2026年度の診療報酬改定では、初診料は現行の291点から295点〜296点前後へ、再診料は75点から77点〜78点前後への引き上げが見込まれ、ベースアップ評価料などを含めた初診時の総点数は310点〜320点台に上昇する公算が高くなっています。これは患者の3割負担で換算すると、窓口支払額が現在より30円〜60円程度高くなる計算となります。2025年12月24日の大臣折衝において、診療報酬本体の改定率が2026年度と2027年度の2カ年平均でプラス3.09%となることが正式に合意されました。1996年度以来、実に30年ぶりに3%の大台を超える改定率であり、賃上げ対応分としてプラス1.70%、物価高騰対応分としてプラス0.76%が確保されています。本記事では、2026年6月施行予定の診療報酬改定における初診料・再診料の具体的な引き上げ額と、入院時の食事代やOTC類似薬の負担増など、患者の家計に直結する変更点について詳しく解説します。

2026年度診療報酬改定の全体像と改定率プラス3.09%の内訳
2026年度の診療報酬改定は、日本の医療制度史において極めて重要な転換点となる見通しです。これは単なる2年に一度の価格調整ではなく、長年続いたデフレ経済下での医療費抑制路線から、賃金と物価が持続的に上昇する成長型経済に対応した医療提供体制への構造改革と位置づけられています。
30年ぶりとなる3%超えの改定率が意味すること
2025年12月24日に行われた厚生労働大臣と財務大臣による大臣折衝において、診療報酬本体の改定率が2カ年平均でプラス3.09%となることが正式に決定しました。この数字は1996年度のプラス3.4%以来となる30年ぶりの高水準であり、医療界にとって悲願ともいえる改定率の実現となりました。2024年度改定ではプラス0.88%にとどまり、急激な物価高騰や他産業での賃上げの波に十分対応できていなかったことを考えると、今回の決定は政府がデフレ完全脱却を掲げる中で、公的価格である診療報酬においても医療従事者の処遇改善を本格的に推進する意志の表れといえます。
改定率プラス3.09%を構成する各要素の詳細
プラス3.09%という数字は緻密に積み上げられた結果であり、それぞれの数字が明確な政策目的を持っています。最も大きな割合を占めるのが賃上げ対応分のプラス1.70%です。これは全産業平均の賃上げに追随するため、医療従事者のベースアップを直接的に支援する財源となります。2024年度改定で導入されたベースアップ評価料の仕組みをさらに拡充し、2026年度・2027年度ともにプラス3.2%、看護補助者等についてはプラス5.7%という賃上げ目標の達成を目指すものです。
次に物価高騰対応分としてプラス0.76%が確保されています。電気代、ガス代、食材費、医療材料費などの高騰分を補填するためのもので、特に高度な医療機器を多用する病院や給食を提供する入院施設にとっては経営維持に不可欠な財源となります。さらに2024年度改定以降の経営環境悪化への緊急対応分としてプラス0.44%が計上されており、これは2024年の改定幅が小さすぎたために生じた医療機関の経営難を事後的に救済する異例の措置です。
一方で財源確保のための適正化措置も盛り込まれています。長期収載品の処方適正化やリフィル処方箋の活用促進、訪問看護の効率化などによりマイナス0.15%の削減が行われ、これらを差し引いた上で各診療科の技術料引き上げに充てられる実質的な本体改定部分としてプラス0.25%が残る構成となっています。
史上初の「階段状改定」という新しい仕組み
今回の改定における最大の特徴は、改定率を単年度で固定せず、2026年度と2027年度で異なる数字を設定する階段状(ステップアップ)方式が採用されたことです。2カ年平均でプラス3.09%という枠組みの中で、2026年度の改定率はプラス2.41%、翌2027年度の改定率はプラス3.77%と設定されています。この複雑な設計の背景には、将来の経済動向に対する不確実性と持続的な賃上げへのコミットメントがあります。物価上昇に関する評価として設定される点数が2027年度には2026年度の2倍に設定される方針が示されており、医療機関にとっては2年連続で段階的に収入が増加するカーブを描くことになります。患者にとっては、2年連続で窓口負担が変動する可能性を意味しています。
初診料の引き上げ額と2026年6月以降の具体的な金額
初診料とは、医療機関を初めて受診した際や、前回の受診から一定期間が経過して新たな傷病で受診した際に算定される基本的な診療報酬です。2026年の改定では、この初診料が物価対応分や賃上げ対応分を反映して引き上げられる見込みとなっています。
2024年改定時点での初診料と今回の引き上げ予測
