嵐のラストツアー札幌ドーム公演では、宿泊施設の不足を解消するため、JR北海道が札幌・旭川間に臨時特急を運行しました。2019年11月に開催された「ARASHI Anniversary Tour 5×20」では、札幌駅発21時31分の臨時特急カムイ93号と、22時55分発の臨時特急ライラック95号が設定され、約137キロメートル離れた旭川市への移動手段として多くのファンに利用されました。この臨時特急の運行は、札幌市内のホテルが満室となる中で「旭川宿泊」という選択肢を現実的なものとし、北海道全域への経済波及効果をもたらす結果となりました。
嵐の札幌ドーム公演が開催されると、延べ15万人以上のファンが北海道を訪れます。このうち道外からの「遠征組」は3割から半数に達するとも言われており、宿泊需要が爆発的に高まることで札幌市内のホテルは瞬時に満室となります。通常であれば1泊8,000円程度の部屋が5万円以上に高騰するケースも報告されており、経済的な負担を軽減するために旭川市への宿泊を選ぶファンが増加しました。この記事では、嵐のラストツアーにおける札幌ドーム公演の規模と影響、JR北海道が運行した臨時特急の詳細なダイヤ、そして旭川市が「第二の宿泊拠点」として機能した背景について詳しく解説します。

嵐のラストツアーとは
嵐のラストツアーとは、2019年に開催されたデビュー20周年記念ツアー「ARASHI Anniversary Tour 5×20」を指します。このツアーは、2020年末に活動を休止することが発表されていた嵐にとって、ファンと直接会える最後の機会として、全国の五大ドームを巡る大規模な公演となりました。
ファンクラブ会員数が数百万人を誇る嵐のコンサートチケットは、その圧倒的な需要と限られた供給のバランスから「プラチナチケット」と呼ばれています。チケットの当選確率は極めて低く、当選した場合は何としても参加したいというファンの強い思いが、北海道という遠方への遠征を決断させる要因となっています。札幌ドームは五大ドームツアーの北の拠点であり、本州からのアクセスは主に航空機となるため、ファンの滞在時間が長く、観光消費額も高いという特徴があります。
札幌ドームの収容能力と動員規模
札幌ドームは最大収容人数約5万3,000人を誇る全天候型多目的スタジアムです。嵐のコンサート開催時には、ステージ設営の関係で若干減少するものの、1公演あたり約5万人を動員します。3日間の公演では延べ15万人以上が来場することになり、この数字は札幌市の人口約190万人の約8%に相当する規模が、わずか3日間に集中して移動することを意味します。
他のドーム公演と比較して、札幌ドームは地元客だけでなく関東、関西、そして海外からの遠征組の比率が極めて高いのが特徴です。観客の3割から半数が道外からの来訪者であるとも推測されており、これが宿泊需要を爆発的に押し上げる要因となっています。さらに、11月や3月という開催時期は北海道の気象条件が厳しく、交通網の寸断リスクも抱えているため、ファンにとっては移動手段と宿泊先の確保が最重要課題となります。
札幌市内ホテルの宿泊難民問題
嵐のコンサート日程が発表された瞬間、札幌市内のホテル予約サイトはアクセス集中によりサーバーダウン寸前の状態となります。数分以内に主要なホテルが「満室」表示となる現象が常態化しており、宿を確保できなかったファンは「ホテル難民」となって札幌市外への脱出を余儀なくされます。
15万人の動員のうち、仮に5万人が宿泊を必要とする道外客であり、さらに彼らが2泊3日の滞在を行うとすれば、延べ10万泊以上の需要が突発的に発生することになります。これに学会、インバウンド観光客、大学入試などが重なった場合、需給バランスは完全に崩壊します。特に問題となったのが大学入試日程との重複であり、受験生にとっては「人生がかかっているのに宿が取れない」という深刻な事態が発生しました。
ホテル業界ではダイナミックプライシング(変動料金制)が採用されており、嵐のコンサート時にはこれが極端な形で現れます。通常7,800円のシングルルームが、コンサート日程発表直後に5万2,000円まで跳ね上がった事例も確認されています。この価格高騰こそが、ファンを旭川やさらに遠くの地域へと押し出す要因となりました。
