2025年11月、日本を代表する化粧品メーカーである資生堂が、創業以来過去最悪となる520億円の最終赤字を計上する見通しを発表しました。この衝撃的な業績悪化の最大の原因は、かつて同社の成長エンジンであった中国市場での売上減少にあります。2023年後半から続くALPS処理水問題による日本製品への逆風、中国国内ブランドの急速な台頭、そして消費者の購買行動の変化が重なり、資生堂は中国でのシェアを大きく失いました。さらに、米国で買収したスキンケアブランド「ドランク エレファント」の不振による約468億円もの減損損失、トラベルリテール事業の構造崩壊も業績を圧迫しています。本記事では、資生堂が過去最悪の赤字に陥った原因を、中国市場の地殻変動、米国事業の誤算、免税店ビジネスの終焉、そして国内改革という多角的な視点から詳しく解説していきます。

- 資生堂の520億円赤字はなぜ起きたのか
- 中国市場における資生堂の売上減少と競争激化
- ALPS処理水問題が資生堂に与えた影響
- 中国市場における「成分党」の台頭と消費者意識の変化
- ロレアルやエスティローダーとの比較から見る資生堂の課題
- 米国事業の誤算とドランク エレファントの減損
- トラベルリテール事業の構造崩壊と代購ビジネスの終焉
- 価格体系の崩壊とブランド価値の毀損
- 国内事業の構造改革「ミライシフトNIPPON 2025」
- EC比率向上とオムニチャネル戦略
- 資生堂の中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」
- インド市場への本格進出と脱中国依存
- 2030年に向けたスキンビューティーへの回帰
- 投資家の評価と今後の見通し
- 資生堂再生の鍵を握る3つの要素
- まとめ
資生堂の520億円赤字はなぜ起きたのか
資生堂が2025年12月期に見込む520億円という最終赤字は、同社の長い歴史において前例のない規模です。当初、資生堂は60億円の黒字を予想していましたが、一気に580億円も下方修正される事態となりました。この数字は、新型コロナウイルスのパンデミック期間中の業績悪化をも大きく上回るものであり、1927年の株式会社化以来、資生堂が築き上げてきたグローバルブランドとしての地位が揺らいでいることを示しています。
赤字の内訳を詳しく見ていくと、まず本業である化粧品販売の売上高が前年同期比で約4%から7.6%減少しており、トップラインの縮小が続いていることがわかります。売上が減少する中で固定費の削減が追いつかず、さらに会計上の減損損失と構造改革費用が重なったことで、巨額の赤字が発生しました。特に大きなインパクトを与えたのが、米国事業における約468億円ののれん減損損失と、国内外での早期退職制度に伴う割増退職金などの構造改革費用です。
一方で、資生堂の経営陣が強調しているコア営業利益という指標を見ると、2025年第3四半期までの累計で301億円となり、前年同期比で約10%の増加を記録しています。しかし、この増益は売上が伸びた結果ではなく、販管費の抑制や人員削減によるコストカットの効果によるものであり、いわば縮小均衡の産物といえます。現在の資生堂は、本業で稼ぎ出すキャッシュフローの何倍もの規模の過去の負債と将来への投資コストを一括計上し、バランスシートの大掃除を断行している最中にあるのです。
中国市場における資生堂の売上減少と競争激化
資生堂にとって中国市場は、かつて全社利益の大部分を稼ぎ出す最重要市場でした。しかし、2024年から2025年にかけて状況は一変し、今や最大の懸念事項へと変貌しています。この変化は単なる景気循環によるものではなく、より深く構造的な問題に根差しています。
中国最大のEC商戦である独身の日(ダブルイレブン)の2025年の結果は、市場の勢力図が完全に塗り替わったことを如実に示しました。かつてランキング上位の常連であった資生堂は、トップ集団からの脱落を余儀なくされています。代わって首位の座を確固たるものにしたのは、中国地場の化粧品メーカープロヤ(Proya)です。Tmall(天猫)の美容カテゴリランキングにおいて、プロヤはロレアルパリやランコム、エスティローダーといった欧米のメガブランドと互角以上に渡り合い、資生堂を大きく引き離しました。
