ピザハットはなぜ閉鎖ラッシュに?業績低迷の原因と今後の展望

社会

ピザハットの店舗閉鎖は、過去の成功モデルであったダインイン(店内飲食)型店舗が現代のデリバリー主体の消費行動に適合しなくなったことによる業績低迷が最大の理由です。米国市場では2024年から2026年にかけて数百店舗規模の閉鎖が進行しており、親会社Yum! Brandsがピザハット事業の売却を含む「戦略的見直し」を発表する事態にまで発展しました。競合ドミノ・ピザのデジタル戦略やインフレによるコスト構造の崩壊など、複合的な原因が重なった結果です。

本記事では、ピザハットが直面している危機の全容を詳しく分析します。なぜ世界最大級のピザチェーンがここまで追い詰められたのか、業績低迷の構造的原因を多角的に掘り下げるとともに、対照的に成長を続ける日本市場の独自戦略についても解説します。ピザハットの店舗閉鎖の背景を理解することで、外食産業全体が抱える課題と今後の展望が見えてきます。

ピザハットの店舗閉鎖の現状と「ハット・フォワード」プログラムの全容

ピザハットの店舗閉鎖は、親会社Yum! Brandsが主導する構造改革プログラム「Hut Forward(ハット・フォワード)」の一環として進められています。2026年上半期だけでも約250店舗の閉鎖が計画されており、これは米国内の総店舗数の約3〜4%に相当する大規模なものです。

この閉鎖は、単なる不採算店舗の整理にとどまりません。Yum! BrandsのCFOであるランジス・ロイ氏は、この閉鎖を「ブランドの長期的加速への架け橋」と説明していますが、その背景には既存店売上高の深刻な低迷があります。2025年第4四半期の米国既存店売上高は3%減少し、通年でも5%のマイナス成長を記録しました。競合他社が成長を維持する中で、ピザハットは一人負けの状態に陥っています。

「ハット・フォワード」プログラムは、表面上はマーケティングの強化やテクノロジーの近代化、フランチャイズ契約の刷新を掲げています。しかし実質的には、デリバリーに適さない老朽化した店舗と財務体質の弱いフランチャイズオーナーをシステムから排除する淘汰のプロセスです。かつてブランドの象徴であった「赤い屋根(Red Roof)」のダインイン型店舗は、現代のデリバリー主体の消費行動において高コスト体質の主因となっており、効率的なデリバリー・持ち帰り専門店(Delcoモデル)への転換、あるいは閉鎖が急務となっています。

親会社Yum! Brandsによるピザハット事業の「戦略的見直し」と売却の可能性

事態の深刻さを決定づけたのは、2025年11月にYum! Brandsが発表したピザハット事業に対する「戦略的見直し(Strategic Review)」です。「戦略的見直し」という表現は、通常、事業売却の前段階として用いられることが多く、業界に大きな衝撃を与えました。

Yum! BrandsのCEOクリス・ターナー氏は、「ピザハットのパフォーマンスは、ブランドの真の価値を実現するために追加的なアクションが必要であることを示しており、それはYum! Brandsの外部でより良く実行される可能性がある」と明言しました。KFCやタコベル、ハビット・バーガー・グリルといった傘下の他ブランドがデジタル売上の伸長や新規出店によって堅調な成長を見せる中で、ピザハット部門がグループ全体の足を引っ張る存在となっていることを、経営陣自らが認めた形です。

投資家やアナリストの間では、Yum! Brandsが高成長・高収益のブランドにリソースを集中させるため、低迷するピザハット事業をプライベート・エクイティ・ファンドや他の事業会社へ売却するシナリオが現実味を帯びて議論されています。

フランチャイズの崩壊がピザハット店舗閉鎖を加速させた構造的原因

店舗閉鎖の直接的なトリガーとなったのは、有力フランチャイジーの経営破綻です。米国中西部や南部で140店舗以上を展開していたEYM Pizza L.P.(EYM Group)は、資金繰りの悪化により連邦破産法第11条の適用を申請しました。

EYM Groupの破綻は、単なる個別の経営失敗ではありません。同社はピザハット本部との間で、メニュー価格の設定権や運営基準、ロイヤリティ支払いを巡る長期間の法廷闘争を繰り広げていました。インフレによる原材料費の高騰と人件費の上昇が続く中で、フランチャイズオーナーの利益率は極限まで圧迫され、本部が求める改装投資やデジタル投資に耐え切れなくなった結果です。

EYM Groupの管理下にあったイリノイ州、インディアナ州、ジョージア州、サウスカロライナ州、ウィスコンシン州などの店舗が突如として閉鎖されました。一部はピザハット本部や他のフランチャイジーによって救済買収されたものの、多くの店舗が再開のめどが立たないまま市場から姿を消しています。この事例は、ピザハットのビジネスモデルが抱える「本部と加盟店の利益相反」という構造的な問題を明確に露呈させました。

