競馬で100万円が当たった場合、確定申告が必要かどうかは「一時所得の計算結果が20万円を超えるかどうか」で判断します。具体的には、払戻金から当たり馬券の購入費と特別控除50万円を引き、さらに2分の1にした金額が20万円を超える場合、給与所得者であっても確定申告の義務が生じます。100万円の的中では多くのケースでこの基準を超えるため、確定申告が必要になる可能性が高いといえます。
この記事では、競馬の払戻金にかかる税金の仕組みから、確定申告が必要となる具体的な判断基準、実際の税額シミュレーション、さらには会社にバレないための対策まで、知っておくべき情報を網羅的にお伝えします。「まさか競馬の当たりに税金がかかるとは思わなかった」という方も少なくありませんが、正しい知識を持つことで余計なトラブルを避けることができます。

競馬の払戻金にかかる税金の基本的な仕組みとは
競馬の払戻金は、所得税法上「一時所得」に分類されます。一時所得とは、営利を目的とする継続的な行為から生じた所得以外の一時的な所得であり、懸賞の賞金や生命保険の一時金などと同じ扱いです。所得税法では個人の収入を10種類(利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得)に区分しており、競馬の払戻金は原則としてこの「一時所得」に該当します。
競馬の当たりが一時所得になる理由
一般的な競馬ファンの馬券購入は、事業活動ではなく娯楽や趣味の範疇で行われる偶発的な行為と解釈されています。偶然の的中によって得られた利益は、労働の対価でもなく資産運用の成果でもない、一時的な富の移転であるとされているのです。この一時所得という分類には、特別控除額50万円の存在と課税対象が所得の2分の1になるという優遇措置がある一方で、経費として認められる範囲が極めて限定的であるという大きな制約があります。この経費の制約こそが、競馬の税金を巡るすべての混乱と不満の根源となっています。
宝くじとの違いと二重課税の議論
宝くじは「当せん金付証票法」という特別法によって非課税と明記されていますが、競馬をはじめとする公営競技の払戻金にはこうした非課税規定がありません。また、競馬の払戻率は約75%(賭式により70〜80%)と定められており、残りの約25%はJRA等の主催者の取り分として差し引かれます。この控除分の一部は国庫納付金として国に納められているため、すでに25%もの手数料を取られた上でさらに所得税が課されるのは二重課税ではないかという声も根強くあります。しかし、税法学上の解釈では、テラ銭はギャンブルに参加するための手数料としての性格を持ち、個人の担税力に着目して課される所得税とは性質も課税根拠も異なるとされています。現状の法体系では、競馬の払戻金は「新たな担税力を伴う経済的利益」として所得税の課税対象であるという解釈が維持されています。
競馬で100万円当たった場合の確定申告が必要かどうかの判断基準
結論として、100万円の払戻金を得た場合、給与所得者であれば確定申告が必要になるケースがほとんどです。 判断の分かれ目は、一時所得の計算後の金額が20万円を超えるかどうかにあります。
給与所得者の「20万円ルール」とは
給与所得者には年末調整の制度があるため、通常は確定申告の必要がありません。しかし、給与所得・退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える場合は、例外として確定申告の義務が生じます。ここでいう「所得」とは収入そのものではなく、経費や特別控除を差し引き、さらに2分の1の計算をした後の金額です。100万円の払戻金で当たり馬券の購入費が少額であれば、この20万円の基準を超える可能性が非常に高くなります。
「90万円の非課税ライン」の仕組み
「利益が90万円までなら税金はかからない」とよくいわれますが、これには明確な根拠があります。一時所得の特別控除50万円と、確定申告不要の20万円ルールを組み合わせた計算です。2分の1にした後の金額が20万円以下であればよいため、2分の1にする前の金額は40万円以下が条件となります。これに特別控除の50万円を足すと90万円です。つまり「払戻金から当たり馬券代を引いた金額が90万円以下」であれば、所得税の確定申告は不要になります。計算式で示すと、(90万円 − 50万円)× 1/2 = 20万円となり、ちょうど申告不要のラインに収まるのです。ただし、これはあくまで所得税の話であり、住民税の申告義務は別途残る点に注意が必要です。
個人事業主・フリーランスの場合の判断基準
