ブレイクスルー水痘とは?2回接種の予防効果と持続期間を解説

健康

ブレイクスルー水痘とは、水痘ワクチンを接種してから42日以上経過した後に発症する水痘のことです。水痘ワクチンの2回接種による予防効果は92%から98%に達し、免疫の持続期間は20年以上にわたって97%から100%の被接種者で維持されることが確認されています。1回接種では予防効果が80%から85%程度にとどまり、接種後2年目以降は効果が低下していくため、確実な予防には2回接種が不可欠となります。

水痘は「水疱瘡(みずぼうそう)」とも呼ばれ、かつては小児期に誰もが経験する通過儀礼のように考えられていました。しかし、日本で開発された「岡株」ワクチンの普及と、2014年10月からの定期接種化によって、水痘は「ワクチンで防ぐ病気」へと位置づけが変わりました。現在では全体的な発生数が激減した一方で、ワクチン接種後に発症するブレイクスルー水痘への関心が高まっています。この記事では、ブレイクスルー水痘の実態から、1回接種と2回接種の予防効果の違い、免疫がどのくらい持続するのか、そして学校での登校基準まで、最新の知見に基づいて詳しく解説します。

ブレイクスルー水痘とは何か

ブレイクスルー水痘は、医学的には水痘ワクチンを接種してから42日以上経過した後に、野生株の水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)に感染して発症した水痘と定義されています。この「42日」という基準には、ウイルス学的および免疫学的な根拠があります。

弱毒生ワクチンである水痘ワクチンは、接種後14日から28日程度の期間に軽度の発疹などの副反応を引き起こすことがあります。また、VZVの自然感染における潜伏期間は通常14日から16日で、最大21日程度とされています。42日という期間は、ワクチン接種直前に自然感染していた場合の発症やワクチンウイルス自体による反応を除外し、ワクチンによって免疫が誘導されるはずの期間を経過した後の感染を「ワクチン効果の突破」として扱うために設けられた基準です。

ワクチン接種率が向上して水痘の全体的な発生数が減少すると、報告される症例の中でワクチン接種済み患者が占める割合は相対的に高まります。これはワクチンが無効であることを意味するのではなく、感染症の制御フェーズが、未接種者の自然感染による流行期から、ワクチン接種者を中心とした低レベルの伝播期へと移行したことを示しています。

ブレイクスルー水痘の症状と特徴

ブレイクスルー水痘の最大の特徴は、症状が劇的に軽くなることです。臨床的には「修飾水痘」と呼ばれることもあり、ワクチン未接種者が自然感染した場合とは病態が大きく異なります。

自然感染における典型的な経過では、全身に250個から500個以上の発疹が出現し、紅斑から丘疹、水疱、そして痂皮(かさぶた)へと急速に進行します。一方、ブレイクスルー水痘では発疹数が極めて少なく、多くの症例で50個以下にとどまります。さらに特筆すべき点として、発疹が典型的な水疱(水ぶくれ)を形成せず、紅斑や丘疹(虫刺されのような赤い盛り上がり)の段階で治癒してしまうケースが頻繁に見られます。

発熱についても大きな違いがあります。自然感染では38度以上の発熱が数日間続くことが一般的ですが、ブレイクスルー水痘では発熱が見られないか、あっても微熱程度で済むことが多く、罹病期間も大幅に短縮されます。

このように症状が軽微かつ非典型的であるため、医師や保護者が水痘であると認識できないことがあります。虫刺されや他の湿疹と誤診されるリスクがあり、これが知らず知らずのうちに感染を拡大させてしまう一因となっています。

ブレイクスルー水痘の感染力について

ブレイクスルー水痘は軽症であるため、「他人にはうつらない」あるいは「感染力が弱い」と誤解されがちですが、注意が必要です。確かに、未接種者の典型的な水痘と比較すれば、ウイルス排出量は少なく、感染力は相対的に低いとされています。

しかし、発疹数が少なくても、また水疱が形成されていなくても、病変部や気道分泌物には感染力のあるウイルスが存在します。家庭内や学校内での濃厚接触があれば、免疫のない人に感染させる能力は十分に保持しており、実際にブレイクスルー水痘の患者を発端とした集団感染(アウトブレイク)の事例も多数報告されています。

1回接種の予防効果とその限界

水痘ワクチンを1回のみ接種した場合の予防効果は、多くの研究において80%から85%程度と見積もられています。これは1回接種では完全な感染防御が達成できないことを意味しており、その背景には「一次性ワクチン不全」と「二次性ワクチン不全」という二つのメカニズムが存在します。