ピザハットの業績低迷の根本原因:「赤い屋根」が負の遺産に

ピザハットの業績低迷は、一朝一夕に起きたものではありません。過去の成功体験が現代の市場環境において「負の遺産」と化したことが根本的な原因です。1980年代から90年代にかけてのピザハットの「黄金時代」は、家族連れが店舗を訪れ、焼きたてのパンピザを囲むダインイン体験によって築かれました。アイコニックな赤い屋根の店舗は地域のコミュニティセンターとしての機能を果たし、強力なブランド資産でした。

しかし、2010年代以降、スマートフォンの普及とフードデリバリープラットフォームの台頭により、消費者のニーズは「体験」から「利便性」へと劇的にシフトしました。競合のドミノ・ピザは当初から宅配に特化した小型店舗戦略を採用し、駅前や住宅街の狭小物件に出店することで固定費を低く抑え、高い回転率を実現していました。

一方、ピザハットは広大な駐車場と客席を持つ老朽化した「赤い屋根」店舗を大量に抱え続けました。これらの店舗は維持費がかさむだけでなく、デリバリーの拠点としては立地が不適切な場合も多かったのです。2019年の時点で全米店舗の半数がダインイン型であったにもかかわらず、売上の90%はテイクアウトとデリバリーから発生していました。売上の大半を生まない客席スペースのために莫大な家賃と光熱費を払い続ける「資産のミスマッチ」が、価格競争力の低下と収益性の悪化を招く根本原因となったのです。

ドミノ・ピザのデジタル覇権がピザハットの業績低迷に与えた影響

米国市場におけるピザハットのシェア低下は、ドミノ・ピザの躍進と表裏一体の関係にあります。2019年から2024年にかけて、ピザハットの市場シェアは22.6%から18.7%へと大幅に縮小しました。

ドミノ・ピザの成功要因は、「テクノロジー企業としてのピザ屋」というポジショニングを確立したことにあります。ドミノは「Fortressing(要塞化)」と呼ばれる戦略を展開し、配達エリアを細かく分割して店舗密度を高めることで、配達時間の短縮と配送コストの削減を同時に実現しました。さらに、アプリのUI/UX、注文追跡システム、ロイヤリティプログラムにおいて圧倒的な使いやすさを提供しています。ピザハットもデジタル投資を進めていますが、ドミノが先行して構築したスマートウォッチや車、SNSなどあらゆるデバイスから注文可能な「AnyWare」エコシステムには及んでいないとの評価が一般的です。

価格戦略でも明確な差が生まれています。ドミノは「Mix & Match」などの強力なバリューセットを通年で提供し、インフレ下で節約志向を強める消費者を囲い込んでいます。ピザハットは高コスト体質のために大胆な値下げに踏み切れず、価格競争において劣勢に立たされている状態です。

インフレと「カリフォルニア・ショック」がピザハットの経営を直撃した理由

2024年から2025年にかけての急速なインフレは外食産業全体に打撃を与えましたが、特にピザハットのような低中所得者層を主要顧客とするチェーンにとっては致命的でした。消費者の可処分所得が減少する中で、外食やデリバリーは真っ先に節約の対象となったためです。

さらに深刻だったのが、政策的な要因です。2024年4月にカリフォルニア州で施行されたファストフード労働者の最低賃金引き上げ(時給20ドルへの引き上げ)は、ピザ業界に激震を走らせました。ピザのデリバリーは極めて労働集約的なビジネスであり、ドライバーの人件費高騰は利益率を直撃します。このコスト増に対応するため、カリフォルニア州の主要なピザハット・フランチャイジーは1,200人以上の自社雇用デリバリードライバーを解雇し、配送業務をUber EatsやDoorDashなどのサードパーティへ全面委託するという苦渋の決断を下しました。

この「自社配送の放棄」はコスト削減には寄与するものの、配送品質(ピザの温度、崩れ、接客態度)のコントロールが効かなくなることで顧客満足度の低下を招きます。さらにプラットフォームへの手数料支払いが新たなコスト負担となる「諸刃の剣」です。この「カリフォルニア・ショック」は全米の他の州にも波及する可能性があり、フランチャイズオーナーの経営意欲を減退させる大きな要因となっています。

ピザハットの商品力低下とブランドイメージの陳腐化も業績低迷の一因

消費者のフィードバックやSNS上の声を分析すると、ピザハットの商品品質に対する不満が目立ちます。かつて「最高のピザ」と称賛されたパンピザは、コスト削減の影響からか「生地が冷凍になった」「具材が減った」「味が落ちた」といった厳しい評価を受けることが増えています。いわゆる「シュリンクフレーション(内容量の実質的な削減)」への不満も広がっています。

