紛失防止タグを探知するアプリや検出方法には、OS標準の通知機能、専用アプリ「AirGuard」、そしてBluetooth信号強度を利用した物理的な探索法の三つがあります。紛失防止タグはBluetooth Low Energy(BLE)技術を使って微弱な電波を常時発信しており、この信号を検知することで不審なタグの存在を突き止める仕組みです。近年、紛失防止タグがストーカー行為や車両窃盗の下見に悪用されるケースが急増しており、自分の身を守るためにも探知アプリの活用法や検出の仕組みを正しく理解しておくことが不可欠になっています。
この記事では、紛失防止タグがどのような技術で動作しているのか、その仕組みを詳しく解説するとともに、不審なタグを探知するためのアプリや具体的な検出方法を網羅的にお伝えします。さらに、2025年12月に公布された改正ストーカー規制法による法的保護や、タグを発見した場合の正しい対処法、今後の探知技術の進化についても取り上げます。

紛失防止タグの仕組みとは?動作原理をわかりやすく解説
紛失防止タグの仕組みは、BLE(Bluetooth Low Energy)技術を核として、クラウドネットワークとUWB(Ultra Wideband)技術を組み合わせた多層構造で成り立っています。タグ自体にはGPSもモバイル通信機能も搭載されておらず、世界中のスマートフォンを中継局として活用する独自のシステムによって位置情報を取得しています。AppleのAirTag、Tile、SamsungのGalaxy SmartTag、GoogleのFind My Deviceネットワークに対応したChipoloやPebblebeeなど、現在流通している主要な紛失防止タグはいずれもこの基本的な仕組みを共有しています。
BLE(Bluetooth Low Energy)によるアドバタイジングの仕組み
紛失防止タグの中核を担うのがBLE技術です。BLEは従来のBluetooth(Classic)と比較して消費電力が劇的に低く、コイン型電池(CR2032等)一つで1年以上の連続稼働を実現しています。タグはスマートフォンと常時接続しているわけではなく、「アドバタイジングパケット」と呼ばれる微弱な信号を数秒間隔で周囲に発信し続けています。この信号は灯台の光のように、受信する相手を問わず絶え間なく発信されるものです。
このアドバタイジングパケットには精緻な情報が格納されています。パケットの先頭にはデバイスを一意に識別するためのMACアドレス(6バイト)が含まれ、続いてタグがどのネットワーク(AppleのFind MyやGoogleのFind My Deviceなど)に属しているかを示す識別子が記録されています。さらに重要なのが、タグの状態を示す「ステータスフラグ」です。ここにはバッテリー残量情報のほか、タグが「所有者の近くにある(Near-Owner)」状態なのか「所有者から離れている(Separated)」状態なのかを示す「Near-Owner Bit」と呼ばれるビット情報が含まれています。このビットが分離状態を示している場合、それを受信した第三者のスマートフォンは、そのタグが不審な追跡状態にある可能性を判断する材料として活用します。この仕組みが、後述する探知アプリや検出機能の基盤となっています。
クラウド・ファウンディングネットワークによる位置特定の仕組み
紛失防止タグ自体がGPSを持たないにもかかわらず、地球の裏側にあるタグの位置までわかるのは、「クラウド・ファウンディング(Crowd Finding)」と呼ばれる仕組みによるものです。これは世界中に普及している数十億台のiPhoneやAndroid端末を、ユーザーが意識することなく「中継局」として利用するシステムです。
具体的な流れとしては、まず紛失状態にあるタグがBLE信号を発信します。その半径数十メートル以内を第三者のスマートフォンを持った通行人が偶然通過すると、そのスマートフォンがバックグラウンドでタグの信号をキャッチします。次に、受信したスマートフォンは自身のGPS機能で現在地を測位し、位置情報とタグの識別IDをセットにして暗号化した状態でAppleやGoogleのクラウドサーバーへ送信します。サーバーはタグの所有者アカウントに対してのみ位置情報を開示するという仕組みです。
