高速道路の深夜割引は、令和8年度から大幅に見直され、適用時間帯が従来の「0時~4時」から「22時~翌5時」へと拡大されます。この改定では、割引の適用方法が「後日還元型」に変更され、料金所では一旦通常料金が請求された後、ETCマイレージサービスを通じて後日割引分が還元される仕組みとなります。新制度の最大の特徴は、深夜時間帯に実際に走行した距離分のみが割引対象となる点であり、これまでのように深夜に一瞬でも走行すれば全区間が割引される方式は廃止されます。
この制度改定は、物流業界で深刻な問題となっていた「0時待ち」と呼ばれるトラックの滞留現象を解消することを目的としています。働き方改革関連法により2024年4月からドライバーの年間時間外労働時間が制限される中、割引を受けるために深夜0時まで待機するという行為は、労働環境の改善と矛盾していました。新制度への移行により、ドライバーは22時から割引を受けて走行を開始できるようになり、より効率的な運行計画が可能となります。本記事では、新しい深夜割引制度の詳細な仕組みから、ETCマイレージサービスへの登録方法、上限距離の計算方法、そして激変緩和措置まで、令和8年度からの変更点を網羅的に解説します。

高速道路深夜割引の令和8年度改定とは
高速道路深夜割引の令和8年度改定とは、国土交通省とNEXCO3社が実施する料金制度の抜本的な見直しのことです。当初は令和6年度(2024年度)中に導入が予定されていましたが、システム開発の複雑さや世界的な半導体不足の影響により、令和8年度(2026年度)への延期が発表されました。この2年間の延期は、新制度が従来の「点(料金所通過時刻)」での判定から「線(走行実態)」での判定へと移行するために、極めて高度な技術基盤が必要とされることを示しています。
新制度を実現するためには、高速道路上に設置されたETC無線通信専用アンテナから得られる膨大なデータをリアルタイムで処理し、個々の車両の走行軌跡を推定する必要があります。さらに、その情報を後日還元のシステムと正確に連携させなければなりません。課金ミスが許されない基幹システムの改修には膨大な検証期間が必要であり、この技術的な要件が導入延期の主な理由となっています。
制度改定の背景にある「2024年問題」との関係
今回の制度改定を理解するうえで欠かせないのが、物流業界における「2024年問題」です。働き方改革関連法の施行により、2024年4月から自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されました。ドライバーの労働時間を適正化しなければならない状況において、割引のために深夜0時まで無駄な待機時間を強いる従来の制度は、明らかな政策矛盾を引き起こしていました。
従来の深夜割引は「0時から4時の間に料金所を通過すれば全区間3割引」というシンプルなルールでした。しかし、このルールは「0時待ち」と呼ばれる深刻な問題を生み出していました。深夜0時を過ぎて料金所を通過するために、23時台のサービスエリアやパーキングエリア、さらには本線上の路肩や料金所手前のスペースに大型トラックが溢れかえる状況が日常化していたのです。この現象は単なるマナー違反にとどまらず、ドライバーの労働時間を無益に引き延ばし、貴重な休息時間を削る要因となっていました。
深夜割引の時間帯が22時~5時に拡大される意味
新制度における最も分かりやすい変更点は、割引適用時間帯の拡大です。現行の「0時~4時」の4時間から、新制度では「22時~翌5時」の7時間へと、前後合わせて3時間延長されます。この変更には、ドライバーの行動変容を促すという明確な政策意図が込められています。
開始時刻を22時に前倒しすることで、ドライバーは深夜0時を待つことなく走行を開始できるようになります。これにより、料金所手前での滞留が解消され、ドライバーはより早く目的地に到着して十分な休息を取ることが可能になります。また、終了時刻を5時まで延長することは、早朝に出発する市場便や長距離輸送の最終行程における柔軟性を高める効果が期待されています。
「走行分のみ割引」への変更がもたらす影響
時間帯の拡大と引き換えに導入されるのが、「割引対象の厳格化」です。現行制度では、0時から4時の間に一瞬でも高速道路上にいれば、その走行全体の料金が3割引となっていました。たとえば、20時に東京を出発し、翌朝6時に大阪に到着するような運行でも、途中で0時~4時の時間帯を含んでいれば全額が割引対象でした。
しかし、令和8年度からの新制度では、この「全区間割引」は廃止されます。代わりに、「22時から翌5時の間に実際に走行した距離分のみ」が3割引の対象となります。22時より前に走った分や5時を過ぎてから走った分については、一切の割引が適用されず、通常料金が課されることになります。この変更は、「深夜に走るから割り引く」という制度の原点に立ち返り、実際に夜間走行をした分だけ恩恵を受けられる公平な仕組みへの転換を意味しています。
ETCアンテナによる走行位置の特定方法
