2025国際ロボット展(iREX 2025)は、2025年12月3日から6日にかけて東京ビッグサイトで開催される世界最大級のロボット専門展示会です。今回の展示会では「ロボティクスがもたらす持続可能な社会」をテーマに掲げ、警備、介護、物流、インフラ点検といった分野で活躍するサービスロボットが数多く出展されます。1974年の初開催から数えて26回目となる本展は、出展者数673社・団体、海外14カ国から140社が参加し、いずれも過去最多を更新する規模での開催となる予定です。この記事では、iREX 2025で注目されるサービスロボットの最新動向から、会場構成、ヒューマノイドロボットの実用化、物流ロボットによる2024年問題への対応まで、詳しく解説していきます。

2025国際ロボット展(iREX 2025)の開催概要と会場構成
2025国際ロボット展は、日本ロボット工業会と日刊工業新聞社が主催する歴史ある展示会であり、2年に一度のペースで開催されてきました。今回の開催は2025年12月3日から6日までの4日間、東京ビッグサイトを会場として行われます。主催者は来場者数を前回(2023年)実績より約2,000人多い15万人と見込んでおり、そのうち海外からの来場者は約1万人に達すると予測しています。
今回の会場構成において注目すべき点は、東京ビッグサイトの東展示棟で進行中の大規模改修工事の影響です。これまでメイン会場の一角を担っていた東1ホールから東3ホールが使用できないため、展示会場は東4ホールから東8ホール、西1ホールから西4ホール、そしてアトリウムという変則的な構成となります。この影響により、総小間数は前回の3,508小間から3,334小間へと174小間減少していますが、出展者数自体は前回を19社・団体上回る673社・団体となり過去最多を更新しました。これは各社がより効率的で密度の高い展示レイアウトを工夫していることを示唆しており、来場者にとっては単位面積あたりの情報密度が高まった濃密な視察体験が得られる可能性があります。
会場内のゾーニングは、ロボットの用途と社会実装の場を明確に区分する形で設計されています。第一の柱となる「スマートプロダクションロボット」エリアでは、従来の製造業に加えて建設業や農林水産業で活躍するロボットが展示され、搬送・仕分け・ピッキング、組立、測定・検査といった工程ごとのソリューションが提示されます。第二の柱である「スマートコミュニティロボット」エリアには、配送、医療・介護、清掃、警備といった地域社会や日常生活の中で活躍するサービスロボットが集結します。
さらに併催ゾーンとして「ロボットSIerゾーン」「物流システム・ロボットゾーン」「部品供給装置ゾーン」が設置されており、ロボット単体だけでなくシステムインテグレーションや周辺機器を含めたエコシステム全体を俯瞰できる構成となっています。2025年の特徴的な取り組みとしては、学生と企業をつなぐ「iREX リクルート&業界研究フェア」や、コミュニティロボットと触れ合える「癒し Cafe in 国際ロボット展」といった企画も用意されており、ビジネス面だけでなく人材育成や一般消費者への受容性向上にも注力している点が挙げられます。
サービスロボットの進化と実用化の現状
iREX 2025において最も注目すべき潮流の一つは、サービスロボットの実用化レベルの飛躍的な向上です。かつての実証実験フェーズを脱し、明確な投資対効果(ROI)を生み出すビジネスツールとしての地位を確立しつつあります。
警備・ビル管理ロボットの進化について見ていくと、警備業界における人手不足は深刻な状況にあり、ロボットによる代替ニーズは極めて高い水準に達しています。その象徴的な存在として展示されるのが、業務DXロボット「ugo(ユーゴー)」です。iREX 2025では、GMOインターネットグループのブース(東4ホール、小間番号E4-02)において「ugo Pro R&Dモデル」が展示されます。
ugoは二本のアームと移動機能を兼ね備えたアバターロボットであり、その最大の特徴は「既存環境への適応力」にあります。多くの自律移動ロボットがエレベーターとの連携に際して高額なシステム改修や通信工事を必要とするのに対し、ugo Proは搭載されたアームを用いて物理的にエレベーターのボタンを押すことでフロア移動を実現します。この「レトロフィット(後付け)」のアプローチは、導入障壁を劇的に下げる要因となっています。ugoは単なる警備ロボットに留まらず、LiDARやカメラを用いた自動巡回によるセキュリティチェック、立哨警備、そしてアームを用いた軽作業までをカバーする汎用性を持っています。遠隔操作と自律動作を組み合わせることで、災害時や異常発生時には人間が遠隔から介入し、平時には自律的に業務を遂行するというハイブリッドな運用が可能となります。