このシステムの特筆すべき点は、情報の秘匿性と非同期性にあります。中継したスマートフォンユーザーは自分が中継した事実を知ることがなく、タグの所有者も誰のスマートフォンが中継してくれたのかを知ることはできません。すべてはエンドツーエンドの暗号化によって保護されており、AppleやGoogleといったプラットフォーマー自身でさえ位置情報の中身を閲覧できない設計です。数億台規模のスマートフォンが「移動する検知センサー」として機能することで、都市部であればほぼリアルタイムでの位置特定が可能になっています。
UWB(Ultra Wideband)による精密な探知の仕組み
BLEが大まかな位置(数十メートル範囲)の特定を担うのに対し、近距離での「最後の数メートル」の捜索を担うのがUWB(Ultra Wideband)技術です。UWBは従来の無線通信とは異なり、ナノ秒オーダーの極めて短いパルス波を使用します。この技術の最大の特徴は、電波の飛行時間(Time of Flight: ToF)を極めて正確に計測できる点にあります。光速は一定であるため、信号が発信されてから受信されるまでの時間を測定することで、タグまでの距離をセンチメートル単位で算出できます。さらに、受信機側に配置された複数のアンテナへの信号到達時間の微小な差を解析することで、信号がどの方向から来たかも特定可能です。
AppleのAirTagに搭載されている「正確な場所を見つける(Precision Finding)」機能は、UWB技術にカメラ、加速度センサー、ジャイロスコープの入力を統合する「センサーフュージョン」によって実現されています。ユーザーの画面にはタグが存在する方向を示す大きな矢印と距離がリアルタイムで表示され、タグに近づくと画面が緑色に変化し、触覚フィードバック(振動)と音で到達を知らせてくれます。ソファのクッションの間や積まれた書類の下など、視覚的に隠れている場所にあるタグも方向と距離を頼りに確実に発見することが可能です。
MACアドレスローテーションの仕組みと探知への影響
紛失防止タグはプライバシー保護のために「MACアドレスローテーション」という技術を採用しています。タグの識別子であるMACアドレスは固定されておらず、一定の周期でランダムな値に変更されます。業界標準仕様「Detecting Unwanted Location Trackers(DULT)」の設計では、所有者が近くにいる状態では約15分ごと、所有者から離れた状態では約24時間ごとにアドレスが変更されることが推奨されています。このローテーションにより、第三者がタグのIDを追跡して所有者の行動パターンを把握することは困難になっています。
ただし、この仕組みは探知の観点では「諸刃の剣」となります。不審なタグを検出しようとする際、タグのIDが変わってしまうと、検出システムが「同じタグがずっとついてきている」のか「別々のタグが偶然現れただけ」なのかを区別することが技術的に難しくなるからです。この課題を克服するために、後述するAirGuardなどの探知アプリは高度なアルゴリズムを実装しています。
紛失防止タグの悪用手口とその脅威
紛失防止タグの小型さと長時間稼働という特性は、犯罪目的での悪用という深刻な問題を引き起こしています。ストーカーや車両窃盗団がターゲットの生活パターンや車両の保管場所を特定するためにタグを使用するケースが増加しており、探知アプリや検出方法を知っておくことの重要性が高まっています。
巧妙化するタグの設置場所
タグの設置場所は巧妙化しており、発見は容易ではありません。車両の場合、バンパーの裏側、ホイールハウスの内側、ナンバープレートの裏、車体底部のフレームの隙間などが一般的な隠し場所として使われています。強力なマグネット付きケースに入れて車体に吸着させる手法が多く、外観からは全く判別できません。車内では座席シートの縫い目、フロアマットの下、トランクのスペアタイヤ収納部なども狙われます。個人の所持品の場合は、バッグのサイドポケットや内張りの隙間、上着のポケットに忍ばせるケース、さらにはプレゼントされたぬいぐるみの中に縫い込まれるケースも報告されています。
スピーカー無効化による「サイレントタグ」の脅威
