首都高の料金が2026年度に値上げへ|上限撤廃や改定内容を徹底解説

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首都高の料金は2026年度に値上げされる見通しです。現在検討されている改定案では、1キロメートルあたりの料金単価が約10%引き上げられるほか、普通車の上限料金1,950円の撤廃、ターミナルチャージの増額といった複合的な改定が行われる可能性があります。この改定は、老朽化したインフラの大規模更新費用を確保するとともに、都心部への通過交通を抑制する「ロードプライシング」を強化する狙いがあります。

本記事では、2026年度に予定されている首都高の料金改定について、その具体的な内容から背景にある物理的・経済的要因、物流業界への影響、そして利用者がとるべき対策まで、詳しく解説していきます。首都高を日常的に利用する方はもちろん、物流に関わるビジネスパーソンや、高速道路料金の動向に関心のある方にとって、今後の判断材料となる情報を網羅的にお伝えします。

2026年度の首都高料金改定案の全容とは

2026年度(令和8年度)に検討されている首都高速道路の料金改定は、単一の値上げではなく、複数の料金要素を組み合わせた複合的な改定パッケージとなっています。国土交通省および首都高速道路株式会社等の関係機関において議論が進められているこの改定案は、利用者の行動変容を促すと同時に、インフラ管理者の収益構造を安定化させることを目的として設計されています。

距離別料金単価が約10%引き上げへ

首都高の料金体系は、2016年の対距離料金制への移行以来、走行距離に応じた課金が行われてきました。現在の普通車の料金水準は、1キロメートルあたり29.52円をベースとしていますが、2026年度の改定案では、これを10%程度引き上げる方向で調整が進められています。

この10%という数字の根拠には、建設資材価格の高騰が直接的に関与しています。アスファルト合材、生コンクリート、構造用鋼材といった道路維持に不可欠な資材価格は、世界的なインフレとエネルギーコストの上昇により高止まりを続けています。さらに、建設業界における「2024年問題」の影響で、夜間工事や緊急対応に従事する技術者の労務費が高騰しており、これらを既存の料金収入だけで吸収することは経営的に限界に達しているのです。

上限料金1,950円の撤廃がもたらす影響

今回の改定議論において、最も利用者への心理的・経済的インパクトが大きいと予想されるのが、上限料金の見直しまたは撤廃です。2022年4月の改定以降、普通車のETC利用における上限料金は1,950円に設定されてきました。これは、走行距離が55キロメートルを超えた場合、それ以上いくら走っても料金が加算されないという仕組みであり、長距離利用者に対する激変緩和措置として機能してきました。

しかし、2026年度の改定議論では、この上限料金を撤廃する案が有力視されています。上限料金が存在することで、長距離を走行するほど1キロメートルあたりの実質単価が逓減し、結果として圏央道や外環道を利用すべき「通過交通」が、割安な首都高を選択するという逆転現象が生じているためです。

仮に上限料金が撤廃された場合、例えば神奈川県の横浜横須賀道路接続部から埼玉県の東北道接続部まで首都高を縦断するような利用形態では、料金が現在の1,950円から大幅に上昇し、距離計算通りであれば2,000円台後半から3,000円規模に達する可能性もあります。これは「使った分だけ支払う」という公平性の観点からは合理的ですが、長距離通勤者や広域移動を行う物流事業者、レジャー利用者にとっては、実質的な青天井化となるリスクを孕んでいます。

ターミナルチャージの増額で短距離利用者にも影響

距離料金とは別に、首都高を利用するたびに1回あたり徴収される「ターミナルチャージ」についても、現行の150円からの引き上げが検討されています。ターミナルチャージとは、料金所の維持管理、ETCシステムのサーバー運営、料金収受スタッフの人件費など、走行距離に関わらず発生する固定的なコストをカバーするための料金です。

この固定額の引き上げは、特に短距離利用者への影響が大きくなります。数キロメートル程度の利用であっても、ベースとなる固定額が上がれば、総支払額の上昇率は距離単価の引き上げ以上に高くなります。例えば、現状の最低料金で済んでいた区間利用が、ターミナルチャージの上乗せにより大幅に高くなる可能性があるのです。これは、都心部での短距離移動を公共交通機関や一般道へ誘導する効果を持つ一方で、並行する生活道路の渋滞を悪化させる懸念もあり、慎重な制度設計が求められています。

首都高料金改定の歴史的背景

首都高の料金改定は、過去にも段階的に行われてきました。なぜ2026年に再び大規模な改定が必要となったのか、その歴史的経緯を理解することで、今回の改定の不可避性が見えてきます。

