資格確認書は銀行口座開設の本人確認に使えるのか、結論から言えば「法的には有効だが、単独では使えず、必ず住民票などの補完書類が必要」となります。さらに、スマホアプリでのオンライン口座開設(eKYC)では顔写真がないため利用できないケースがほとんどです。2024年12月2日に健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードを持たない方には「資格確認書」が交付されるようになりましたが、銀行での本人確認においては従来の健康保険証よりも使い勝手が悪くなっています。この記事では、資格確認書で銀行口座を開設する際の具体的な条件、主要銀行ごとの対応状況、必要な補完書類の準備方法、そして2025年12月以降に予想される変化まで、実務的な観点から詳しく解説します。

資格確認書とは何か
資格確認書は、マイナンバーカードを取得していない方、またはマイナンバーカードを健康保険証として利用登録していない方(マイナ保険証を持たない方)に対して交付される書類です。この書類は、従来の健康保険証に代わって保険診療を受けるために発行されるもので、氏名、生年月日、住所などが記載された公的機関発行の書類という位置づけになります。
犯罪収益移転防止法(犯収法)に基づく本人確認書類としての要件を形式的には満たしているため、銀行口座開設時の本人確認書類として法的には認められています。ただし、ここで注意が必要なのが「資格情報のお知らせ(資格情報通知書)」という別の書類との違いです。資格情報のお知らせは、マイナ保険証の利用者に被保険者番号等を通知するための書類であり、多くの場合住所の記載がありません。銀行の本人確認において現住所の記載は絶対条件であるため、資格情報のお知らせは本人確認書類として使用できません。一方、資格確認書は従来の健康保険証の代替として機能するため、原則として住所の記載または自署欄が存在し、本人確認書類としての要件を備えています。
資格確認書が銀行口座開設で「使いにくい」理由
資格確認書が銀行での本人確認において使いにくい最大の理由は、顔写真がないという点にあります。犯罪収益移転防止法では、本人確認書類を「顔写真付き書類」と「顔写真なし書類」の二つの階層に分類しており、その取り扱いには大きな差があります。
運転免許証やマイナンバーカード、在留カードなどの顔写真付き本人確認書類は、発行元が厳格な本人確認を経て発行しており、顔写真によって対面またはオンラインでの本人照合が可能です。そのため、これらの書類は原則として1点の提示または送信で口座開設手続きが完了します。
一方、資格確認書のような顔写真なし本人確認書類は、持参した人物が書類の名義人本人であることを視覚的に確認する手段がありません。そのため、犯収法では顔写真なし書類を用いる場合、単独での確認を認めず、必ず「補完措置」を講じることを金融機関に義務付けています。この補完措置として、住民票の写しや公共料金の領収書などの追加書類の提出、または転送不要郵便による住所確認などが求められます。
eKYC(スマホでの本人確認)で資格確認書が使えない理由
近年、銀行口座開設の主流となっているのがスマートフォンアプリを用いた「eKYC(Electronic Know Your Customer)」です。これは、スマホのカメラで本人確認書類を撮影し、さらに自分の顔を自撮りして、その場で本人確認を完了させる技術です。
eKYCの技術的・法的要件として、「写真付き本人確認書類の画像の送信」と「容貌の画像の送信」のセット、あるいは「写真付き本人確認書類のICチップ情報の送信」と「容貌の画像の送信」のセットなどが規定されています。ここでの重要なポイントは、「写真付き」であることが前提とされている点です。
顔写真のない資格確認書は、eKYCのプロセスの根幹である「顔照合(Face Matching)」を行うことが物理的に不可能です。したがって、どれほど公的な書類であっても、eKYCを採用している「スマホで口座開設」「スピード開設」といったフローからは、構造的に排除されることになります。これは銀行側の方針ではなく、技術と法律の要請による必然的な結果です。