通常、AirTagなどの紛失防止タグは、所有者から離れて一定時間が経過すると音を鳴らして周囲に存在を知らせるストーカー対策機能を備えています。しかし、スピーカー(圧電素子やボイスコイル)への配線を切断したり発音体そのものを除去したりした「サイレントタグ」が出回っています。この改造を施されたタグは、どれだけ長時間所有者から離れても物理的な音を発しないため、スマートフォンの通知で「タグが近くにある」と知らされても音を頼りに探すことができません。巧妙に隠された改造タグの発見は極めて困難です。さらに、タグの表面を黒く塗装したり、ガムテープで包んで車両の配線の一部に見せかけたりする視覚的な隠蔽工作も行われており、こうした手口への対策として信号強度を用いた物理的な検出方法が重要になっています。
紛失防止タグを探知するアプリと具体的な検出方法
不審な紛失防止タグを検出する方法は、「専用探知アプリ」「OS標準機能」「物理的な信号探索」の三つに大別されます。それぞれの検出方法の仕組みと活用法を解説します。
探知アプリ「AirGuard」の検出アルゴリズムと仕組み
Androidユーザーにとって最も強力な探知ツールの一つが、ダルムシュタット工科大学の研究チームが開発した「AirGuard」です。このアプリは単にBLE信号をスキャンするだけでなく、検出されたデバイス情報をローカルデータベースに蓄積して高度な分析を行う点が特徴です。
AirGuardの検出アルゴリズムの核心は、「ロケーションの変化」と「検出回数」の相関分析にあります。ある特定のタグが少なくとも3回以上検出され、かつそれぞれの検出場所が地理的に異なっている場合にのみ警告を発する仕組みです。この方式により、アパートの隣人が自室に置いているタグのように場所が固定されたデバイスは無視され、本当に「自分についてきている」タグだけを高精度に炙り出すことができます。この仕組みは「偽陽性(False Positive)」の問題、つまり満員電車やバスで他人が持っているタグをストーカーと誤認してしまうリスクを大幅に低減しています。
検出速度の面でもAirGuardは優れた性能を発揮します。iOSの標準機能が不審なタグの通知に4時間以上を要するような状況でも、AirGuardは約30分から1時間以内に警告を発することが可能とされています。AppleのAirTagだけでなく、TileやSamsung Galaxy SmartTagなど複数の主要トラッカー規格に対応し、これらを一元的に監視できる点も大きな強みです。
Android標準機能「不明なトラッカーの警告」による探知方法
2024年、AppleとGoogleはプラットフォームの壁を越えた対策として「Detecting Unwanted Location Trackers(DULT)」を実装しました。これにより、専用アプリをインストールしなくてもOS標準機能として不審なタグの警告を受け取れるようになっています。
Android 6.0以降のデバイスには「不明なトラッカーの警告」機能が標準搭載されています。不審なタグを検知すると「トラッカーがあなたと一緒に移動しています」という通知が表示されます。通知をタップすると地図画面が開き、いつ、どこでタグが検知され始めたのか、どのようなルートでついてきたのかが赤い点線で可視化されます。画面上の「音を鳴らす」ボタンをタップすると、Bluetooth経由でタグに強制的に音を鳴らすコマンドを送ることができます。この操作はタグの所有者には通知されないため、周囲に気づかれずに探索することが可能です。さらに手動スキャン機能も用意されており、「設定」から「安全性と緊急情報」、「不明なトラッカーの警告」と進んで「今すぐスキャン」を実行することで、通知を待たずに周囲のトラッカーを能動的にチェックできます。
iPhoneの探知機能と検出の仕組み
iPhoneでも同様に、不審なAirTagやDULT対応トラッカーが移動を共にしている場合にホーム画面に警告が表示されます。「探す」アプリを通じて音を鳴らしたり、UWB対応端末であれば「正確な場所を見つける」機能で詳細な位置を特定したりすることが可能です。iPhoneをタグにかざすとNFC経由でシリアルナンバーや所有者が設定した連絡先情報を読み取ることもできます。このシリアルナンバーは、後述する警察への届出の際にも重要な証拠となります。
Bluetooth信号強度(RSSI)を使った物理的な検出方法
「音を鳴らす」機能でタグが見つからない場合や、スピーカーが無効化された改造タグに対しては、Bluetoothの電波強度(RSSI: Received Signal Strength Indicator)を利用した物理的な探索法が有効です。この方法は「ホット・アンド・コールド」法とも呼ばれています。