一次性ワクチン不全とは、ワクチンを接種してもそもそも最初の免疫応答が成立しなかったケースを指します。1回接種者の約5%から20%程度で発生すると考えられており、原因としては母体由来の移行抗体の残存による干渉、ワクチンの保管管理上の問題(生ワクチンは熱や光に弱い特性があります)、あるいは個人の免疫応答の特性などが挙げられます。

二次性ワクチン不全とは、免疫の減衰(ウェイニング・イミュニティ)のことです。米国の研究データでは、1回接種の予防効果は接種後1年目には97%と非常に高いものの、2年目には86%に低下し、その後も緩やかに低下する傾向が示されています。また、接種から時間が経過するほどブレイクスルー水痘のリスクが年々上昇するという報告もあり、1回接種だけでは長期的な集団免疫を維持し、流行を完全に阻止するには不十分であることが疫学的に証明されています。

2回接種の予防効果と重症化予防

2回接種を行う最大の目的は、1回目の接種で免疫がつかなかった人に免疫を付与する「キャッチアップ効果」と、一度ついた免疫を再刺激して増強し長期間維持させる「ブースター効果」にあります。

米国における市販後調査や臨床試験のデータでは、2回接種を行うことで、あらゆる形態の水痘に対する予防効果は92%から98%にまで上昇することが確認されています。特に重要なのは、中等症から重症の水痘に対する予防効果がほぼ100%という驚異的な数値を達成している点です。2回接種完了者が重症化して入院することは極めて稀とされています。

日本における定期接種化後の調査でも同様の結果が得られています。国立感染症研究所や日本小児科学会の報告では、1回接種の有効率が76.9%であったのに対し、2回接種では94.7%という高い有効率が確認されました。

上海で行われた大規模なコホート研究では、1回接種と比較して2回接種を行うことで、ブレイクスルー水痘のリスクをさらに75%低減させる「増分効果」があることが示されています。これらの科学的根拠に基づき、日本小児科学会は水痘の発症を確実に予防し社会全体の流行を制御するためには2回接種が不可欠であると結論付けています。

1回接種と2回接種の予防効果比較

項目1回接種2回接種
全体的な予防効果76.9%〜85%92%〜98%
1年後の予防効果97%97%以上を維持
2年後の予防効果86%に低下高い水準を維持
重症化予防効果高いが完全ではないほぼ100%
ブレイクスルーリスク時間とともに上昇75%さらに低減

この表からわかるように、2回接種は1回接種と比較してすべての指標で優れた効果を示しています。特に重症化予防効果がほぼ100%という点は、万が一感染した場合でも深刻な合併症を防げることを意味しており、2回接種の大きな利点といえます。

免疫の持続期間はどのくらいか

「ワクチンで得た免疫は一生続くのか」という疑問は、公衆衛生上の重要なテーマです。自然感染による免疫は一般に終生免疫と考えられていますが、ワクチンによる免疫もそれに近い長期的な持続性が期待されています。

現在までに実施された20年以上にわたる追跡調査の結果、2回接種によって獲得された免疫は、その後も97%から100%の被接種者で持続していることが示されています。ここで重要なのは、血中の抗体(液性免疫)の存在だけでなく、ウイルスを排除するために重要な役割を果たす細胞性免疫(メモリーT細胞など)も長期間維持されるという点です。

細胞性免疫の記憶は、抗体価が低下した後でもウイルスの侵入に際して迅速に再活性化し、発症や重症化を防ぐ最後の砦となります。つまり、血液検査で抗体価が低く出たとしても、細胞性免疫が働いて感染から身を守る仕組みが備わっているのです。

外部ブースター効果の消失という課題

かつて水痘が日常的に流行していた時代には、ワクチン接種者も日常生活の中で野生株ウイルスに接触する機会がありました。これを「外部ブースター効果」と呼び、知らず知らずのうちに免疫が再刺激され強化されていました。

しかし、定期接種化によって患者数が激減した現在、この外部ブースター効果は期待できなくなっています。そのため、ワクチンそのものが持つ免疫原性と持続力がより重要になります。現時点でのデータでは、2回接種完了者において免疫の減衰によるブレイクスルーの急激な増加は認められておらず、少なくとも10年から20年単位での有効性は保たれていると考えられています。ただし、数十年という超長期のスパンでの持続性については、今後も継続的なモニタリングが必要です。

日本における定期接種化の成果

日本では2014年10月の予防接種法改正により、水痘ワクチンが定期接種(A類疾病)に組み込まれました。この際に重要な政策決定がなされました。それは、当初から2回接種を標準スケジュールとして採用したことです。

米国では1995年に1回接種で定期接種を開始しましたが、ブレイクスルー感染の多発を受けて2006年に2回接種へ移行した経緯があります。日本はこの教訓を活かし、最初から世界標準となる2回接種を採用しました。