プロヤなどの「C-Beauty(チャイナ・ビューティー)」ブランドの成功の秘訣は、圧倒的なスピード感と中国消費者のニーズに合致した商品開発にあります。これらの地場ブランドは「早C晩A(朝はビタミンC、夜はレチノール)」といったスキンケアのトレンドを素早く捉え、高濃度な成分を配合した製品を、グローバルブランドよりも手頃な価格で提供しています。またDouyin(中国版TikTok)などのライブコマースを駆使したマーケティングにおいても、地場ブランドの適応力は群を抜いているのです。
資生堂も「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」といった高価格帯ブランドで対抗しようとしていますが、中間層の購買力が低下し、消費者がよりコストパフォーマンスと成分の実効性をシビアに見極めるようになった市場環境下では、苦戦を強いられています。
ALPS処理水問題が資生堂に与えた影響
2023年8月に開始された東京電力福島第一原発のALPS処理水放出は、資生堂の中国事業に大きな打撃を与えました。科学的な安全性に関する議論とは別に、中国市場においては「日本ブランドであること」自体が一時的にリスク要因となったのです。
特に深刻だったのは、SNS上での不買運動の広がりと、インフルエンサー(KOL)が日本製品の紹介を自粛する動きでした。中国の消費者は日本製品に対して慎重な姿勢を示し、資生堂は積極的なプロモーションを控えざるを得ない期間が続きました。この間隙を縫って、競合のロレアルやエスティローダー、そして地場ブランドがシェアを拡大したことで、資生堂の顧客との接点は希薄化していきました。
ただし、2025年第3四半期に入り、中国本土での売上が前年同期比でプラスに転じるなど、底打ちの兆しも見え始めています。これは政治的な逆風が徐々に和らぎつつあることや、コアなファン層が戻りつつあることを示唆していますが、失ったシェアを取り戻すまでの道のりはまだ険しいといえます。
中国市場における「成分党」の台頭と消費者意識の変化
中国の化粧品市場では、消費者のリテラシーが飛躍的に向上し、「成分党」と呼ばれる層が市場を牽引するようになっています。彼らはブランドのイメージ広告よりも、配合されている成分の濃度や科学的根拠(エビデンス)を重視する傾向があります。
このトレンドにおいて、資生堂は高いR&D(研究開発)能力を有しているにもかかわらず、その技術的な優位性を十分にアピールしきれていない側面があります。一方でロレアルは「ラ ロッシュ ポゼ」や「スキンシューティカルズ」といったドクターズコスメやダーマコスメブランドを擁し、科学的なアプローチを好む層を確実に取り込んでいます。また、中国地場のウィノナ(Winona)も敏感肌向けの機能性化粧品として不動の地位を築いています。
資生堂の主力製品である「アルティミューン」などは依然として人気がありますが、次々と新しい成分トレンドが生まれる中国市場において、常に話題の中心であり続けるためには、イノベーションの鮮度が問われています。
ロレアルやエスティローダーとの比較から見る資生堂の課題
資生堂の苦戦をより鮮明にするのが、グローバルな競合他社との比較です。世界最大の化粧品会社であるロレアルは、中国市場の減速影響を受けつつも、多角化されたブランドポートフォリオによってダメージを最小限に抑えています。ラグジュアリー、マス、ダーマコスメ、ヘアケアと全方位に強力なブランドを持つロレアルは、特定のカテゴリが不振でも他でカバーできる強靭さを持っているのです。
一方、資生堂と同じく中国依存度が高く業績が悪化していたエスティローダーは、2025年に入り鮮明な回復軌道を描き始めています。エスティローダーの中国本土での売上は前年同期比9%増となり、同社のCEOは「中国での小売売上高は業界を大幅に上回る2桁成長を遂げた」と自信を見せています。エスティローダーの回復要因は、「ラ・メール(La Mer)」などの超高価格帯ブランドの強さと、ECチャネルでの迅速な立て直しにあります。
これに対し、資生堂の回復はまだ低位安定の域を出ていません。この差はブランド力の差のみならず、デジタルマーケティングの精度や、市場の変化に対する組織的な対応スピードの差としても現れている可能性があります。
米国事業の誤算とドランク エレファントの減損
資生堂の赤字のもう一つの大きな要因が、米国事業における巨額の減損損失です。2019年、資生堂は米国の新興スキンケアブランド「ドランク エレファント(Drunk Elephant)」を約845百万ドル(当時のレートで約920億円)で買収しました。当時このブランドは「クリーンビューティー」の旗手として爆発的な成長を遂げており、資生堂にとっては欧米市場攻略の切り札となるはずでした。