「BLE Scanner」や「LightBlue」といった汎用的な信号解析アプリを使用すると、周囲のBLEデバイスの電波強度が数値(dBm)で表示されます。数値がマイナス90dBm(遠い)からマイナス40dBm(近い)に近づく方向へスマートフォンをかざしながらゆっくり移動することで、タグの隠し場所を絞り込むことが可能です。車両を点検する場合はタイヤの奥やシャーシの裏など電波が遮蔽されやすい場所を重点的にチェックすることが重要です。この方法はスピーカーの有無に関係なく電波そのものを検出するため、サイレントタグへの対策としても有効な検出方法です。
改正ストーカー規制法による紛失防止タグ悪用への法的対策
技術的な探知方法に加えて、法的な抑止力も強化されています。2025年12月に公布された改正ストーカー規制法により、紛失防止タグの悪用に対する法的包囲網が整備されました。かつてはGPS機器の規制はあったものの、Bluetoothタグについては明文の規定がなく法の「抜け穴」となっていましたが、タグ悪用被害の急増を受けてこの穴が塞がれました。
紛失防止タグが規制対象に明確化された内容
改正法では、GPS機器に加えて「位置情報を取得・記録・送信する機能を持つタグ等の機器」が明確に規制対象として定義されました。これにより、AirTag等の紛失防止タグを相手方の承諾を得ずに所持品や車両に取り付ける行為(無断設置)、および相手方の承諾を得ずにタグを用いて位置情報を取得する行為(無断位置取得)が、ストーカー規制法違反として処罰の対象となっています。
さらに画期的な変更として、従来は被害者からの「申し出」がなければ警察が警告を出せませんでしたが、改正法では警察の職権による警告が可能となりました。報復を恐れて被害届を出せない被害者や緊急性が高い事案において、警察が能動的に介入できるようになっています。禁止命令を出せる管轄公安委員会が「被害者の当時の居住地」にも拡大され、迅速な保護命令の発出が可能となった点も重要な変更です。
不審なタグを発見した場合の正しい対処法と証拠保全
不審なタグを発見した場合は、直ちに警察へ届け出ることが推奨されています。その際に最も重要なのが証拠保全です。
まず、タグには犯人の指紋やDNAが付着している可能性があるため、素手で触らずに手袋やハンカチを使って扱うことが大切です。タグを取り外す前に、どこにどのように取り付けられていたかを写真や動画で詳細に記録しておきます。ガムテープの色や貼り方なども含めて現状を撮影することで、捜査の有力な手がかりとなります。NFC読み取り機能でシリアルナンバーを表示させ、スクリーンショットを保存しておくことも極めて重要です。このシリアルナンバーは、捜査機関がApple等のメーカーに情報開示請求を行う際の決定的な識別子となります。証拠保全が完了した後は、位置情報の送信を止めるために電池を取り外すことが推奨されます。多くのタグは裏蓋を反時計回りに回すことで簡単に電池を取り外すことができます。
紛失防止タグの探知技術の将来展望
追跡と検知の技術は今後さらに進化していく見通しです。次世代の探知技術として注目されているのが「WiFiセンシング」です。これは専用のタグ検出器を持たなくても、室内に飛び交うWi-Fiの電波の「ゆらぎ」をAIが解析することで不審なデバイスの存在を検知する技術です。将来的には自宅のWi-Fiルーター自体がセキュリティシステムとなり、持ち込まれた未知の電波発信源を検知して居住者に警告する可能性が見込まれています。
AIによる行動分析の進化も期待されています。Appleはタグが「所有者の就寝時間帯に自宅から離れた場所に移動している」などの不自然な振る舞いを検知する特許技術を研究しており、より文脈を理解した高度なストーカー検知機能が今後実装される可能性があります。
紛失防止タグは、BLEの省電力性とクラウドネットワークの広範なカバー率、UWBの精密性を融合させた現代テクノロジーの結晶です。その利便性を享受しつつ、悪用のリスクに対しては正しい知識を持ち、スマートフォンの警告や探知アプリを活用して適切に対処する準備をしておくことが大切です。AirGuardなどの専用アプリの進化、DULTによるOS標準の検出機能、そして改正ストーカー規制法による法的保護により、紛失防止タグの悪用に対する包囲網は着実に強化されています。


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