個人事業主やフリーランスなど、もともと毎年確定申告を行っている方には、給与所得者のような「20万円ルール」の免除規定はありません。事業所得や不動産所得の申告を行う際に、たとえ競馬の利益が数万円であっても一時所得として申告書に記載し、合算して税額を計算する義務があります。控除後に1円でも利益が出ていれば申告が必要というのが原則です。
無職・扶養親族の方が注意すべきポイント
専業主婦や学生など、扶養に入っている方も注意が必要です。競馬の利益が大きくなると、配偶者控除や扶養控除の対象から外れてしまう可能性があります。一時所得の金額(2分の1後の金額)は合計所得金額に加算されるため、一定額を超えると親や配偶者の税金が増えるだけでなく、自身に住民税や国民健康保険料の支払い義務が発生することがあります。100万円程度の当選であれば直ちに扶養を外れるレベル(所得48万円超など)には達しないケースが多いですが、他にも収入がある場合は合算されるため詳細な確認が必要です。
住民税の申告を忘れやすい落とし穴
「20万円以下なら申告しなくていい」というルールは、あくまで国税である所得税の話です。地方税である住民税には、このような少額不申告の規定はありません。計算の結果、所得税の確定申告が不要となった場合でも、お住まいの市区町村役場に対して別途住民税の申告を行う必要があります。実務上、多くの方がこの住民税の申告を失念しており、「税務署に行かなくていい=何もしなくていい」と勘違いしがちです。なお、所得税の確定申告をした場合は、そのデータが自動的に市区町村に送られるため、別途住民税の申告をする必要はありません。
競馬で100万円当たった場合の税額シミュレーション
具体的に100万円が当たったとき、いくらの税金がかかるのかをシミュレーションしてみましょう。
一時所得の計算方法は3ステップ
一時所得の計算は3つのステップで行います。第1ステップでは、1年間の払戻金の合計額から、その収入を得るために支出した金額(当たり馬券の購入費のみ)を差し引きます。第2ステップでは、算出した金額から最高50万円の特別控除額を差し引きます。第3ステップでは、その金額を2分の1にします。この最終的な金額が、他の所得と合算される課税対象となる一時所得の金額です。
年収500万円の会社員が1,000円の馬券で100万円を的中させた場合
年収500万円の給与所得者が、1,000円で購入した3連単が的中して100万円の払い戻しを受けたケースで計算します。なお、同日に他のレースで合計20万円分の馬券を購入しましたが、すべて外れたものとします。
まず、総収入金額は100万円です。経費として認められるのは、的中したその馬券の購入代金である1,000円のみです。同日に購入した20万円分の外れ馬券は経費になりません。差引金額は「100万円 − 1,000円 = 99万9,000円」です。ここから特別控除50万円を引くと「99万9,000円 − 50万円 = 49万9,000円」となります。さらに2分の1にすると「49万9,000円 × 1/2 = 24万9,500円」です。
この24万9,500円が給与所得等と合算される課税対象額となります。所得税率10%、住民税率10%(一律)で試算すると、所得税が約2万5,000円、住民税が約2万5,000円、合計で約5万円程度の税金が増える計算です。20万円の基準を超えているため、この場合は確定申告が必要になります。
払戻金が80万円だった場合はどうなるか
比較として、払戻金が80万円だった場合も計算してみましょう。(80万円 − 1,000円 − 50万円)× 1/2 = 14万9,500円となります。この場合は20万円以下のため、給与所得者であれば税務署への確定申告は不要です。ただし、住民税の申告義務は残ります。
外れ馬券が経費にならない理由
多くの方が理不尽に感じるのは、20万円の負け分が完全に無視される点です。実際の財布では100万円入ってきて20万1,000円使っているため、実質的なプラスは約80万円です。しかし、税務上は「100万円の収入を得るために直接必要だったのは、その的中した1,000円の馬券だけ」と判断されます。他のレースの馬券を買わなくてもこの的中馬券さえ買っていれば100万円は手に入ったはずだ、という論理です。
さらに極端な例として、年間で合計200万円分の馬券を買い、そのうち100万円の配当が1回だけあった場合、トータル収支はマイナス100万円の大赤字です。しかし、税金の計算上は100万円のプラス部分だけが切り取られ、そこから経費と控除を引いた額に対して課税されます。競馬で大損しているにもかかわらず税金を請求されるという事態が現実に起こり得るのが、一時所得課税の大きな特徴であり、多くの方が納得できないポイントです。