この政策の効果は劇的でした。小児科定点からの報告数は、制度導入からわずか3年で約77%も減少し、2019年には導入前の約4分の1以下にまで低下しました。かつては年間100万人規模と推定された患者数は大幅に減り、保育園や幼稚園での大規模な集団発生も稀なものとなりました。

発症年齢の変化と注意が必要な世代

全体的な患者数が減少する一方で、発症年齢の分布には変化が見られます。かつては幼児期が中心でしたが、現在はワクチン未接種のまま成長した年長児や、1回接種のみで追加接種を受けていない学童期以降の小児における発症割合が相対的に増加しています。

2025年の疫学データでは、新型コロナウイルス感染症対策の徹底で一時的に流行が極端に抑えられた反動や、免疫を持たない層の蓄積により、局所的な増加傾向や5歳から14歳層での発症割合の増加が報告されました。これは、定期接種の対象外であった世代や接種漏れのある層へのキャッチアップ接種の重要性を浮き彫りにしています。

費用対効果から見た2回接種の合理性

厚生労働省の研究班による分析では、水痘ワクチンの2回接種は高い費用対効果を持つことが示されています。ワクチンのコスト(予防接種費)は増大しますが、それによって水痘の罹患数が減少し、医療費や保護者の看護に伴う労働損失が大幅に削減されるためです。

具体的な試算では、社会全体の視点において、罹患費用の減少額が予防接種費用の増加額を大きく上回っており、費用対効果比は1を超えると算出されています。研究によっては2.44倍という数値も示されており、2回接種を公費で負担することは、子どもの健康を守るだけでなく社会全体の経済的損失を防ぐための合理的な投資であることが証明されています。

学校での登校基準とブレイクスルー水痘への対応

学校保健安全法において、水痘は「第二種学校感染症」に指定されています。出席停止期間の基準は「すべての発疹が痂皮化(かさぶた化)するまで」と明記されています。これは、水疱が破れて浸出液が出ている間は感染力が強く、かさぶたになれば感染力がなくなるという古典的な自然感染水痘の病態に基づいたルールです。

かさぶたにならない発疹への対応

現場の医師や保護者、学校関係者を悩ませているのがブレイクスルー水痘の特異的な臨床像です。ブレイクスルー水痘の発疹は軽微で、水疱にならずに赤い丘疹の段階で治癒していくものが多くあります。つまり、かさぶた自体が形成されないケースが多々あるのです。

法律の文言通りに「すべてがかさぶたになるまで」待とうとすると、かさぶたにならない発疹がいつまでも残っているように見え、実際には感染力がないにもかかわらず登校再開の判断がつかなくなるという矛盾が生じます。

この問題に対し、日本小児科学会や米国のCDC(疾病予防管理センター)などの専門機関は、ブレイクスルー水痘の実態に合わせた柔軟な解釈を推奨しています。発疹が水疱化せず痂皮も形成しない場合は、新たな発疹の出現が止まり、既存の発疹が消失または退色して乾燥した状態になれば感染力は消失したとみなすという運用が主流になりつつあります。

具体的には、「24時間以上新しい発疹が出ておらず、すべての病変が乾燥または退色している」ことが登校・登園許可の目安とされています。保護者は自己判断せず、かかりつけ医にブレイクスルー水痘である可能性とかさぶたにならないタイプの発疹であることを確認してもらい、医師の治癒証明(登園許可証)に基づき登校を再開することが、学校現場での無用な混乱や長期欠席を避けるために重要です。

水痘の合併症と2回接種による重症化予防

水痘を軽視してはならない最大の理由は、合併症のリスクにあります。健康な小児であっても、皮膚の激しい痒みにより患部を掻き壊し、そこから細菌が侵入して二次感染(トビヒ、蜂窩織炎、膿痂疹)を起こすことが頻繁にあります。これにより、抗菌薬の投与が必要になったり、稀に敗血症に至ったりすることもあります。

重篤な合併症のリスク

より深刻な合併症として、水痘肺炎と脳炎があります。

水痘肺炎は、成人が水痘に罹患した場合の最も一般的な重篤な合併症です。喫煙者や妊婦ではリスクがさらに高まります。ワクチン未接種者が罹患した場合、呼吸不全を引き起こし、入院や人工呼吸管理が必要になることもあります。

中枢神経系の合併症として、小脳失調症(歩行時のふらつきなど)は比較的予後良好ですが、脳炎は痙攣や意識障害を伴い、後遺症を残す可能性があります。未接種児における脳炎の発生率は水痘患者5万人に1人程度とされています。