2024年6月の改定では、初診料はそれまでの288点から3点引き上げられて291点(10割負担で2,910円)となりました。この時の引き上げは主に感染症対策の恒常化とわずかな賃上げ対応を含んだものでした。2026年改定では、この291点というベースラインに対し、物価対応分と緊急対応分、そして賃上げ対応分が上乗せされることになります。
物価対応分の0.76%と緊急対応分の0.44%を合計すると約1.2%相当の引き上げ原資があることになります。291点の1.2%は約3.5点となり、政策的な加算を含めると初診料の本体部分は4点〜5点程度の引き上げが行われ、295点〜296点前後になる可能性があります。
ベースアップ評価料の拡充と初診時の総点数
初診料の本体部分に加えて重要なのがベースアップ評価料の扱いです。2024年改定では、初診時に外来・在宅ベースアップ評価料(I)として一律6点が加算されていました。2026年改定では賃上げ目標が前回のプラス2.5%からプラス3.2%へと引き上げられているため、この評価料の点数も相応に増加することが確実視されています。賃上げ目標の上昇分を反映させると、初診時のベースアップ評価料は6点から8点〜10点程度に引き上げられる可能性があります。
これらを合算した2026年6月以降の初診時算定イメージは以下のようになります。旧初診料の291点に本体引き上げ分の4点〜5点が加わり、新ベースアップ評価料として8点〜10点が上乗せされ、さらに医療DX推進体制整備加算として8点以上が加わる見込みです。結果として初診時に算定される総点数は、現在の300点台前半から310点〜320点台へと上昇する公算が高くなっています。
患者の窓口負担はいくら増えるのか
金額に換算すると、10割負担で3,100円〜3,200円となります。3割負担の患者にとっては、窓口支払額が現在よりも30円〜60円程度高くなる計算です。一見すると「たかが数十円」と感じるかもしれませんが、これはあくまで初診料単体の話であり、後述するOTC類似薬の負担増や再診料の積み上げを含めると、家計への影響は決して小さくありません。
再診料の引き上げと受診回数による累積的な負担増
再診料とは、同一の傷病について継続的に受診する際に算定される診療報酬です。慢性疾患で定期的に通院している患者にとっては、再診料の引き上げが家計に与える影響は初診料以上に大きくなる可能性があります。
2024年改定時点での再診料と今回の引き上げ予測
2024年6月の改定では、再診料はそれまでの73点から2点引き上げられて75点(10割負担で750円)となりました。2026年改定では初診料と同様の計算根拠で、本体部分に約1点〜2点の引き上げが見込まれ、77点〜78点前後になる可能性があります。
再診時のベースアップ評価料についても拡充が予定されており、現行の2点から3点〜4点程度への引き上げが想定されます。3割負担の患者にとっては、1回の再診あたり10円〜20円程度の負担増となりますが、月に複数回通院する患者にとっては累積的な負担増となります。例えば月4回通院している患者であれば、月間で40円〜80円、年間で480円〜960円程度の負担増となる計算です。
病院と診療所で異なる引き上げ幅
読者が注意すべき点として、受診する医療機関の規模によって初診料・再診料の上がり幅が異なる可能性があります。今回の大臣折衝では、物価対応分の配分について傾斜配分が決定されました。病院(20床以上)にはプラス0.49%、医科診療所(19床以下)にはプラス0.10%、歯科診療所にはプラス0.02%、保険薬局にはプラス0.01%という配分比率となっています。
この配分を見ると、病院への手当てが診療所の約5倍となっています。病院の方が給食設備や大型医療機器、空調設備などの維持にかかる光熱水費・食材費の負担が重いためです。大学病院や地域の中核病院を受診した場合の初診料・再診料は、近所のクリニックを受診した場合よりも物価対応の上乗せ分が大きく設定される可能性があり、大きな病院ほど値上げ幅が大きくなる傾向があると考えられます。
医療従事者の賃上げと初診料引き上げの関係
今回の初診料・再診料引き上げの背景には、医療従事者の処遇改善という重要な政策目的があります。患者が窓口で支払うお金が、直接的に医療従事者の給与アップにつながる仕組みが構築されています。
賃上げ目標プラス3.2%とプラス5.7%の意味
2026年改定において政府が掲げた賃上げ目標は極めて野心的なものです。医師・歯科医師を除く全職種において、2026年度にプラス3.2%、2027年度にもプラス3.2%のベースアップを目指すとしています。さらに他産業への人材流出が深刻な看護補助者と事務職員については、それぞれプラス5.7%という高い目標値が設定されています。
