冷えピタは、ライオン株式会社による事業ポートフォリオの見直しを理由に製造終了となりました。主力製品である「冷えピタ 8時間冷却 大人用」と「ベビー用」は2024年7月に製造を終了し、「子供用」と「ボディ用」は2025年1月に製造終了しています。ライオンは類似製品の販売予定はないと公式に発表しており、30年の歴史に幕を下ろしました。
1995年の発売以来、発熱時のケア用品として日本の家庭に深く浸透してきた冷えピタですが、2025年12月、SNS上で「店頭から消えている」という投稿が相次ぎ、製造終了の事実が広く知れ渡ることとなりました。多くの消費者にとって、冷却ジェルシートの代名詞ともいえる存在だった冷えピタの終売は大きな衝撃となっています。
この記事では、冷えピタが製造終了となった詳しい理由や公式発表の内容、終了時期の詳細に加え、ライオンの経営戦略の背景、競合製品との関係、そして代替品の選び方まで詳しく解説していきます。

冷えピタ製造終了とは何が起きたのか
冷えピタ製造終了とは、ライオン株式会社が30年間販売してきた冷却ジェルシート「冷えピタ」シリーズの生産を完全に停止したことを指します。この製造終了は、消費者への大々的な告知なく進められた「サイレント・イグジット(静かな撤退)」として特徴づけられます。
製造終了が判明した経緯
2025年12月10日頃、SNS上で「冷えピタが店頭から消えている」という投稿が相次ぎ、トレンド入りしました。これをきっかけにメディアがライオン広報部に取材を行い、製造終了の事実が明らかになりました。
注目すべきは、この騒動が起きた時点で、冷えピタは既に生産ラインから完全に姿を消していたという点です。消費者の認識をはるかに上回る早さで事業が畳まれていたのです。
製品ごとの製造終了時期
冷えピタシリーズの製造終了は、製品ごとに段階的に実施されました。
| 製品名 | 製造終了時期 |
|---|---|
| 冷えピタ 8時間冷却 大人用 | 2024年7月 |
| 冷えピタ 8時間冷却 ベビー用 | 2024年7月 |
| 冷えピタ 8時間冷却 子供用 | 2025年1月 |
| 冷えピタ ボディ用 大人用 | 2025年1月 |
主力製品である大人用とベビー用は、騒動の約1年半前にあたる2024年7月時点で既に製造を終了していました。残るラインナップについても2025年1月をもって製造終了となり、2025年12月時点で市場に流通していたのは、メーカー在庫と流通在庫のみという状態でした。
冷えピタ30年の歴史を振り返る
冷えピタは1995年にライオン株式会社から発売されました。発売以来30年にわたり、日本の家庭における発熱時のケア用品として、また夏場の暑さ対策の必需品として広く浸透してきました。
ブランドとしての認知度
冷えピタという名称は、冷却ジェルシートのカテゴリー自体を指す言葉として使われるほど、圧倒的なブランド認知を獲得していました。これは「商標の普通名称化」と呼ばれる現象で、ブランドが製品カテゴリーの代名詞となった例といえます。SNS上でも「冷えピタ」という言葉が冷却シート全般を指す言葉として使われていたという声が多く寄せられています。
製品ラインナップの変遷
冷えピタシリーズは発売以来、これまでに10種類もの製品が展開されてきました。大人用、子供用、ベビー用といった年齢別のラインナップに加え、ボディ用など用途別の製品も開発されました。「8時間冷却」を謳う長時間持続タイプは、特に発熱時のケアにおいて重宝されてきました。
日本の看病文化における役割
冷えピタのパッケージには、おでこにシートを貼った子供のイラストが描かれていました。このイメージは、日本の家庭における「看病」の象徴として広く認識されており、親が子供の発熱時にケアをするという日本の育児文化と深く結びついていました。単なる冷却用品を超えた、家族の絆や安心感を象徴する存在だったのです。
ライオンが公式発表した製造終了の理由
ライオンは製造終了の理由として、「経営戦略の一環として事業ポートフォリオの見直しを進めており、その方針に基づき同シリーズの販売を終了することにいたしました」と公式に説明しています。
事業ポートフォリオ見直しの意味