2016年:均一料金制から対距離制への転換

かつて首都高は、入り口で決まった金額を支払えばどこまで走っても同額という「均一料金制」を採用していました。しかし、ネットワークの拡大に伴い、短距離利用者と長距離利用者の不公平感が拡大したため、2016年にETC車を対象とした「対距離料金制」へ移行しました。

この改革は、当初、利用者の負担公平化と交通流の分散を目的としていました。しかし、激変緩和措置として設定された上限料金が低く抑えられたため、長距離利用における首都高の割安感は解消されず、都心経由の通過交通は依然として残り続けました。その結果、都心環状線の渋滞は劇的には改善されず、さらなる対策が必要という課題が残されたのです。

2022年:上限料金の引き上げ

2016年の課題を踏まえ、2022年4月には上限料金が1,320円から1,950円へと大幅に引き上げられました。この改定の主眼は、圏央道や外環道との料金格差を是正し、通過交通を外側へ誘導することにありました。また、同時に深夜割引の導入や大口・多頻度割引の拡充も行われ、物流業界への配慮もなされました。

しかし、2022年の改定後も、世界的なインフレによる維持管理コストの急騰や、予想を上回るインフラ老朽化の進行により、首都高の財務基盤は圧迫され続けています。2026年の改定は、過去2回の改定でも解決しきれなかった「財源確保」と「交通制御」という二つの未解決課題に対し、より踏み込んだ解決策を提示するものと位置づけられています。

老朽インフラの更新という避けられない現実

2026年改定の最大の推進要因は、首都高特有の「老い」と、それを治療するための「更新事業」の巨大化にあります。

1964年東京オリンピックから60年以上が経過

首都高の主要区間は、1964年の東京オリンピックに合わせて突貫工事で建設されました。それから60年以上が経過し、コンクリートの剥離、鉄筋の腐食、疲労亀裂といった深刻な損傷が各所で顕在化しています。現在、首都高の全延長約327キロメートルのうち、開通から50年以上が経過した区間は3割を超えており、今後その割合は加速度的に増加していきます。

これに対応するため、首都高では単なる修繕ではなく、道路そのものを造り替える「大規模更新事業」が進行中です。当初の計画では、一部区間の更新費用として約3,000億円規模が見積もられていましたが、詳細な点検が進むにつれて損傷範囲が予想以上に深刻であることが判明し、更新が必要な区間は拡大の一途をたどっています。

大規模更新プロジェクトの具体例

値上げの正当性を理解するためには、具体的にどのような工事が行われているかを知る必要があります。

高速大師橋の架け替えについて見てみると、多摩川にかかる高速大師橋(1号羽田線)では、1,000箇所以上の疲労亀裂が発生していました。これに対し、既存の橋と並行して新しい橋を組み立て、通行止め期間を極小化するために、巨大な橋桁をスライドさせて一気に入れ替えるという世界最大級の難工事が実施されました。

羽田トンネルの更新では、海底トンネルである羽田トンネルにおいて、長年の海水の影響でコンクリートや鉄筋の腐食が進行しています。ここでは、交通を維持しながらトンネル躯体を補強・再構築するために、かつて使用されていた「羽田可動橋」を活用した迂回ルートを構築するという、極めて複雑な工法が採用されています。

日本橋区間の地下化も進行中であり、都市景観の再生と老朽化対策を兼ねて、都心環状線の日本橋区間を地下化するプロジェクトが動いています。これには巨額の費用がかかるだけでなく、地下埋設物が錯綜する都心部での難工事となり、長期にわたる資金投下が不可欠となっています。

これらのプロジェクトは、技術的な難易度が極めて高く、それに比例してコストも膨大になります。NEXCO各社を含めた高速道路全体の更新事業費は、当初の見積もりから1兆円以上増加し、総額5兆円規模に膨れ上がるとの試算も出ています。この膨張する更新費用を賄うためには、既存の料金収入だけでは到底追いつかず、料金水準の底上げが物理的に不可避となっているのです。

料金徴収期間が2115年まで延長された意味

この財源不足を補うための法的枠組みとして、道路整備特別措置法が改正され、高速道路の料金徴収期間が最長で2115年(令和97年)まで延長されることが決定しました。これは事実上の「無料化撤回」を意味します。かつて日本の高速道路は、建設費の償還が終われば無料開放される建前でしたが、老朽化対策と維持管理が永久に続く現実を前に、「永久有料化」へと方針転換されました。

2026年の料金改定は、この2115年までの長期戦を見据えた最初の大きなステップであり、将来世代に老朽化したインフラのツケを回さないために、現在の利用者から適正な維持管理コストを徴収するという「世代間公平性」の論理が、値上げの強力な根拠となっています。