ワクチン接種者における重症化の回避

特筆すべき事実として、ワクチン接種者においては、たとえブレイクスルー水痘を発症したとしても、これらの重篤な合併症の発生率が劇的に低くなります。2回接種完了者における重症化予防効果はほぼ100%であり、肺炎や脳炎で入院するようなケースは極めて稀です。

体系的な研究レビューでは、ブレイクスルー水痘による重篤な全身感染(肺炎や脳炎など)は、2回接種者では報告されず、1回接種者でも極めて稀であることが示されています。これは、ワクチンが感染そのものを完全には防げなかったとしても、ウイルスが体内で爆発的に増殖し、肺や脳といった重要臓器へ到達することを強力に阻止していることを示唆しています。

成人の水痘対策とキャッチアップ接種

小児期にワクチンも打たず自然感染もしなかった成人が水痘にかかると、小児よりもはるかに重症化しやすいことが知られています。成人における死亡率は小児の約20倍とも言われ、発熱の程度が強く発疹数も多く、肺炎などの合併症リスクが格段に高まります。

世代別のリスク評価

50歳以上の世代は、多くの人が幼少期に自然感染しており、既に免疫を持っている可能性が高い世代です。また、この年齢層は帯状疱疹の発症リスクが高まるため、帯状疱疹予防ワクチンの接種対象となります。

20代から40代は、現在最も注意が必要な世代です。ワクチンが任意接種であったため、接種していない、あるいは1回しか接種していない人が多く混在しています。また、小児期の流行が減ったため、自然感染によって免疫を得る機会も失われています。

10代は、2回接種の定期接種世代と、経過措置によるキャッチアップ世代が含まれます。母子手帳での正確な履歴確認が必要です。

抗体検査とワクチン接種の選択

自分の免疫状態が不明な場合、選択肢は二つあります。

一つ目は抗体検査を受けることです。医療機関で血液検査を行い、IgG抗体価を測定します。費用は自費で概ね3,000円から6,000円程度かかりますが、免疫があれば接種は不要となります。

二つ目は、抗体検査を省いてワクチンを直接接種することです。既に免疫がある人が再度接種しても、ブースター効果が働くだけで医学的な害は特にないとされています。抗体検査の結果を待つ時間や再受診の手間、検査費用を考慮すれば、即座に接種を受けることが推奨される場合も多くあります。

成人や定期接種を逃した年長児が接種する場合、最短で4週間(28日)の間隔を空けて2回接種することが推奨されます。ただし、生ワクチンであるため妊娠中の女性は接種できず、接種後2ヶ月間は避妊が必要であることに注意が必要です。妊娠を希望する女性やそのパートナー、免疫不全者と接する機会の多い医療従事者、保育士などは、優先的に2回接種を完了しておくことが重要です。

水痘ワクチン「岡株」の歴史と世界的な貢献

水痘ワクチンの歴史を語る上で、日本の医学界が果たした役割は決定的であり、世界的な感染症対策の礎となっています。1974年、大阪大学微生物病研究所の高橋理明博士らの研究チームは、水痘に罹患した「岡」という姓の3歳男児の水疱液からウイルスを分離することに成功しました。

このウイルスをヒト胎児肺細胞やモルモット胎児細胞などで慎重に継代培養を繰り返すことで、病原性を極限まで弱めつつ、人体に必要な免疫原性を維持した弱毒生水痘ワクチン(岡株)が開発されました。この岡株は、その安全性と有効性が高く評価され、WHOによって水痘ワクチン製造に最も適した株として認定されています。

現在、米国のMerck社、欧州のGlaxoSmithKline社、そして日本の阪大微研を含め、世界中で使用されている水痘ワクチンのほとんどが、この岡株に由来するものです。この事実は、日本のワクチン技術が世界の小児保健に貢献した最大の功績の一つといえます。

まとめ:2回接種で確実な予防を

ブレイクスルー水痘は、水痘ワクチンを接種してから42日以上経過した後に発症する水痘のことであり、症状は軽症で済むことがほとんどです。しかし、1回接種では予防効果が80%程度にとどまり、時間の経過とともに効果が低下していくため、確実な予防には2回接種が不可欠です。

2回接種により予防効果は92%から98%に向上し、重症化予防効果はほぼ100%を達成します。免疫の持続期間も20年以上にわたって高い水準が維持されることが確認されており、1回接種の限界を補う上で2回目の接種は極めて重要な役割を果たしています。

母子手帳を確認し、2回接種が完了していなければ、年齢を問わず追加接種を検討することをお勧めします。「1回打ったから大丈夫」「軽く済むなら打たなくてもいい」という考えは、免疫学的にも公衆衛生的にもリスクがあります。2回接種という「標準装備」を徹底することが、自分自身と周囲の大切な人を守るための最善の選択です。

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