主要ネット銀行における資格確認書の対応状況
楽天銀行の対応
楽天銀行では、本人確認ルールが年齢、国籍、申込方法によって複雑に分岐しています。スマートフォンアプリでの提出については、13歳以上の日本国籍の顧客であれば、資格確認書(住所記載・記入済みのもの)の利用自体は「可能」とされています。
しかし、ここには注意点があります。運転免許証やマイナンバーカードであればアプリで撮影して送信すれば手続きは完了しますが、資格確認書には顔写真がないため、アプリ上での顔写真撮影を行わないフローを選択する必要があり、その代償としてもう一通の本人確認書類の提出が求められます。つまり、アプリを使っているにもかかわらず、資格確認書以外に住民票の写しなどを用意しなければならず、デジタル完結の利便性は失われます。
さらに、配達員へ提示する方法(受取人確認サポート等)においては、資格確認書は利用可能な書類のリストに含まれていません。カードを受け取る際には、顔写真付きのマイナンバーカードや運転免許証、パスポートの提示が必須となります。資格確認書しか持っていない方がこの方法を選択してしまうと、カードが届いても受け取れないという事態になります。郵送での提出の場合も、資格確認書単独では受付されず、必ず2点の書類(例:資格確認書+住民票)が必要となります。
住信SBIネット銀行の対応
住信SBIネット銀行の対応は業界の中でも特に厳格です。同行は2025年11月21日以降、各種健康保険証および住民基本台帳カードの受付を終了すると公式に発表しています。
同行のeKYC(スマホで本人確認)の説明ページでは、各種健康保険証、住民基本台帳カード、資格確認書は「ご利用いただけません」と明確に記載されています。つまり、同行の主力であるオンライン口座開設において、資格確認書は最初から選択肢として存在しません。郵送手続きにおいてはかろうじて利用の余地が残されている可能性はありますが、資格確認書を用いた口座開設は極めて困難な状況です。
PayPay銀行の対応
PayPay銀行は、スマホ決済アプリPayPayとの連携を前提としており、口座開設のスピードと簡便さを最大の売りとしています。そのため、手続きは原則としてeKYC一本に絞られています。
同行のヘルプページでは「健康保険証やパスポートではPayPayの本人確認をすることはできません」と明記されています。これはeKYCのシステムが顔写真の照合を必須としているためであり、当然ながら顔写真のない資格確認書も同様に利用不可となります。郵送での対応も極めて限定的であり、事実上、資格確認書しか持っていない方はPayPay銀行の口座を開設することは困難です。
メガバンクにおける資格確認書の対応状況
三菱UFJ銀行の対応
三菱UFJ銀行では、本人確認書類を厳格にグループ分けしています。運転免許証やマイナンバーカードは「A群(顔写真あり)」、健康保険証や資格確認書は「B群(顔写真なし)」、住民票などは「C群(補完書類)」と分類されます。
窓口で口座を開設する場合、A群であれば1点で済みますが、資格確認書のようなB群を使用する場合は、「B群から2種類」または「B群1種類+C群1種類」の提示が求められます。つまり、資格確認書を持っていくなら、セットで住民票の写し(原本)や公共料金の領収書(原本)が必須となります。
さらに、同行の「スマート口座開設(アプリ)」においては、運転免許証またはマイナンバーカードが必須とされており、資格確認書での申し込みはできません。資格確認書を利用する方は、平日の日中に店舗へ行くか、郵送での手続きを行う必要があります。
三井住友銀行の対応
三井住友銀行も同様のアプローチをとっています。ウェブサイト上の案内では、本人確認書類を「1点で受付可能な書類」と「2点で受付可能な書類」に明確に二分しています。
資格確認書(および健康保険証)は後者に属します。したがって、資格確認書を用いて口座を開設する場合、必ず別の本人確認書類(住民票の写し、印鑑登録証明書など)を組み合わせる必要があります。
