Stable Diffusionを使ったAI画像生成において、複数人の自然なポーズを思い通りに表現することは、これまで非常に困難な課題でした。プロンプトだけでは人数が意図通りにならなかったり、人物の特徴が混ざってしまったり、体がねじれるような不自然な形状になることが頻繁に発生していました。しかし、ControlNet OpenPoseの登場により、この状況は劇的に改善されました。OpenPoseは人物の骨格情報(棒人間)を検出・生成し、その構造を基に画像を生成する革新的な技術です。これにより、プロンプトだけでは表現しきれなかった複雑なポーズも、視覚的にAIに伝えることで高い精度で再現できるようになりました。特に複数人のポーズ指定においては、それぞれ異なる動きや関係性を自然に表現することが可能となり、クリエイターの表現の幅を大きく広げています。

ControlNet OpenPoseで複数人のポーズ指定が可能になる仕組みとは?
従来のStable Diffusionでは、テキストプロンプトのみで画像生成を行っていたため、特に人物の複雑なポーズや複数人の構図を制御することは極めて困難でした。AIは学習したポーズしか認識できないため、意図しない形状や不自然な体勢になってしまうことが多く、特に2人以上の人物を配置する際は、人数が合わなかったり、キャラクターの特徴が混在してしまったりする問題が頻発していました。
ControlNetは、この根本的な課題を解決するために開発された画期的な拡張機能です。参照画像から構造情報を抽出し、AIの画像生成プロセスを「コントロール」することで、単なるテキスト指示だけでなく、視覚的な情報をAIに提供できるようになりました。その中でもOpenPoseは、人物のポーズ制御に特化した機能として注目されています。
OpenPoseの仕組みは、人物の関節位置や骨格構造を「棒人間」として検出・表現することから始まります。この棒人間データは、頭部、肩、肘、手首、腰、膝、足首などの主要な関節点を座標として記録し、それらを線で結んで人体の姿勢を表現します。AIはこの棒人間の構造を理解し、その形状に合わせて肉付けや服装、背景などの詳細を生成していきます。
複数人のポーズ指定では、この棒人間を複数配置することで実現されます。OpenPose Editorを使用すれば、画面上に複数の棒人間を配置し、それぞれに異なるポーズを設定することが可能です。例えば、左側の人物を座らせ、右側の人物を立たせるといった複雑な構図も、視覚的に設定できます。さらに、顔の向きや手の位置なども細かく調整できるため、従来では困難だった自然な人物間の関係性や相互作用を表現することができるようになりました。
この技術により、作業時間が約1/4に短縮されるという大きなメリットもあります。以前は理想的なポーズの参考画像を探すのに時間がかかっていましたが、OpenPose Editorを使えば直接的にポーズを作成・編集できるため、クリエイティブな作業により多くの時間を割くことができるようになりました。
複数人ポーズ指定の具体的な手順と設定方法は?
ControlNet OpenPoseを使用した複数人ポーズ指定を行うには、まず適切な環境設定と基本的な操作手順を理解する必要があります。以下、段階的に詳しく解説していきます。
環境構築とインストール手順
最初に、Stable Diffusion Web UIにControlNet拡張機能をインストールします。拡張機能タブから「URLからインストール」を選択し、https://github.com/Mikubill/sd-webui-controlnet
を入力してインストールを実行します。完了後、UIを再起動すると、シード値の下にControlNetタブが表示されます。
次に、OpenPoseモデルファイルをダウンロードします。主要なファイルはcontrol_v11p_sd15_OpenPose.pth
とcontrol_v11p_sd15_OpenPose.yaml
で、これらをstable-diffusion-webui/models/ControlNet
フォルダ内に配置します。商用利用を考慮する場合は、Apache 2.0ライセンスのDw OpenPoseの使用が推奨されます。
基本的な画像生成フロー
- 生成したい画像のプロンプトを通常通り入力します
- ControlNetメニューを開き、「Enable」にチェックを入れます(これを忘れると機能しません)
- 参照画像をControlNetのメニュー画面にセットします
- 「Control Type」で「OpenPose」を選択します
- 参照画像から棒人間を抽出する場合は、「Preprocessor」を
openpose_full
やdw_openpose_full
に設定します - 特徴抽出ボタン「💥」をクリックして、ポーズの抽出結果をプレビューします
- 必要に応じてControl Weight(0.6~1.0程度)を調整し、「Generate」をクリックします
プリプロセッサの選択指針
OpenPoseには複数のプリプロセッサが存在し、用途に応じて使い分けることが重要です。dw_OpenPose_fullは最も高精度で商用利用可能なため、特に推奨されます。OpenPose_fullは顔と手の情報を含む全身検出、OpenPose_handは手の生成精度向上に特化、OpenPose_faceonlyは表情の細かな制御に適しています。
複数人設定の具体的手順
複数人のポーズを指定する場合、OpenPose Editorの活用が不可欠です。拡張機能としてhttps://github.com/huchenlei/sd-webui-openpose-editor.git
をインストールし、「OpenPose Editor」タブから編集画面を開きます。「Add」ボタンで人物を追加し、各棒人間の関節部分をドラッグして個別のポーズを設定します。完成したポーズは「ControlNetにポーズを送信」ボタンでControlNetに送信し、Preprocessorを「none」に設定して画像生成を行います。
この手順により、従来では困難だった複数人の自然な相互作用や複雑な構図を、直感的かつ効率的に実現することができるようになります。
OpenPose Editorを使った棒人間による複数人ポーズ作成テクニックとは?