「ポートフォリオの見直し」とは、企業経営において不採算事業や低成長事業を切り離し、成長領域に資源を集中させる「選択と集中」を意味します。ライオンは原材料価格の高騰や物流費の上昇による収益圧迫に苦しんでおり、構造改革による収益性向上を最重要課題に掲げていました。
冷却シートは、その重量の大半が水分を含んだジェルであり、体積もかさばるため、物流コストの負担が大きい商品特性を持っています。さらに、競合との価格競争により利益率が低下しやすいカテゴリーでもあります。
類似製品の販売予定について
ライオン広報部は取材に対し、「現時点で、類似製品の販売・発売予定はございません」と明確に回答しています。これにより、ブランドのリニューアルではなく完全な撤退であることが確定しました。
同社はホームページ上の「製造終了品一覧」には情報を掲載していたものの、ニュースリリースとして能動的に発信することは控えていたとみられます。日用品の場合、駆け込み需要によるパニック買いや転売による価格高騰を防ぐため、大々的な発表を避けることが少なくありません。
ライオンの経営戦略と冷えピタ撤退の背景
冷えピタという名称は、冷却ジェルシートそのものを指す一般名詞のように使われるほど、極めて高いブランド認知を持っていました。それほどの資産を持ちながら撤退を決断した背景には、ライオンが推進する経営戦略と収益構造改革があります。
Vision2030と成長領域へのシフト
ライオンは長期ビジョン「Vision2030」において、「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニー」を目指しています。その戦略の中核にあるのは、同社が圧倒的な強みを持つオーラルケア(ハブラシ、ハミガキ)や、高付加価値が見込める特定の医薬品(解熱鎮痛薬のバファリン、点眼薬のスマイルなど)です。
冷却ジェルシートは、医薬品ではなく「雑品」あるいは「冷却用具」に分類されるケースが多く、医薬品ほどの高い利益率や参入障壁を維持しにくい特性があります。ライオンとしては、成熟しきった冷却シート市場で消耗戦を続けるよりも、より科学的なエビデンスに基づいた高機能製品群へ経営資源をシフトさせる方が、長期的成長に資すると判断したと考えられます。
コモディティ化した市場環境
冷却ジェルシート市場は、製品機能での差別化が極めて難しい「コモディティ化」が進んだ市場です。どのメーカーの製品も「8時間冷却」「弱酸性」「剥がれにくい」といった基本スペックは横並びであり、消費者にとっては「どれを買っても同じ」と感じられやすくなっています。その結果、購入の決定要因は「価格」と「ブランド想起」に集約されていました。
熱さまシートとの市場競争が撤退に与えた影響
冷えピタの撤退を語る上で避けて通れないのが、最大のライバルである小林製薬「熱さまシート」の存在です。両者は長年にわたり冷却シート市場の覇権を争ってきましたが、結果として市場は「勝者総取り」の様相を呈していました。
熱さまシートの圧倒的シェア
市場調査データやPOSデータによると、冷却シート市場における売上ランキングの上位は、小林製薬の熱さまシートシリーズが独占している状況が続いていました。特に「熱さまシート 大人用」は不動の1位であり、ライオンの冷えピタは知名度の高さとは裏腹に、実売シェアでは大きく水をあけられていたと推測されます。
小林製薬の強みは、その圧倒的な商品開発力とマーケティングにあります。熱さまシートには「冷感ツブ」と呼ばれる青いカプセルが配合されており、視覚的にも機能的にも「冷たそう」「効きそう」というイメージを消費者に植え付けることに成功しています。また、冷凍庫で冷やして使う「ストロング」タイプや体専用の製品など、ニッチなニーズを深掘りするラインナップ展開により、棚の占有率を高めてきました。
小売店における棚割りの厳しさ
ドラッグストアやスーパーマーケットの棚は有限です。小売店側は売上効率を最大化するため、回転率の良いトップブランドと、利益率の高いプライベートブランドを優先的に配置する傾向があります。