物流業界への深刻な影響と2024年問題との関連

2026年の料金改定が最も深刻かつ直接的な打撃を与えるのは、物流業界です。トラック運送業界は、「2024年問題」に直面しており、輸送能力の低下とコスト増に苦しんでいますが、2026年の改定はこれに追い打ちをかける形となります。

大口・多頻度割引の拡充措置が2026年3月末で終了の可能性

これまで物流業界の経営を支えてきた重要な柱の一つが、ETCコーポレートカード利用者向けの「大口・多頻度割引」の拡充措置です。現在、最大45%(車両単位35%+契約単位10%)という大幅な割引が適用されていますが、この最大45%への拡充措置の期限が2026年3月末に設定されています。

もし、基本料金の値上げと同時に、この割引拡充措置が終了し、本来の割引率に戻ることになれば、物流事業者は「ベース料金の上昇」と「割引率の低下」という二重のコスト増に直面します。例えば、月間数百万円単位で高速を利用する運送会社にとって、10%の値上げと割引縮小が重なれば、実質的な支払い額は大幅に増加する計算になり、利益率の低い運送事業においては経営の存続に関わる問題となり得ます。全日本トラック協会等は、この拡充措置の恒久化あるいは延長を強く求めています。

運賃へのコスト転嫁が困難な構造的問題

全日本トラック協会の調査によれば、運賃の値上げ交渉に応じる荷主企業は増えつつあるものの、高速道路料金のような実費負担の増加分を完全に運賃に転嫁できている事業者は依然として限定的です。特に、燃料サーチャージのように制度化されていない高速料金の変動は、荷主側からの理解が得にくく、運送会社が自腹を切らざるを得ないケースも多々あります。

2024年問題によるドライバー不足と人件費高騰に加え、2026年の高速料金値上げが重なれば、輸送コストの上昇は避けられません。これは最終的に、宅配便の送料値上げや、スーパーに並ぶ生鮮食品の価格転嫁という形で、一般消費者の家計にも波及することになります。また、コスト負担に耐えきれない事業者が長距離輸送から撤退することで、地方から首都圏への物流ネットワークが縮小するリスクも指摘されています。

深夜割引の適用ルール厳格化

2026年に向けて議論されているもう一つの懸念材料が、深夜割引の見直しとその適用ルールの厳格化です。これまで、深夜割引を受けるために料金所の手前でトラックが時間調整を行い、路肩に滞留するという社会問題が発生していました。これを解消するため、割引適用時間を「料金所通過時刻」ではなく、「ETC2.0から得られる走行履歴に基づき、割引対象時間帯に実際に走行した分だけを割り引く」という新制度への移行が予定されています。

この新制度の導入見通しは2026年度以降とされており、これが実施されれば、トラックドライバーは「4時までに料金所を通過すれば全区間割引」という恩恵を受けられなくなります。長距離運行の一部しか割引されなくなるため、実質的な負担増となるだけでなく、運行スケジュールの再調整が必要となり、労働時間管理が一層複雑化することが懸念されています。

交通流動への影響:ロードプライシングの強化

料金改定は、ドライバーのルート選択行動に直接的な変化をもたらします。2026年の改定がどのような交通流動の変化を引き起こすか、分析していきます。

通過交通の圏央道・外環道へのシフト

首都高が上限料金の撤廃や値上げを急ぐ最大の理由の一つは、都心環状線などを通過するだけの「通過交通」を、圏央道や外環道へ物理的に誘導することにあります。現状では、千葉湾岸エリアから神奈川内陸エリアへ向かう際など、圏央道経由よりも首都高経由の方が距離が短く、かつ上限料金によって安く済むケースが多く存在します。これが都心部の慢性的な渋滞の主因となっています。

2026年の改定で首都高が距離通りの料金になれば、ドライバーは首都高を利用する金銭的メリットを失い、より空いている圏央道を選択するようになると期待されています。これは「ロードプライシング」の考え方そのものであり、都心部の環境改善や渋滞緩和には寄与する可能性があります。

一般道への「逸走」による生活道路への影響

一方で、強く懸念されるのが一般道への「逸走」です。特に、短・中距離の利用者が、ターミナルチャージの値上げや距離単価の上昇を嫌って、並行する国道や都道へ流出する可能性があります。過去、2016年の料金改定の際には、夜間を中心に首都高の交通量が約6%減少し、その一部が一般道へ転換したデータも確認されています。

もし2026年の改定で短距離利用の割高感がさらに増せば、国道246号線や国道15号線などの幹線道路、さらには抜け道としての生活道路に通過車両が入り込み、地域の交通安全や騒音環境が悪化する「副作用」が生じるリスクがあります。