OpenPose Editorは、複数人のポーズを直感的に作成・編集できる強力なツールです。このエディタを効果的に活用することで、理想的な構図を短時間で実現できます。
OpenPose Editorの基本操作
エディタ画面では、棒人間の関節部分が●印で表示され、これらをドラッグすることで自由にポーズを調整できます。人物の追加は「Add」ボタンで行い、最大で複数人の配置が可能です。各人物は独立して編集でき、削除や複製も簡単に行えます。編集中のポーズは「Save JSON」ボタンでJSON形式で保存でき、後で再利用することができます。
自然なポーズ作成のコツ
人体の関節には物理的な可動域があるため、自然な角度を意識することが重要です。肩や肘、膝などの関節を極端な角度に設定すると、生成画像でも不自然な結果になってしまいます。特に手や指の位置は、AIが苦手とする部分のため、手の関節を丁寧に調整することで生成品質が大幅に向上します。
Facial Keypointsの活用
OpenPoseの棒人間には、顔の向きや表情を制御する「Facial Keypoints」と呼ばれるカラフルな点が配置されています。これらの点を調整することで、顔の向き、目線の方向、頭の傾きなどを細かく指定できます。複数人の画像では、各キャラクターの視線や表情を調整することで、より自然な相互作用を表現できます。
複数人配置の戦略的アプローチ
複数人を配置する際は、画面全体のバランスを考慮することが重要です。人物同士の距離感、身長差、前後関係などを意識して配置します。横長のアスペクト比(16:9や3:2)を使用することで、複数人をバランス良く配置しやすくなります。また、人物が重なり合う部分では、前後関係が明確になるよう奥行きを意識したポーズ設定を行います。
効率的な編集ワークフロー
複雑なポーズを作成する際は、段階的なアプローチが効果的です。まず大まかな全体構図を設定し、次に各人物の基本ポーズを調整、最後に細部(手、顔、足の位置など)を微調整するという順序で進めます。頻繁にプレビュー生成を行い、意図した通りの結果が得られているかを確認しながら調整を重ねることが重要です。
棒人間データの再利用
作成した棒人間ポーズは、JSONファイルとして保存することで、異なるプロジェクトでも再利用できます。よく使用するポーズパターンを予めライブラリとして蓄積しておくことで、作業効率が大幅に向上します。また、オンラインポーズ集(Civitai、Openposes.com、PoseMyArtなど)から既成のポーズデータをダウンロードして活用することも可能です。
これらのテクニックを組み合わせることで、従来では時間のかかっていた複数人ポーズの設定作業を、大幅に短縮しながらより高品質な結果を得ることができるようになります。
Multi ControlNetとRegional Prompterを組み合わせた高度な複数人生成方法は?
単一のOpenPoseだけでは限界がある複雑な複数人生成において、Multi ControlNetとRegional Prompterを組み合わせることで、格段に高品質で制御性の高い画像生成が可能になります。
Multi ControlNetの設定と活用
Multi ControlNetは、異なる種類の制御を同時に適用できる機能です。設定は、Stable Diffusion Web UIの「Setting」タブから「ControlNet」を選択し、「Multi ControlNet: Max models amount」のスライダーで同時使用ユニット数を設定します(推奨は3つ)。設定後、UIの再読み込みが必要です。
各ユニットには特定の役割を割り当てます。Unit 0(OpenPose)で体全体のポーズを制御し、Unit 1(Depth)で奥行き情報を追加して立体感を向上させます。Unit 2(Face)では顔の構造を細かく制御し、表情を安定化させます。さらにReference Onlyでキャラクターの一貫性を保ち、Lineartで手の形や持ち物を正確に指定することができます。
Control Weightの最適化
各ユニットのControl Weight(重み)調整が成功の鍵となります。メインとなるOpenPoseは0.6~1.0程度、DepthやFaceなどのサブユニットは0.3~0.5程度が推奨されます。重すぎると不自然になったり、プロンプトが無視されたりするため、バランスの取れた調整が重要です。Control Modeでは、目的に応じて「Balanced」「My prompt is more important」「ControlNet is more important」を使い分けます。
Regional Prompterによる人物個別制御
Regional Prompter(旧Latent Couple)は、画像生成領域を分割し、それぞれの領域に異なるプロンプトを適用することで、複数人物の個別特徴を正確に描き分ける革新的な機能です。これにより、2人のキャラクターが混ざり合ってしまう問題を根本的に解決できます。
プロンプトの記述には特定の構文を使用します。ADDBASE