市場シェア2位以下のナショナルブランドである冷えピタは、トップブランドの熱さまシートと、安価なPB商品の間に挟まれ、中途半端な立ち位置に陥っていた可能性があります。棚の確保が難しくなれば売上は落ち、売上が落ちれば更に棚が縮小されるという負のスパイラルが発生します。ライオンが「類似製品の販売予定はない」と言い切った背景には、再参入してもこの強固な市場構造を覆すことは困難であるという冷静な分析があったのでしょう。
冷えピタの技術と30年間果たしてきた役割
30年にわたり愛された冷えピタには、日本の化学メーカーならではの高度な技術が詰め込まれていました。ここでは、その技術的メカニズムと、製品が提供してきた価値を確認します。
気化熱と高含水ゲルによる冷却の仕組み
冷却ジェルシートが肌を冷やすメカニズムの核心は、水分が蒸発する際に熱を奪う「気化熱」の原理にあります。冷えピタのジェル部分(含水ゲル)は、ポリアクリル酸ナトリウムなどの高吸水性ポリマーによって構成されており、重量の約80%以上という大量の水分を保持しています。この構造は紙おむつに使われる技術と共通しており、水分を逃さず保持する能力に優れています。
肌に貼ると、体温によってジェル内の水分が温められ、徐々に蒸発していきます。この蒸発プロセスにおいて、水1グラムあたり約580カロリーの熱エネルギーが皮膚から奪われるため、貼付部位の温度が下がるのです。濡れタオルであればすぐに乾いて温まってしまいますが、高分子ポリマーの保水力により、水分供給が長時間(6時間から8時間)続く点が、冷却シートの最大の技術的利点です。
メントールによる感覚的な清涼効果
物理的な温度低下に加え、冷えピタにはl-メントールをはじめとする香料成分が配合されていました。メントールは皮膚の冷感受容体(TRPM8)を直接刺激し、脳に対して「冷たい」という信号を送る作用を持ちます。これにより、実際の皮膚温度の低下以上に、ユーザーは「ひんやりとした清涼感」を感じることができます。
ライオンの技術として注目すべきは、このメントールを安定的に配合し、かつ揮発しすぎないように制御する技術や、肌への刺激を抑えつつ粘着力を維持する配合バランスに長年のノウハウが蓄積されていたことです。特に冷えピタは、粘着力が強すぎず弱すぎない「絶妙なバランス」が多くの固定ファンに支持されていました。他社製品に変えた際に「剥がれやすい」あるいは「剥がすときに痛い」と感じるのは、この基剤(ジェルのベース)の処方の違いによるものです。
冷却シートの医学的な効果について
ここで重要かつ冷静な事実を確認しておく必要があります。冷却シート自体には、病気の熱を下げる(解熱)医学的効果はありません。小児科医や専門家は、額を冷やすことはあくまで「不快感の緩和」「安楽性の提供」が目的であり、脳の温度を下げたりウイルスを退治したりする効果はないと指摘しています。太い血管が通る脇の下や首筋を冷やすことで全身の体温を下げる補助にはなりますが、額に貼る小さなシートだけで解熱を期待することはできません。
しかし、発熱時の「頭がボーッとする」「暑くて眠れない」という不快な症状を和らげ、患者(特に子供)を安心させて睡眠を促すという点において、冷却シートは「ケア用品」として極めて高い価値を提供してきました。冷えピタのパッケージに描かれた、おでこにシートを貼った子供のイラストは、日本の家庭における「看病」のアイコンとして機能し、親子のスキンシップや安心感の象徴でもあったのです。
冷えピタの代替品として選べる製品
冷えピタが入手不可能となった今、消費者は新たな選択肢を探さなければなりません。冷却シート市場には多くの代替品が存在しますので、ユーザーのニーズに応じた最適な製品を紹介します。
小林製薬「熱さまシート」が最もスムーズな移行先
最もスムーズな移行先は、市場シェアNo.1の「熱さまシート」です。「冷感ツブ」と呼ばれる青いカプセルによる持続的な冷却感が特徴で、ラインナップが最も充実しています。
熱さまシートのバリエーションとして、大人用はサイズが大きくメントール量が多いため強い冷感を求める人に向いています。子供用はサイズがやや小さくメントールが少なめです。赤ちゃん用は無香料・無着色でメントールを含まないか極微量となっており、肌への優しさを最優先しています。ボディ用は脇や首に貼りやすい形状になっています。