しかし2025年11月の発表で、資生堂はこのドランク エレファントに関連して約468億円もののれん減損損失を計上しました。減損とは、買収時に支払ったプレミアム(のれん代)に見合うだけの将来収益が見込めなくなったと判断された場合に、その資産価値を切り下げる会計処理です。買収額の半分近くを一気に損失処理したという事実は、当時の買収価格が高すぎたか、買収後の経営統合に失敗したことを経営陣が認めたに等しいといえます。
ドランク エレファントが失速した背景には、市場環境の変化とブランドポジショニングの迷走があります。藤原憲太郎社長CEOの分析によれば、ブランドの価値がターゲット顧客に十分に伝わらなくなったことが主因です。特に顕著だったのが、SNS(TikTokなど)を中心とした「Tweens(10代前半、あるいはそれ以下の子供たち)」によるブームです。カラフルなパッケージと「スムージー」のように製品を混ぜて使う楽しさが子供たちの心を掴みましたが、これは本来のターゲットである「肌悩みを抱える大人の女性」にとっては、ブランドが子供っぽい流行り物に見えてしまう副作用をもたらしました。
さらに米国市場ではインフレによる消費者の節約志向が高まる中で、ドランク エレファントのような高価格帯のクリーンビューティー製品に対して、より安価な類似品(デュープ)が多数出現しました。競合他社が類似の成分やコンセプトを持つ製品を低価格で投入したことで、ブランドの独自性が薄れ、競争力が低下したのです。
トラベルリテール事業の構造崩壊と代購ビジネスの終焉
資生堂の業績悪化において見逃せないのが、トラベルリテール(免税店)事業の構造崩壊です。ここには、中国政府による政策変更と、長年業界の公然の秘密であった転売ビジネスモデルの終焉というドラマがあります。
「中国のハワイ」と呼ばれる海南島は、新型コロナウイルス感染拡大期間中に海外旅行が制限された中国人の免税ショッピングの聖地となり、資生堂にとってもドル箱市場でした。しかし、その成長の一部は、個人輸入代行業者である「代購(ダイゴウ)」による大量購入によって支えられていました。
2024年から2025年にかけて、中国政府はダイゴウに対する取り締まりを劇的に強化しました。密輸対策キャンペーンが展開され、空港や港での検査が厳格化されたことで、転売目的の大量購入は激減しています。これにより、ダイゴウ需要を見込んで商品を積み上げていた免税店オペレーターやブランド側は、膨大な過剰在庫を抱えることとなりました。在庫が動かないため免税店からの新規発注は止まり、資生堂のトラベルリテール売上は前年比で2桁の大幅減を記録し続けることとなったのです。
さらに2025年には、海南島の免税制度自体に大きな変更が加えられました。中国政府は2025年末の「全島封鎖(完全な関税自主権の行使に向けた準備)」を見据え、免税政策の最適化を進めています。「One Addition and Three Optimizations(一つの追加と三つの最適化)」と呼ばれる新政策により、免税品の受け取り方法の利便性が向上した一方で、国内ブランド製品の免税販売が可能になるなど競争環境が変化しています。
これらの政策変更は長期的には市場の健全化を促すものですが、短期的にはこれまでの「免税店で安く買って本土で転売する」という単純な裁定取引の余地を消滅させ、従来のビジネスモデルを完全に過去のものとしました。
価格体系の崩壊とブランド価値の毀損
トラベルリテール市場における在庫の滞留は、ブランドの価格体系を破壊する深刻な副作用をもたらしました。資金繰りに窮した業者が、過剰在庫を非正規のルート(並行輸入など)で安値で市場に放出することで、中国本土の正規カウンターやECサイトでの定価販売が成立しなくなる現象が発生したのです。
消費者はスマートフォン一つで各国の価格を比較し、最も安いルートで商品を購入します。免税品が横流しされ、ECサイトで定価の半額近くで売られていれば、誰も正規店では購入しなくなります。資生堂はこの「価格の乱れ」を是正し、ブランドの権威を守るために、免税店への出荷を意図的に絞り込むという苦渋の決断を下しました。これは出血を止めるための止血帯のような措置であり、売上減少を甘受してでも将来のブランド価値を守るための戦略的忍耐ですが、その代償として当期の決算数値は大きく傷つくこととなったのです。