介護・福祉ロボット分野では、TANOTECH株式会社の「TANO(タノ)」が注目を集めています。従来の介護ロボットといえば装着型のパワーアシストスーツや移乗介助ロボットといった身体的負担の軽減を主眼としたものが主流でしたが、TANOのアプローチは全く異なります。TANOは「非接触・非装着型モーショントレーニングシステム」であり、利用者はセンサーの前に立つだけで身体そのものがコントローラーとなります。ウェアラブルデバイスを装着する手間や不快感がなく、高齢者でも直感的に利用できる点が革新的です。
システムには約300種類以上のコンテンツが搭載されており、ゲーム感覚で楽しみながら全身運動、発声、認知トレーニングを行うことができます。これは「ゲーミフィケーション」をリハビリテーションに応用した好例であり、利用者の「やらされ感」を払拭し、自発的なトレーニング参加を促す効果があります。このシステムは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトにも採択されており、医学的なエビデンスに基づいた機能強化が進められています。展示ブース(西4ホール、かながわロボットイノベーション内)では実際にシステムを体験することが可能であり、介護現場のみならず教育機関や商業施設への展開可能性も提示される予定です。
インフラ点検ロボットと水中ドローンの技術動向
見えない場所で社会を支えるインフラ点検ロボットも、iREX 2025の重要なテーマとなっています。高度経済成長期に建設された橋梁、トンネル、ダム、下水道といったインフラの老朽化は待ったなしの状況にあり、点検・維持管理の効率化が急務です。
株式会社スペースワンは、これらの課題に対し「水中ドローン」と「パイプ点検クローラー」というソリューションを提示します。展示されるカナダDeepTrekker社製の「PHOTON」シリーズやCHASING社の「CHASING X」は、人間が潜ることが危険な深度や汚染された環境下での点検作業を代行することができます。特に注目されるのは、狭小な管路内に進入して点検・撮影を行うパイプクローラーロボットです。これにより、これまで掘削しなければ確認できなかった地下埋設管の状態を非破壊かつ低コストで診断することが可能になります。
また、株式会社東京久栄も水中ドローンフォーラム2025に関連し、配水池内点検用の水上スライダー(自律航行型および有線制御型)を展示するなど、水インフラの維持管理に向けた技術競争が活発化しています。これらの技術は、人手不足が深刻化するインフラ維持管理の現場において、作業員の安全確保と効率化を同時に実現する解決策として期待されています。
ヒューマノイドロボットの実用化と産業応用
2025年は「ヒューマノイドロボット元年」と呼ばれる可能性があります。iREX 2025では、これまで未来技術の象徴であった人型ロボットが具体的な労働力として提示される場面が多く見られます。
GMOインターネットグループの戦略的展示は、業界構造の変化を象徴するものとなっています。インターネットインフラ企業の雄である同社が大規模なヒューマノイド展示を行うことは注目に値します。同社は「ロボットとの共存・協働」を掲げ、店舗、カフェ、倉庫を模したリアルな空間で実際に稼働するロボットを見せる計画です。
同社の展示における最大の特徴は、異なる特性を持つ3種類のヒューマノイドロボットを同時に展開し、用途に応じた使い分けを提案している点です。Unitree社製の「G1」は身長130cm、重量35kgという小型軽量なボディを持ち、安定した歩行能力と柔軟な動作を活かしてイベント会場や狭い空間での活動に適しています。Engine AI社製の「PM01」は身長138cm、重量40kgで、24自由度と320度回転する腰部を持ち、極めて高い運動性能を誇ります。前方宙返りのようなダイナミックな動きから繊細な作業までをこなすポテンシャルを秘めています。UBTECH社製の「Walker E」は身長172cm、重量73kgと成人男性とほぼ同等の体格を持つ大型機であり、長時間の稼働と高い環境適応能力を有しています。これにより倉庫内での重量物搬送や人間と同じ環境での作業代行が期待されています。