「何時から何時までどこを走っていたか」を判定するために、高速道路本線上に設置されたETC無線通信専用アンテナ(フリーフローアンテナ等)が活用されます。車両がアンテナの下を通過した時刻と位置情報を基に、システムは車両の「平均速度」を算出します。そして、その平均速度で等速走行したと仮定(みなし走行)し、22時時点および翌5時時点での車両位置を数学的に推定するのです。
具体例として、21時30分に地点Aを通過し、22時30分に100km先の地点Bを通過した場合を考えます。この場合の平均時速は100km/hとなります。システムは22時00分の時点で地点Aから50km進んだ地点にいたとみなし、その地点から地点Bまでの距離が割引対象として計算されます。この「みなし計算」は、途中で休憩した場合や渋滞で止まった場合など実際の走行とは必ずしも一致しませんが、膨大な交通量を処理するために採用された合理的な簡略化手法です。
後日還元型とは何か、その仕組みを詳しく解説
新制度で最も混乱を招くと予想されるのが、料金支払い方法の「後日還元型」への変更です。現行制度では、出口料金所の料金表示器に「割引後の価格」が表示され、その場で安くなった金額が決済されます。これが多くの利用者にとって「割引」の常識でした。
しかし、新制度では22時から5時の間に走行したとしても、出口料金所では「通常料金(定価)」が表示され、クレジットカードやETCカードに対しても一旦は定価で請求されます。割引分の差額は後日改めて還元される仕組みとなるのです。これにより、利用直後の明細確認では「深夜割引が適用されていない」という誤解が生じやすくなります。企業における経費精算のプロセスについても、この仕組みに対応した見直しが必要となるでしょう。
ETCマイレージサービス登録が必須条件となる理由
後日還元を受けるためには、「ETCマイレージサービス」または「ETCコーポレートカード」への事前登録が必須です。ここが新制度における最大の注意点となります。もしETCマイレージサービスに登録していないETCカードで深夜に走行した場合、どれだけ長時間走っても1円たりとも還元されません。現行制度のように「ETC車載器があれば自動的に安くなる」という恩恵は、完全に過去のものとなります。
ETCマイレージサービスへの登録は無料で行えますが、インターネットまたは郵送での手続きが必要であり、車両番号とカード番号の紐づけが求められます。レンタカーやカーシェアリングを利用する場合、自分のETCカードを持っていてもその車両情報が登録されていなければ還元を受けられない可能性があります。レンタカー利用時の具体的な取り扱いについては、今後の運用詳細の発表を注視する必要があるでしょう。
還元額の付与タイミングと有効期限に関する注意点
還元された金額は、ETCマイレージサービスの「還元額(無料走行分)」として付与されます。これは現金が銀行口座に振り込まれるわけではなく、次回の高速道路利用料金から自動的に差し引かれる形で還元されます。還元額は走行月の翌月20日頃に付与される予定です。
ここで注意すべきはポイントや還元額の管理です。通常のETCマイレージポイントには有効期限(付与年度の翌年度末)があり、期限内に交換手続きを行わないと失効してしまいます。深夜割引の還元分がポイントとして付与されるのか、直接還元額として付与されるのかによって管理の手間は異なりますが、いずれにしても定期的なマイページへのログインと確認が必須の習慣となります。
さらに注意が必要なのは、ETCマイレージサービスを騙るフィッシング詐欺メールの存在です。「有効期限が切れます」「自動退会になります」といった偽メールが横行しており、新制度開始後は正規の通知と混同するリスクが高まることが予想されます。
深夜割引における上限距離の設定と安全対策
「時間内の走行距離分だけ割り引く」という新ルールは、危険なインセンティブを生む可能性があります。それは、「限られた時間(22時~5時)内にできるだけ遠くまで行こう」として、ドライバーが速度超過を犯すリスクです。国土交通省はこのリスクを重く見て、割引対象となる走行距離に「上限」を設ける措置を導入しました。
上限距離は、物理的に安全に走行できる速度をベースに計算されます。大型車と特大車(トラックやバス等)については1時間あたり90km、それ以外の車両(普通車や軽自動車等)については1時間あたり105kmという速度基準が設けられています。この数値は、法定速度(大型車80km/h、普通車100km/h)に若干の誤差許容範囲を加えたものです。
上限距離を超えた場合の料金計算方法
上限距離を超えて走行した分は、たとえ22時~5時の間に走行していたとしても、計算上「カット」されて通常料金が請求されます。つまり、時速120kmや140kmで走行して距離を稼ごうとしても、割引計算上は普通車であれば時速105kmで走ったものとして扱われます。超過分は燃料代と事故リスクが増えるだけで、経済的なメリットは一切発生しない仕組みになっているのです。
