子ども・子育て支援金は月500円じゃない?年収別の本当の負担額を解説

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子ども・子育て支援金は、2026年度から医療保険料に上乗せして徴収される新たな負担金です。政府は当初「月額500円程度」と説明していましたが、これは扶養家族を含めた加入者1人当たりの平均額であり、実際に保険料を支払う被保険者の負担額は年収に応じて大きく異なります。年収600万円の会社員の場合、月額約1,000円の負担となり、年収1,000万円を超える層では月額約1,650円に達することが政府試算で明らかになりました。

この制度は、岸田文雄政権(当時)が打ち出した「次元の異なる少子化対策」の財源を確保するために創設されました。年間3.6兆円規模の子育て支援予算のうち、約1兆円を支援金によって賄う計画となっています。医療保険という既存の徴収ルートを活用することで、現役世代だけでなく75歳以上の高齢者や企業も含めた社会全体で子育て世帯を支える仕組みとして設計されています。本記事では、支援金の具体的な負担額、政府説明の問題点、徴収された資金の使途、そして制度がもたらす社会的影響について詳しく解説します。

子ども・子育て支援金とは何か

子ども・子育て支援金は、少子化対策の財源として新たに創設された制度です。2024年に成立した「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」に基づき、2026年度から徴収が開始されます。国民が毎月支払っている公的医療保険料(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険、後期高齢者医療制度など)に、新たな項目として「支援金」が上乗せされる仕組みとなっています。

政府はこの制度を「全世代型社会保障」の具現化と位置づけています。従来の社会保障制度では、現役世代が高齢者を支えるという構造が基本でした。しかし支援金制度では、高齢者も含む全世代が次世代を担う子供たちを支える側に回るという、いわば「逆方向の支え合い」を制度化する試みです。

ただし、この「保険料への上乗せ」という手法については批判も少なくありません。実質的な強制徴収でありながら「税」という名称を避けていることから、野党や一部メディア、国民からは「ステルス増税」であるとの指摘を受けています。医療保険は本来、疾病や負傷というリスクに備えるための制度であり、その保険料を子育て支援という別目的の政策に流用することに対する法的な疑義も呈されています。

「月500円」説明の実態と年収別の負担額

政府の「月500円」という説明には、統計的な操作ともいえる側面がありました。この数字は「加入者1人当たり」の金額として算出されており、実際に保険料を支払う被保険者(労働者や世帯主)だけでなく、扶養家族(専業主婦や子供など保険料負担のない人々)も分母に含まれていたのです。

具体例を挙げると、会社員の夫、専業主婦の妻、子供2人の4人世帯の場合を考えてみましょう。保険料を支払うのは夫1人ですが、政府の計算式では夫が支払う負担額を「4人」で割ることになります。そのため、一人当たりの金額は見かけ上、非常に小さくなってしまいます。この説明手法は国会審議において野党から厳しく追及され、実態とかけ離れた「欺瞞」であると批判されました。

被用者保険加入者(会社員・公務員)の負担額

会社員や公務員が加入する被用者保険においては、標準報酬月額(給与や賞与の額)に応じて支援金の負担額が決まります。2028年度の満額稼働時における試算では、年収200万円程度の比較的低所得の層でも月額350円程度の負担が発生します。日本の平均的な所得層に近い年収400万円の層では月額約650円となり、政府が当初説明していた「500円」というラインを3割以上超過しています。

年収600万円の中間層になると、負担額は月額約1,000円に達します。月額1,000円は年間で1万2,000円の負担増を意味し、家計にとっては決して無視できない固定費の増加です。より高所得の年収800万円層では月額約1,350円、年収1,000万円を超える層では月額約1,650円という試算が示されています。

ここで極めて重要な点は、被用者保険においては「労使折半」が原則であるということです。上記の金額はあくまで従業員本人が給与から天引きされる金額であり、これと同額を雇用主である企業も負担します。つまり社会全体として見れば、年収600万円の従業員一人につき、月額約2,000円(本人1,000円+企業1,000円)が支援金として徴収される構造となっています。企業の負担増は、賃上げ原資の圧縮や商品価格への転嫁(物価上昇)につながる可能性も指摘されています。

国民健康保険加入者(自営業・フリーランス)の負担額

自営業者やフリーランス、非正規雇用者などが加入する国民健康保険には、被用者保険のような「事業主負担」が存在しません。全額が加入者の自己負担(世帯負担)となります。年収400万円の自営業者の場合は月額約550円、年収600万円の層では月額約800円、年収800万円の層では月額約1,100円の負担が見込まれています。