さらにGMOのブースでは「AI CEO ヒューマノイド熊谷正寿」も公開されます。これは同社代表の思考や哲学を学習したAIを搭載しており、来場者との対話を通じて「未来の働き方」を体験させるコンテンツです。ロボットのハードウェアだけでなく、そこに宿る知性(AI)のあり方を含めた展示内容は、サービスロボットの未来像を多角的に示唆しています。
川崎重工業のヒューマノイド展示も見逃せません。産業用ロボットの巨人である同社は、長年開発を続けてきたヒューマノイド「Kaleido(カレイド)」の最新バージョンを出展します。Kaleidoは災害現場での瓦礫撤去や人間には過酷な環境での重作業を想定して設計されており、実用化に向けた着実な進化が確認できるでしょう。また、大阪・関西万博でも注目された四足歩行モビリティ「CORLEO(コルレオ)」も展示されます。これはロボット自体が歩行移動するだけでなく人間が搭乗して移動することも可能な新しいモビリティ概念であり、ロボットと乗り物の境界を融解させる存在として注目されています。
会期初日の12月3日午後にはメインステージにて「ヒューマノイドロボットフォーラム」が開催されます。このフォーラムがメインイベントの一つとして設定されたことは、業界全体がヒューマノイドの実用化に本腰を入れている証拠です。技術的な課題解決だけでなく、社会実装に向けた法規制、安全性、倫理的な側面についても活発な議論が交わされることが予想されます。
物流ロボットと2024年問題への対応策
物流業界における「2024年問題」とは、トラックドライバーの時間外労働規制強化に伴う輸送能力不足のことを指します。この問題はiREX 2025における最重要テーマの一つであり、物流システム・ロボットゾーンでは単なる搬送の自動化を超えて、荷役、ピッキング、梱包といった前後工程を含めたトータルソリューションが提案されます。
ソフトバンクロボティクスの次世代AMR戦略は、物流現場の「運ぶ」を変革するものです。特に注目すべきはパレット搬送AMR「TUSK E10-SMAL」です。従来のAGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)の多くはパレットを搬送するために専用の台車やラックを必要としましたが、TUSK E10-SMALは平置きされたパレットに直接潜り込み、持ち上げて搬送することが可能です。これにより倉庫側は専用什器への投資やオペレーションの変更を最小限に抑えることができ、導入ハードルが大幅に下がります。
フォークリフトタイプAMR「TUSK FL10-SMAL」はラック間の通路幅が1.9m以下でも走行可能という高い機動性を持ちます。日本の都市型倉庫のような狭小空間において、既存のレイアウトを変更せずに自動化を推進できる点は大きな強みです。さらに最大300kg可搬の「PUDU T300」は最小60cm幅の通路を走行可能であり、リフティング、自動追尾、牽引といったマルチな機能を備えています。
Mujinのデジタルツイン技術も注目です。知能化ロボットコントローラを展開するMujinは、会場内に「最新デジタルツイン工場・倉庫」を完全再現するという野心的な展示を行います。ブースには実稼働可能な25台もの最新ロボットが配置され、それらが「MujinOS」によって統合制御される様子が実演されます。特に次世代パレタイザーのライブデモでは、環境設定から積み付けレシピの作成、そして実際のロボット動作までをシームレスに体験できます。これはロボット単体の性能ではなく、ソフトウェアによる統合管理がいかに現場の生産性を左右するかを視覚的に証明するものです。
物流ロボットの導入は企業の自助努力だけでなく、政府の強力な支援策とも連動しています。国土交通省などが推進する「モーダルシフト加速化緊急対策事業」では、荷役作業の効率化や荷待ち時間の削減に資する機器導入に対し補助金による支援が行われています。会場ではトラック搭載用2段積みデッキや自動フォークリフトといった機器の導入相談も行われ、政策と技術の両面から物流クライシスへの対策が提示されます。
製造業向けスマートプロダクションロボットの最新技術
製造業向けロボットにおいては、AI(人工知能)とIoTの融合がさらに進み、多品種少量生産や熟練工不足に対応する「自律的」なシステムが主流となっています。
安川電機の「MOTOMAN NEXT」を中心とした自律ロボットソリューションは、製造現場の課題解決に貢献します。田辺工業ブース内での展示事例では、AIを用いた深度画像解析技術と特殊ハンドを組み合わせた最新の「粉体秤量ロボット」が紹介されます。粉体のような形状が定まらない対象物を熟練工のように高精度に計量しハンドリングする技術は、化学、医薬品、食品製造といった分野での自動化ニーズに直結するものです。