具体的な金額でいえば、年収400万円の事務職員であれば2年間で合計20万円〜40万円程度の年収増を目指す規模感となります。医療現場にとってはかつてない処遇改善のチャンスとなりますが、その原資は税金から直接支給される補助金ではなく、あくまで初診料や再診料に上乗せされた点数によって賄われる構造です。
ベースアップ評価料の複層的な仕組み
賃上げを実現するためのツールがベースアップ評価料です。外来医療においては、現行の外来・在宅ベースアップ評価料(I)と(II)の枠組みが継続・強化されます。評価料(I)はすべての患者に対して初診時・再診時に一律に算定される点数で、この収入は全職員のベースアップ原資としてプールされます。評価料(II)は評価料(I)だけでは目標とする賃上げ率に届かない医療機関が不足分を補うために算定できる上乗せ点数で、1点から64点以上まで必要額に応じて段階的に設定されています。
入院医療における重要な変更点として、2024年に導入された入院のベースアップ評価料は2026年度から入院基本料の本体に一本化(包括化)されます。その上で新たな賃上げ目標を達成するための新ベースアップ評価料が改めて設定されます。入院基本料は見た目の点数が大幅に上昇することになりますが、その上昇分の多くは賃上げに使途が限定されている紐付きの財源となっています。
賃上げ実施状況の見える化と報告義務
患者や国民の納得を得るために、今回の改定では賃上げの実施状況の見える化が徹底されます。ベースアップ評価料を算定する医療機関は、定期的に職員の給与データや賃上げ実績を厚生労働省に報告することが義務付けられます。医療法人の経営情報データベースにおいて職種別の給与情報の報告が義務化される検討も進んでいます。初診料の値上げ分は病院の利益になるのではなく、そこで働く看護師や事務員の給料として還元される仕組みが整備されているのです。
入院時の食事代と光熱水費の値上げによる負担増
入院患者やその家族にとって、初診料以上にインパクトが大きいのが入院時の食事代と光熱水費の引き上げです。病院食の材料費は近年の食品価格高騰の影響を直接受けており、給食事業者の撤退や病院の持ち出しが限界に達しています。
入院時食事療養費は1食あたり40円の引き上げ
2026年改定では入院時食事療養費の標準負担額が1食あたり40円引き上げられることが決定しました。現在の一般所得者の負担額は2024年6月改定後で1食490円ですが、2026年6月以降は1食530円となる見込みです。1日3食で120円の負担増となり、1ヶ月(30日)入院した場合は3,600円の負担増となります。長期入院患者にとっては年間で4万円以上の負担増となり、年金生活者にとっては決して無視できない金額です。ただし低所得者(住民税非課税世帯)については、負担額を据え置くか引き上げ幅を圧縮するなどの配慮措置が検討されています。
入院時生活療養費(光熱水費)は1日あたり60円の引き上げ
食事代に加えて、入院環境にかかる光熱水費の患者負担も引き上げられます。1日あたり60円の増額となり、食事代の増額分(1日120円)と合わせると、入院患者は1日あたり180円、1ヶ月で5,400円の追加負担を強いられることになります。これは医療技術の対価ではなく、純粋にインフレコストを患者が分担するという新しい現実を示しています。
OTC類似薬の選定療養化による窓口負担の大幅増
2026年改定において最も物議を醸しているのがOTC類似薬の選定療養化です。医師の処方箋がなくても薬局で購入できる市販薬(OTC医薬品)と同じ成分の薬を医療機関で処方してもらう際、その費用の一部を保険適用外とし患者から全額徴収する制度です。
対象となる約1,100品目と負担の仕組み
対象となるのは湿布薬、保湿剤(ヒルドイド等)、解熱鎮痛剤(ロキソニン等)、抗アレルギー薬(アレグラ等)など、日常的によく使われる約1,100品目です。新しいルールでは、対象となる薬の薬剤費の25%(4分の1)を選定療養費として患者が全額自己負担します。そして残りの75%部分について従来通りの保険負担(1割〜3割)を支払う仕組みとなります。
3割負担の場合の具体的な負担増シミュレーション
1ヶ月分の保湿剤や湿布薬の薬剤費が2,000円だったケースを想定します。従来の3割負担の場合、支払い額は2,000円×0.3=600円でした。2026年6月以降は、まず選定療養費として2,000円×0.25=500円を全額自己負担します。次に保険診療分の残り75%である1,500円に対して3割負担を適用し、1,500円×0.3=450円を支払います。合計支払額は500円+450円=950円となり、600円から950円へと支払いが約1.6倍に急増します。
1割負担の高齢者は負担が3倍以上に