外れ馬券が経費になった判例と現在の判断基準
外れ馬券の経費化を巡っては、過去に大きな裁判が複数ありました。これらの判例は現在の税務実務に影響を与えています。
2015年の最高裁判決が競馬税制の転機となった
2015年(平成27年)の最高裁判決は、競馬と税金の歴史において大きな転機となりました。大阪府の元会社員が、市販の競馬予想ソフトを使い、独自の条件設定で週末ごとに大量の馬券をインターネットで購入していた事例です。数年間で数十億円という巨額の払戻金を得ていましたが、外れ馬券も数十億円分に上り、純利益は億単位でした。
国税庁は「外れ馬券は経費にならない」として払戻金の総額に対して課税し、数億円の追徴課税を行いました。しかし、最高裁は網羅性(多数のレースに網羅的に賭けている点)、継続性(長期間にわたり反復して行われている点)、営利目的(回収率が100%を超えるように計算されたシステム的な購入である点)を重視し、この馬券購入行為を「娯楽の域を超えた営利活動」すなわち雑所得と認定しました。この判決により、外れ馬券の経費計上が認められ、国税庁の処分は取り消されました。
2017年の北海道の事例でも雑所得と認定
2017年(平成29年)には、北海道の男性公務員が約6年間にわたり総額約72億円の馬券を購入し、約78億円の払戻金を得ていた事例でも、最高裁は同様に雑所得と認定しました。このケースでもソフトウェアを利用した機械的な購入が行われていたことが決め手となりました。
お笑い芸人の追徴課税が世論を動かした
これらの判例が「特殊な事例」とされる中、競馬税制の問題を改めて世に問い直したのが、お笑いトリオ「インスタントジョンソン」のじゃい氏のケースです。自身のYouTubeや書籍で高額配当を公表していたじゃい氏は、2022年頃に税務調査を受け、高額の追徴課税を背負うことになりました。じゃい氏は研究に基づいた投資的な買い方であると主張しましたが、税務署は「一般的な競馬愛好家の範囲内」として一時所得と認定し、外れ馬券の経費性を否定しました。この事件はSNS等で大きな議論を呼び、競馬税制の不合理さを訴える署名活動にも発展しました。
2022年の通達改正後の判断基準
世論の高まりを受け、国税庁は2022年に所得税基本通達の改正を行いました。改正後の通達では、雑所得に該当する場合の基準がより具体化され、「ソフトウェアを使用して独自の計算式に基づいて購入していること」や「利益が発生するように組織的に購入していること」などを総合的に考慮するとされました。以前よりは雑所得と認められる余地が明確化されましたが、依然として一般的なファンにとっては高いハードルです。「毎週買っている」「年間トータルで勝っている」というだけでは認められず、「客観的に見てビジネスとして成立しているか」という厳格な証明が求められます。100万円が当たった程度のケースでは、ほぼ例外なく一時所得として扱われると考えるべきです。
競馬の当たりを税務署はどのように把握するのか
「現金で買えばバレない」「少額なら見逃される」といった話を耳にすることもありますが、税務署の情報収集能力は年々高度化しています。
インターネット投票の記録はすべて把握される
現在、馬券売上の大半を占めるインターネット投票は、税務署にとって情報の宝庫です。JRAや地方競馬の主催者は、法令に基づいて会員の投票履歴や払戻記録を長期間保存しています。税務署には「質問検査権」という強力な権限があり、特定の個人に脱税の疑いがある場合、JRAに対して照会をかけることができます。「いつ」「どのレースで」「いくら賭けて」「いくら払い戻されたか」という全データが正確に入手されるため、ネット投票を利用している以上、「記録がないからバレない」という言い訳は通用しません。
銀行口座とKSKシステムによる監視
税務署は国税総合管理システム(KSKシステム)という巨大なデータベースを運用しており、個人の所得や資産状況を一元管理しています。給与所得に対して不自然な資産の増加や、100万円を超えるような高額な現金の入出金があるとシステムがアラートを出す仕組みになっているとされています。また、相続税の調査で家族の口座を調べた際に、偶然競馬による多額の入金が見つかり、そこから本人の所得税調査に波及するケースもあります。
SNSへの投稿やタレコミも調査のきっかけに
現代特有のリスクとして無視できないのがSNSです。的中馬券の画像や高額な買い物の写真をX(旧Twitter)やInstagramに投稿することは、自ら税務署に情報を提供しているようなものです。税務署には情報収集専門のチームが存在し、インターネット上の公開情報を常にモニタリングしています。また、高額当選を周囲に自慢したり急に羽振りが良くなったりすると、知人などからの通報(いわゆるタレコミ)が行われることもあります。税務署への情報提供は年間数千件に及び、そこから実際に調査に入るケースも少なくありません。