メニューの革新性においても、競合他社に後れを取っている状況です。パパ・ジョンズが高品質な食材を売りにし、リトル・シーザーズが圧倒的な低価格を武器にする中で、ピザハットは「どっちつかず」のポジションに陥っています。過去の栄光である読書奨励プログラム「Book It!」へのノスタルジーは依然として強いものの、それがZ世代やミレニアル世代の購買行動には直結していないのが現状です。

日本のピザハットが成長を続ける理由と米国市場との決定的な違い

米国本国での苦境とは対照的に、日本のピザハット(ピザハット・ジャパン)は全く異なる成長曲線を描いています。その最大の要因は、資本構造の独立性にあります。

ピザハット・ジャパンはかつて日本KFCホールディングスの傘下にありましたが、2017年に投資ファンドのエンデバー・ユナイテッドへ譲渡され、その後2022年に食品卸大手のヤマエグループホールディングスが買収しました。現在はYum! Brandsの直轄子会社ではなく、日本の事業会社であるヤマエグループの連結子会社として運営されています。この資本構造により、米国本部の硬直的な戦略や「戦略的見直し」の混乱から一定の距離を置くことができています。さらに、ヤマエグループの持つ強力な物流網と食品調達力を活かしたコストダウンや、日本市場に特化した迅速な意思決定が可能となりました。

米国が店舗数を減らす中、日本市場では2024年から2025年にかけて600店舗体制を達成し、なお新規出店を加速させる「攻め」の姿勢を維持しています。米国と日本の戦略の違いは以下の通りです。

比較項目米国ピザハット日本ピザハット
経営母体Yum! Brands(売却検討中)ヤマエグループホールディングス
店舗戦略大規模閉鎖(2026年上半期に約250店舗)新規出店加速(600店舗体制達成)
主力商品ファミリー向け大型サイズ個食向け「MY BOX」
デジタル戦略業務効率化・コスト削減重視顧客体験向上・エンゲージメント重視
市場シェア縮小傾向(22.6%→18.7%)成長継続

「MY BOX」に見るピザハット・ジャパンの個食戦略と市場開拓

ピザハット・ジャパンが成し遂げた最も注目すべき成果は、ピザを「ハレの日に大人数で食べるもの」から「日常的に一人で食べるもの」へと再定義したことです。その象徴的な商品が、2021年に投入された「MY BOX(マイボックス)」です。

直径約15cmのSサイズピザとポテトやナゲットなどのサイドメニューを一つの箱に収めたこのセット商品は、コロナ禍での「個食」需要を的確に捉えました。従来のデリバリーピザはLサイズやMサイズが主流で、単身世帯やランチ需要には「量が多く、価格が高い」というハードルがありました。「MY BOX」はこの障壁を取り払い、平日ランチや一人暮らしの夕食という巨大な未開拓市場を掘り起こしたのです。累計販売数は数百万個を超え、競合他社も追随せざるを得ないカテゴリースタンダードとなりました。

米国市場が依然としてファミリー向けの大型サイズや低価格競争に注力しているのに対し、日本市場は「単価は低くとも利用頻度を高める」戦略へと舵を切り、客数増という成果につなげています。

ピザハット・ジャパンの「バズ・マーケティング」と話題性のある商品開発

ピザハット・ジャパンは、SNS時代に即した話題性の高い商品開発でも成功を収めています。その代表例が、人気ラーメンチェーン「天下一品」とのコラボレーションによる「こってり風ラーメンピザ」です。ピザ生地の上にラーメンの麺と濃厚なスープをトッピングするという常識外れの商品は、発売直後からSNS上で「炭水化物の暴力」「狂気(褒め言葉)」として爆発的な話題を呼び、想定の4倍以上の売上を記録して早期完売となりました。その後、急遽再販が決定するほどの人気ぶりでした。

他にも、パクチーを山盛りにした「パクチーすぎて草」ピザやウインナーコーヒーを模したピザなど、視覚的インパクトと話題性を重視した商品を期間限定で次々と投入しています。これらの商品は、普段ピザを注文しない層の関心を惹きつけ、ブランドの若返りに有効に機能しています。米国ピザハットが「伝統」や「過去のブランド資産」に縛られているのに対し、日本ピザハットは「面白さ」「驚き」を価値提案の中心に据えている点が大きな差別化要因となっています。