旭川市が第二の宿泊拠点となった理由
札幌から宿泊地を分散させる場合、通常であれば小樽市や千歳市が候補となります。小樽市は札幌から電車で約30分から40分、千歳市も同程度の所要時間でアクセスできます。しかし、これらの都市は札幌からのアクセスが良い分、競争率も高く早期に満室となる傾向がありました。また、小樽や千歳は観光地としての人気も高く、一般観光客の予約ですでに埋まっていることも多かったのです。
そこで浮上したのが旭川市でした。札幌から特急列車で約1時間25分、距離にして約137キロメートル離れた旭川市は、人口約33万人を擁する北海道第二の都市です。ビジネスホテルやシティホテルの供給量が比較的豊富であり、札幌からの特急「ライラック」「カムイ」が高頻度で運行されていることも、代替地として選ばれる決定的な理由となりました。本州の感覚で言えば、東京でのイベントのために静岡や宇都宮に宿泊するような距離感ですが、北海道の広大なスケール感と特急列車の高速性能においては「通勤圏内」と見なすことが可能なギリギリのラインです。
コンサート終了後の興奮冷めやらぬ中、疲労困憊した身体で1時間半の鉄道移動を行うことは決して楽な選択ではありません。しかし、札幌市内のホテルが1泊5万円に高騰している現状に対し、旭川であれば特急料金(往復約1万円前後)と宿泊費(通常価格に近い1万円前後)で収まるという経済合理性が働きました。ファン同士がSNSで「旭川ならまだ空いている」「特急の指定席を取れば勝ち確」といった情報を共有し、旭川宿泊ルートが「裏技」から「定石」へと昇華されていきました。
JR北海道が運行した臨時特急の詳細
札幌・旭川間を結ぶ特急列車は、日中は30分から1時間間隔で運行されていますが、コンサートが終了する21時台以降は本数が減少します。数千人規模で流出する旭川方面への宿泊客を捌くには定期列車だけでは到底足りません。また、コンサートがアンコールなどで長引いた場合、定期列車の最終に乗り遅れるリスクもありました。この「帰宅難民」の発生を防ぐため、JR北海道は嵐のコンサートに合わせて専用の臨時特急列車を設定するという異例の対応を行いました。
2019年11月14日から16日にかけて開催された「ARASHI Anniversary Tour 5×20」札幌公演において、JR北海道は以下の臨時列車ダイヤを組みました。
| 列車名 | 運行日 | 札幌駅発 | 旭川駅着 | 使用車両 |
|---|---|---|---|---|
| 臨時特急カムイ93号 | 11月15日・16日 | 21時31分 | 23時00分 | 789系1000番台(5両編成) |
| 臨時特急ライラック95号 | 11月15日のみ | 22時55分 | 翌0時32分 | 789系0番台(6両編成・グリーン車あり) |
臨時特急カムイ93号は、コンサートが比較的スムーズに終了し、規制退場も早めに抜けられた層をターゲットとした列車でした。23時に旭川に到着できるため、翌日の行動にも余裕が持てる時間設定です。一方、臨時特急ライラック95号は事実上の「最終救済列車」として位置づけられました。札幌発が23時直前という設定は、ドームからの退場に時間がかかり、地下鉄の混雑に巻き込まれたファンがギリギリ間に合う絶妙なタイミングでした。旭川到着は深夜0時を回りますが、「確実に屋根のある場所に辿り着ける」という安心感はファンにとって計り知れないものがありました。
臨時特急の指定席確保をめぐる攻防
臨時特急に使用される789系電車は、北海道の厳しい冬にも耐えうる高性能車両です。「ライラック」編成には1号車に半室グリーン車が設定されており、長時間のライブで疲れ切ったファンにとってはゆったりとしたグリーン席が極上の休息空間となります。しかし、座席数が少ないため争奪戦は熾烈を極めました。