国民健康保険における課題は、所得の捕捉が難しいケースや逆進性の問題です。特に、国民健康保険には子供の数に応じた「均等割」という負担が存在します。支援金制度においては18歳以下の子供にかかる均等割負担の軽減措置などが検討されているものの、世帯全体の負担感は依然として重いものがあります。

後期高齢者医療制度加入者(75歳以上)の負担額

今回の制度の大きな特徴として、75歳以上の後期高齢者からも徴収が行われる点が挙げられます。後期高齢者一人当たりの平均負担額は月額350円程度(年収等により数百円程度で変動)と試算されています。現役世代に比べれば低額に設定されていますが、年金収入のみで生活する高齢者にとっては、介護保険料の上昇や物価高と相まって生活を圧迫する要因となり得ます。

2026年度から2028年度への段階的な負担増

支援金の徴収は2026年4月からいきなり満額で始まるわけではありません。国民の負担感を緩和し制度の定着を図るため、3年間をかけて段階的に引き上げられる計画となっています。

2026年度(初年度)は総額約6,000億円規模での徴収開始となり、この段階での個人負担は2028年度の満額時の約6割程度に抑えられる見込みです。全制度平均での加入者一人当たり負担額は月額250円程度からスタートします。2027年度には徴収総額が約8,000億円規模へと拡大され、これに伴い個人の月額負担も上昇します。そして2028年度において、徴収総額は計画の上限である1兆円規模に到達します。

政府は法律上、この1兆円規模を当面の上限とする姿勢を示していますが、少子化対策の財源ニーズが将来的にさらに拡大した場合、料率の再改定が行われるのではないかという懸念は払拭されていません。一度導入された社会保険料の付加給付が、なし崩し的に拡大されていくリスクに対し、経済界や野党は強い警戒感を抱いています。

政府の「実質負担増なし」説明の問題点

政府は支援金の導入に際し、「歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で制度を構築するため、国民に実質的な負担増は生じない」という複雑なロジックを展開しました。この説明は「増税ではない」という立場を堅持するための論理的支柱となっています。

歳出改革による財源捻出の仕組み

政府の論理における第一の要素は「歳出改革」です。医療や介護などの社会保障費は高齢化に伴い自然増していく運命にあります。政府は医療DXの推進や制度の見直しによって「本来増えるはずだった保険料の伸び」を抑制し、公費節減効果を含め1.1兆円規模を確保するとしています。その「抑制して浮いた分」の枠内に支援金(1兆円)を収めれば、トータルの社会保険負担率は上昇しないという理屈です。

第二の要素は「賃上げ」です。経済界への強力な要請や労働市場改革を通じて賃金上昇を実現すれば、国民の社会保険料支払い額自体は増えても、それ以上に所得が増えるため、負担能力は向上し手取り額は減らない(実質負担増はない)というシナリオを描いています。

歳出改革の具体的な内容と代償

では、支援金の原資を生み出すための「歳出改革」とは具体的に何を指すのでしょうか。医療分野においては、薬剤費の適正化が大きな柱となっています。特許期間が切れた長期収載品(先発医薬品)について、安価な後発医薬品(ジェネリック)との価格差の一部を患者の自己負担とする仕組みが導入されます。また、リフィル処方箋の普及促進や医療DXによる重複投薬の防止なども進められています。これらは医療費の無駄を省く施策として正当化されますが、患者にとっては「今まで保険でカバーされていた薬が自腹になる」という痛みも伴います。

介護分野においても深刻な改革が予定されています。介護ロボットやICT機器の導入を前提とした人員配置基準の緩和検討、介護事業所の経営の大規模化・協働化による生産性向上が掲げられています。また、一定以上の所得がある高齢者の介護保険利用料の2割負担対象の拡大や、多床室(相部屋)の室料負担の導入なども検討項目に含まれています。

批判の核心:なぜ「ステルス増税」と呼ばれるのか

政府の「実質負担増なし」という説明に対しては、「詭弁である」「言葉遊びに過ぎない」といった批判が浴びせられています。

まず「機会費用の喪失」という観点からの批判があります。歳出改革によって保険料の伸びを抑制できたのであれば、本来その果実は「保険料の引き下げ」や「現役世代の手取り増」として国民に還元されるべきものです。それを支援金という新たな徴収に振り替えることは、国民から見れば「本来安くなるはずだった保険料が安くならなかった」ことを意味し、実質的な負担であることに変わりはありません。

