車普及の重要な役割を果たしています。ショッピングモールという日常的な場所で電気自動車に触れる機会を提供することは、電気自動車を特別なものではなく、身近な選択肢として認識してもらうことにつながります。

自動車メーカーは、単なる車両の製造・販売から、モビリティサービスの提供へと事業領域を拡大しています。展示専門店は、将来的には、カーシェアリングや自動運転サービスなど、新しいモビリティサービスの体験拠点としても機能する可能性を秘めています。

環境意識の高まりを受けて、企業の環境への取り組みが重要視されています。展示専門店での電気自動車の積極的な展示や、環境技術に関する情報発信は、日産のサステナビリティへのコミットメントを示す重要な機会となっています。また、既存の商業施設内に出店することで、新規の建物建設に比べて環境負荷を抑えることができるという側面もあります。

今後の展望と課題

日産は2027年度までに展示専門店を30店舗超に拡大する計画です。これは、現在の13店舗から2倍以上の規模となる大規模な展開です。新規出店候補地の選定では、人口動態、競合状況、既存販売店との距離などを総合的に考慮し、最適な立地を選んでいく必要があります。

日本各地には、それぞれ異なる自動車文化や顧客ニーズが存在します。展示専門店の展開にあたっては、こうした地域特性を理解し、それぞれの地域に最適な展示内容やコミュニケーション方法を構築していくことが重要です。

オンラインでの情報収集が主流となっている現代において、リアル店舗の役割は変化しています。展示専門店は、オンラインでは得られない実車体験や、専門スタッフとの対話といった価値を提供する必要があります。同時に、オンラインプラットフォームとの連携を強化し、オンラインとオフラインをシームレスにつなぐ顧客体験の構築が求められます。

自動車業界全体が、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいます。展示専門店においても、電気自動車の展示強化や、環境技術に関する情報発信を通じて、日産の環境への取り組みを訴求していく必要があります。また、施設運営自体も、省エネルギーや再生可能エネルギーの活用など、環境に配慮した運営が求められます。

展示専門店のスタッフは、日産ブランドの顔として重要な役割を果たします。製品知識はもちろん、コミュニケーション能力、ホスピタリティ、そして日産の企業文化や価値観を体現する力が求められます。こうした優秀な人材を育成し、確保していくことは、展示専門店戦略の成功において極めて重要な要素となります。

日産は近年、国内販売の課題やブランド力向上の必要性に直面してきました。展示専門店の拡大は、こうした課題を克服し、経営再建につなげるための重要な施策の一つです。短期的な販売実績だけでなく、長期的なブランド価値の向上と、顧客との持続的な関係構築を通じて、日産の企業価値向上に貢献することが期待されています。

まとめ

日産自動車の商業施設における展示専門店は、従来の自動車販売の枠を超えた新しい顧客接点の創出を目指す戦略的な取り組みです。販売を行わず、営業担当者を置かないという独自の運営方針により、顧客にプレッシャーを与えることなく、気軽に日産車の魅力を体験できる場を提供しています。

2016年度の開始以来、着実に店舗数を増やし、現在では13店舗を展開しています。そして、2027年度までに30店舗超へと倍増させる計画は、日産の顧客接点拡大戦略における本気度を示しています。

ショッピングモールという高い集客力を持つ立地を活用し、ファミリー層や若年層など幅広いターゲットにアプローチすることで、日産車を検討していなかった潜在顧客との接点を創出することができます。また、電気自動車などの最新技術を実際に体験できる機会を提供することで、日産の技術力とブランド価値を効果的に訴求しています。

NISSAN CROSSING銀座や日産グローバル本社ギャラリーなどの大規模展示施設と、ショッピングモール内の展示専門店を組み合わせることで、都市部から地方まで、多様な顧客層に対して日産ブランドを体験する機会を提供する、包括的な展示戦略が構築されつつあります。

今後、デジタル技術の活用、地域特性への対応、優秀な人材の育成など、様々な課題に取り組みながら、展示専門店ネットワークを拡大していくことで、日産は経営再建とブランド価値向上を実現していくことが期待されます。商業施設における展示専門店は、日産の未来を切り開く重要な戦略的施策として、今後も注目されていくでしょう。

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