税務調査のタイミングと無申告の時効
税務調査は申告期限の直後に来るとは限りません。数年分をまとめて調査するほうが効率的であるため、通常、無申告の時効は5年(悪質な場合は7年)とされています。100万円を当てた翌年に何もなくても、忘れた頃に突然税務署から「お尋ね」の文書が届いたり、電話がかかってきたりすることがあります。過去数年分の無申告をまとめて指摘されると、本税に加えて無申告加算税や延滞税が膨らみ、当初の税額をはるかに上回る負担となります。
競馬の確定申告で会社にバレないための具体的な対策
会社員にとって、税金の支払い以上に心配なのが「会社への発覚」です。副業禁止規定のある会社では懲戒の対象になりかねませんが、適切な手順を踏めば、会社に知られるリスクをほぼなくすことができます。
会社バレの原因は「住民税」にある
税務署が会社に「この人は競馬で儲けました」と連絡することはありません。発覚の原因は住民税にあります。会社は毎月、従業員の給与から住民税を天引き(特別徴収)しており、役所は毎年5月頃に会社に対して「住民税決定通知書」を送ります。この通知書には前年の所得総額や税額が記載されているため、競馬で利益を得て確定申告をするとその分だけ住民税が増額されます。経理担当者がこれを見て「給与は変わらないのに住民税が増えている」と気づくことが、会社バレの典型的なパターンです。
住民税の「普通徴収」を選択するのが鉄則
このリスクを回避するための方法が、確定申告書における「住民税の徴収方法の選択」です。確定申告書の第二表にある住民税に関する欄で、「給与から差引き(特別徴収)」と「自分で納付(普通徴収)」の選択肢があります。ここで必ず「自分で納付(普通徴収)」を選択してください。これにより、競馬の利益にかかる分の住民税は会社には通知されず、自宅に納付書が届くようになります。自分でコンビニや銀行で支払うことになりますが、会社には給与分にかかる通常の住民税額のみが通知されるため怪しまれることはありません。電子申告(e-Tax)でもこの選択項目は必ず存在しますので、見落とさないようにしましょう。
確定申告の具体的な手順
確定申告は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、質問に答えていくだけで作成できます。まず準備するものは、源泉徴収票(会社から受け取るもの)、JRAの払戻金集計メモ、銀行口座番号、マイナンバーカードです。
JRAのデータ集計が一番の手間になります。JRAのサイトからデータをダウンロードし、外れ馬券を除外して「的中したレースの払戻金」と「そのレースの的中馬券購入額」だけを抽出して合計します。作成コーナーの「一時所得」の欄に集計した収入金額と支出金額(経費)を入力すると、システムが自動的に50万円控除や2分の1計算を行ってくれます。住民税の選択で「自分で納付」を選んだ上で、e-Taxで送信するか印刷して郵送します。
競馬で100万円当たったときにまずやるべきこと
100万円の配当を得たら、まずその幸運を噛み締めつつ、冷静に行動することが大切です。最初にやるべきことは、的中した日付、レース名、購入金額、払戻金額を正確に記録しておくことです。ネット投票であればデータが残りますが、窓口購入の場合は馬券の現物を保管しておく必要があります。
次に、使い切ってしまう前に税金分として利益の約10〜20%程度を別の口座に取り分けておくと安心です。前述のシミュレーションでは約5万円の税金でしたが、他の的中が重なったり年収が高かったりすると、税額は変動します。余裕を持って確保しておくことで、申告時期に慌てずに済みます。
そして、確定申告の際には住民税の「普通徴収」を選ぶことを絶対に忘れないでください。この一つの選択が、会社バレを防ぐ決定的なポイントとなります。
将来的には「マイナンバーと紐づけた源泉徴収」のような制度改正が行われる可能性もゼロではありませんが、現時点では具体的な改正の目処は立っていません。当面は現行法に基づき、正しい知識を持って適切に納税を行うことが求められます。正しく申告すれば、誰に怯えることもなく堂々と勝利を喜ぶことができます。競馬で高額配当を手にした際には、この記事の内容を参考に、適切な税務対応を行ってください。

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