次に「歳出改革の痛みの転嫁」という批判があります。歳出改革の中身が医療費の窓口負担増や介護サービスの利用制限、薬剤の自己負担増といった形で国民に不利益を強いるものであれば、それは「保険料」という形ではないにせよ、家計にとっては明確な負担増です。

さらに「賃上げの不確実性」も問題視されています。大企業では賃上げが進んでいても、日本企業の9割以上を占める中小企業や非正規雇用者において、支援金の負担増を十分にカバーできるだけの賃上げが実現するかは不透明です。物価高騰が続く中で賃上げが追いつかなければ、支援金の徴収は純粋な可処分所得の減少(手取り減)となり、かえって消費を冷え込ませる結果となりかねません。

加えて「社会保険料の逆進性」も指摘されています。所得税のような累進課税とは異なり、社会保険料には負担上限(標準報酬月額の上限)が存在するため、超高所得者層にとっては所得に対する負担割合が低くなる傾向があります。このため支援金による資金調達は、低・中所得層にとって相対的に重い負担となる逆進的な性質を帯びています。

支援金の使途:子育て世帯への支援内容

徴収された年間1兆円を含む総額3.6兆円の予算は、どのような施策に使われるのでしょうか。政府は「ライフステージを通じた支援の強化」を掲げ、現金給付と現物給付(サービス)の両面から拡充を図るとしています。

児童手当の抜本的拡充

最も予算規模が大きく、直接的な家計支援としてアピールされているのが児童手当の抜本的拡充です。2024年10月分から実施されたこの改革は、長年の懸案であった制限を撤廃し、対象を大幅に広げるものとなりました。

最大の変更点は「所得制限の撤廃」です。これまでは一定以上の所得がある世帯は児童手当が減額されたり支給されなかったりしていましたが、この制限が撤廃されたことで全ての子育て世帯が公平に支援を受けられるようになりました。これは「子育て罰」とも呼ばれた高所得層の不公平感を解消する狙いがあります。

第二に「支給期間の延長」があります。従来は中学生まで(15歳到達後の最初の3月31日まで)であった支給期間が、高校生年代(18歳到達後の最初の3月31日まで)へと延長されました。高校生は教育費や食費などの負担が大きくなる時期であり、この期間への支援拡大は家計にとって大きな助けとなります。

第三に「多子世帯への加算強化」があります。第3子以降の支給額が従来の月額1万5,000円から月額3万円へと倍増されました。さらに、第3子のカウント方法も見直され、大学生年代(22歳年度末まで)の子供も上の子としてカウントに含めることで、第3子加算を受けやすくなる措置が講じられています。

加えて「妊婦のための支援給付」も創設されました。妊娠届出時に5万円、出産届出時に5万円の計10万円相当が給付され、出産準備品や産後ケアの費用などに充てられます。

こども誰でも通園制度の創設

注目すべき新制度として「こども誰でも通園制度」があります。これまでの保育所制度は、親が就労していること(保育の必要性)が入所の要件でした。しかしこの新制度では、親の就労の有無にかかわらず、時間単位で柔軟に保育所を利用できるようになります。これは専業主婦家庭などが陥りやすい「密室育児」や「孤育て」の解消を目的としており、全ての子育て家庭に開かれた保育システムへの転換を意味する画期的な施策です。2026年度からの全国展開を目指し、各地で試行事業が進められています。

育児休業給付の充実

男性の育児参加を促進するため、両親ともに育児休業を取得した場合(産後パパ育休など)に、一定期間(最大28日間)の給付率を現行の67%から80%程度に引き上げ、社会保険料免除と合わせて「手取り10割相当(実質賃金が減らない)」を保証する仕組みが導入されます。さらに育児時短就業給付を創設し、短時間勤務を選んだ場合でも賃金低下を補填する支援が行われます。

施策の効果に対する懸念

これらの施策は子育て世帯にとってプラスとなる要素を多く含んでいますが、その効果については懸念も残ります。経済界の一部からは、児童手当の拡充が本当に出生率向上につながるのか、費用対効果(EBPM)の検証が不十分であるとの指摘があります。現金給付が増えても教育費の高騰や将来不安が解消されなければ、貯蓄に回るだけで消費や出産には結びつかない可能性があるためです。

また、保育現場からは「こども誰でも通園制度」に対する懸念の声が上がっています。不定期に通園してくる子供たちに対応する必要があり、保育士の負担が激増することが予想されます。既に深刻な保育士不足に悩む現場において、十分な人員配置や処遇改善が追いつかなければ、保育の質の低下や事故のリスクを高めることになりかねません。