国内事業の構造改革「ミライシフトNIPPON 2025」
海外市場が総崩れとなる中で、マザーマーケットである日本市場もまた安泰ではありません。資生堂は長年の課題であった高コスト体質にメスを入れ、抜本的な改革を進めています。
資生堂ジャパンは、国内事業の収益性を高め持続的な成長を実現するための変革プラン「ミライシフトNIPPON 2025」を推進しています。このプランの核心は、聖域なきコスト削減と成長領域への投資集中という二本柱です。具体的には、今後2年間で売上原価やマーケティング投資、その他の経費を最適化し、合計で250億円規模のコスト削減を目指しています。これは縮小する国内市場に合わせて組織のサイズを適正化し、損益分岐点を下げるための生存戦略です。
この改革の象徴的な出来事が、大規模な早期退職制度の実施です。資生堂は2024年に国内事業で約1500人規模の早期退職者を募集しました。さらに2025年11月には、グローバル本社(GHQ)の社員約200人を対象とした追加の希望退職募集を発表しています。日本を代表する老舗企業である資生堂において、これほど短期間に大規模な人員削減が行われるのは極めて異例です。
藤原社長は社員に対して「自己革新(セルフ・イノベーション)」を強く求めており、会社にぶら下がるのではなく、プロフェッショナルとして成果を出せる人材だけが生き残れる環境へと移行しつつあります。
EC比率向上とオムニチャネル戦略
コスト削減の一方で、売上の質的転換も急務となっています。百貨店などの対面販売チャネルの売上が頭打ちとなる中、資生堂はEコマース(EC)比率の引き上げに注力しています。目標は、現在10%台にとどまる国内EC売上比率を30%まで引き上げることです。
そのための施策として、自社ECサイト「Watashi Plus(ワタシプラス)」の刷新や、店舗スタッフがデジタルツールを活用して顧客とコミュニケーションを取るオムニチャネル化を推進しています。資生堂の強みである「おもてなし」の精神を、リアル店舗だけでなくデジタル空間でも再現し、顧客一人ひとりに寄り添う体験を提供することでロイヤルティを高める戦略です。また、ドラッグストアなどのチャネルにおいても「エリクシール」や「アネッサ」といった高単価・高機能な商品へのシフトを進め、収益性の向上を図っています。
資生堂の中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」
中国市場の低迷と米国市場の混乱という二重苦の中で、資生堂は次なる成長の柱を模索しています。藤原体制の下で進められる中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」は、この危機からの脱出ルートを示す羅針盤となっています。
この戦略の核心は「選択と集中」の徹底です。資生堂は保有する多数のブランドの中から、グローバルで勝てるポテンシャルを持つ「SHISEIDO」「クレ・ド・ポー ボーテ」「NARS」などのコアブランドに投資を集中させます。一方で、収益性の低いブランドや戦略的な整合性の低い事業については、撤退や売却も含めた抜本的な見直しを進めています。「ローラ メルシエ」の日本撤退などもその一環と見られます。
また経営数値目標として、2026年までにコア営業利益率を7%まで引き上げることを掲げています。これは売上規模を追う拡大路線から、利益率重視の質的成長への転換を意味しています。
インド市場への本格進出と脱中国依存
中国への過度な依存を脱却するために、資生堂が戦略的に最も注力しているのがインド市場です。インドは急速な経済成長と若年人口の増加により、かつての中国のような巨大な消費市場へと成長する前夜にあります。
資生堂はこのインド市場攻略の切り札として、人気メイクアップブランド「NARS」を投入しました。2023年後半から、インドの大手百貨店チェーンでありビューティー小売のリーダーでもある「Shoppers Stop(ショッパーズ・ストップ)」の子会社と戦略的販売パートナーシップを締結し、主要都市での展開を開始しています。