さらに、労働基準法や改善基準告示における「連続運転4時間ごとの30分休憩」を遵守させるため、計算式には休憩時間が組み込まれています。利用時間が4時間を超える場合、一律で30分間が利用時間から控除されます。
7時間利用した場合の上限距離計算例
具体的な計算式を確認しましょう。普通車で4時間以上走行した場合、上限距離は「(利用時間-30分)×105km」で算出されます。たとえば、普通車で22時から翌5時までフルに7時間高速道路上に滞在したとします。この場合、(7時間-0.5時間)×105km=682.5kmとなり、この682.5kmが割引対象となる距離の上限です。
もし実走行距離が700kmだったとしても、割引されるのは682.5km分までとなり、残りの17.5km分は通常料金が適用されます。この仕組みにより、無理な無休憩運転を防ぎ、適度な休憩を促す設計となっています。安全運転を心がけながら計画的に走行することが、新制度のもとでは一層重要になるといえるでしょう。
激変緩和措置と長距離逓減制の拡充について
新制度への移行により、特に長距離を走るトラック事業者はコスト増が避けられません。北海道から九州へ農産物を運ぶような1,000kmを超える運行では、22時~5時の7時間だけでは走りきれず、割引対象外の区間が大幅に増えるからです。これによる急激な運賃コストの上昇と物流の混乱を防ぐため、運用開始から5年程度の間「激変緩和措置」が適用されます。
その目玉となるのが「1,000km超走行時の割引追加」です。深夜割引適用車両のうち、1回の走行距離が1,000km以上となる場合、その1,000kmを超えた部分の走行距離については、時間帯に関わらずすべて深夜割引の対象走行分として加算されます。この特例により、日本の食料や産業を支える超長距離輸送の負担増は一定程度緩和される見込みです。ただし、これはあくまで5年程度の時限措置であり、将来的には本則通りの運用に移行することが示されています。
22時台流出へのペナルティ措置の内容
もう一つの激変緩和措置として、利用者の行動をコントロールするための措置があります。新制度では22時から割引が始まりますが、もし「22時になった瞬間に降りれば3割安くなる」となれば、22時直前に出口料金所の手前で待機する車両が発生する恐れがあります。これでは旧制度の「0時待ち」が「22時待ち」に変わるだけで、問題が解決しません。
そこで、「22時台(22:00~22:59)に高速道路を流出(出口通過)した車両」については、22時台に走行した分の割引率を通常の3割から「2割」に引き下げるという特例が設けられます。「22時まで待って降りても2割しか引かれないなら、無理に待たずに普通に降りよう」という心理を働かせ、22時前後の出口渋滞を抑制する狙いがあります。ドライバーにとっては「22時台に降りるくらいなら、23時以降に降りた方が得」という新たな判断基準が生まれることになります。
長距離逓減制の拡充で400km超の料金はどうなるか
深夜割引の見直しは実質的には「割引の縮小」ですが、これを補う形で「長距離逓減制」が拡充されます。長距離逓減制とは、走行距離が長くなればなるほどkmあたりの料金単価が安くなる仕組みです。現在は100km超~200km以下が25%引、200km超が30%引となっています。
今回の見直しに合わせて、さらに長い距離帯での割引率が新設・強化されます。400km超~600km以下は40%引、600km超~800km以下は45%引、800km超は50%引となります。この割引は時間帯を問わず適用されるため、深夜走行が難しい昼間の運行であっても恩恵を受けることができます。これは、深夜割引依存型の料金体系から距離依存型の料金体系への構造転換を意味しており、長距離トラックにとっては恒久的なコスト低減要因となります。
物流会社と一般ドライバーへの具体的な影響
深夜割引の縮小と長距離逓減の拡大を合わせた場合、最終的な通行料金への影響は走行距離や時間帯の組み合わせによって異なります。物流業界のシミュレーションによると、概ね「中距離(400km未満)で深夜利用していた層」にとっては値上げとなり、「超長距離(800km超)で昼間も走る層」にとってはトントンか若干の値下げになる可能性があります。
しかし、多くの運送事業者からは「全体としてはコスト増になる」という懸念の声が上がっています。特にこれまで「0時またぎ」を駆使して全区間3割引を享受していた運行パターンの場合、新制度で「走行分のみ」に厳格化される影響は甚大で、長距離逓減の拡充分だけではカバーしきれないケースが多いと分析されています。
運送会社が直面する経理処理と運行管理の課題
運送会社にとって、令和8年度以降は経理処理と運行管理の負担が激増します。まず、請求書と還元額の照合が必要です。ETCコーポレートカードの場合、月ごとの請求額から後日まとめて還元額が差し引かれる形式となるため、どの車両のどの運行でいくら還元されたのかを紐解く作業が複雑化します。