「独身税」批判と世代間・世代内の分断

支援金制度に対する世論の反発の中で、特にインターネットやSNSを中心に急速に拡散したのが「独身税」という言葉です。支援金は独身者や子供のいない世帯も含めた全加入者から徴収される一方、その給付(児童手当や保育サービス)を直接享受できるのは子育て世帯に限定されます。この「負担と受益の明白な不一致」が、子を持たない層からの強い不公平感を生み出しました。

特に就職氷河期世代など、経済的な理由で結婚や出産を諦めざるを得なかった層にとって、自らの生活も苦しい中で「他人の子育て」のために手取りを減らされることは二重の苦しみとして受け止められています。

政府や専門家は「時間的な再分配」や「社会の順送り」の理屈を説明しています。「独身者も将来、他人の子供たちが納める年金や医療保険によって支えられるのだから、現役時代に子育て支援を負担するのは合理的である」という説明です。しかし、年金制度自体の持続可能性への不信感が強い現代日本において、数十年先の見返りを根拠とした説得は現役世代の心に響きにくいのが実情です。

政治への不信と使途の透明性

支援金に対する拒絶反応の根底には、政府および行政機構に対する深い不信感があります。特に新設された「こども家庭庁」に対しては、その予算の使い方に厳しい視線が注がれています。徴収された1兆円が本当に子供たちのために使われるのか、という疑念が渦巻いています。

また、支援金法案の審議時期が自民党派閥の裏金問題と重なったことも、国民の怒りを増幅させる結果となりました。「政治家は脱税まがいのことをしておいて、国民には月500円の負担増を強いるのか」という批判の声が上がりました。

野党および経済界の反応

政治の場においても支援金は大きな争点となりました。立憲民主党や日本維新の会、日本共産党などの野党は法案採決において反対に回りました。その主な論点は「実質負担増なしという説明の虚偽性」「社会保険料の目的外使用」「歳出改革による医療・介護の切り捨て」などです。

経済界の反応は複雑です。少子化が労働力不足に直結する経営課題であることから、対策の強化自体には賛成の立場をとります。しかしその財源を企業負担(労使折半)のある社会保険料に求めることに対しては警戒感を隠しません。経団連は企業も一定の負担をすることに理解を示しつつも、社会保障制度全体の持続可能性を確保するための歳出改革の徹底を強く求めています。中小企業を束ねる日本商工会議所は、賃上げ原資が社会保険料負担に消えることへの懸念を表明しており、保育の受け皿整備など働きながら子育てできる環境づくりへの重点投資を求めています。

制度の将来リスクと今後の展望

支援金制度は2026年度から始動しますが、その前途にはいくつかのリスク要因が横たわっています。

第一に「なし崩し的な負担増」のリスクがあります。政府は支援金の規模を1兆円としていますが、少子化対策の効果が出ずさらなる対策が必要となった場合、支援金の料率が引き上げられる可能性があります。社会保険料は税金に比べて国会審議のハードルが低く、行政の裁量で変更しやすい側面があるため、歯止めが利かなくなる懸念があります。

第二に「歳出改革の停滞」です。医療や介護の既得権益層の反発により予定していた歳出改革が進まなければ、財源の帳尻が合わなくなります。その場合、支援金の料率を上げるか赤字国債を発行するしかなくなり、将来世代への負担の先送りとなります。

第三に「現役世代の活力低下」です。社会保険料負担が限界を超えれば、現役世代の手取りは減り続け、消費意欲や勤労意欲を削ぐことになります。それは結果として経済成長を阻害し、少子化をさらに加速させるという「負のスパイラル」を招きかねません。

読者が知っておくべきこと

子ども・子育て支援金制度は、単なる「月500円」の負担の問題にとどまらず、日本の社会保障の在り方、世代間の公平性、そして民主主義における政策決定プロセスの正統性を問う極めて大きなイシューです。

まずは自分の年収における具体的な負担額を正しく認識することが重要です。年収400万円であれば月額約650円、年収600万円であれば月額約1,000円、年収800万円であれば月額約1,350円が2028年度時点での負担額となります。その上で、拡充された児童手当や保育サービスなどのメリットを最大限に活用していくことが、子育て世帯にとっては賢明な対応といえます。

同時に、この制度が孕む構造的な問題点について声を上げ続けることも大切です。2028年の制度完成に向けて、支援金の料率や使途について、事実に基づいた冷静かつ建設的な議論を継続していく必要があります。国民一人一人が給与明細の「社会保険料」欄の変化を注視し、徴収された資金が本当に有効に使われているのか、厳しく監視し続けることが求められます。

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