Shoppers Stopはインド国内に広範な店舗網と強力なオンラインプラットフォームを持っており、この提携により資生堂はインドのプレミアム化粧品市場へのアクセスを一気に拡大することが可能となりました。インドの消費者は近年グローバルブランドへの関心を高めており、NARSのようなエッジの効いたブランドは新しいものを求めるインドの若年富裕層に強く訴求すると期待されています。これは単なる一国への進出以上の意味を持つ、資生堂の脱中国依存を賭けた重要な一手です。
2030年に向けたスキンビューティーへの回帰
資生堂が目指す2030年の姿は、「グローバル・スキンビューティー・カンパニー」としての地位確立です。資生堂の最大の強みは、100年以上にわたる皮膚科学研究の蓄積にあります。この原点に立ち返り、メイクアップよりも利益率が高く顧客のロイヤルティも維持しやすいスキンケア領域に経営資源を集中投下する方針です。
具体的には、シワ改善や美白といった機能性スキンケアにおいて、世界をリードする革新的な製品を開発し続けることを目指しています。また、サステナビリティ(持続可能性)への取り組みも強化しており、環境に配慮したパッケージや詰め替え用製品(レフィル)の普及をグローバルで推進しています。これは特に欧州市場など環境意識の高い地域でのブランド価値向上に不可欠な要素となっています。
投資家の評価と今後の見通し
金融市場は資生堂の現状を冷徹に見ています。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーといった主要な投資銀行のアナリストは、資生堂の目標株価や業績予想を相次いで引き下げました。
アナリストたちが懸念しているのは、単なる当期の赤字額ではありません。彼らが問題視しているのは「2026年以降の成長シナリオの不透明さ」です。会社側は構造改革によって2026年には年間250億円規模のコスト削減効果が出ると説明していますが、市場は「コストを削った後にどうやって売上を伸ばすのか」という成長ドライバーの不在をリスク要因として捉えています。
特に、競合のロレアルが全方位的なポートフォリオで安定成長を続け、エスティローダーが中国市場で底打ちの兆しを見せているのに対し、資生堂の回復ペースが相対的に遅いことが投資判断の引き下げにつながっています。
資生堂再生の鍵を握る3つの要素
現在進行中の改革が実を結ぶかどうかの鍵は、以下の3点に集約されます。まず第一に、中国市場での再定義です。価格ではなく価値で勝負できるブランドポジションを再構築し、地場ブランドとの差別化を明確にすることが求められています。
第二に、米国事業の自律的再生があります。ドランク エレファントの復活と北米組織の黒字化を達成し、グループ全体の足を引っ張る状況から脱却することが急務です。2026年1月にはドランク エレファントの新たなキャンペーンが展開される予定であり、「破壊的かつ不遜(disruptive and irreverent)」なものになると予告されています。ブランド本来の尖ったアイデンティティを取り戻し、大人の消費者層を呼び戻すことを狙っています。
第三に、イノベーションの社会実装が挙げられます。研究開発の成果をスピーディーに市場が求めるヒット商品へと変換するマーケティング能力を取り戻すことが、資生堂の復活には不可欠です。
まとめ
2024年から2025年にかけての資生堂は、創業以来最も長く暗いトンネルの中を歩んでいるといえます。520億円という過去最悪の赤字は、過去の成功体験への過度な適応と、激変する世界情勢への対応の遅れが招いた結果であり、その代償は極めて大きなものでした。中国市場での売上減少、米国事業の減損、トラベルリテールの構造崩壊という三重苦が同時に押し寄せ、資生堂のビジネスモデルは根底から揺らいでいます。
しかし歴史を振り返れば、資生堂は幾度もの危機を乗り越えてきた企業です。今回の危機は、資生堂が真のグローバル企業へと脱皮するために避けては通れない「膿を出し切る」プロセスであるとも捉えられます。不採算事業の整理、過剰在庫の処理、人員の適正化、そして組織文化の変革は、いずれも痛みを伴いますが、持続的な成長のためには不可欠な外科手術です。投資家や消費者は、資生堂が単にコストを削減して縮こまるのではなく、日本発の美の哲学と最先端の科学を融合させ、世界を再び驚かせるような新しい美を提案してくれることを待っています。2026年、そして2030年に向けて、資生堂の真価が問われるのはまさにこれからです。


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