でベースとなるプロンプト(背景や全体の視点など)を指定し、ADDCOL
(横分割)やADDROW
(縦分割)で領域を区切り、各領域に固有のプロンプトを適用します。ADDCOMM
では全プロンプト群に共通する品質向上呪文を指定します。
統合ワークフローの実践
効果的な統合ワークフローでは、まずOpenPose Editorで複数人の基本ポーズを設定し、Multi ControlNetでポーズ、奥行き、顔の品質を同時制御します。その上でRegional Prompterを使用して、各人物の髪色、服装、表情などの個別特徴を指定します。例えば、左側に赤髪のキャラクター、右側に青髪のキャラクターを明確に描き分けることが可能になります。
LoRAとの連携
さらに高度な制御を行う場合、LoRA(Low-Rank Adaptation)を併用することで、特定のキャラクターやスタイルの一貫性を保つことができます。キャラクター専用のLoRAモデルを作成すれば、そのキャラクターを様々なポーズやシチュエーションで安定して生成できるようになります。
この統合的なアプローチにより、従来では困難だった複雑な複数人シーンの高精度生成が実現し、より物語性のある魅力的な画像を効率的に作成することができるようになります。
複数人ポーズ指定でよく起こる問題とその解決策は?
ControlNet OpenPoseを使用した複数人ポーズ指定では、様々な技術的課題に遭遇することがあります。これらの問題を理解し、適切な解決策を知ることで、より効率的で高品質な画像生成が可能になります。
ポーズが反映されない根本的原因と対策
最も頻繁に発生する問題は、ポーズが全く反映されないケースです。主な原因として、「Enable」のチェック忘れが挙げられます。ControlNetを有効にする基本設定を見落としがちですが、これがないと機能しません。また、Preprocessor/Modelの選択ミスも重要な要因です。適切なプリプロセッサ(例:openpose
)とモデル(例:control_v11p_sd15_openpose.pth
)の組み合わせを確認し、特に棒人間画像を直接使用する場合は、Preprocessorを「none」に設定することが必須です。
特徴抽出ボタンのクリック忘れも見落としやすい点です。ControlNetのプレビュー画面で、プリプロセッサとモデルの間にある「💥」ボタンをクリックして特徴抽出を実行する必要があります。さらに、Control Weightの調整不足により、ポーズの影響が弱くなることがあります。この値を適切に上げることで忠実度を高められますが、上げすぎると画像が破綻するため、バランスが重要です。
顔や手足の破綻への対応策
AI生成画像でよく発生する手や指、顔の不自然な描写に対しては、複数のアプローチで改善できます。プロンプトの追加として、detailed hands
、perfect anatomy
、perfect fingers
などのキーワードを含めることで精度向上が期待できます。Multi ControlNetの活用では、Face用ControlNet(例:mediapipe_face
)を併用することで顔の品質を大幅に改善できます。
LoRAの強度調整も重要な要素です。LoRAモデルの適用強度が強すぎると顔の構造が歪むため、適切な強度での調整が必要です。また、OpenPose Editorでの棒人間調整において、関節を不自然な角度に設定すると生成画像もぎこちなくなるため、自然な動きを意識した調整が重要です。
複雑な姿勢や重なりの限界と回避法
OpenPoseは単一人物の正面立ちポーズに最も強く、横向きの寝ポーズや頭が画面下側にある変則的なポーズ、人物が過度に密着しているポーズでは、AIが人体として認識しづらく、ボーンが崩壊することがあります。これは、AIモデルが学習していない変則的なポーズの再現が困難なことに起因します。
このような場合の対策として、段階的なアプローチが有効です。複雑なポーズを分解し、まず基本的なポーズから開始して徐々に調整を加えていきます。また、参考画像の活用により、実際の写真やイラストからポーズを抽出し、それを基に微調整を行う方法も効果的です。
ハードウェア制約とパフォーマンス最適化
ControlNetは追加のモデルを読み込むため、VRAM使用量の増加と生成時間の延長が発生します。特にSDXLモデルでは16GB以上のVRAMが推奨されます。VRAMが不足している場合は、低VRAMモードの有効化で動作させることができますが、生成速度が低下します。
バッチ処理の注意点として、複数画像をバッチ処理する場合はBatch Size
の設定が重要です。Batch Count
を使用すると、ControlNetは最初の画像のみを複数回処理するため、フォルダ内の全画像を処理するには適切なBatch Size
調整が必要です。
これらの課題を理解し、適切な対策を講じることで、ControlNet OpenPoseの複数人ポーズ指定機能を最大限に活用できるようになります。
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