ピザハット・ジャパンのデジタル戦略と顧客体験の向上

ピザハット・ジャパンは、マーケティングと運営のデジタル化においても独自の進化を遂げています。Salesforceなどの最新CRMツールを導入し、顧客データの統合と分析を強化しました。これにより、アプリやLINEを通じた注文導線が大幅に改善されたほか、顧客ごとの注文履歴や嗜好に基づいたパーソナライズされたクーポン配信(One to Oneマーケティング)が実現しています。

「チーズ好き」の顧客にはチーズ増量キャンペーンを、「辛いもの好き」には激辛ピザを提案するなど、画一的なマス広告では不可能なアプローチにより、リピート率の向上と顧客生涯価値(LTV)の最大化に寄与しています。米国でもAI導入が進んでいますが、それは主に人件費削減を目的とした業務効率化に重点が置かれています。対して日本では、顧客体験の向上とエンゲージメント強化にテクノロジーが活用されており、顧客満足度の維持につながっています。

ピザハットの再生に向けたAI戦略とテクノロジー投資の全貌

ブランド全体として生き残りをかけたテクノロジー投資は、グローバル規模で加速しています。Yum! Brandsは「Byte by Yum」と呼ばれる独自のAI主導型プラットフォームを構築し、ピザハットを含む傘下ブランドへの導入を進めています。

AI音声注文の分野では、米国NVIDIA社との戦略的提携により、ドライブスルーや電話注文においてAIエージェントが自動で応対するシステムの実装が進んでいます。NVIDIAの「Riva」および「NIMマイクロサービス」を活用したこのAIは、複雑なメニューの組み合わせや顧客の話し言葉を正確に理解し、推奨商品の提案まで行います。従業員が注文受け業務から解放されることで、調理や接客への集中、人手不足の解消、注文精度の向上が期待されています。

配送管理の分野では、「Dragontail(ドラゴンテイル)」システムが注目されます。調理のタイミングとドライバーの到着時間をAIが最適化し、ピザが焼き上がった瞬間にドライバーが受け取れるようにする高度な仕組みです。これはドミノ・ピザの配送効率に対抗するための切り札であり、商品の温度管理向上と配送時間の短縮を同時に実現します。顧客は自分のピザがどこにあるかをリアルタイムで追跡でき、待機時間のストレスが軽減されます。

店舗運営の分野では、「AI Restaurant Coach」と呼ばれる機能が各店舗の売上データや在庫状況をリアルタイムで分析し、店長に対して「仕込みの量を増やす」「シフトを調整する」といった具体的なアドバイスを提供します。経験の浅いマネージャーでも効率的な店舗運営が可能となり、店舗ごとの品質のばらつきを是正する効果が期待されています。

ピザハットの店舗閉鎖と業績低迷から見える今後の展望

「ハット・フォワード」プログラムのもう一つの柱は、フランチャイズ契約の現代化です。Yum! Brandsは、デジタル投資や店舗改装に積極的な「3C(能力があり、資金があり、コミットしている)」なフランチャイズオーナーを優遇し、そうでないオーナーには退出を促す方針を強めています。Flynn Restaurant Groupのような大規模かつ資本力のあるメガ・フランチャイジーへの店舗集約が進むことで、ブランド全体の統制力と投資余力が高まることが期待されています。

ピザハットが直面している現実は「二極化」です。米国市場では「過去の成功体験からの脱却の遅れ」「競合ドミノ・ピザのデジタル覇権」「インフレと人件費高騰によるコスト構造の崩壊」という三重苦により、縮小均衡を余儀なくされています。2026年にかけての店舗閉鎖と戦略的見直しは、ブランドが生き残るための不可避な「止血処置」であり、今後は「レストラン」としてのアイデンティティを捨て、テクノロジーによって最適化された「ピザ供給インフラ(Delcoモデル)」へと変貌していくことが予想されます。Yum! Brandsが売却を選択した場合、その変革はさらにドラスティックなものとなるでしょう。

一方、日本市場では「徹底したローカライズ」「個食需要への適応」「エンターテインメント性のある商品開発」によって、成熟市場でも成長の余地があることを証明しています。日本のピザハットは、単なる米国ブランドの支店ではなく、独自の進化を遂げた存在として今後も堅調な成長を続ける見通しです。

ピザハットの事例は、外食産業全体に重要な教訓を投げかけています。かつての競争優位の源泉は市場環境の変化により瞬時に「負債」へと変わりうること、グローバルブランドであっても各国の社会構造や文化に適応した独自戦略が不可欠であること、そしてデジタル投資はもはや差別化要因ではなく参加資格であることです。消費者のピザへの需要は消えていませんが、「どこで、どのように食べるか」の答えは劇的に変化しました。2026年は、ピザハットの成否を分ける分水嶺となるでしょう。

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