冷えピタと同様の使い勝手を求めるなら、まずは熱さまシートを選ぶのが無難です。ただし、「冷感ツブ」の感触やメントールの強さが冷えピタとは異なるため、最初は少量パックで試すことをお勧めします。コンビニエンスストア等でも入手しやすい点も大きなメリットです。
白元アース「アイスノン 冷却シート」はコストパフォーマンス重視の方に
コストパフォーマンスを重視するユーザーには、白元アースの製品が適しています。多くの製品で「10時間冷却」を謳っており、冷えピタの8時間よりも長い持続時間を公称しています。30枚入りなどの大容量パックが比較的安価で販売されていることが多いです。弱酸性で肌に優しい設計となっています。
家族が多く頻繁に使用する家庭や、夜貼って朝まで交換せずに済ませたい場合に最適です。
久光製薬「デコデコクールS」は肌が弱い方におすすめ
サロンパスなどで知られる久光製薬も冷却シートを展開しています。冷却時間は約10時間で、貼り薬(パップ剤)の技術を応用した、肌への密着性と優しさが特徴です。改変型セルロースを配合しており、かぶれにくさと粘着力のバランスに優れています。肌が弱く、かぶれにくい製品を探しているユーザーに適している可能性があります。
主要代替製品の比較
| 製品名 | メーカー | 冷却時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 熱さまシート | 小林製薬 | 約8時間 | 冷感ツブ配合、ラインナップ充実 |
| アイスノン 冷却シート | 白元アース | 約10時間 | 弱酸性、大容量パックあり |
| デコデコクールS | 久光製薬 | 約10時間 | 肌に優しい、かぶれにくい |
冷却シートを使う際の重要な注意点
代替品を探す中で、間違った使い方についても警鐘を鳴らしておく必要があります。
大人用を切って子供に使わない
「大人用を買って、ハサミで半分に切れば子供に使える」という節約術がSNS等で紹介されることがありますが、メーカー各社はこれを推奨していません。理由は二つあります。一つは、切り口からジェルがはみ出し、シーツや髪の毛に付着して取れなくなることです。もう一つは、大人用はメントールの配合量が多いため、子供(特に乳幼児)の肌には刺激が強すぎることです。
また、過去には剥がれたシートが乳児の口や鼻を塞ぎ、窒息事故につながった事例も報告されています。サイズや粘着力が適切に設計された専用品(赤ちゃん用など)を使うことが安全上極めて重要です。
スマートフォンの冷却には使用しない
「スマホが熱くなった時に冷えピタを貼ると良い」という裏技がネット上で語られることがありますが、これも推奨されません。冷却シートは水分の気化熱を利用するため、湿気が発生します。精密機器であるスマートフォンに湿気は大敵であり、内部結露による故障の原因になりかねません。また、スマホの発熱源(CPUやバッテリー)は内部にあり、プラスチックやガラスの筐体越しにジェルシートを貼っても、放熱効果は限定的です。スマホの冷却には、専用のファンや放熱シートを使用すべきです。
冷えピタ製造終了が示す消費財市場の変化
今回の冷えピタ製造終了は、日本の消費財市場が新たなフェーズに入ったことを象徴する出来事といえます。
冷えピタの終焉は、「定番」と呼ばれる商品であっても、企業の持続的成長のためには聖域なく見直される対象であることを浮き彫りにしました。人口減少と市場縮小が続く日本において、ロングセラーブランドの統廃合は今後も加速していくことが予想されます。
消費者にとって、30年にわたり親しんだブランドの消失は喪失感を伴うものです。しかし、冷静に市場を見渡せば、小林製薬の熱さまシートや白元アースのアイスノンなど、機能的に優れた代替品は数多く存在します。消費者に求められるのは、ブランド名への固執ではなく、自身のニーズ(冷却力、肌への優しさ、コスト)に合った製品を再選択する柔軟性です。
冷えピタが担ってきた「発熱時の安心感を届ける」という役割は、他の製品によって引き継がれていきます。30年間、日本の家庭を支えてきた冷えピタに感謝しつつ、新たなパートナーとなる冷却シートを見つけていただければと思います。

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