みずほ銀行の対応
みずほ銀行の対応で注目すべきは、ウェブサイト上で提示されている「期限」に関する記述です。資格確認書(カード型)について本人確認書類として利用可能としつつも、注釈で「被保険者証(健康保険証等)は2025年12月1日まで本人確認書類としてお取り扱いいたします」と明記しています。
2025年12月1日は、改正法による健康保険証の経過措置(猶予期間)が終了する日です。みずほ銀行はこの日をもって従来の健康保険証の取り扱いを終了することを明言していますが、その後に資格確認書がどのような扱いになるかについては明確ではありません。現時点では「使える」としても、2025年末以降には「使えなくなる」可能性がある点に注意が必要です。
ゆうちょ銀行における資格確認書の対応
全国に郵便局を展開するゆうちょ銀行は、高齢者や地方在住者にとって最も身近な金融機関であり、ネット銀行のような厳格な対応は行いにくい立場にあります。
しかし、ゆうちょ銀行であっても犯収法の規定を無視することはできません。顔写真のない本人確認書類(資格確認書を含む)で手続きを行う場合には、他の本人確認書類を提示するなどの追加の対応が必要です。
具体的には、窓口において資格確認書を提示する場合、それに加えて住民票の写しや公共料金の領収書等の提示が求められます。ゆうちょ銀行だからといって資格確認書1枚で簡単に口座が作れるわけではありません。ただし、対面でのサポートが充実しているため、必要書類さえ揃えれば確実に口座を開設できるという点では、最も親和性の高い銀行と言えます。
資格確認書で口座開設する際の補完書類の準備
住民票の写しを用意する場合
最も確実な補完書類は「住民票の写し(原本)」です。ただし、これを用意するにはいくつかの条件があります。
まず取得方法として、平日の日中に市区町村の役所に行くか、マイナンバーカードを使ってコンビニで取得する必要があります。そもそもマイナンバーカードがないから資格確認書を使っている方にとって、コンビニ交付は利用できないため、役所へ出向く必要があります。費用は1通あたり300円程度の手数料がかかります。
また、有効期限として発行から6ヶ月以内(銀行によっては3ヶ月以内)のものに限られます。以前に取った古い住民票は使えません。
さらに重要な注意点として、銀行に提出する住民票にはマイナンバー(個人番号)の記載があってはいけません。誤って記載ありのものを取得してしまうと、銀行側で受領できず(マイナンバー法による制限)、取り直しになるケースがあります。
公共料金領収書を用意する場合
公共料金の領収書(電気、ガス、水道、固定電話、NHK)を補完書類として使用する場合は、さらに厳しい条件があります。
まず、領収書の名義は口座開設を申し込む本人と同一でなければなりません。光熱費の契約が親名義である場合、学生本人はこの書類を用意できません。同様に、世帯主(配偶者)名義で契約している場合、主婦(主夫)の方は自身の名義の領収書がないため使えません。
また、近年は公共料金の明細がWEB化(ペーパーレス化)が進んでいます。スマホの画面を見せたり、WEB明細を自宅でプリントアウトしたものは、多くの銀行で「原本」として認められず受理されません。電力会社等に依頼して、有料で紙の「領収証書」や「支払証明書」を発行してもらう必要があります。
なお、携帯電話の領収書は多くの銀行で補完書類として認められていません。固定電話のみ可とするケースが一般的です。
2025年12月以降の変化と今後の見通し
経過措置の終了について
政府は2024年12月2日の健康保険証廃止後も、最大1年間(2025年12月1日まで)は発行済みの健康保険証を有効とする経過措置を設けています。この期間中は、銀行側も従来の慣例として健康保険証(およびそれに準ずる資格確認書)を受け入れる姿勢を見せています。
しかし、2025年12月2日以降は従来の健康保険証は完全に無効となります。このタイミングで、各銀行が一斉に本人確認ルールの改定を行うことが確実視されています。