海外都市の混雑課金との比較

首都高の料金議論を相対化するために、海外の大都市における「道路の値段」と比較することは有益です。

ロンドンの混雑税:2026年1月2日から値上げ

ロンドンでは、都心部に乗り入れる車両に対して一律の「コンジェッション・チャージ(混雑税)」を課しています。この料金は年々上昇しており、2026年1月2日からは、これまでの一日15ポンドから18ポンド(日本円にして約3,500円相当)への値上げが決定しています。さらに特筆すべきは、これまで環境配慮として免除されていた電気自動車に対しても課金が開始される点です。これは「環境対策」から「純粋な交通量抑制と財源確保」へと政策の重心が移っていることを示唆しています。

シンガポールのダイナミック・プライシング

シンガポールは、世界で最も進んだロードプライシングシステム「ERP(電子道路課金)」を運用しています。ここでは、時間帯や場所、車種に応じて料金が細かく変動します。例えば、ある道路の平均速度が低下すると、その時間帯の料金が自動的に引き上げられ、逆に空いている時間は安くなるという仕組みです。道路の利用状況に応じて「時価」で通行権を販売しており、首都高が目指す「スムーズな交通流」の究極形は、このシンガポールモデルにあります。将来的には首都高でもAIを用いたリアルタイム変動料金が導入される可能性があります。

ニューヨークの混雑課金導入の難しさ

ニューヨークのマンハッタンでは、米国初となる混雑課金の導入が計画されていましたが、政治的な理由で延期や修正が繰り返されています。当初15ドルとされていたピーク時の通行料は、2025年1月の導入に向けて9ドルに引き下げられるなどの調整が行われました。この事例は、大都市における通行料金の新規導入や大幅な値上げが、いかに政治的に敏感で、市民の反発を招きやすいかを示しています。首都高の改定においても、世論の反発を恐れて「激変緩和措置」や「段階的導入」が政治判断でねじ込まれる可能性が高く、純粋な経済合理性だけで決まらない難しさを示唆しています。

2026年以降を見据えた利用者の対策

来るべき料金改定に対し、個人ドライバーや企業はどのような対策を講じるべきでしょうか。

ETC2.0への移行が必須に

まず確実なのは、ETC2.0車載器の重要性が決定的になることです。現在でも圏央道の割引などETC2.0限定のサービスがありますが、2026年以降、深夜割引の適用や新たな経路別割引において、GPS機能を持つETC2.0の搭載が必須条件となる可能性が高まっています。特に法人の車両管理においては、既存の旧型ETC車載器からの載せ替えを計画的に進めることが、割引恩恵を受けるための最低条件となります。

ルート選択の見直し

上限料金が撤廃または大幅に引き上げられた場合、長距離移動における「首都高一択」の状況は崩壊します。例えば、東名高速から東北道へ抜ける際、これまでは首都高C1経由が最短かつ安価でしたが、今後は圏央道経由の方が、料金差が縮小し、かつ渋滞リスクが低いルートとして浮上するでしょう。カーナビゲーションシステムやスマートフォンのルート案内アプリも、料金改定に合わせてアルゴリズムが変化するため、ドライバーは「時間」と「お金」のバランスを常に天秤にかける必要があります。

法人は協同組合等の活用を検討

物流事業者や営業車を多数抱える企業は、ETCコーポレートカードの契約内容や割引適用の条件を再確認する必要があります。2026年3月末で切れる割引措置がどのように再編されるか、NEXCOや首都高からの公式発表を注視し、協同組合などを通じた大口割引制度の活用を最大化する準備が求められます。また、荷主との運賃交渉において、高速料金の実費負担を契約書に明記させる交渉力がこれまで以上に重要になります。

まとめ:首都高料金値上げは避けられない転換点

2026年度に予定されている首都高速道路の料金改定は、単なるコスト転嫁の枠を超えた歴史的な転換点といえます。それは、高度経済成長期に作られた遺産を次の100年も使い続けるための「延命手術」の費用請求書であり、同時に、過密都市東京における自動車交通のあり方を再定義する試みでもあります。

「安くて便利な首都高」という時代は終焉を迎えようとしています。これからの首都高は、「高いコストを支払ってでも時間を買いたい人だけが使うプレミアム・インフラ」へとその姿を変えていくでしょう。利用者は、その対価を支払うか、あるいは利用を控えて他の手段を選択するかという選択を迫られることになります。

しかし、この痛みを伴う改革がなければ、首都高は老朽化による重大事故や突発的な通行止めが頻発し、首都機能そのものが麻痺するリスクがあります。2026年の値上げは、首都東京の動脈を守るための「必要経費」として社会全体で受容できるかどうかが問われています。

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