また、運行管理者には新たな「最適ルート・最適時間」の算出が求められます。22時~5時の間に走行距離を最大化しつつ、ドライバーの過労を防ぐスケジュールを組むことは難易度の高い課題です。結果として、高速道路料金の実質増加分を荷主に対する「運賃値上げ」として転嫁せざるを得ない状況となり、これが物価上昇の一因となる可能性もあります。
一般ドライバーや観光利用者へのメリットとデメリット
一般のドライバー、特に帰省や旅行で高速道路を利用する層にとっては、メリットとデメリットが混在します。メリットは旅行計画の自由度が増すことです。これまでは「0時まで起きている」ためにパーキングエリアで仮眠を取る必要がありましたが、22時開始になれば夕食後にお風呂に入ってから出発し、スムーズに割引を受けて移動を開始できます。また、長距離ドライブであれば昼間に走っても長距離逓減制の恩恵を受けられるため、無理な夜間移動を避ける選択肢も生まれます。
デメリットは手続きの煩雑さです。ETCマイレージ登録を忘れていれば、往復1,000kmの帰省でも割引はゼロになります。また、休日割引(地方部3割引)と深夜割引が重複した場合、後日で差額調整となるため、「今、いくらなのか」が直感的に分からず、家計管理が難しくなる面があります。
NEXCOと都市高速のシステム連携における技術的課題
導入が2年延期された技術的背景には、NEXCO各社間および都市高速との「データ連携」の難しさがあります。高速道路はNEXCO東日本、中日本、西日本と管轄が分かれていますが、利用者はそれを意識せずにまたがって走行します。新制度では、たとえば東日本管内で22時を迎え、中日本管内を走り抜け、西日本管内で5時を迎えるといったケースにおいて、各社のシステムがリアルタイムに近い形で走行データを共有し、一連の走行として処理しなければなりません。
さらに、そこに「ETCマイレージサービス」という別システムが絡みます。通行料金の計算システムとポイント・還元額を管理するマイレージシステムを間違いなく連携させ、後日正確に還元額を付与するには、金融機関の決済システムに匹敵する堅牢性が求められます。この「データ突合」のロジック構築とテストに予想以上の時間を要しているのが実情です。
首都高速や阪神高速との料金体系の違い
もう一つの複雑な要素が、NEXCOとは別料金体系を持つ首都高速や阪神高速などの都市高速道路です。首都高速の深夜割引は「0時~4時」で「20%割引」であり、判定基準は「最初のETCアンテナとの通信時間」となっています。NEXCOの新制度(22時~5時、30%)とは全く異なる仕組みです。
利用者がNEXCOと首都高を連続して走行する場合、境界となる料金所やアンテナを通過した瞬間にルールが切り替わります。NEXCO区間では走行距離に応じた還元計算が行われ、首都高に入ると首都高のルールで判定されます。この継ぎ目をシステムがいかにスムーズに処理するか、そして利用者がそれをどう理解するかが課題となります。特に境界付近での渋滞や事故があった場合、どちらのルールの時間帯に該当するかの判定がシビアになることが予想されます。
令和8年度に向けて利用者が今から準備すべきこと
令和8年度の制度開始に向けて、すべての高速道路利用者が行うべき準備は明確です。第一に、「ETCマイレージサービスへの登録」を済ませておくことです。これを行わないと、新制度の恩恵は一切受けられません。既に登録済みの方も、IDとパスワードを確認し、登録されているカード情報や車両情報が最新であるか(有効期限切れのカードになっていないか)をチェックする必要があります。
第二に、「走行計画の見直し」です。特に物流事業者は、新制度の割引計算ロジックに基づいたコストシミュレーションを行い、どのルートやどの時間帯に走るのが最も経済合理的かを再計算する必要があります。NEXCO各社が提供予定のシミュレーションサイトを活用し、事前に影響額を把握しておくことが経営上の備えとなります。
新制度がもたらす交通政策の転換点
今回の見直しは、ETC2.0などの技術を活用した「賢い料金(スマート・プライシング)」への第一歩に過ぎません。将来的には、時間帯や混雑状況に応じてダイナミックに料金を変動させるロードプライシングの導入や、より細やかな車種別料金設定など、デジタル技術を前提とした料金施策が加速すると予想されます。
令和8年度からの高速道路深夜割引制度の見直しは、単なるルール変更ではありません。それは日本の物流を支えるドライバーの働き方改革を後押しし、道路利用の公平性を高めるための構造改革です。「22時~5時への拡大」という利便性向上の一方で、「走行分のみ割引」「後日還元」「上限距離」という新たな条件が課されます。利用者はこれまでの経験則を見直し、新しいルールに適応していく必要があります。特に「ETCマイレージ登録」という手続きを完了させることが、新制度のメリットを享受するための第一歩となるでしょう。

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