ニコンの光加工とビジョンセンシング技術は、カメラ技術で培ったノウハウをロボットに応用し、製造プロセスそのものを変革します。「高速ばら積みピッキング」では、ロボットの「目」となるビジョンシステムによりランダムに積まれた部品を瞬時に認識し、正確にピッキングして治具へ整列させます。これにより部品供給工程の完全無人化が可能となります。また「金属3Dプリンター(AM装置)」も展示され、DED方式およびL-PBF方式のプリンターは従来の切削加工では不可能だった複雑な形状の部品製造や、摩耗した金型の肉盛り補修を可能にします。これはロボットを「動かす」技術から「作る」技術への拡張を意味します。
ファナックの協働ロボット「CRXシリーズ」は、その利便性を高める「プラグイン機能」が特徴です。タブレット端末を用いた直感的な操作インターフェースに加え、溶接、検査、搬送といった用途ごとの周辺機器やソフトウェアを容易に接続できる仕組みは、ロボット専任技術者のいない中小製造業にとって強力な導入インセンティブとなります。
Physical AIとセンシング技術の最前線
iREX 2025は、大企業だけでなくスタートアップや研究機関が生み出す次世代技術のショーケースでもあります。
Physical AI(フィジカルAI)が新たなキーワードとして浮上しています。サイバー空間のAIではなく、物理世界の実体を制御する技術です。株式会社Zrekなどのスタートアップは、ロボットが未知の環境や物体に対して人間のように試行錯誤しながら適応していくためのAI技術を展示します。この技術は、あらかじめプログラムされた動きしかできない従来のロボットの限界を突破し、変化の激しい実社会での運用を可能にする鍵となります。
センシング技術の進化も見逃せません。ロボットの自律性を支える「感覚器」であるセンサーも着実に進化しています。サクラテック株式会社は、ドローンやAGVに最適な79GHz帯ミリ波レーダー「miRadar12e」を展示します。光学カメラが苦手とする暗闇、逆光、霧、粉塵といった悪環境下でも、ミリ波レーダーは正確に対象物との距離や速度を検知できるため、屋外型サービスロボットや災害対応ロボットにとって不可欠な技術となります。
グローバル連携と大阪・関西万博との技術的シンクロ
海外出展者が14カ国140社に達したことは、日本のロボット市場および技術に対する国際的な注目の高さを物語っています。これは全出展者の2割強を占める規模であり、iREXというブランドが国内のみならずグローバルなロボット産業のハブとして機能していることを証明しています。円安を背景としたインバウンド需要の回復もあり、会場では海外バイヤーとの活発な商談が期待されます。主催者も海外向けプロモーションを強化しており、約1万人の海外来場者を見込んでいます。
iREX 2025は2025年大阪・関西万博の閉幕後に開催されますが、両者の技術的な連携は密接です。会場では「GISHWコンソーシアム」による万博での成果報告やウェルビーイングテックに関するパネル討論が予定されており、万博で実証された未来社会の技術が産業レベルでどのように実装されていくかを確認する場となるでしょう。
まとめ:iREX 2025が示すロボット社会の未来像
2025国際ロボット展(iREX 2025)は、ロボット技術が「工場の中の道具」から「社会を支えるインフラ」へと完全に脱皮したことを確認する場となります。ヒューマノイドロボットの実用化、2024年問題を解決する物流DX、誰もが使える直感的なサービスロボット、そしてPhysical AIによる環境適応能力の獲得といった展示は、労働力不足という社会課題に対するロボット業界からの力強い回答です。
15万人の来場者が目撃するのは、SF映画のような遠い未来ではなく、明日から現場で使える具体的なソリューションの数々です。製造業の生産性向上はもちろんのこと、介護、物流、インフラ維持といった生活の根幹に関わる分野において、ロボットがいかにして人間と共存し、持続可能な社会を構築していくのか。2025年12月3日から6日まで東京ビッグサイトで開催されるiREX 2025は、その具体的な道筋を世界に示す羅針盤となるでしょう。


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