指定席券の発売は乗車日の1ヶ月前、午前10時から開始されます。全国のファンがこのタイミングに合わせて「えきねっと」や「みどりの窓口」に殺到する様子は、コンサートチケットの一般発売さながらの光景でした。指定席が確保できなかった場合、当日の自由席に並ぶことになりますが、11月の札幌駅ホームは氷点下に迫る寒さであり、体力的な負担は大きなものでした。それでも、旭川のホテルに向かうためにはこの列車に乗るしかなかったのです。
地下鉄東豊線との接続と福住駅の極限輸送
JR札幌駅での臨時特急への接続を成功させるための前提条件となるのが、札幌ドーム最寄り駅である札幌市営地下鉄東豊線「福住駅」からの脱出です。札幌市交通局は、嵐のコンサートに合わせて最大級の増発体制を敷きました。通常時は7分から8分間隔の運行を、開演前および終演後のピーク時には4分から5分間隔まで短縮する対応を取っています。
福住駅は終端駅であり、ホームに到着した列車が折り返し発車する構造を持ちます。駅員たちは「交互発着」を駆使し、ホームに溢れる観客を次々と列車に詰め込んでいきました。福住駅から「さっぽろ駅」までの所要時間は約13分ですが、改札規制による駅への入場待ちや、車内の混雑、さっぽろ駅でのJRへの乗り換え移動(徒歩約5分から10分)を考慮すると、ドームの座席を立ってからJR札幌駅のホームに立つまでには最低でも1時間から1時間半を見込む必要がありました。
22時55分発の臨時特急ライラック95号に乗るためには、遅くとも21時30分にはドームを出て福住駅の列に並ばなければなりません。この綿密なタイムマネジメントこそが、旭川遠征組に課せられた最大かつ最重要のミッションでした。
嵐のコンサートがもたらす経済効果
嵐のラストツアーがもたらす経済効果は、ツアー全体で数千億円、札幌公演単体でも数十億円から百億円を超えると試算されています。この巨大な数字を構成する要素は多岐にわたります。
チケット代金は約9,000円から1万円強であり、15万人を掛け合わせると約15億円に達します。グッズ販売は1人あたり数千円から数万円を購入するため、これも数十億円規模となります。道外客の航空運賃は往復平均4万円として20億円から30億円、道内のJR特急料金や地下鉄運賃も加算されます。宿泊費については、通常1泊8,000円の部屋が5万円になるような状況下で10万泊が消費されるとすれば、宿泊費だけで数十億円が地域に落ちることになります。
さらにファンは「嵐が食べたラーメン」「嵐が訪れた観光地」を巡礼する傾向があり、ジンギスカン、スープカレー、海産物など北海道ならではの食への出費は惜しみません。この「聖地巡礼消費」も地域経済への波及効果を押し上げる重要な要素となっています。
札幌市内のホテル価格高騰は、一見するとファンにとって過酷な負担ですが、この現象が結果として経済効果を北海道全域へと拡散させるポンプの役割を果たしました。札幌にお金が落ちるだけでなく、旭川のホテルが満室になり、旭川駅前の商業施設や飲食店が潤うという「富の再分配」が、意図せざる形で実現されたのです。
JR北海道駅員による心温まる対応
移動と宿の確保に奔走し疲弊するファンたちを癒やしたのが、交通従事者による心温まる対応でした。JR北海道の駅員や車掌による、マニュアルを超えた「神対応」は、ファンの間で度々話題となりSNSを通じて拡散されました。
特に有名なのが、駅の改札口付近に設置されたホワイトボードや電光掲示板を用いたメッセージです。一見すると列車の案内や乗車時の注意点が書かれているだけに見えますが、各行の頭文字を縦に読むと「5人で嵐」「おかえり」「ARASHI」「夢をありがとう」といった隠しメッセージが浮かび上がる仕掛けが施されていることがありました。旭川駅などで深夜に到着したファンを出迎えるこの「縦読み」は、ファンにとって「北海道まで来てよかった」「また来たい」と思わせる強力な感動体験となりました。