より深刻な影響を受けるのが1割負担の高齢者です。従来の1割負担の場合、支払い額は2,000円×0.1=200円でした。2026年6月以降は、選定療養費として500円を全額自己負担し、保険診療分の自己負担として1,500円×0.1=150円を支払います。合計支払い額は500円+150円=650円となり、200円から650円へと支払いが3倍以上に跳ね上がります。選定療養費には年齢による負担割合の軽減が適用されず、誰であっても100%支払わなければならないためです。
この変更は病院でもらった方が安いからという理由での受診を抑制し、ドラッグストアでの購入(セルフメディケーション)へ誘導する狙いがあります。しかしアトピー性皮膚炎や慢性疼痛で長期的に薬を必要とする患者にとっては、事実上の大幅な医療費値上げとなります。
医療DX推進と初診料への影響
2026年改定ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)の進展度合いが初診料の算定に大きく影響します。マイナ保険証の活用状況や電子処方箋の導入状況によって、窓口負担が変わってくる時代が到来しています。
医療DX推進体制整備加算の要件厳格化
現行の医療DX推進体制整備加算(初診時8点)は、マイナ保険証によるオンライン資格確認体制や電子処方箋の導入などを要件としていますが、2026年からはそのハードルが一段と上がります。マイナ保険証の利用率が一定基準を超えていることや、新たに始まる電子カルテ情報共有サービスへの接続が要件化される可能性があります。これらの基準を満たせない医療機関は初診時に加算を算定できず、実質的な減収となります。
患者側から見れば、DXが進んでいるクリニック(マイナ保険証が使える、電子処方箋が出る医療機関)を受診する場合、初診料に8点〜10点(80円〜100円)程度が上乗せされることになりますが、重複投薬の防止やスムーズな会計といったメリットを享受できる仕組みとなっています。
マイナ保険証利用の有無による負担差
再診料においてもDX対応による加算が見直されます。患者がマイナ保険証を利用して診療情報を提供した場合と従来の健康保険証を持参した場合とで、窓口負担に差をつける仕組みの強化が進んでいます。2026年以降はマイナ保険証を利用しない場合のペナルティ的な加算の設定や、逆に利用した場合のインセンティブ強化が議論される可能性があります。
2027年度のさらなる改定と今後の見通し
2026年の改定は単発のイベントではなく、2027年度への布石としての意味も持っています。大臣折衝の合意文書には重要な留保条項が盛り込まれています。
2027年度予算編成での追加調整の可能性
合意文書には、2027年度予算編成においてその時点での経済・物価動向を踏まえて加減算を含め更なる必要な調整を行うと明記されています。これは2026年から2027年にかけて予想以上のインフレが進行すれば、2027年6月にさらなる初診料の引き上げ(緊急改定)が行われる可能性があることを意味します。逆に物価が落ち着けば引き上げ幅が圧縮される可能性もあり、患者にとっては2年連続で窓口負担が変動することを想定しておく必要があります。
かかりつけ医機能の評価強化と医療機関選びへの影響
特にかかりつけ医機能の評価については、2026年改定で報告制度との連動が強化される見込みです。かかりつけ医機能を持つクリニックの初診料や管理料が手厚くなる一方で、そうでないクリニックとの点数差が開く可能性があります。どこのクリニックをかかりつけ医として選ぶかによって、受けられるサービスや支払う費用が変わってくる時代が到来しつつあります。
2026年改定に向けて患者が準備すべきこと
2026年6月の改定施行を前に、患者として準備できることがいくつかあります。まずマイナ保険証の取得と利用を検討することで、医療DX関連の加算によるメリットを受けられる可能性があります。またOTC類似薬を処方されている場合は、市販薬への切り替えやジェネリック医薬品の活用について医師や薬剤師に相談しておくことも有効です。
慢性疾患で定期的に通院している場合は、かかりつけ医機能を持つ医療機関を選定しておくことで、継続的な医療サービスの質と費用面での最適化が期待できます。入院の予定がある場合は、食事代と光熱水費の値上げを織り込んだ費用計算を行っておくことが重要です。
今回の改定の本質は医療の適正価格化と負担の可視化にあります。初診料・再診料の引き上げは医療従事者の賃金と物価高騰を支えるための不可避なコスト転嫁であり、患者は数十円〜百円単位の窓口負担増を通じて間接的に医療現場を支えることになります。OTC類似薬の選定療養化や入院時食事代の引き上げは公的保険のカバー範囲を縮小し、自己負担の領域を拡大するシグナルです。2026年は日本の医療が持続可能な現実路線へと舵を切る転換点となります。

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