銀行業界全体の方向性
住信SBIネット銀行が2025年11月での健康保険証受付終了を先行して発表したように、銀行業界全体として「顔写真なし書類」の取り扱いをやめたいというのが実情です。郵送物の開封や目視確認、転送不要郵便の手配など、アナログな本人確認にかかる事務コストは大きく、また、なりすまし詐欺等の温床となりやすいリスク要因でもあります。
2025年12月以降は、ネット銀行ではマイナンバーカードまたは運転免許証以外での口座開設が不可能になる可能性があります。メガバンクでも資格確認書での受付は店舗窓口での対面に限定され、郵送での受付も縮小・廃止される方向に進むと予想されます。補完書類要件についても、住民票の写し(原本)以外は認めないなど、条件がより厳しくなる可能性があります。
資格確認書で銀行口座を開設するための実践的な方法
対面での口座開設を選ぶ場合
時間に余裕があり、確実に口座を開設したい場合は、ゆうちょ銀行、地元の地方銀行、信用金庫、またはメガバンクの窓口での対面手続きがおすすめです。アプリやネットでの申し込みは諦め、まず市役所に行き「住民票の写し(マイナンバー記載なし)」を1通取得します(約300円)。その足で、資格確認書と住民票、銀行印を持って銀行の窓口に行けば、確実に開設できます。
ネット銀行を開設したい場合
どうしてもネット銀行で口座を開設したい場合は、楽天銀行の郵送での申し込みフローを利用する方法があります。住信SBIネット銀行やPayPay銀行は資格確認書での開設は困難なため、楽天銀行を選択するのが現実的です。
ウェブサイトから口座開設を申し込む際に「郵送で本人確認」を選択し、申込書が送られてくるのを待ちます。資格確認書のコピーと住民票の写し(原本)を同封して返送すれば、口座開設手続きが進みます。ただし、キャッシュカードを受け取る際に本人限定受取郵便となる場合があり、その際は顔写真付き身分証が必要になることがあるため、事前にサポートへ確認することをおすすめします。
外国籍の方の場合
外国籍の方の場合、在留カードまたは特別永住者証明書が必須となります。資格確認書は住所確認のための補助書類程度にしか機能しません。在留カードを持っていない(紛失中など)状態で、資格確認書だけで口座を作ることは不可能ですので、必ず在留カードを用意してください。
資格確認書と資格情報のお知らせの違いに注意
資格確認書と「資格情報のお知らせ」は別の書類です。資格情報のお知らせは単なる通知であり、身分証明書ではありません。住所が記載されていないため、銀行窓口で本人確認書類として使用することはできません。必ず「資格確認書」であることを確認してから銀行に行くようにしてください。また、これから資格確認書の発行を待つ方は、発行までに時間がかかる場合があるため、口座開設のスケジュールに余裕を持つことが大切です。
まとめ
資格確認書は銀行口座開設の本人確認書類として法的には有効ですが、実務上は極めて使い勝手が悪く、単独では機能しません。必ず住民票の写しなどの補完書類が必要であり、スマホでのオンライン口座開設(eKYC)では利用できないケースがほとんどです。
ネット銀行との相性は特に悪く、住信SBIネット銀行やPayPay銀行では事実上利用不可、楽天銀行でも郵送手続きが必要となります。メガバンクやゆうちょ銀行の窓口であれば、資格確認書と住民票の写しを持参すれば口座開設は可能ですが、平日日中に来店する必要があります。
さらに、2025年12月の経過措置終了に向けて、資格確認書での口座開設はより困難になっていく可能性があります。口座開設が必要な方は、現在のルールが適用されているうちに手続きを進めることをおすすめします。最も確実な解決策は、やはりマイナンバーカードを取得することです。全ての銀行で1点確認が可能で、スマホでの即時開設も利用でき、住民票が必要な場合もコンビニで即日取得できるなど、利便性において資格確認書とは比較にならない差があります。

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