臨時特急の車内アナウンスで、車掌が「本日は嵐のコンサートにお越しいただき、ありがとうございます。夢のような時間をお過ごしになられたことと思います」といったオリジナルの放送を入れることもありました。駅構内のコンビニエンスストアでは、レシートに嵐の歌詞を引用したメッセージを印字するなど、街全体が「嵐歓迎モード」になることがありました。こうしたソフト面でのホスピタリティは、ハード面の不足による不満を緩和し、地域のブランドイメージを向上させる効果を持っています。
ファンコミュニティの相互扶助
ファン同士の助け合いもまた、この過酷な遠征を支える重要な要素でした。SNS上では「急遽行けなくなったので宿を譲ります」「旭川からの臨時特急、相席空いています」といった情報交換が活発に行われました。
受験生との宿の競合問題が報じられた際には、ファンコミュニティ内で「受験生優先」を呼びかける動きや、予約の重複を早めに解放しようという啓発活動も見られました。嵐というグループが掲げる「誠実さ」や「仲の良さ」といったイメージを損なわないよう、ファン自身が行動を律しようとする意識が働いていた点は特筆に値します。
2026年活動再開に向けた展望
一部の報道やファンの間では、2026年3月頃に嵐が活動を再開し、再び大規模なドームツアーを行うのではないかという情報が流れています。もしこれが実現すれば、2019年の活動休止前ツアー以上の狂騒となることが予想されます。数年間の空白を経た待望の「再会」の場となるため、チケット需要、移動需要は過去最高レベルに達する可能性があります。
2026年3月という時期は、北海道にとって依然として雪のリスクがある季節です。2024年問題(物流・運送業界の労働時間規制)の影響がバスやタクシー業界にも及んでおり、二次交通の供給力が2019年当時よりも低下している可能性があります。これにより、公共交通機関であるJRと地下鉄への依存度はさらに高まることが予想されます。
来るべきツアーに向けた準備のポイント
将来のツアー参戦を見据えたファンにとって、いくつかの準備が重要となります。ツアー日程が公式発表された時点で予約を入れるスピードが求められますが、その際、札幌市内だけに固執せず、最初から旭川、小樽、岩見沢、苫小牧といった周辺都市を視野に入れた「広域予約戦略」を立てることが有効です。
JR指定席の確保も非常に重要です。「えきねっと」の事前受付機能を活用し、発売日(乗車日1ヶ月前)の午前10時に確実に指定席を確保することが推奨されます。特に帰りの臨時特急は命綱となるため、ここでの確保が成功の鍵を握ります。
11月や3月の北海道の夜は氷点下になります。ドームからの退場待ち、駅への入場待ち、ホームでの列車待ちなど、屋外や寒い場所で長時間待機する可能性が高いため、防寒対策は十分に行う必要があります。また、雪による交通機関の遅れを想定し、余裕を持ったスケジュールを組むことが肝要です。
宿泊難民問題や交通混雑は、地元住民に負担を強いる側面があることも忘れてはなりません。マナーを守ることはもちろん、地元の飲食店を利用し、お土産を購入することで、経済的な恩返しを行うことが、将来的なコンサート開催を歓迎される土壌を作ることにつながります。
まとめ
嵐の札幌ドーム公演に伴う旭川臨時特急の運行と宿泊地の広域分散現象は、現代の都市が抱えるキャパシティの限界と、それを乗り越えるための柔軟なシステムの好例です。通常であれば破綻しかねない15万人規模の需要超過を、JR北海道の臨時ダイヤ設定、札幌市交通局の増発、そして旭川市という後背地の宿泊インフラが連携することで吸収しました。
そこには、価格高騰という経済原理と、駅員のメッセージやファンの情熱という人間味ある側面が混在しています。旭川行きの臨時特急の車窓から見える雪景色は、ファンにとってはコンサートの余韻に浸る夢の続きであり、地域にとっては数十億円の経済効果を運ぶ希望の光となりました。嵐のコンサートは単なる音楽イベントの枠を超え、地域社会全体を巻き込んだ一大プロジェクトとして機能しています。2026年に再びその光景が見られるとすれば、それは北海道全体が再び「嵐」という熱狂に包まれ、活性化する瞬間となることでしょう。


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